あなたと私とこの大地   作:ハクゲツロウ

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 8評価!ありがとうございます!ありがとうございます!!お気に入り登録も徐々に増えてきて感無量です!
 今回は番外編なので前回のあらすじはキャンセルだ。
神様「そんな〜〜」


番外編:ある少女のこと

 始まりは半年程前、ケルシーが外勤任務から帰った際に、一人の少女をロドスに連れてきたことだ。

「この子の心理的なカウンセリングをドクター、君に任せる」

 そんなことを急に言われたもんだから当然私は反論する。しかし、

「君は一般論的な観点から見た土壌の堆積というものを知っているな、ドクター。極東でよく見られる急流では、上流の大岩が削られ、下流に行くに連れ石となり、砂となり、泥となる。これによって起こる地層の形成は、まさに自然の集大成とも言える。これは我々の記憶においても同じことが言える。記憶とは我々が生きてきたことの集大成であり、地層であるというのも、全くの的はずれな意見ではない。しかしその集大成が忽然と消えることなど無い。あってはならない。しかし、この子にはそれが起こってしまった。つまりだ。この子は記憶喪失だ。と言っても、君と違いいくらかの記憶は残っている。自分の名前などだ。…もう分かるな、似たような状況にある君こそが、この子のカウンセリングに適任であると、私は判断した。できるな、ドクター……どうした? その表情は」

「いやぁ……まぁ………はい…………」

 論文のつかみクラスの文章量をそんなスラスラとまくしたてられたら、そりゃ嫌な顔の一つや二つするだろう。にんげんだもの どくを 。まあ慣れたもんだが。

「しかし……記憶喪失か」

 チェルノボーグの石棺から救出された時、私は私を『ドクター』たらしめたものの全てをすっかり忘れてしまっていた。その時のアーミヤの絶望の顔など今でもたまに夢に見る。

 だが、私はドクターだ。『ドクター』じゃない。そう割り切って、オペレーターたちと今を生きている。

「まあ、いろいろやってみるよ。外勤お疲れ、ケルシー」

「ああ」

 先程までのまくし立てが嘘のような短文、もはや二文字。なんか癪だったんだろうか。

「さて…」

 例の少女に目を向ける。中々目を合わせてくれそうにない。警戒されているのだろうか。

「えーと…(ヴィクトリア語)怖がらなくていいよ。こっちおいで」

 アホか。こんな不審者の定型文だろ。警戒されるに決まってるだろ。

「…………………」

 あれ? 警戒っていうより…理解してない?

「あーえと、(シラクーザ語)元気?(カジミエーシュ語)こんにちは! (クルビア語)ハロー?」

 キョトンとした顔をされる。ああもう駄目だぁ。

 その時、ピコン、と携帯端末がなる。

『伝え忘れていたが、その子は極東語しか通じない。また、彼女の存在は最重要機密だ』

「それを! 先に! 言えよ!」

 思わず叫ぶ。あの子がビクッとして縮こまってしまった。これはいけない。

「あ〜…(極東語)ごめん、大声だして。良ければ、君の名前を教えてくれないか?」

 そう言うと、その子はやっと私と目を合わせて、その名を口にした。

 

 

「ヨイサキ カナデ」

 

 

 その日から、私とカナデのカウンセリングが始まった。といってもこれといって大したことはしていない。私の部屋に入れて、たまに話す程度の間柄だ。私の部屋は厳重なロックがかかっていて、警備に殺されること上等で扉そのものを破戒するか、私の専用キー+指紋、声紋、瞳孔の全てをもってようやく開けられる。最重要機密を隠すにはもってこいだ。

 それにしてもこの子、ワーカホリックの自分が言うのも難だが、全くといっていいほど自分に無頓着だ。気を抜けば三食携帯食で済ますし、何なら食わないことだってある。そうしてまで何をやっているかってひたすらパソコンに向かって何かを入力している。記憶どうこう以前に普通にカウンセリングを受けたほうがいいんじゃないか、この子。

 あと「全然あなたを信用していません」っていうのをひしひしと感じる視線をやめてほしい。普通に傷つく。

 

 そんな奇妙な共同生活を続けていたある日の夜、明らかにカナデの様子がおかしい事に気づく。足がふらついているし、目の焦点も定まってない。声をかけても、虚ろな返事しか帰ってこない。そう言えば最近、寝ている姿を見ていない。居ても立っても居られずケルシーを呼びつけた。

「………君はもう少し彼女に気をかけるべきだ。同じ部屋に住んでいるのだから、もう少し気をつけさせろ」

 直ぐ様駆けつけたケルシーにより、軽度の栄養失調である事が発覚。栄養サプリメントをもらい、去ろうとするケルシーに話しかける。

「なあ、なぜ彼女が最重要機密なんだ?至って普通の少女じゃないか」

 ケルシーが振り向く。

「君は、初日に送った彼女に関する資料を見なかったのか?」

「え?」

 ケルシーはため息をついて言う。

「メールを送っただろう。それを見ろ」

 そう言い残して、行ってしまった。メール、メール……あった。プロファイルか。

 

 

 【名前】ヨイサキ カナデ

 【性別】女

 【誕生日】五月十日

 【種族】不明

 【身長】154cm

 【鉱石病感染状況】

 メディカルチェックの結果、非感染者に認定

 【源石融合率】0%

 【血中源石濃度】0.00u/L

 

 

「………………は………………?」

 見間違いかと何度も目を擦る。間違いない。0%と0.00u/L。

 ロドスに収容中の、いやテラ中の全生命と見比べても最も低いであろう数値。そしてこの子の年齢。この世界でこの年になるまでこの数値だったなら。

 

 鉱石病への完全な耐性のある生命が、いた。

 

 鉱石病の問題への、解決の糸口。それがカナデ。

「……そりゃ最重要機密だわな……」

 無論、鉱石病感染者を奴隷のように扱う組織や国からは、カナデは放置しておけば真っ先に殺されるだろう。鉱石病を良しとする非人道的な奴らなんてこの世にはごまんといる。

「ん………」

 カナデが起きる。そう感じた時、この感情は今すぐにでも投げ去ってしまいたいと思った。カナデを鉱石病のワクチンだなどと思いたくない。そんな都合のいい『物質』だと思いたくない。だって、私の眼の前にいるのが、

「ドクター?」

 あまりにも、『ただの少女』だったから。

 

 

 

「正直、私も始めて彼女の検査結果を見たときは…震えたよ」

 久々のケルシーとのサシ飲み。話題は自然とカナデのことに移っていった。

「今すぐにでも目の前の少女の腹を捌き、血を抜いて、体の隅から隅まで調べ上げ、その生命の神秘に触れたいと…激情だった」

「だが、君はそうしなかったんだろう?」

 随分自分に懐くようになった彼女の顔を思い浮かべて、ケルシーに問いかける。

「ああ…彼女は、我々ロドスの希望だ。しかし…より良い明日へ進むための…礎となるには…いや、この言い方は不適切か……」

 ケルシーが言葉を詰まらせる。

「………あまりにも、強い目をしていた。己には使命がある。お前に何かをされる筋合いは無いと…私に訴えかけていたんだ」

「そんなにか…」

 カナデの普段の様子を見るに、何か取り憑かれたようだとは感じたが、ケルシーの意欲を止めるほどとは。

 極東からわざわざ取り寄せた酒をあおる。

「君はいつもその安酒を飲んでいるが、美味いのか?」

「庶民の味と言ってもらいたいね。…一番美味いのはこれだ。」

「…記憶を失う前の君も、それをよく飲んでいた」

「…初耳だな」

「ああ、始めて言ったからな」

 こいつ。

 

 ガチャリ、と扉が開かれる。そちらに目を向ければ、カナデが入ってきていた。

「カナデ、もう寝る時間だろ? 部屋に帰って…」

「ドクター、ケルシー…話があるの」

 私の言葉を遮り、カナデが言う。

「……何だ」

 ケルシーが話を許可する。カナデがここまで意思を表に出すのは珍しい。聞いてみたくなったのだろう。

「あのね」

 カナデが話を始める。

「わたし、二人に嘘ついてた」

 衝撃のカミングアウト。

 一緒に過ごして分かったが、カナデはいい子だ。寝ない、食べない以外は優しいし、眠れない私に睡眠導入用の歌を聞かせてくれたこともある。そのカナデが、嘘。

「わたしね…記憶喪失じゃないの」

 更に大きい衝撃。

「な……」

「これから話すのは、わたしがどうしてあそこ…ケルシーがわたしを見つけてくれたところにいたのか、っていう話。信じてもらえないかもしれないけど…」

 カナデが話し始める。

「わたしはね、多分、この世界とは違う世界から来たんだ。」

 

──────────────────────

 

 わたしの家に向かっていたであろうまふゆを見つけて、少し安心してた。だけど、その瞬間、まふゆがトラックに轢かれそうになっていることに気づいた。

「まふゆ!!!!」

 すぐに走り出したけど、わたしの非力な手足では、まふゆが轢かれる前に突き飛ばすことなんてできなくて、まふゆと一緒になって跳ね飛ばされた。

 

 そして目覚めたら、知らない土地。高いビルが立ち並んでいる路地裏の、積まれたダンボールの中に、わたしは現れた。

 お金も、ルールも、人も知らない土地。何も分からなくて、露頭に迷っている時、ケルシーから声をかけられた。この世界の現状を知った今なら、それがどれほどの奇跡かなんて身に染みて分かる。

 

「その時、少し興奮したようなケルシーから素性を聞かれて、咄嗟に記憶喪失って答えちゃったの」

 ここまで来たわたしの足跡を話すと、ドクターはケルシーの方を見ていた。

「つまり…君は、記憶喪失な訳じゃなくて、違う世界から、飛ばされてきた、と」

「そういうこと」

 信じてもらえないだろうか?

「ごめん、突飛な話して信じてくれないよね…」

「いや…ケルシー」

 目頭を抑えるケルシーに、ドクターが話しかける。

「あれだよ、あの人たちと同じ」

 突如ケルシーが顔を上げる。

「レインボー小隊…」

「そ」

「しかし彼女らはあの研究の事故でこちらへ飛んできたのだろう?」

「カナデだって事故だ」

「それは、そうだが…」

 何の話かわからない。なんか疎外感を感じる。

「あー…とにかく、君と同じような状況にある人たちがいる、ってことだ」

「あ、そうなんだ」

 まさかそんな人達がいるとは。世界は狭い。

「話してくれてありがとう、カナデ」

 ドクターはそう言ってわたしの頭を撫でる。何だか、お父さん、みたい、な。

「えっ…あっごめん!カナデ!」

 涙が出てくる。止められない。

「おいドクター…」

「ごめんカナデ!勝手に頭撫でて…」

「違う……違うの……」

 言葉が溢れてくる。

「わたしのお父さん……寝たきりで……お母さんも死んじゃって……ドクターが、お父さんみたいだなって、思ったら、何か、止まらなくて……ごめんなさい……ごめんなさ…」

 ドクターがわたしを見つめる。

「………カナデ、おいで」

 ドクターが腕を広げる。自然とその中に入ってしまう。

「大丈夫だ……辛かったな」

 ドクターの胸の中は、とても安心できて、居心地が良くて、心地よい。ドクターの言葉が頭の中に滑り込んでくる。

「ゆっくり……今は、お休み」

 その言葉を最後に、わたしは意識を落とした。

 

──────────────────────

 

「………寝たな」

「ああ……」

 それにしても本当に衝撃だった。まさかカナデが彼女らと同じ境遇とは。

「まあ……これで、彼女は晴れてロドスで腹を捌かれる心配はなくなったわけだ」

「興味を失くしたかい? ケルシー」

「……依然カナデが状況次第で研究対象になり得る、というのは分かるな?」

 スルーされた。確かに、どっかのなんとか生命が興味を持ちそうな内容だ。ちなみにここで言う『興味を持たれる』は死と同義だ。

「その通りだ。……そのため彼女の機密ランクを、最重要機密から厳重監視に格下げし、ロドスで面倒を見ることにする」

「彼女がここから出たいと言ったら?」

「…………しかし、安全を考慮すれば、これが最適だろう」

「『最適』は『最高』とは限らない。私はカナデの意思を尊重するよ」

「………君は甘いな」

「よく言われるよ。いつも、どこかの傭兵にね」

「ああ……ふっ……」

「はは……」

 その後は抱いたままになっていたカナデをベッドに寝かし、グラスの残り飲み干して解散した。

 

 

 それからというもの、カナデは私にすっかり懐いている。

 最重要機密から厳重監視に大幅格下げされたので、執務室に連れてきたこともあった。その時には、気性が合うマンティコアやキララ、CEOとして存在を把握していたアーミヤ、歌曲好きとしてヴィグナ、ムース、意外なところではエーベンホルツとも仲良くなっていた。それもかなり。コミュ強か。

 特にマンティコアとは仲が良いようで、カナデが作った歌をプレゼントしたこともあった。(マンティコアは嬉し泣きしていた。もちろん私も泣いた)。

 

 そんな折、カナデからこんな話を切り出された。

「もっと違う視点でこの世界を見てみたいんだ。……わたしってオペレーターになれないかな?」

「…カナデの身体能力だと難しいんじゃないか?」

「ヴッ…」

 一撃のもとに撃沈させられるカナデ。しかし、今回は食い下がってきた。

「じゃあさ、放浪旅っていうのはどう?」

「死にたいのか???」

 こんな世界を一人旅とか死にに行くようなものだ。モスティマでも無い限り…。

「ほら、よくここに来てるトランスポーターの人。モスティマさんだっけ」

 違う。こいつついていく気だ。

「はあ…モスティマは止めとけ。命がいくつあっても足りん。他のトランスポーターを紹介してやろう」

 カナデが目を見開く。

「え……いいの………?」

「なんだ? やりたくないのか」

「い、いや……通ると思って無くて。わたしって厳重監視でしょ?」

「そんなもの私とケルシーとアーミヤが口裏合わせればどうとでもなる。最高権限者を舐めるなよ」

「アッハイ」

「それにロドスは、去る者を引き止めることはあまりしない。自由にやって欲しいからな。その人にも事情がある」

「へえ……そうだったんだ」

「? どうした?」

「いや……(小声)ここなら…まふゆも…」

 私の耳はその言葉を拾うことはできなかった。

 

 

 なんやかんやありつつも、信頼できるトランスポーターを呼び寄せ、カナデを連れて行くことを了承させた。

「アタシはあくまで医者であってトランスポーターじゃねえんだが」

「いいじゃないか、連れて行ってあげなよ」

「わかったよ…」

「よろしくお願いします、トットさん」

「おう、よろしく。礼儀のなってるお嬢ちゃんだこと」

 放浪医のトットは、フィディア族ヘビの女性だ。名義上はロドスの医療オペレーターだが、各地を転々としている。カナデのお目付け役にはピッタリだった。言葉は荒いが面倒見が良い。

 

 そして、旅立ちの日。早朝に、ロドスの資材搬入口に集まる。

「にしても…予想外の荷物が重なったな」

 と言うのも、カナデと仲良くなったオペレーターが、カナデがロドスを発つと知ると、こぞってプレゼントを渡しに来たのだ。

 

──これ、カナデの、ドッグタグ…。これがあれば、もしカナデに何かあっても、私が、見つけられるから…。…歌、作ってくれて、ありがとう。毎日、聞いてる…。

 

──貴殿はアーツが使えないというが、武器は持っておくに越したことはないだろう? 汎用型のアーツユニットだ。持っていくといい。安物だが、手入れはしてある。お守りとでも思ってくれ。…カナデとの談話は、頭の固い貴族どもと話すより、余程有意義な時間だった。貴重な体験を、ありがとう。

 

──え、カナデここ出てくの。マジ? えー……やっと気軽に誘えるゲーム仲間できたのに……。あ、も、勿論カナデの意思は尊重するよ? えー…どこやったっけ…あ、あった。これあげる。これ? 前カナデが気に入ってたゲームのサントラ。

 

 その他にも大勢…とはいかないが沢山の人からもらっていた。中にはキーボードや漫画をくれていったオペレーターもいた。

「うん。嬉しいけど、ちょっと重いかな」

「荷台に載せていいぜ。大事なモンなんだろ?」

「あ、ありがとうございます」

 カナデがよいしょと荷台に荷物を載せる。

「それじゃあそろそろ出発するぜ。思い残すことはねえか?」

「うん、もう大丈夫」

 見送りは私だけ。ケルシー以外の他のオペレーターには、正確な時間を伝えていない。あまり目立ちすぎるのも危ないからだ。カナデが依然として源石オリジニウムに一切汚染されていない人間というのには変わりない。

 少し味気ないな、とは思う。もう一生会えないかもしれない友達と、会わせてやりたかった。

「ドクター」

 カナデがこちらを振り向く。

 

「いってきます」

「……ああ、いってらっしゃい」

 

 無限の荒野へと降り立つカナデを、一人で見送った。




 はい、奏ちゃん番外編です。アーカナデチャンカワイイ。お前も奏ちゃん可愛いと言いなさい。
 本編が一区切りついた上で、気が向いたら書こうと思います。(今のところは続く予定)
 そしてオリキャラタグが神様のためだけと言ったが…すまん、ありゃ嘘になった。奏の付き人でポンと出てくる人がいなかった。なのでオリキャラです…。本当に申し訳ない。
 色んなオペレーターのセリフ考えんの楽しいっす。キララとかまじで楽しかった。

 また、私事ではありますが、ロドスの道のりガチャ引いたら四連でスルト様が入職なさいました。ユーシャとユエ兄は駄目そうです。無料分で撤退します。

※修正:サヴラ族→フィディア族 ヘビは!!!!フィディアだろうが!!!!すみません!!!!
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