あなたと私とこの大地 作:ハクゲツロウ
まふゆ、ロドスへ就職おめでと〜!(パンッ)
そう、実は奏ちゃんもこの世界に送ってたのよ。だって遣り切れないじゃない! あの二人が死別したままなんて! でも時期までは操作できなかったわ! ごめん!
ロドスに入るには、適正テストってのを受けなきゃいけないみたいだけど…まふゆなら大丈夫よ。
それじゃあ本編。行くわよ〜。
「教官に敬礼ッ!!」
階下に並んだ人々が、一瞬で敬礼の形を取る。中には私とほとんど変わらない、むしろ幼いような少女の姿もある。改めてこの世界の残酷さを思った。
「ここで待っているように。すぐに担当者が来る」
私をここまで案内してきた人は、そう言って奥の方へ消えていった。
私は今、ロドスの訓練場に来ている。ロドスに搬送されてから二週間半、ススーロさんからこの世界の常識や言語を教わりながら治療を続け、足は完治。更には英語に近かったヴィクトリア語を、ある程度話せるようになった。ススーロさんには本当に頭が上がらない。
訓練場全体を俯瞰できる場所から、人々の訓練を見ていた。中には耐えきれずに吐いてしまう者、過呼吸を起こす者、対人訓練で気絶する者もいた。
「私、耐えられるかな」
普通に戦慄する。あまりにも過酷。本当の軍隊みたいだ。
「だが、耐えられなければ戦場では生きていけない。」
突如背後から声がする。犬耳の女の人がこちらへ歩いてきていた。
この世界では普通の人々は先民と呼ばれ、私の元いた世界の動物の特徴を持つのが普通なのだと言う。これもススーロさんから教わった。
「ロドスの新人担当教官、ドーベルマンだ。よろしく。適正テストの志望者は、君で間違いないな?」
「はい。よろしくお願いします」
「では、早速だが始めよう。時間も押しているのでな。ついてきてくれ」
ドーベルマンさんのあとを追って、そこを離れた。
「さて、まずは機動力を見せてもらおうか」
動きやすいジャージのような服装に着替え、準備体操を終えた私は、テスト用と思われる小部屋へと連れられた。
ガラスの向こうで、マイクへ向けてドーベルマンさんが指示を出す。
『ルールは簡単だ。部屋の壁に五つのポイントが付いているのが見えるか?』
よく見れば、黒い点のようなものが壁についている。
「はい! 見えます」
『今からそれをランダムに光らせる。光ったポイントにタッチしろ。ポイントにタッチしたら次のポイントがランダムで光る。180秒の制限時間でより多く触れ』
なるほど、簡単だが難しそうだ。
『それでは…始め!』
「ぜっ…………はっ…………ひゅっ…………」
きつい。これでまだ時限の半分か。だが、何より、
『………………』
ドーベルマンさんが無言で見てくるのが気になる。構わなければいいと言えばそれまでだが。
触ってすぐ次の目標が見えないのが辛い。次のポイントを見るには、いちいち振り返って確認し、それに向かって地味に長い距離を走らなければならないため、それでも精神が削られる。
いま、何ポイントだ? もうかぞえてない。たしか50はこえたはず。でも………もう………げんかい………
『辞め!!』
私はその場に手をついて倒れる。
「ハァ…………ハッ…………オエ……………」
これが最初の種目か。溜まったもんじゃない。
『何をしている! さっさと出てこい!』
怒鳴られて反射的に体が動く。急に動いたから太ももが痛い。
「マフユ、お前はポイントをいくつタッチした?」
「え……?」
汗を拭いながら呆気にとられる。まずい。覚えていない。
「………すみ、ません。おぼ、ッケホ…覚えてません……」
「そうか、では次だ」
え。
「あの………きゅうけ……」
「そんなもの歩いているときにしろ」
このひときちくだ。
その後に連れてこられた部屋は、大学の教室のようなところだ。その一席に座らせられる。
「次はペーパーテストだ。なんてことはない。この紙に書かれた問題を解くだけでいい。制限時間は20分だ」
……? それだけ?
先程と比べて随分簡単だ。なるほど、これが実質的な休憩ということか。
ペンと消しゴム、裏返しのテスト用紙を配られる。
「それでは、始め」
テスト用紙をめくり、問題を解き始める…はずだった。
問.以下の状況における当事者の戦術的判断について、自身の見解を示せ。
…………?
てっきり数学や英語のテストが来ると思い込んでいた私は、その問題を見て固まってしまった。そうだ。ここは異世界なのだ。ましてや軍事活動もしている組織がある。
(…まずい)
戦術なんてやったことも、習ったこともない。せめて将棋や囲碁をやっていればよかったと思った。
そんなことを考えているうちに、時限は刻一刻と迫る。嫌な汗が滲む。
(とりあえず何か書かないと…)
働かない頭で、必死に振り絞ってなんとか書き記した。結局四行ほどしか埋まらなかったが。
「辞め」
ドーベルマンさんの声が、無情にも終わりを告げる。テスト用紙を取り上げられ、退出した。動いていないのに、始まる前より疲れてる気がする。
その後、なんだかよく分からないが、簡単なテストを何個か受けた。何かSFに出てくるような部屋の中で、魔法の杖のようなものを持ってじっとしているだけだったり、スクリーンに映された映像を見るだけだったり。スクリーンの方は何事もなく見ていたらドーベルマンさんにドン引きされた。
「さて、これで最後のテストだ。マフユ、最も得意な武器を選べ」
広めの体育館のようなところ─といっても岩とか置いてあるけど─に連れてこられて、そんな質問を投げかけられる。得意も何もこちらは素人なのだが。
提示された武器は、クロスボウ、剣、さっきの魔法の杖。強いて言えば弓がほしいが、恐らくこれから始まるテストも私の想像を超えるものだろう。いちいち止まって、弓を引いて、無心になって、放つ。なんてことはできないかもしれない。
だとすると…。熟慮の上私はクロスボウを手に取った。
「使い方は分かるか?」
「いえ、ご教示お願いします」
「いいだろう。まずは専用の矢を……」
そうして一通りの指南をしてもらった私は、定位置についた。ドーベルマンさんの声が飛んでくる。
「これからターゲットをいくつか出す! それを全て見つけ出し、破壊すれば、このテストは終了だ! 制限時間はなし! ただし! 迅速に終わらせることだ!」
深呼吸、大丈夫。焦りは無い。
「それでは…始め!!」
まず正面、予め装填していた矢で一発。一時、上方に一人、一発。十時、上下に一人ずつ、下方に一発、上方に二発。見回す。四時、水平に一人、一発。五時、水平に三人、四発。六時、上方に一人、一発。八時、上二下一、三発。九時、水平二人、二発。
「辞め!」
ドーベルマンさんの声が響く。何だか…とても集中できた気がする。
「テストはこれで終いだ。お疲れ。この後は案内役の指示に従って、宿舎の専用の部屋で数日の間待機していてくれ。結果は人事部の査定を経て後日届く」
「わかりました。ありがとうございます」
「クロスボウは、元あった場所に置いて行ってくれて構わない。……エリジウム、さっさとしろ」
そう言うと、出入り口から白い人影が入ってきた。
「わかってるよドーベルマン。や、久しぶりだね。マフユちゃん」
私は覚えている。真っ先に声をかけてくれたあの人。
「あの時、助けてくれた人…」
「大正解! いやぁ、覚えてもらってて嬉しいよ。僕はエリジウム。これからよろしくね」
「まあそういうことだ。案内して貰え」
ドーベルマンさんと別れてエリジウムさんに付いていく。
「いやしかし、君狙撃の腕前すごいね。何かやってたのかい?」
「ええ、弓道をやってました」
「弓道! 極東の武芸だったかな」
エリジウムさんは、弓を打つようなジェスチャーをしながら、
「かっこいいよね、あれ。僕も一度見てみたいよ」
「そんなに言うなら、今度見せて上げましょうか?」
「いいのかい?」
「ええもちろん。貴方は命の恩人ですし」
「はは、悪い気はしないね。じゃあ、お願いしようかな」
目的地に到着するまでの間、そんな他愛もない話を繰り返していた。
「さ、ここが君の宿舎だよ」
「え? もうついたんですか?」
話に夢中で全然気が付かなかった。エリジウムさんは話すのが上手い。すると彼は一つのカードを取り出し、私に渡した。
「これがカードキー。君専用の個室だから、家具のレイアウトとかも自由に決めていいよ。ある程度は経費で落ちるから、必要なものがあれば、支援部に申請してね。」
そんな至れり尽くせりな。想像していたよりだいぶ良い環境だ。
「それじゃあ僕はここまで。ロドスでの生活、楽しんでね」
そう言うと、エリジウムさんは廊下を歩いて行ってしまった。
カードキーを、読み取り機に押し付ける。ピッと音がなって、扉が開いた。中はまだ何もない、ベッドとクローゼットだけの質素な空間。窓は大きくて開放的だ。夕景がよく見える。アクアリウムはどこに置こうかな。
「…絶対に見つけるよ、奏」
希望に満ちた宿舎で、決意を語った。
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「うん、やっぱり取り繕ってる感じがあるね」
「お前はそういうことには、昔から敏いよな」
「うわ! いたのソーンズ!?」
完全に独り言のつもりだったから驚いてしまった。ソーンズがムッとして言う。
「お前な…」
「ごめんごめん……しかし、珍しいね。他人の宿舎の前まで来るなんて」
「俺だってあいつを心配してないわけじゃない。少し様子を見に来たんだ」
「ホントに珍しいね!!??」
あ、そっぽ向いた。完全に気を損ねてしまった。
「ごめんよ〜ブラザ〜。お〜よしよし」
「寄るな。来るな。ウザい」
「も〜」
ホントね〜こういうところカワイイんだからも〜。
「……で、お前はあいつをどうするつもりなんだ?」
「こういうのはかなりセンシティブな問題だからね……ドクターにでも報告しておこうかな。気にかけてるみたいだし」
「カウンセリングは必要そうか?」
「それに関しては……問題なさそうかな。あれは何か希望がある目だ。なんかこう……依り処がありそう」
「それはお前の憶測だろう」
「そう? でも、僕の勘はよく当たるからね」
「自分で言うな」
悪態をつかれながら、ドクターの執務室へと歩を進める。途中でソーンズとは別れた。研究室に行くとかで。
「これであの子もオペレーターか……なんか感慨深いね」
あの時、オリジムシに襲われていた少女と、訓練場のあの子は、別人のようだった。
「…無理はしてほしくないかな」
『命の恩人』としては、ね。
いつの間にかUA数が500を超えてて、この話も色んな人に見られてるんだなぁって思うと少々恥ずかしさを感じる今日この頃でございます。
サヴラをヘビって書いたのまだ引き摺ってる。申し訳ねぇ…。トットはアスベストスとガヴィルさん!を足して2で割った感じ、って考えてたらこんなことになりました。
また、書き溜めしていた分のストックが尽きたのでこれから投稿ペースが少し落ちます。ご了承の程、よろしくお願いします。orz