没短編集   作:タスマニアたけしMK1a

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ちょっと冷たい君

雲ひとつない快晴。照り付ける太陽の日差しの強さに思わずため息を零さずには居られない。当然、汗は次々吹き出してくる。

気がつけば隣に誰かが来ていた。幼馴染だ。

「汗を腕で拭うのやめなよ、タオル使った方がいいんじゃない?」

「洗濯し忘れてこのザマなんだよ」

「タケちゃんって抜けてるよね」

「やかましい」

全く、この幼馴染みはなんというか、いささか素直すぎるというか、オブラートと言うものを知らないようだ。

こんなにも暑いと言うのに、汗ひとつかかず、艶やかな黒髪を腰まで垂らす彼女に思わず怪訝な視線を向ける。

「なにー?」

「いや、羨ましいよ。汗かかないし、いつも快適だろ」

「んー、そうでもないよ。普通に暑いし、普通に寒いよ。」

「そういうもんか」

彼女の頭上に目を向けた。そこにはボロボロの麦わら帽子が、もうそろそろ引退させてくれと言わんばかりに収まりが悪そうに風に揺れていた。ふむ、どう見てもサイズ感が合っていない。

それにボロボロ過ぎて日差しが普通に顔を照らしている。

「ボロボロになったな。それ、まだ被ってたのか」

「被るよ、大事なタケちゃんからの贈り物だし」

「新しいの、やろうか?」

「んや、いいよ。これ気に入ってるから」

よく見れば、服も汚れてしまっていた。真っ白だったはずのワンピースにはかなり目立つ汚れがいくつかある。どうみても普通なら捨てるレベルの汚れだと思うのだが。

それに、よく見れば、絵の具で描かれたラクガキがある。

「それ、汚れてるな。新しいのにしないのか」

「うーん、これもダメかな。大切な服だから」

「いや、かなり汚れが酷いぞ」

「いいの!」

子供のように頬を膨らませ、嫌だとそっぽを向く。全く、なにも変わってないな。まあ、そこが可愛らしい部分でもあるんだけども。

しかしどうしたものか、このまま彼女の機嫌を損ねたまま帰路に着くのも嫌だ。

少し考えて、思い出した。ポケットに飴玉がある。

「ほら、これあげるからさ。機嫌直せよ、な?」

「ふん!そんなもので私を.....りんご味?」

「もちろん」

「ふーん、まあ許してあげる」

飴玉を置いて、なんとかご機嫌取りに成功した。やはり、変わらないな。りんご味の飴が好きなのも、結構チョロいのも。

飴玉を満足気に舐める彼女の、少し汚れた体を拭いてやる。

「ほら、動くなよ。」

「うーん、やっぱり擽ったい...」

「我慢しろ、嫌なら自分でやるんだな」

「えー、それは無理」

 

そうして過ごす内に、いつの間にか日が沈みかける時間になっていた。

地平線に飲み込まれようとしている夕日を、酷く恨めしく感じる。

そろそろ、帰る時間のようだ。

「じゃあ、また来年。」

「いや、もうダメ」

「そっか、じゃあ。」

「うん、大学、頑張ってね」

 

最後に、少し角張った、彼女の名前の掘られた体を撫でてやる。その傍をよく見れば、誰かが持ってきたのか、一輪の花が置かれている

交通事故だった。飲酒運転をしていた馬鹿が、俺の家に遊びに来る途中だったアイツをはね飛ばした。

 

麦わら帽子は、俺が小さい頃、お袋が買ってきてくれた物を、ダサいからと、彼女に押し付けたんだ。

彼女がなによりも大事にしていたワンピース、それに落書きなんてする訳ない。ましてやこんな真っ赤でダサい色合いなんて

りんご飴は、俺がりんごが嫌いだから、押し付けてただけだった。

 

彼女の前に置かれたりんご飴は、あまりの暑さに溶けかかっている。

それがなんだか、この別れをより引き立てているように見えて

 

この気分を紛らわせようと、辺りを見渡した。

なんてことない、田舎の風景。もう幾度も見た田んぼだらけの景色。

ただいつもと違ったのは、蛍の光だけ。

蛍に大した思い出は無いし、生態も知らない。だからこの時期に居るものなのかも知らない。

ただ今は、空を揺蕩う蛍を眺めていたい

 

夕日に染め上げられた空を、その1匹の蛍が、空高く、どこまでも空高く飛ぶのを見つめていた。

 





















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