【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン籠もり10年目にしてダンジョン配信者になることになった男の話   作:アママサ二次創作

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暫定。今後も編集の可能性あり


【暫定】第11話 いや、できるけどさ

「……送っては行くけどさあ……はあ……」

 

 結局俺にはその選択肢しか無いのだ。これが、例えば俺一人の身を守るのも危険だとか、そういうところだったら普通に見捨てている。

 

 だが正直、ここから地上まで彼女らを送ることなんて俺にとっては朝飯前、とは時間だけはかかるので言わないが、全く難なく出来ることなのだ。加えて、俺や彼女らを背中に乗せてダンジョン内の全てのモンスターを振り切れるロボがいるのである。

 

 この状況で見捨てるのは、後で後味が悪いだろうなと容易に予想できてしまう。基本的に俺は人に対して甘いのだ。性根が甘いのがどうしようもないので、それをどうにかしたいと関わることを避けていたのである。

 

「ありがとうございます……。出来る限りお礼するので、何でも言ってください」

「いや別にいいよそういうのは……いや、ちょっと待ってな」

 

 できる限りの礼をする、という雨宮嬢に、礼はいらないと断ろうと思ったが良く考えなおす。

 

 彼女達が用意できるもので俺が必要とするもの。自分で手に入れられないものは何があるか。金なんて彼女らより俺の方が稼げるだろうし、そもそも大金は俺には必要ない。今の俺にとっては、ダンジョンの先での冒険こそが何より求めるものだ。

 

 となると金以外。……下世話な話だが、彼女らの体ぐらいしか思いつかない。そしてそんなことを要求する勇気は、俺にはない。そういう経験もまだないし。

 

 さておき、『礼を貰う』という行為に意味があるのではないだろうか。逆に言えば、ここで『無償で助ける』というのは、まずくないか?

 

「1つ相談なんだが」

「はい」

「なんです?」

「ぶっちゃけると俺には、君ら2人を助ける理由が無い。それはわかってるよな? 雨宮嬢だけじゃなくてそっちの子も。俺のことは知ってるだろ?」

 

 俺の問いかけに、2人は顔を強張らせながら頷く。

 

 そう、助ける意味はない。が、俺の信条というか感情的な問題として、見殺しにはしたくない。かと言って下にも連れて行きたくない。ので、地上に送り返したい。

 

 だが、ただで助けることで変な印象はつけたくない。

 

「だから君たち2人には報酬を用意してもらう。それで、俺を雇うって形にしたい」

「報酬、ですか? お金、とか?」

「一人10億」

「えっ……」

 

 俺の言葉に雨宮嬢が息を呑む。一方関西弁の少女は、頭に手を当ててうつむいていた。

 

「期限はいつまでに払えば良いんですか?」

「今すぐとは言わんよ。……10年後だ」

「なんや、結構余裕は見てくれるんか……」

 

 俺に言うのではなく小さく呟いただけのつもりだろうが、俺は耳が並の探索者と比べてもかなり鋭いので聞こえている。別にふっかけるつもりも無いから1年以内とかいう意味も無いんだよこれは。

 

 どういう反応を見せるかと様子を伺っていると、2人がほぼ同時に口を開いた。

 

「わかり「かなっち」まし、え?」

「ちょお配信切れん? 音消すだけでもええわ。今スマホやろ?」

「……うん、わかった」

 

 関西弁の少女の指示に従って、雨宮嬢がスマホを操作する。

 

「なんだ?」

「あんたの、ジョンさんの真意が見えん。助けてくれる気があるのは、ありがたく思っとる。けど、ただ金を求める人には見えん。ジョンさんは何が目的や?」

 

 先程までの敬語をかなぐり捨てて、そう問いかけてくる関西弁の少女。価格が気に入らない、というわけでもなさそうだ。まあ命だからな。文字通りプライスレスではあるだろう。特にダンジョンなんて特殊な場所だと。

 

 だが、助ける側の俺に対してそれを問いかけるというのは度胸がある。値切りがしたい、というほど狡い人間にも思えないが。彼女こそその本心はどこなのだろうか。

 

「……それを知ってどうしたいんだ?」

「うちはええねん。どんな報酬でも、それこそうちの体使ってもろても構わん。けど、それで地上におる連中に迷惑がかかるなら話は別や。ジョンさんの要求する報酬は、うちとかなっち、八条寺茜と雨宮かなた個人に対するものと考えてええんか?」

「なるほど……」

 

 真剣な目で、少女は俺を睨むように見る。

 

 少しばかり汚い話になってしまうと考えて、一度配信を切ったのだろう。アイドルにも近い少女が、体を使う、という言葉を口にした。後は、俺の本音を引き出すためもあるか。

 

「つまり、俺が君らの負債を理由に君らの事務所を潰すことを警戒してるってわけか」

「直接そうとは思うとらん。けど、他の子らに迷惑はかけたない。それぐらいならうちは、ここで死んだ方がいい。そう思うとる。もしそうなら、うちはどうしてくれてもええから、かなっちだけは助けてやってくれんか?」

「あ、茜ちゃん……! そんなっ……!」

「すまん、かなっち……」

 

 普通チームとかパーティーをずっと組んでたら、何を置いても助ける家族みたいにならないのか? パーティーに夢を見すぎだろうか。

 

 いや、あるいはこの少女、八条寺嬢が、自分のことで他の人に迷惑を、未来を脅かすレベルでかけたくないと考えているのか。全体から見ればトップクラスに有力な探索者である彼女らでも、一人あたり10億というのはそれだけ重たいのだろう。少しの迷惑では済まないというわけだ。

 

 まあ俺にそんな目的とか特に無いので考えるだけ無駄なのだが。というか10億も、めっちゃ大変だけど有名なダンジョン配信者の2人なら返せるかな? ぐらいを考えたのだが。

 

 とは言え、真剣に問いかけてくるなら、俺も真剣に向き合ってやろう。

 

「雨宮嬢、配信戻してもらっても良いか?」

「え、あの、良いんですか?」

「良いから良いから。そんで、スマホでも予備のドローンでも良いからカメラこっちにほしい」

 

 雨宮嬢は悩むように俺と八条寺嬢を交互に見ていたが、八条寺嬢がうなずいたのを見てスマホを操作し、ポーチから予備のドローンを取り出しての俺の眼前に浮かべた。

 

「はい、大丈夫です」

 

 頷く雨宮嬢を見てから、ドローンに視線を向ける。

 

「これ見てる人達に言っておくが、今回はこの2人に雇われてやる。報酬は20億、雇い主はそれぞれ個人で雨宮かなた、八条寺茜の2名で10億ずつだ。だが、勘違いすんなよ。今回は特例だ。基本的に俺は俺のやりたいようにやる。気分が乗らなけりゃあ1兆積まれたって付き合わない。接触してくんのは勝手だが、邪魔はしてくれるなよ?」

 

 まあ気分が乗ったら100円でも付き合う、こともあるかなあ。今はわからんが。

 

 ぶっちゃけそこまで否定することではない。今回だって、2日余計に手間がかかるとはいえ、ダンジョンの先の世界をのんびり旅していれば2日なんて誤差だ。そういう意味では、別に無償で助けたって良い。欲しいものは特に無いし。

 

 だが、俺がなんでもたやすく引き受けるという状態になってしまうのは、今後地上に出たときとかにまずい。1つ2つは苦でなくても、ずっと拘束されるのは嫌だ。

 

 それに、そういう風に、『便利に使えるやつ』だと思われるのは何よりも気に入らない。

 

 だから、2人にはふっかけたし、こうやってしっかり他の連中にも釘を差している。

 

「そんじゃあ、契約締結ってことでいいか?」

「……契約書とかは無いけど良いんですか?」

 

 こちらの様子を伺うように八条寺嬢が尋ねてくる。

 

「いらないよ。別にどうしても金がほしいってわけでもない。まあ契約無視したときには、俺からの信頼が0から底値まで落ちるだけだから気にするな」

「……10億円、絶対に用意します。よろしくお願いします」

「無礼な物言い申し訳ありませんでした。うちからも、お願いします。報酬は、なんとしても用意します」

 

 カメラの前で、改めて2人が承諾をしたことで、契約は成立した。

 

 

 

****** 

 

 

 

 

「それじゃあ取り敢えず、その堅苦しい口調はやめてもらっていいか?」

「え?」

「いや、真剣な話だったからそれで良かったけど、普段からそういう話し方されるのは面倒だから。いつも通りで良いよ別に。というかそっちは雇い主になったんだから、あんまり上から目線ならともかく普通の態度なら気にせんよ」

 

 買取ショップのオーナーみたいに、ちゃんと丁寧な相手で、しかも客と店員という関係だったらそれのほうが心地よかったりもするんだけどね。雨宮嬢はもとから丁寧語は使っていたが堅苦しくはなかったし、八条寺嬢に至っては遠慮の無い関西弁こそが本来の彼女だろう。2人に雇われるという形にしたのも、そのあたりを考えて対等な関係に立つためだったのだ。

 

 俺の言葉に顔を見合わせた2人は、恐る恐る雨宮嬢から口を開いた。

 

「私は普段から敬語なので、敬語でも良いですか?」

「うちは普段通りに話させてもらうで。よろしく頼むわ、ジョンさん」

「雨宮嬢は敬語でも良いよ。無駄に語っ苦しくならなかったらそれで良い。八条寺嬢は、うん……ぶっちゃけ動画で見たこともあったから神妙に話している八条寺嬢に違和感しかなかったから」

「普段は遠慮せんと話すようにしとるからなあ」

 

 まあ、だろうね。彼女の配信を以前見たが、毒舌というか、ズバズバとものを言う少女だった。それが彼女の場合は、ファンたちには受けているらしい。今日の様子を見る限り、一応一線は引いているのだろう。そもそも関西弁そのものが標準語話者からしたら荒い言葉に思えるし。むしろ敬語が仕えたことに驚いたのは、俺の偏見が過ぎただろうか。焼肉屋の会話聞いててもこう話せるとは思わんて。

 

 そもそも、探索者に上下関係というのは基本的に存在しない。存在しないというか、ダンジョン内では、指揮系統はあるものの目上とかそういうのを気にすべきではないというのが探索者の共通の認識なのだ。だから、ここで俺に対して変にかしこまられるのも困る。それは健全な関係ではない。

 

「それじゃあ、今から送ってくわ。ちょっと準備するから待ってて。ああ、今更だけど自己紹介してなかったな。ジョン・ドゥと呼んでくれ。探索者としての所属はなし。普段はダンジョンで生活をしている」

「あ、雨宮かなたです」

「うちは八条寺茜や。よろしゅう」

 

 自己紹介をしつつ、手首の収納魔法具から特大の道具を取り出す。

 

「それはなんですか?」

「ロボにのせる鞍。2人ならともかく、3人だと安定しないからな」

 

 この鞍を作るのにはかなり手間がかかった。結局普段は収納魔導具が見つかったのでほとんど使っていないが、大荷物を持って移動する際には鞍にバッグや荷物をくくりつけて運んで貰ったりもした。

 

「あー、ジョンさん? でええかな」

「良いぞ」

「これウチラに何が起こって、これからどうするか説明してもらってもええかな? うちの配信の視聴者とかマネージャーに説明しときたいんやけど。ああ、それとあんたも配信映っても大丈夫か? まずかったらなるべく映さんようにする」

 

 こちらにかなり配慮してくれているらしい。かしこまらなくても良いとは言ったが距離を詰められるのもまた困るので、これぐらいがちょうど良い距離感で助かった。

 

「……映ったらまずいものは出さないようにするから気にするな。それで、さっきの小部屋、あれが何なのかはまだ判明してない感じか?」

「そや。うちらも今日はあれの調査に来たんやけど」

「私もユニークモンスターに追いかけられてたときははっきりと覚えて無くて……」

「さいで。あれは転移トラップ、って言えばいいか。ダンジョン内の多分全階層にあれが存在してるんだけど、あの小部屋に入ると魔法陣が起動して、全階層にある魔法陣のうちどれかの上にワープさせられる」

 

 それを聞いた雨宮嬢は何か思考をめぐらす顔になり、八条寺嬢はより詳細を聞こうと尋ねてくる。

 

「ワープって、それ原因わかっとるんか? わかっとるなら教えてもらいたいんやけど」

「魔法陣だな。モンスターハウスのトラップ踏んだら発動するのと一緒で、小部屋に入ったら魔法陣が起動して小部屋の中の人やものを転移させる」

「飛ばされる先は選べるんか?」

「各階層に同じような小部屋と魔法陣がある。そのどれかにランダムで転移させられる。だからあのとき雨宮嬢は一番下の方まで転移してたし、今回は真ん中より上らへんだ」

 

 話しているうちに、ロボへの鞍付は終えた。ついで、ロープを取り出してそれを2人に渡す。

 

「これは?」

「体に巻いて互いに固定しといて。走ってる最中に吹っ飛ばれたらあれだから」

「そんな速いんか? このウルフ系のモンスターやろ?」

「速いし直線軌道じゃないから。戦闘中の戦闘機にぶら下がって振り落とされない自信があるなら良いけど」

「無理やな」

「それは流石に無理です」

 

 俺の言葉に大人しく互いに体にロープを巻き、お互いの距離を1メートル程度で固定してくれた。流石に戦闘機程は無いけどね。でも直線直進なら音越えそうになってきてるんだわこいつ。

 

「こんな感じでええか?」

「まあ多分? 振り落とされないでくれたら良いから。後は雨宮嬢が後ろで鐙に足入れて、前に八条寺嬢が座って。そんで──」

 

 2人に乗り方をある程度指導しておく。小さい八条寺嬢を雨宮嬢が後ろから抱きかかえるような姿勢で乗ってもらう。

 

「かなっちを地上まで運んだときはどうしたんや?」

「……まあなんでも良いだろ。それで、他に質問無かったら出発するけど?」

「……変なことする人ではなさそうやしええか」

 

 俺と八条寺嬢の言葉に、自分と八条寺嬢の乗る体勢からある程度理解した雨宮嬢が恥ずかしそうに頬を赤くするが、ぜひとも気にしないでもらいたい。人1人ロボに乗せて運ぶのはあれが一番やりやすかったのだ。

 

「えーと、あの小部屋に関する詳細とかは他にはないですか?」

「あー……? 踏んだら転移させられることと行き先はランダムってことぐらいだな。ああ、後は1回起動したら小部屋から全員退出しない限り再起動はしない。まあさっき俺だけ出ていった感じで。それと他には……?」

 

“今まで判明してなかったのは、の下り言って釘さしておいたほうが良いと思います”

 

「ああ、そか。今まであのトラップが判明してなかったのは、気づいて起動させたやつが全員死んでたからだろうな」

「は?」

「……転移先次第では助からない、ってことですか?」

「次第というか確実に助からんだろ。上層レベルのやつが上層で踏んだら最高でも中層に飛ばされるし、中層だと百何十分の1を引かんと上層にはいかん。上から4層しか探索出来てないのに、上には多くても3層、下には100層以上、普通に考えて下に飛ばされるわな」

「深層より先のモンスターってそんなに強いんか?」

「深層よりも強いのは確実だろ。それにモンスターを倒せるとしても、地上に戻るまでに餓死するだろ」

「「あっ」」

 

そこは考えていなかった、と2人が声を上げる。探索者というのはどうしても、強力なモンスターと戦いダンジョン内の厳しい環境に耐えているせいで、もっと基本的なこと。

 

 人は飯と水がないと死ぬということを忘れがちなのだ。

 

「ということで故意にトラップを踏むのは本当におすすめしないので……まあ分身なら良い、いや良くもねえけど分身で撮影だけするとかはなんかあっても自己責任でやれよ。俺は知らん」

 

 分身を送り出して本体が安置にいたら安全、ってわけでもないのが中盤以降の怖いところだ。いやほんと……俺はよく生きてたと今でも思う。

 

「それで、あれか。地上にはここから普通にダンジョンを遡って戻る」

「これは使えへんのか?」

 

 これ、と転移魔法陣を指す八条寺嬢。

 

「いやー微妙。ここ30から40層ぐらいだったと思うから、下に飛ばされる可能性が高いんだよなあ」

「何回か転移するのは駄目なんですか?」

 

 普通は考えるだろうが、それもあんまり良いとは言えない理由がある。

 

「ランダムって言っても確率に偏りはあるからな。上下とも近い層ほど確率が高くて、離れたところほど確率が低い。だから1発目で深いところまで行くとここまで戻ってこれなかったりする。まあ、博打好きならありかもしれんけど」

「はー、そんな仕様になっとるんか」

「じゃあ私が上層から一番下までワープしたのは」

「運が相当悪かったってことだ。ついでに今日の俺も死ぬほど運が悪い。ということで普通に戻ります」

 

 ほら行った行った、とロボを霊体化させて小部屋から外に出し、続いて2人にも出てもらう。

 

「あの、映像をそのまま移動中も配信してても良いですか?」

「ああ……別に良いよ」

 

 ダンジョンでの様子を配信する、というのは、実は割と探索者の中では一般的らしい。というのも、ダンジョン内と外を繋ぐ通信手段が今のところダンジョン内からの配信しかないのだ。

 

 そのため、Dtuber、ダンチューバーとも呼ばれるダンジョン探索配信者でない人たちも、配信者のように企画配信などはしなくても、ダンジョン内での様子を記録代わりに垂れ流しで配信していたりするのである。そしてピンチに陥ったときには【救援要請】などとタイトルを変えることで地上から把握できるし、ダンジョン内で危険なモンスターが確認されたときなどには、配信のコメントに書き込みがされて、危険を避けることが出来たりするわけである。

 

 だから今から地上に戻るまでの様子を雨宮嬢が配信するというのも探索者として当然の行動であり、また後に記録を残すという意味でも重要なこと、らしい。まあトップギルドや最前線ともなると情報の秘匿のためにあえて非公開にすることもあるらしいが。

 

「でもドローンは無理だぞ」

「ついていけないですか?」

「うん無理。手に持っとく、と落としそうだな。なんかそういうのないの?」

「私は持ってないですね……茜ちゃんなんかある?」

「ウチか? うーん……あ、だいぶ前に使ったヘッドカメラならあるで」

「茜ちゃん……後でポーチの中一緒に整理しようね?」

「う、うっさいわ!」

 

 どうやら八条寺嬢は持ち物の整理が出来ないタイプらしい。まあ内部空間拡張の効果がついたポーチやバッグを持っている場合は、見た目以上にものを持ててしまうので整理をしなくても大丈夫になってしまうのだろう。

 

 ゴソゴソとポーチを漁って、頭に巻くバンドに小型のカメラが取り付けられた道具を取り出す。

 

「うちがつけた方がええか?」

「一番前が茜ちゃんだけど……」

「その身長じゃあ前しか見えんだろ」

「うっさいわ! うちも気にしとんねん!」

「そりゃ、悪かったな。さて、八条寺嬢でも雨宮嬢でもどっちでも良いから早く決めてくれ」

 

 映像記録を残すと言ったって、完全に残す必要があるわけでもあるまい。というかロボのスピードならカメラなんかぼけてろくな映像が残らんだろ。

 

 そう投げやりに返すと、一瞬顔をしかめた八条寺嬢が口を開く。

 

「なあ、その八条寺嬢ってやめてくれんか? 嬢ってお嬢の嬢やろ?」

「ん? いやでも個人に君って呼ぶのはなんかキザっぽくて苦手だし、あんたはあんたで感じ悪くないか?」

「いや普通に茜でええわ。八条寺やと長いやろ」

「……なるほど」

「あ、私もかなたで大丈夫です。雨宮嬢だと距離が遠い気がするので」

 

 八条寺嬢の言葉に頷くと、何か覚悟を決めたような雨宮嬢がそれに便乗してくる。

 

「あー、わかった。けど呼び捨てはハードル高いから、八条寺嬢は茜嬢で。雨宮嬢は、かなた嬢と雨宮どっちで呼べば良い?」

「それでええわ。ていうか、八条寺嬢はいくらなんでも長すぎやろ」

「正直思ってた」

「私よりも長いですもんね。あ、私は……かなた嬢でお願いします」

 

 結局、2人はそれぞれ名前に嬢をつけて呼ぶことになった。まあ、呼び方は別になんでも良いや。

 

「それで、じゃあヘッドカメラはかなっちがつけるか?」

「うん、そうするね」

 

“あれ、もしかしてこっちの配信このまま画面真っ暗ですか”

 

 かなた嬢がカメラを装着しているのを見ていると、視聴者くんがそうコメントを送ってくる。

 

「しょうがないだろ。ドローンじゃあロボについて来れんのや」

「気になってたんですけど、さっきからどなたかと話されてるんですか?」

 

 コメント欄の不満表明に返していると、スマホを操作していたかなた嬢が問いかけてくる。

 

「視聴者君」

「視聴者、って、え!? 配信してるんですか!?」

「ほんまか!?」

 

 かなた嬢だけじゃなく茜嬢まで勢いよく食いついてきた。

 

「え、そりゃまあしてたけど。ドローンももうしまったから今は音だけ」

「なんて名前のチャンネルですか!?」

「いや今は良いだろそれは」

 

 そう言うと、茜嬢ががしっと俺の腕を掴んでくる。

 

「あんな、ジョンさん。あんさん、今自分がどれだけ目立っとるかわかっとる?」

「理解はしている」

「そうか。なら、うちらはそれに興味を持っとるねん。うちらだけやない、大勢が。だから、教えてくれるなら教えて欲しい。教えたくないならそう言うてくれ」

 

 ふむ。つまり彼女らとしては求めるのは当然なので、尋ねられるのが嫌なら嫌と表明してくれと。そういうわけか。

 

「では、この場で、君ら2人の配信に映るところで言うつもりも、君らに教えるつもりもない。ってことで良いか?」

「それならわかった。もう尋ねんようにする。かなっちもあかんで」

「それは……うん。わかった。すいませんジョンさん」

「ああ、うん」

 

 まあここで言えばチャンネル登録者は増えるのだろうなとは思う。が、それでただ増えるというのは、あまり魅力的ではない。別に大勢が欲しいというわけでもないし、今見てくれている一人が今後も偶に見てくれればそれで、というぐらいか。

 

「そら、乗った乗った。とっとと地上に帰るんだろ」

 

 俺の配信、というところに意識が向いていた2人を促してロボに騎乗させる。

 

「おわっ、と、背中でかいな」

「座ってる……大丈夫かな」

「綱こっちくれ」

 

 ロボの背中はでかい。人が馬に乗るときには、足で馬体を挟み込むことで体を支えるのだが、ロボの場合は広い背中に乗っかる形になる。このままロボが走ると普通は体を支えきれずに吹っ飛んでしまうのだ。

 

 俺? 俺の場合は背中の皮を掴むのと普通よりパワーがあるので、広い背中でも傾斜がある以上は足が届けば挟み込めるので鞍無しでも乗れる。

 

「よし、これで良いな。ちゃんと支え綱腕に巻き付けたか?」

「はい、両手とも巻きました。ちょっと動きづらいですけど……」

「落ちなけりゃあ良いよ」

 

 ロボの鞍に、2人に結んだロープの先を繋いでロボに2人を直接縛り付ける。これだけやってれば力が抜けても吹っ飛びようがない。

 

 最後に、俺もロボの背に飛び乗り、前に座る茜嬢に体を密着させて二人乗り状態のかなた嬢の後ろに密着する形で乗って、その両脇から手を出すようにして手綱を掴む。

 

「きゃっ」

「すまん、ちょっと失礼するぞ。これが一番安定するんだ」

「ちょっ、変なことはしたらあかんで?」

「するか阿呆」

 

 気にするのはわからないでもないがな。どうせ走り出したらそんな余裕はなくなる。

 

「それじゃあ、出発するぞ。今日中にできれば10層あたりまで行きたい」

 

 2人乗ってどれぐらいの進行速度になるか。後は2人の体力が持つかどうかもわかんらあい。かなた嬢一人のときは寝てたし俺が完全に支えて運べたけど、今回は2人でそれぞれ自分である程度支えてもらう必要がある。ロボに縛りつけているとは言え3人が乗る都合上、完全に荷物のようには固定できてないので、できる限り頑張って欲しい。

 

「よっしゃ!」

「よろしくお願いします!」

「ロボ、よろしく」

『バウッ!』

 

 そして、俺の両足で腹をたたく合図と同時に、ロボが一気にトップスピードに乗って走り始めた。

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