「……あのな、なんかあったら相談しろとは言った。言ったけどな、流石に今回は無鉄砲が過ぎる。どっちにしろバレてたとはいえ、だ」
「……ごめんなさい」
「反省したならいい。……はぁ、記憶消されかけたとか……シャレにならん」
目の前で俯いている先生。遅かれ早かれとはいえ、割とアウトな事はしたので怒られるのは当然だ。……何か、ちょっと見てて危なっかしいんだよな、先生
「……まぁ、色々と背負うものも多くて大変なんだろうが……はぁ、こんな一歩間違えば滅ぶようなとこがおかしいか。頼ってくれるのは別にいいよ。大変そうだしな」
「……ごめん」
「そこはありがとう、だよ」
「……ありがと」
「……で、その。そろそろ目を向けなきゃいけない事があってさ」
そう。俺が寝かされている病室のベッドに顔を突っ伏して寝ている黒髪の女性についてだ。名前は調月リオ、というらしい
「何で俺の横で寝てるのか……まぁいいや。先生はゲーム部の方に行ってあげてくれ」
「うん……分かった」
先生は行った。さて──この人どうするべきだろうか
「……ケイ、起きてる?」
『私よりケイを頼るのですか?』
『補佐としてどちらが優秀か、それだけの話でしょう』
「……喧嘩するならどっちにも頼らない」
二人とも黙った。この二人、本当びっくりするぐらい仲がよろしくない
「……聞きたかったのは、この人と俺ってどういう関係だったのか。記憶を呼び起こすまではしなくていいけど、ケイは多分知ってるんでしょ」
『……はい。貴方と一緒に私の事を調べまわっていた人です』
『リンネさん、誰か来ます』
「オッケー、二人ともちょっと静かにな」
少しするとドアが開く音がした。白髪の、どこか儚げな少女──確か、明星ヒマリ、という名前だったか
「あー……ヒマリ、さん?」
「…………」
無言のまま、俺の近くまで寄ってくる。ベッドの側まで来て、ゆっくりと俺の顔に手を触れさせて──何故か俺の頭を撫で始めた
「……生きて、る」
『明星ヒマリ、調月リオの二人は貴方の死に気付いていました』
「……うん、生きてるよ」
「……よかった。よかったです……っ!」
「おわっと……」
急に抱き着いてきたヒマリの背をぽんぽんと叩く。……泣いてるな、この子。少し、心苦しい感じがする
「わたし、がっ……殺したような、もの、なのに……!」
『……病弱故、三年生まで生きられないと診断を受けていましたが、ある時を境に急激に体調が回復しています。恐らく…』
「……別に、気にしないでよ。多分、前の俺は納得してやったんだと思うし」
「ごめん、なさい……私っ…!」
覚えてないから、とりあえず黙って話を聞くしかない。……今後もこんな感じなら、いっその事記憶を全て復活させておくべきだろうか
「……落ち着いた?」
「はい……」
ヒマリは泣き止んで、少し顔が赤くなっている。ちょっとは落ち着いただろうから、まあ話ができるぐらいにはなっただろう
「……いや、私のことはいいんです。それよりも…リオの方が優先です」
「リオ、って言うと……」
すぐそこで寝てる人の事だ。優先、とはどういう事だろうか
「……貴方が死んでから…リオは殆ど寝ていません。ずっと、アリスの事を調べて…」
「いや、え…は?」
記憶がない以上、時系列が意識しづらいが、まず間違いなく数ヶ月は経っているだろう。その間、ずっと……?
「いや、いやいや、ケイ……アリス関連は何かしら対策が必要ってのはよくわかるけど、何も数ヶ月殆ど寝てないってのは……」
「……貴方が、最期に送ったモモトークです」
空中に浮かんだホログラムにあったのは、一枚のスクリーンショット。『後は頼みます』とだけ書かれたメッセージを最後に、その人からの連絡は途絶えている
……もしかしなくても俺だ
「え、いや……これで、数ヶ月もずっと……?」
「……託されたから、やらなければならないと、以前にも増して聞く耳を持たず…ずっと、寝ずに……」
「いや、にしたって寝ずにって……」
寝ているリオの顔に目を向ける。この感じだと、飯もまともに食ってるか怪しいし、プライベートもほぼ無かっただろう
……俺の、せいで?
「………ん」
リオが、目を覚ました
「……ごめんなさい、眠っていたみたいね。リンネ…生きていてくれて嬉しいわ。先生から事情は聞いてる。貴方の精神に入ったケイについて、少し調べさせて───」
「待て待て待て待て待て」
「どうかしたかしら」
「寝てないって聞いたぞ、何ヶ月も」
「……心配、してくれてるのかしら。不要よ。元はと言えば、私が貴方を巻き込んだ。一刻も早く貴方の状態を把握しないと──」
「俺はいいからさっさと寝ろ。じゃなきゃ殴ってでも寝かせる」
「……殴ってでも…はぁ、変わらないわね」
溜息をついて、俺のベッドに入り込んだ
……俺のベッドに!?
「ちょっと……!?」
「リオ!?一体何を……!?」
「寝るのなら、ここが一番合理的よ……」
そのまま俺の隣で寝息をたて始めた。多分起きないだろうし、起こすのも何だか……
「……はぁ、まぁいいか。俺が百悪いんだし、大人しく寝かせとこう」
「この女……まぁ、仕方ありませんか」
「ヒマリ、他に俺の事知ってるのはどこ?」
「……C&C、ヴェリタス、エンジニア部、セミナー…」
「わかった、殆ど全部だな」
……リオみたいになってる奴がいないといいが
「リオの事で、責任を感じているんですか?」
「……まぁ、ね」
言ってしまえば、リオは俺の遺した言葉に縛られてた訳だ。その結果、持ってる時間を全て捧げてケイを何とかする為に動いていた……
……他の学園にも、同じような事になってる奴がいるのだろうか。もし、そうなら……
「……このまま、ほっとく訳にはいかない、か」