死人の二度目   作:かゆ、うま2世

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裏切り

やるべき事の第一歩を終え、廊下を歩く

感触は消えない

 

 

『……リンネ、貴方の精神を探る時、随分深くまで潜りました』

 

 

歩いて、歩いて、扉が見えてきた

感触は消えない

 

 

『リンネ、貴方は……』

 

 

扉に手をかけて、開いた

手に残った感触は消えない

 

 

『───ずっと前から、泣いていたのですね』

 

 

爽やかな、ある春の日の事だった

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「……あれ?リンネじゃない、どうしたの?」

 

 

シャーレの建物を出て、真っ先に出会ったのはミレニアムの制服を着た少女。名前は……早瀬ユウカ、だったか

 

 

「……ちょっと野暮用があってな、もう帰る。じゃあな」

 

 

適当に受け答えをして、俺のバイクに跨りエンジンをかける。それ以上何か言葉を交わすより先に、アクセルを全開にし、逃げるようにその場を後にした

 

 

『……あれでは後数分でバレてしまいます。よろしいのですか?』

「構わないよ。その前に、一番厄介そうなのを潰すだけだ」

 

 

目的地は──アビドス高等学校。ターゲットは、小鳥遊ホシノその人だ

 

 

『……いいのですか?本当に』

「あぁ、もう決めた事だ」

 

 

ハンドルを握り締め、ひたすらバイクを走らせる

 

早瀬ユウカが意識不明となった先生を発見する、数分前の事だった

 

 

 

──────────────────

 

 

 

アビドス高等学校。借金により廃校寸前となった高校であり、現在の生徒数は対策委員会の五名のみ。基本的にはいつも静かなその場所に──今日に限っては、銃声が響き渡っていた

 

 

「っ───!?」

「………」

 

 

銃声の主は、小鳥遊ホシノと骨崎リンネ。ホシノの表情には困惑と焦りが浮かび、リンネは眉一つ動かす事なくホシノに向けて引き金を何度も何度も引いている

 

 

「なん……で」

「……」

 

 

ホシノは、自分を本気で撃つリンネに困惑していた。この三年間、小鳥遊ホシノはリンネの影を忘れられなかった。あの日、目の前でバラバラに砕けたリンネ。それが生きていた事は、素直に嬉しい。だが、そのリンネが何故自分に向けて銃を撃っている?

 

 

「……なぜ撃つのか、答えてくれる奴は一人でもいたのか?」

「───!」

 

 

次の瞬間、ホシノの目の前には弾幕が展開されていた。ホシノは知る由もないが──骨崎リンネが、命と引き換えに手に入れた五秒間の時間停止。止まった五秒間の間に発射された銃弾が、不可避の弾幕となって小鳥遊ホシノに襲いかかる

 

 

「いっ──!?」

 

 

なんとか被弾を最小限に抑えても、一発一発の威力も下手なスナイパーライフルよりも強く、何より数が多すぎた。ホシノの身体を弾丸が容赦なく貫き、被弾した部位からは少量の血が吹き出す

 

 

「何、で……!」

 

 

何で。あまりにも端的な言葉だったが、小鳥遊ホシノの意思を伝えるにはあまりにも充分だった。しかし、その言葉が骨崎リンネに届く事はない

 

 

「……またか。何で、と言われても。邪魔だからとしか言えない」

「え──わ、私、何か悪い事、した?リンネの気に触るような事とか、したかな……」

「…なるほど」

 

「前の俺は、お前に会っていたのか」

 

 

瞬間、ホシノの顔が驚愕に歪む。骨崎リンネは、小鳥遊ホシノの事を覚えていない。記憶喪失のトリガーは骨崎リンネの死。ホシノの預かり知らぬ所で、またリンネの命は潰えたのだ

 

 

「前の俺は、お前とどんな関係だった?友人?同級生?先輩か後輩?それとも…恋人だったりするのか?」

「あっ──うっ──」

「できるだけ親しい関係が望ましいな。その方がお前は躊躇う。そうすれば、俺の仕事も楽に済む」

 

 

困惑をよそに、銃撃はより苛烈になっていく。それでも、小鳥遊ホシノは引き金を引けない

 

 

「……別に、お前がこれから起こる事全てを黙って見てるんなら、俺はこんな面倒な事しなくてよかったんだ。でもなー、お前絶対邪魔しに来るだろ?どっちにしろ目立っちまうから黙っとくこともできねぇし」

「っ……これから…起こる事って──!」

 

 

また、突如として現れた弾幕の嵐が、小鳥遊ホシノを襲う。リンネは、ホシノのショットガンの射程内には絶対に近づいてこない。故に、ホシノはただ一方的に撃たれるのみ

このままではジリ貧。引き金を引く覚悟を決めなければいけない。そんなことはホシノ自身理解している

 

 

(……倒して、話を聞くだけ…)

 

 

そう自分に言い聞かせ、ホシノは引き金に指をかけ──

 

 

「──ホシノ先輩!」

 

 

聞き馴染みのある誰かの声が、聞こえた

 

 

「────この時を待ってたんだ」

 

 

瞬間、リンネの表情が醜く歪み、同じくホシノの表情が焦燥に歪んだ。その視線の先、ホシノの後ろにいるのが何か。ホシノは、理解してしまった

 

 

「っ───!」

 

 

響いた六発の銃声。弾丸の前に、ホシノは体を投げ出すしかなかった。ハンドガンにしてはやけに高威力な弾丸が、ホシノの体に直撃した

 

 

「が───!?」

 

 

銃弾が直撃すると同時、リンネは時を止めてホシノの腹を蹴り飛ばした。窓ガラスを突き破ったホシノの体は、そのままグラウンドに叩きつけられる

 

 

「っ──!」

 

 

腹と背中から伝わる激痛。ホシノはなんとか立ち上がろうとするが、その前にリンネは距離を詰めていた

 

 

「リ、ンネ………!」

「…………」

 

 

無言で倒れたホシノを見下ろし、銃口を向け──何度も何度も、引き金を引いた。弾切れになれば弾を込め直し、再び引き金を引く

 

 

「がっ──!あぐっ……!」

「……」

 

 

もう、ホシノには指先一つ動かすこともままならなかった。ショットガンも遠くに弾き飛ばされ、ありったけの銃弾を全身に受け、ボロボロになったホシノの体はぴくりとも動かない

 

 

「……正直、一番最初にお前を潰せてホッとしてる」

 

 

リンネは、動かなくなったホシノを見下ろしながらそう呟いた。その表情は、どこかすっきりとした顔で──

 

 

「これから、各学園のクソ強い奴らに喧嘩売ってボコボコにしなきゃならんからな。でも、風紀委員会はちょっと不良を多めに送ってやるだけで楽になるし、正義実現委員会も同じだ」

 

「奴らはあくまで公的機関。自由に動ける訳じゃない。その点、対策委員会は面倒だったが──ま、トップがこれじゃあな。もう無視できる範囲だ」

 

「俺のやるべき事を始めるのは、邪魔してくるであろう奴らを全員潰した後……あぁ、勘違いするなよ。別に、誰かを殺そうとかキヴォトスがどうとか、そういう話じゃない」

 

 

「俺が、やりたいからやる。ごく個人的な事なんだ」

 

 

ホシノには、言っていることの意味は半分も理解できなかった。だが、一つだけ確かな事がある──リンネは、他の場所でも、他の相手にも同じ事をするという事だ

 

 

「……さて、ボコボコにしただけじゃ不十分だ。しばらく行動不能まで追い込まないとな」

 

 

リンネの手が、ホシノの足に添えられた

 

 

「え、ぁ────」

 

 

これから起こる事を、ホシノは直感で理解してしまった

 

 

「や、やめ───」

「よっと」

 

 

ボキ、と。何かが折れる音がした

 

 

「ぃ───ぎっ!?」

 

 

足の骨が、折られた音だった。激痛がその体に走り、声にならない悲鳴が漏れる。それを、心底忌々しげな表情のリンネが見下ろしていた

 

 

「……うるさいな。足が折れただけだろ。俺は八回死んだけど、そんな風に叫んだ事なかったぞ」

「っ、ぐ──!」

「まぁ、片足は潰したし、これでいいと思うが──念には念を、だな」

 

 

「もう一本貰っとくぞ」

 

 

また、同じ音が響いて。ホシノの身体が、跳ねるようにして仰け反った

 

 

「───ッ!!」

 

 

ホシノの悲鳴が響く中、リンネの表情が動くことはなかった

 

 

「さて、そろそろ行くか」

 

 

リンネは踵を返し、グラウンドを後にした。残されたのは、満身創痍になった小鳥遊ホシノただ一人だけ。他の対策委員会がすぐに駆けつけるだろうが、その時には既にリンネは遠く離れて行ってしまっている。

 

 

「リ、ンネ……」

 

 

そして、ホシノも動く事は叶わない。グラウンドには、絶望に打ちひしがれる小鳥遊ホシノだけが取り残されていた

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「……さて、ここからが大変だ。指名手配とかされるだろうし、短期決戦だな」

 

 

誰もいないどこかのビルの屋上で、リンネは独り言を呟いていた。いや──正確には、彼の精神に住まう者との会話だったのだろう

 

 

「……リンネ先輩」

 

 

そこに、踏み入った者が一人。色彩に触れた砂狼シロコ、その人。リンネは振り向かずに言葉を返す

 

 

「シロコ……いや、シロコ*テラーと呼んだ方がいいか?」

「……どういうつもりなの」

 

 

リンネにアサルトライフルを向けつつ、シロコは問う。リンネは軽く肩を竦めながら言葉を返した

 

 

「……悲しいなぁ、銃なんか向けて」

「質問に答えて」

 

 

語気を強めて問うシロコ。それに対し──シロコを見つめ、ゆっくりと近づく事で返した

 

 

「……ちょっと考えればわかる事だろ。この俺が、私利私欲のためにこんな事すると思ってんのか?」

「……」

 

 

リンネの歩みは止まらない。シロコもまた、銃口を下ろすことはない。だが──引き金にかけた指は震えている

やがて、リンネがシロコの目の前まで迫り────

 

 

 

 

「───その通りだよバーカ」

 

 

 

 

表情を驚愕に染めるシロコのアサルトライフルを弾き飛ばし、ハンドガンを突きつけた

 

 

「さっさと家に帰んな。お前は俺を撃てない。ならわざわざ戦う理由もない」

「……何が、したいの?私──私、リンネ先輩のしたい事なら協力するから」

「……協力、ね」

 

 

「なら、家に帰ってじっとしてろ。俺に関わるな」

「────」

 

 

その言葉を最後に、リンネはシロコに背を向けて歩き出した。シロコは、リンネに銃を突きつけられた時のまま──呆然と立ち尽くしていた

 

 

「……どこに」

「どこに行くの、リンネ先輩」

 

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