死人の二度目   作:かゆ、うま2世

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あっかんスタレ楽しい


逆境

「………あはは!本当に変わっちゃったんだね!そんな怖い顔見た事ないや!」

「……悪かったよ、ミカ」

 

 

不機嫌そうな顔を一瞬で引っ込めて、ミカがよく知るリンネの優しい声に戻る。当然、ミカの精神を揺さぶる為の嘘だ

だが、リンネはもう形振り構わないと決めた。嘘、人の感情、声色に表情、全てが自分の武器だ。利用できる物は全て利用する

 

 

「でも、仕方なかったんだよ。やむを得ない事情があってさ、こんな事せざるを得なくなったんだ。俺が何の理由もなくこんな事する人じゃないって知ってるだろ?」

 

 

動揺を狙ってか、油断を誘う為か、はたまたその両方か。ミカには、その言葉の真意を推し量る事ができなかった

 

 

「……わかってるよ。リンネ君は優しいいい子だもん。何か事情があったんだよね?」

「ああ。だから、ここは見逃して欲しいんだよ。そんで、しばらくは俺に関わらない方がいい」

「……そっか」

 

 

ミカは、少しだけ悲しそうな顔をした。だが、それでもリンネの本心からの願いを受けて───そのままその場を後に──

 

 

「なんて───言うわけないじゃん。私なら騙せると思った?」

「……」

 

 

ミカは、リンネに背を向けなかった。むしろ、一歩踏み出し距離を詰める

 

 

「あの日、リンネ君の死体を見つけて──今でも覚えてるんだ。多分、一生忘れられない。本当に、本当に悲しかったんだよ……?」

「あっそ。悪いけどお前の事も、お前と過ごした俺の事も何も覚えてないんだ。知らねえ奴の話をされても困る」

 

 

もう、リンネも取り繕うのをやめた。先程一瞬だけ浮かべた不機嫌そうな顔と、声色に乗せた確かな怒気を向けて、聖園ミカを拒絶する

 

 

「知らない奴の話って……酷いなぁ。でも、そっか。記憶喪失になっちゃったんだね」

「……そうだよ。だから、俺に関わらないでくれ」

「あはは!無理無理!せっかくもう一回会えたのに、また離れるとか絶対無理!」

「……イカれ女が。これ以上関わるならお前の足もへし折るぞ」

「その前にリンネ君を連れて行くだけだけど」

 

 

互いに一歩も譲らない、平行線な会話。その中で──リンネの内心には、僅かな焦りが生まれていた

 

 

(動揺しない……厄介だな)

 

 

小鳥遊ホシノも、美甘ネルも、動揺を誘えたから楽に戦う事が出来た。だが、聖園ミカにはそれがない───いや、厳密に言えば動揺はしているのだろうが、それら一切を全て無視している

 

 

「──先手必勝!」

 

 

停止した時間の中、弾切れになるまで撃ち続ける。時が動き始め、銃弾の雨にミカは呑まれ──

 

 

「────」

 

 

───る事はなく、上体を逸らして銃弾を回避した

 

 

「……どいつもこいつも。止まった時を認識できてない筈なのに、簡単に避けてきやがって」

「そっか、やるんだね?」

「当たり前だろ」

「……じゃ、今度はこっちの番だね」

 

 

地を蹴り、圧倒的な速度で接近してくるミカに対して、リンネも同じように地を蹴り、拳を振りかぶった

 

 

「───!」

「っ───!」

 

 

互いに振るった拳は、そのどちらにも当たる事は無かった。咄嗟に片手に持っていたハンドガンをミカの腹に向けるも、同じタイミングでミカはサブマシンガンをリンネに向けていた

サブマシンガンの銃口から逃れた動きのせいで、リンネのハンドガンも狙いが逸れた。互いに放った銃弾は、互いの体に命中する事は無い。すぐさま拳での打撃に戦術を切り替え──

 

 

「っ───!?」

 

 

サブマシンガンをバットのようにフルスイング。辛うじて腕で防いだものの、その腕からは嫌な音が鳴った

 

 

「っ、このゴリラ!」

 

 

サブマシンガンを掴んでミカを投げ飛ばし、廃ビルの壁面に背中から叩きつける

 

 

「っ、いったぁ……ゴリラは酷くない?」

「黙れ」

 

 

今のリンネに、会話を交わすつもりは無い。爆破弾に切り替え、ミカに向けて一斉掃射する。周囲が爆炎に包まれ、ミカの姿が見えなくなり──爆炎の中から、銃弾が飛び出してきた

 

 

「苦し紛れの反撃と見た」

 

 

銃弾はプラナが弾く。飛んで来た銃弾の軌道からおおよその位置を割り出し、爆炎もお構いなしにミカの元へ駆ける。速く動くことに全神経を注ぎ、勢いそのままにミカの腹に掌底を繰り出した

 

 

「っ、がはっ!」

 

 

血を吐きながらも、掌底を繰り出した手を掴もうとするミカ。その腕を掴み、背負い投げの要領で地面へ叩きつけた

 

 

「ぐっ!」

 

 

一切の容赦はない。このまま戦闘不能まで追い込もうと、再び時間を停止させた

 

 

「っ、は───!」

 

 

停止中に放たれた銃弾がミカに殺到する。命中箇所から少量の血が吹き出るも、ミカは構わずサブマシンガンを連射した

 

 

「っ、ちっ」

 

 

距離が近すぎると、プラナの防壁は意味を成さない。飛び退いて距離を稼ぎながら、プラナでミカの銃弾から身を守る

 

 

「はぁ……痛いなぁ……!」

 

 

腹を押さえるミカ。しかし傷は浅く、血は少量だった。足を折るのは完全に制圧した後。今は戦闘不能に追い込むのが最優先だ

 

 

「……俺が聞きたいのは、だ、聖園ミカ。お前らの所に居た時の俺が、一体どういう風に死んだのか。ちょっと興味が湧いた」

「………」

(プラナ)から聞いた話なんだが…どうも、死体の発見者はお前らしいじゃないか。どこで、どんな風に死んでたんだ?教えてくれよ」

「……死体」

 

 

その表情を曇らせ、ミカは俯いた。攻撃の手が止まり、周囲に静寂が訪れる

 

 

「……アリウス自治区の教会で、バラバラになって死んでた。顔もぐちゃぐちゃで、胸に穴も空いてて……とてもじゃないけど、人の死に方じゃなかった」

「アリウス自治区?おかしいな、俺がトリニティの生徒だったなら、そんな所に行く機会はない筈だろ?あぁ、待て。話さなくていい。……そうだな、勘だが……お前がアリウス自治区まで俺を連れて行った、とか?」

「っ……」

 

 

ミカの顔色が変わった。その反応で、リンネは自分の仮説が正しい事を知る

 

 

「図星か?となると……あぁ、酷い事だな。お前が俺をそんな所まで連れて行ったせいで、俺は死ぬはめになったのか」

「……そう、だよ。私がリンネ君を殺した。私が勝手にリンネ君を巻き込んだから、あんな事になった」

「なのに俺を撃ってくるのか、酷い奴だなお前。死んじまったらどうすんだよ」

 

 

付け入る隙を見つけたら、容赦なくそこを突く。ミカの表情に、僅かながら動揺の色が見えてきた

 

 

「お前のせいで俺は死んだのに、今度は自分の手で殺すつもりか?リンネ君リンネ君って、結構親しい仲だったんじゃないのか?それとも、変わっちまった死人には興味ないか?」

「……やめてよ。そんな事言わないで」

 

 

ミカの声から、余裕が失われていく

 

 

「あーあー、前の俺もがっかりだろうな!お前のせいで死んだ後に、お前に殺されかけるなんてな!」

「殺すつもりなんてない!」

「傷つけるつもりはあるんだろ?引き金を引くって事はそういう事だ」

「………そう、かもね。私はリンネ君を傷つけるつもりでここにいる」

 

 

ミカのその言葉に、リンネは安堵の息を吐いた。ミカの内心が掻き乱されればされる程、ミカはリンネに隙を見せてくれる。そうなれば、ミカを仕留める事は容易い

 

 

「でも、殺すつもりなんてないよ。私はリンネ君と一緒に居たいだけ」

「独りよがりだな」

「独りじゃないよ。皆いる」

「……皆?」

 

 

皆。その単語に、リンネの思考が一瞬止まった

 

 

「何っ────!?」

 

 

瞬間──遠方からの狙撃が、プラナによって弾かれた。動揺しながらも、周囲の状況を確認すると──

 

 

「ちっ……!!」

 

 

ミカの背後、白いパーカーを着た、その体に似合わぬ巨大なスティンガーミサイルを持った少女──アリウススクワッドの一人、戒野ミサキがそこにいる

スティンガーミサイルはプラナが弾く。なら、注意すべきはそれを起点とした別の攻撃───

 

 

「っ、そう来るか…!」

 

 

どこからともなく飛んで来たドローンが撒いた煙幕。その煙幕を目眩ましに、ミカはリンネの懐まで潜り込み───

 

 

「っ……はぁ…」

 

 

ミカの拳がリンネに届く寸前で、再び時間が停止した

 

 

「ミカだけじゃ、ない…」

 

 

背後に目を向ければ──そこには、錠前サオリの姿もあった。ミサキと狙撃で気を取られた隙にミカとサオリに接近されたのだ

 

 

「シスターフッド……正義実現委員会は動かなくても、他の連中は動くって訳か……」

 

 

煙幕の隙間から見えた、シスター服を着た大勢の少女達。その全員が、リンネを捕えるためにここまでやって来たのだ

 

 

『リンネさん、あまり銃弾が多いと、私でも弾き切れません』

「わかってる」

 

 

シスターフッドの軍勢と狙撃から逃れる為、ビルの中へと逃げ込んだ。今の瞬間、リンネが確信を得たのは、トリニティは自分の潜伏場所を完璧に把握していたという事実だ。監視カメラはプラナとケイが完璧に偽造する以上、骨崎リンネを見つける方法はただ一つ。肉眼で捉え続ける事だ

 

 

『リンネ、わかっていると思いますが…』

「中は中で悲惨だろうな」

 

 

アリウススクワッドはゲリラ戦を得意としている。数時間ビルを空けていた以上、内部は恐らくトラップだらけだろう

 

 

「……泣ける状況だな」

 

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