死人の二度目   作:かゆ、うま2世

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忙しいなリィ


届かない

「さて……」

 

 

考えられるのはワイヤートラップとかの爆弾の類いか、閃光手榴弾などの目眩し。爆発は余程近距離でなければプラナが防いでくれるから、本当に厄介なのは煙による視界不良だ

 

 

「流石に焦ったが……まぁ、まとめて潰すチャンスか」

 

 

ビルは元々どこかの会社のオフィスだったのか、当時の机などがまだ残っていて、言ってしまえばかなり散らかっている。身を隠すにも、罠を仕掛けるにも、状況はかなり有利だ

 

 

「時間……」

 

 

すぐにミカとサオリが入って来るだろう。重要なのはそれまでの僅かな時間。罠が張られているのなら、正面から潰すまでだ

 

 

「ゲーム開始だ」

 

 

強く床を踏みしめ、罠が仕掛けられているであろう室内を駆け回る。当然トラップは作動するが、プラナが防ぐから問題はない

俺が気にするべきは、予想外の行動によって相手の口から漏れた僅かな息遣い

 

 

「……そこか」

 

 

柱の裏、白髪の小柄な少女……白洲アズサが、表情を焦り一色に染めてそこに隠れている。止まった時間の中、爆発を回避しながらそこへと近付いた

 

 

「え───」

「相手が悪かったな」

 

 

時が動き始めた瞬間、無防備なアズサの鳩尾に蹴りを一撃───トラップの方へと蹴り飛ばした

 

 

「っ、ぁ───」

 

 

恐らくはトラップを仕掛けた本人であるが故か、トラップを起動しないように上手く着地した。だが、それでも逃げられない。爆破弾を撃って誘爆させれば、それで終わり

 

 

「アズサ!」

「アズサちゃん」

「もう来たのか」

 

 

だが、俺が引き金を引く方が早い────

 

 

 

 

 

「───リンネェェェェ!」

「っ───!?」

 

 

 

 

何かを破壊するような音と共に、背後から響いた怒号。トリニティ生としては少し異質なその黒い制服、手に持った二丁のショットガン

 

 

「剣先ツルギ!?」

 

 

正義実現委員会はワカモが足止めしている筈。ならば答えは一つ、彼女だけが俺を捕らえに来たのだ

想定外だが、それならそれで良い。幸いまだ距離があるし、時間停止が間に合う

 

 

「時よ止ま────」

 

 

 

 

 

 

 

「───わっぴ〜!」

 

 

 

戦場には不釣り合いな、何とも気の抜けた声が響き渡った

 

 

「サク、ラコ───」

 

 

シスターフッドのリーダー、歌住サクラコ。声の正体はそれだった。思考が止まったせいで、行動が一瞬遅れている。最早時間停止は間に合わない。ツルギの攻撃を一撃防ぐことに集中────

 

 

「な────」

 

 

俺のすぐ後ろの天井が崩れ、そこから何か──いや、誰かが降ってきた。振り向いて視界の端で捉えると、そこにあったのは盾と、水色の髪。救護騎士団団長、蒼森ミネだ

 

 

「アズサは囮──全ては、この一瞬の為!」

 

 

まさか、ここまで────

 

 

 

 

 

「───救護!」

 

 

 

 

俺の頭に、ミネの拳が叩き込まれた。当然それだけで終わるはずもない。他の全員が、俺の近くまで近づいてきてるのが見えている。時を止めようにも、さっきの一撃のせいで頭が回らない

 

 

「ぁ───」

 

 

ビル内にいる全員の銃が腹に突きつけられ、引き金が引かれた

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「ごほっ……かふっ」

 

 

ビルの外に弾き出され、腹の傷を押さえて咳き込む。決定的だ。骨が砕けるような音もした。それでも、俺を見つめる大勢のシスターフッドをよそに、地を這って少しでも距離を取る

 

 

「……どこへ行く」

「っ……はぁ…流石、容赦無いな」

 

 

当然の如く、全員が俺を包囲する。大人しくビルの壁面に体をもたれさせてその場に座り込んだ

 

 

「っ、はぁ……ここまでか」

「……勝ったのに、全然嬉しくない」

「……だろうな」

「リンネさん、私の事がわかりますか?」

「あんたに殴られたせいでちょっとくらくらするけどわかるよ」

 

 

自分で殴った相手の容体を心配する辺り、噂通りのイカれっぷりだ

 

 

「……聞きたい事は山ほどあります。何故生きているのか、今まで何をしていたのか、何故こんな事をしたのか」

「悪いが、記憶喪失でさ。あんたらの事はさっぱりだ。ま、質問には答えるよ」

 

 

 

「何故生きてるのか、についてはまぁ、そういうもんだからとしか言えない。今まで何をしてたのかも、記憶が穴だらけで変なこと言えないし」

「……では、何故こんな事を?」

「こんな事、ってのは、先生をぶん殴ったり、色んな生徒の足へし折ってる事か?」

「それ以外に何がありますか」

「怖い怖い。仲良しだったのに随分な扱いだな」

 

 

小さく息を吸って、彼女達を真っ直ぐに見つめる

 

 

「言ったところで理解できないよ。誰も海の全容を知らない事のように、人の内心というのは誰にも理解できないものだ」

「……リンネさん、貴方は理由もなくこんな事をするような人ではなかった筈です」

「八回も死ねば人は変わる。あんたの言ってるリンネさんと俺が同じだって、誰が証明出来る?」

「それは……」

「いつまでも過去を見てると碌な目に合わないぞ。目の前にいるのはお前らが知ってる骨崎リンネとは違うんだ」

 

「……はぁ、全員揃ってクソみたいな顔しやがって。あるよ、理由。流石に理由も無しにこんな事してるわけじゃない。理由は…ま、ごく個人的な理由だよ」

「それに、貴方は随分多くの人を巻き込み、傷つけた。……ですが、きっと貴方は許されます。今ならば、まだ」

「……許す、ね」

 

 

……そろそろ、か

 

 

「許されようなんて思ってないさ。やるべきだからやってるだけ。例え何人巻き込んで、何人殴ることになろうと、俺は必ずやり遂げる」

「……貴方を拘束します。処遇はその後に」

「あー待て待て。最後に当たり前のことを喋らせてくれよ」

 

 

 

 

「人の手が入らなくなったものは、段々古く、脆くなっていく。老朽化ってやつだな」

「何の話ですか?」

「目の前にいい例があんだろ?……いや、にしても危なかった。こうなる事は予想してたけど、まさかこんなに早いとは。さっきの銃撃で────」

 

 

服を捲り、腹を見せる

 

 

 

 

 

 

「骨も砕けちまったしよ」

 

 

そこには、骨の腕が防弾チョッキのように腹に張り付いていた

 

 

「は──────?」

「っ、まだ──!?」

 

 

一瞬反応が遅れながらも、俺がまだ動ける状態にあると認識したサオリが銃を向ける。しかし、次の瞬間にはサオリの視界から俺は消えていた

 

 

「壁面を…!」

「べらべら喋ってるからそーなるんだ」

 

 

壁から生やした骨の腕を掴み、エレベーターのように壁面を登ってビルの上へと上がっていく。銃弾はプラナが防ぐから無意味だ

 

 

「こんな老朽化進んでる廃ビルに、あんなに爆破トラップ仕掛けたら…ま、当然の結果だわな」

 

 

段々と傾き始めたビルの上で、大きく息を吸って……吐いた

 

 

「想定はしてた……動揺を振り切って、総力を上げて俺を捕らえに来る奴が、誰かいるかもしれないって」

 

 

だから、この廃ビルを拠点に選んだ

ビルの倒壊さえ引き起こせれば、例え誰が相手であろうと勝てる。そういう場所としてここを選んだ

ビル全体が音を立てて崩れ始める。爆破トラップがトドメを刺したビルは、最早瓦礫の塊となって消える以外の道は無いだろう

 

──下にいるトリニティの勢力を全て巻き込んで

 

 

「っ!皆さん、速く退避を──っ!?」

 

 

次の瞬間、倒壊するビルは彼女達の眼前に現れた

 

 

「止まった時間の中……俺が触れたものは動く」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「はぁ…クソ、疲れた……」

 

 

ビル内で俺と戦った奴ら全員の足をへし折ってから、ビルの倒壊に紛れて少し遠くまで逃げた。ツルギの足は神秘の逆、色彩を使ってへし折った。いくらアイツでも当分治らないだろう。他の連中も、トリニティで治療を受けるしかない

 

 

「ヴァルキューレ公安局……防衛室でも動いたか?」

 

 

見違えるほどに多くなった公安局の生徒を路地裏から適当に眺めた。今回の戦闘で負った怪我は決して浅くは無い。今は休むことに専念したい

 

 

「っ……!?」

 

 

片腕を押さえながら歩いている最中、怪我のせいか疲労のせいか、足がもつれて大きくバランスを崩す。このまま転べば、それこそ動けなくなる

 

 

「っ、はぁ───」

 

 

せめて受身だけでも取ろうと身を捻るが……不意に伸びてきた手が俺の体を支えた

 

 

「足元に気をつけてください、リンネさん」

「プラナ……?あぁ、そうか。頑張れば実体化できるんだったな」

 

 

プラナに手を引かれて、ゆっくりと歩みを進めていく。どこか人気の無い場所を探しているのだろう

 

 

「次は、誰を相手にしような」

「休むのが先決ですよ」

『リンネ、プラナの言う通りです。貴方の精神状態を鑑みても、休息は急務と言えます』

「……かもな」

「……リンネさん」

 

 

 

「本当に、こうするしかなかったのでしょうか」

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