死人の二度目   作:かゆ、うま2世

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一度目のアビドス
アビドスの日々


ヤバい世界に転生した

そう、ヤバい世界に転生してしまったのだ。前世とやらの記憶は無い。辛うじて男だった事は覚えているが、どんな人間だったのかは何も覚えていない

そんな事はどうでもいい、この世界のヤバさに比べたら些細な事だからだ

 

どんな世界かって?

頭の上に変なもの浮かべた顔の良い女達が日夜撃ち合ってる世界だ。この世界の銃刀法はどうなっているんだ。無いのか。そうか……

もっとヤバいのは、この世界の奴らは銃弾を喰らっても割とピンピンしてる事だ。遠巻きに眺めていた事があるが、血の一滴も出ていなかった。おかしいだろ!

 

しかも、こんな至る所で銃撃戦が起きてる世紀末みたいな世界の癖して学校がある。ていうかここは学園都市『キヴォトス』って言うらしい。撃ち合ってる奴らは全員どっかの生徒らしい。先生はどこだよ

 

……らしい、とは言ったものの。流石に十五年も生きていれば慣れる。頭の変なのは俺にもあるし、銃弾を喰らっても平気なのは俺も同じだ。女だらけの中、男は俺一人だったから本当に肩身が狭かったが、人を撃つような奴でも意外と良い奴らばかりだと知った時は心底安心した

 

なんやかんやあって高校生となった俺は、進路を選ぶ時期がやって来た。ミレニアムサイエンススクール、ゲヘナ学園、トリニティ総合学園、山海経、SRT、ヴァルキューレ……色んな所があったけど、俺が選んだのはアビドスという所。うろ覚えの前世の高校に似ている感じがしたし、ここなら馴染めそうな気がすると思ったからだ

 

 

「……それが、はぁ。何でこうなった」

 

 

気がつけばアビドスは廃校寸前になっていた。理由はこの際どうでもいいから省く。残ってるのは俺と、おっぱいがデカくて可愛いゆるふわなユメ先輩と、性格がキツくてちょっと怖い同級生の小鳥遊ホシノだけ

 

そう、三人だけだ

 

 

「お前はどう思う……?なんて、答えられるわけないか」

 

 

座っている机の上から生えているもの──骨の右腕を見て呟いた

 

 

『───』

 

 

返事は無かった。当たり前だ。腕がしゃべれるわけがない。こいつは俺が生まれた時からずっといる何かだ。この世界の人間には何かしらの能力を持った人もいるらしいし、俺の能力って事だろう

 

 

「肘から上がない腕が俺の能力ねぇ……」

『───!』

「あ、こら。悪かったって怒るなよ」

 

 

複雑な意思疎通は不可能だが、単純な感情程度ならこうして身振りで表現できるらしい。絵面としては骨の腕が机の上でひとりでに動いているわけで。そもそも人間の腕の骨がある事がおかしいのだけれど

 

 

「……よし、ジャンケンしよう」

『────』

 

 

結構な範囲に好きなタイミングで出す事ができる腕だ。普段使いするならこういう使い道があるくらいだけど。いかんせん骨なので力も無ければ耐久力も低いから戦闘にはまず使えない。ただの遊び道具にしかならない

 

───だが、遊びとはいえ手は抜かない。この骨野郎に立場というものを叩き込んでやる

 

 

「ジャンケンポン!」

『────!』

 

 

俺はパー。こいつはチョキ

 

 

「負けたッ──!」

『────!!』

 

 

なるほど、中々やるようだな

 

 

「……いつ見ても気味悪い」

「人のアイデンティティーを気味悪いとか言うんじゃあないっ!こいつが泣いちゃうだろうが!」

『────』

「ほら泣いてる!謝れよ!謝罪しろ!」

「……あほらし」

 

 

小鳥遊ホシノ、一年生。特徴は──まぁ、鬼強い事と性格だろう。非常にトゲトゲした性格をしている。その事もあって、俺はこいつが苦手だ。誰だってそうだろう。どうせ話すならユメ先輩みたいな人がいい

 

 

「あーもう酷い人。こんな可愛くて優しい有能な腕になんて事を、ねぇ?」

『────』

「おぉ、よしよし。良い子良い子」

「…………」

「何なんだその目はァ──ッ!」

「うるさい」

「ごめんなさい」

 

 

同い年とは思えない程雰囲気が怖すぎる。愉快に喋っているように見えるが内心相当ビクビクしながら喋ってる。マジで怖い。キレたら何されるか分からない

 

そんな時は飲み物でも飲んで落ち着こう。ただ……俺の飲み物はカバンのポケット。カバンは教室の棚の上。今座っている席からは遠い

 

───こんな時こそ骨の出番では?

 

 

「ねえねえ、骨さん骨さん。あそこのジュース取ってきてくれない?」

『────』

 

 

骨は手を横に張った

 

 

「嫌なの?」

『────』

 

 

骨は手を横に振った

 

 

「……もしかして、無理なの?」

『────!』

 

 

骨は手を縦に振った

 

 

「この役立たずがァ───ッ!」

『──!────!』

「……二重人格なの?」

 

 

骨を掴んでぶんぶん振り回した

 

 

──────────────────

 

 

「ユメせんぱあぃ……借金どうします?アビドスやばいっすよ。廃校ですよ、廃校」

「うーん……やっぱり生徒を増やすしか……」

「十億ちょっとある借金がちょっと生徒が増えたぐらいでどうにかなる訳ないでしょ。そもそも生徒は増えませんよ、こんな砂漠に来る人なんていません」

 

 

(借金が)うお、でっか……

そう、水色の髪のゆるふわな彼女がユメ先輩だ。俺たち三人で立ち上げた『対策委員会』の委員長でもある。ちなみに副委員長がホシノ、俺は書記だ。腕三本使えるし。まぁ、ユメ先輩はそれ以前に生徒会長でもあるけど

 

……しかし、改めて考えても…でっか

 

 

「……ヘルメット団のリーダーと知り合いなんでしょ?うちを襲うのやめるように言ってよ」

「ラブの事か?あれはカイザーに依頼受けてうち襲いに来てるんだから何言っても無理だよ。カイザーよりも良い条件で雇うしか方法無いぞ」

 

 

カイザーコーポレーション。このキヴォトスでも有数の大企業だ。民間軍事会社、銀行経営、リゾート開発、兵器の販売など色んな事をやってる。しかし、内部に関しては真っ黒だ。実際、アビドスが廃校寸前に追い込まれているのはカイザーが原因だ

 

 

「とりあえず借金返さないとなぁ……骨、お前と俺で芸でもやる?」

『────』

「それいいかも!」

「気味悪がって余計人来なくなりますよ」

「骨に謝れよ!……役立たずなのは認めるけど」

『───!』

 

 

……まぁ、俺たちの現状は見ての通りだ。廃校の危機を目前に、毎日面白おかしく過ごして、たまに戦闘して、またバカ騒ぎする。ホシノは気に食わないようだが、俺は結構気に入っている。平和が一番だからな

 

あ、骨が動いた。行き先は……ユメ先輩の所だと!?

 

 

「ふふっ、よしよし」

 

 

骨ェェェェェ!

ユメ先輩に抱きしめられるだと!?そのポジションは僕のだぞッ!許さん、絶対に許さんッ!

 

 

「……ユメ先輩、もうちょっと強めに抱くと喜びますよ」

『───!?』

「そうなの?こうかな?」

『────!!』

「……ふっ」

 

 

ミシミシと音が聞こえてきた。ざまあみろ、骨。ハグだぞ、喜べよ

 

───ポキッ

 

 

「あ、折れた」

「え?あわわわわわ……!」

「ざまあみろ骨野郎!羨ましい事しやがって!あ、別に折れても復活するんで気にしなくても大丈夫ですよ」

「そ、そう?良かった……」

「……やっぱり気味悪い」

「だから人のアイデンティティーを気味悪いとか言うんじゃあないッ!」

「そのアイデンティティー折らせたのあんたでしょ」

「正論は聞きたくなーい!」

 

 

廃校を防ぐための対策を考える会議の筈だが、全く関係のない雑談ばかりしている。だがこれで良い。折角の二度目の人生なんだ。やりたい事をして、言いたい事を言う。一片たりとも後悔は残さない

 

 

「……待って?羨ましいって言った?」

「言いましたね。それがどうかしました?」

「……もしかして、抱きしめて欲しいの?」

「なっ………!」

 

 

これはッ……どう答えるのが正解なんだ……?ユメ先輩の性格を考えれば、首を縦に振れば抱きしめてくれそうな気もする

しかしユメ先輩も普通の女子高生。男を抱きしめるなんて行為、抵抗が無い方がおかしい。下手をすればキモイやつ認定されてしまうかもしれない

それは避けたい。もしユメ先輩にゴミを見る目で見られた時には自害する自信がある

だが……しかし!

 

 

「はい!」

 

 

人生に悔いは残さない。例えゴミを見る目を向けられて自害したとしても、ここで首を縦に振らなければ一生後悔する事になるだろう。ならば、俺は首を振るッ!

 

 

「言ってくれればいつでもやってあげるのに」

「行きまーす!」

「…………」

 

 

やった──運命に勝ったッ!

ホシノの目が少しだけ気になるが無視だ無視!

 

 

「じゃあ、はい」

「……お、お願いします」

 

 

両腕を広げて待っている姿はまさに聖母。俺は吸い込まれるように腕の中に飛び込み、背中に手を回す。柔らかい。そして暖かい。心臓の音も聞こえる。ドクンドクンという鼓動は、俺の鼓動と同じリズムだった

 

 

「天国はここにあったのか……」

「…………」

 

 

ホシノのゴミを見る目は最早届かない。この温もりの中では、たとえ超高温のレーザーだろうと届きはしない

 

 

「ホシノちゃんも来る?」

「は!?いや、私は……」

「ホシノ、欲望を抑えてはいけない。それは愚か者のする事だ。ここで行かない奴は例えどんな偉人だろうと愚か者だ。ユメ先輩!ゴー!」

「行きまーす!」

「やめっ、抱き付かないでください!」

 

 

俺とホシノはユメ先輩に包み込まれた。なんて幸せ空間だ。ここはユートピアか?

そう、ここで骨の出番だ。人は最高の瞬間をいつまでも味わっていたいもの。感触は無理でも、その瞬間だけを切り取っていつでも見れるようにしたいと思うのが人間だ。

そこで活躍するのが骨だ

 

 

「復活した骨にスマホを持たせておいた。笑え笑え!写真撮るから!」

『────』

「は!?」

「あはははっ!」

 

 

パシャリと写真を撮った。そこには、真っ赤な顔をしたホシノと、満面の笑顔のユメ先輩。二度目の生、悪くないじゃないか

 

……本当、こんな日が続けば良いんだけどな

 

 

──────────────────

 

 

 

「……本当、信じられない」

「そこまで言う?お前も楽しそうだったじゃん」

 

 

拗ねてしまったホシノを連れて、校内を歩く。結局、アビドスの事を知ってもらう為には生徒である自分達が直接出向こう、というユメ先輩の言葉に従い、これから外に出るつもりだ

 

 

「……毎日毎日バカ騒ぎして、これで本当にアビドスを救えると思ってるの?」

「まーまー、そうカッカすんなよ」

「っ、いい加減にして!!」

 

 

ホシノが怒鳴り、俺の胸ぐらを掴む。その目には怒りが渦巻いて見えた

 

 

「おいおい離せよ服が伸びちゃうだろ!?骨もびっくりしちゃうんだって!」

「っ───!」

 

 

ホシノは俺よりも強い。戦闘面でも、肉体面でもそうだ。俺よりも強い力で突き飛ばされ、背中から壁に激突する

 

 

「……本気で、アビドスを救おうって思ってるの?あんたも、ユメ先輩も、いつも無駄な事ばかりして。自分の学校を守りたいと思わないの?」

「………ま、そう思っても仕方ないか。いいか、よく聞けホシノ」

 

 

ホシノの目を正面から見据え、口を開いた

 

 

「俺はともかく、ユメ先輩は本気だ。それだけは──あの人だけは信じてあげてくれ。それで、嫌いじゃないんならもっと素直に関わるべきだ。何かあってからじゃ遅いんだからな」

「……どういう意味?」

「そのままの意味だよ。俺がこんなだから、お前がいまいち俺のこと信用してないのはよーくわかってる。だけどな、ユメ先輩は信じてあげてくれ、そしてもっと仲良くしろ。そっちの方が絶対いい」

 

 

人生に悔いは残さない

前世とやらの記憶は殆ど残ってないが、後悔だらけの人生を送ってきたのは感覚でわかる。その中には、友達や家族、恋人に関する後悔もあったはずだ

もっと素直に甘えておけば、話しておけば、そんな後悔はありふれている

 

俺の人生に悔いを残さない為には、人生に悔いを残すような人間を見ないという事は重要な事だ

 

 

「──人生に悔いは残さない。それが俺──骨崎リンネのモットーだ。誰にも後悔はして欲しくないのさ」

「………あっそ」

 

 

ホシノは小さく呟いて、背中を向けて歩き出した。俺よりもずっと小さいのに、俺よりもずっと強い背中だ

 

 

「……やれやれ、嫌われちゃったかな」

 

 

……ま、ちょっとは真面目にやらなきゃな




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