皆俺の事好きすぎ〜
………ありがとうございます(土下座)
「柴関ラーメン一つ!」
「私も」
「お、ユメ先輩にホシノじゃん。おっけー、ちょっと待っててね」
真面目にやる、とは言ったが。実はもう既に真面目にやっているのである。柴関ラーメンという、アビドスの近くにあるラーメン屋でのアルバイトだ。骨のおかげで手が一本多いからその分作業効率も上がる
「はい、お待ちどうさま。熱いから気をつけて食べてね」
「いただきます」
「いっただっきまーす!」
「はい、召し上がれ」
ラーメンは美味い。この世界に来てから一番感動した食べ物と言っても過言ではない。こっちの世界にもちゃんとラーメンがあると知った時は安心したものだ
「同級生かい?」
「一人は先輩です。同じ学校の」
「へぇ、そうなのかい。学校は楽しい?」
「楽しいですよ、本当に」
柴関の大将もいい人だ。この人は絶対に悪い人にはならないだろう。そう確信できる程には、この店からは優しさを感じる
正直、借金の額を考えればバイトで稼げる金なんて微々たるものだ。だからってブラックマーケットに出向いて危険を冒したり、犯罪に手を染めたりするよりかは断然こっちの方がいい
「……あ、時間だ。大将、失礼します」
「はいよ。またよろしくな」
……まぁ、微々たるものなわけだから、当然バイトは掛け持ちだ。使える腕が一本多いのを最大限利用してできる仕事を探す
ラーメン屋以外だと、コンビニだったり、運送業だったりやってる。ジュースすら持てない腕だけど、レジ打ちとかにはかなり使えるからな
ま、そんなだから俺の時間がゴリゴリ削れてく訳だが、仕方ないよな。アビドスの為だ、バイト代は全額借金に突っ込んでる
「はー……」
だが、いくらバイトを掛け持ちしようとも、借金の額は十億ちょっと。バイトだけでは到底返しようがない
借金をどうにかするには……やっぱり元凶のカイザーをどうにかするしかないだろう。極端な事を言えば、カイザーが倒産してしまえば借金なんて帳消しにできる……かも?
まぁ、そんな事は不可能だ。現実的じゃない事を考えるのは無駄な事である
ただ、借金を返すのではなく、借金自体をどうにかする、という発想はいいかもしれない。もともと利子自体が結構法外なものだし、どうにかできないだろうか
「バイト疲れた……いや、これもアビドスの為……」
深夜までバイトをするという経験は初めてだが、まあ想像通りキツい。ただでさえ体力が無いのに、夜中という時間帯がそれに拍車をかける
「はー……帰って寝るか……」
そう呟いて、ふらつく足取りで帰路につき───
「……で、お前誰だよ」
後ろを向くと──そこには人型が立っていた。黒く燃える炎のような顔から、まず真っ当な人間でない事だけはわかる。
「おや、バレてしまいましたか」
「質問に答えろ。お前は何者だ」
「私は……そうですね。黒服、とでも名乗っておきましょうか」
こいつの技量が全く読めない。ヤバい相手である事。生かしておくのは得策ではない事
──普通に戦って、勝てるかどうかわからない相手である事。わかるのはそれだけ
「………」
俺自身の腕に重なるように、骨の腕を纏わせる。親指を立て、人差し指を伸ばし、それ以外の指を曲げる。銃の形に動かした手を、黒服に向けて構え───
「──それを使うのはやめておいた方がよろしいかと。二度目の生を失う事になりますよ」
「っ───!?」
本能が、構えを止めた。何が目的なのか知らんが、この男はヤバい。俺が転生してきた事もどういうわけか知っているようだ。殺し合うのはマズい。それは間違いないだろう
「クックックッ、賢明ですね。こちらとしても貴方と争うのは避けたい。命を失いかねませんから。私の話を聞いていただけますか?」
「……何が目的で、あんたは何なんだ」
「私の目的は……貴方ですよ。骨崎リンネ。このキヴォトスの外から来た魂」
「……俺の事を知ってんのか」
「えぇ、よく知っていますとも」
胡散臭さレベル百だ。正直背を向けて全力ダッシュで帰りたい。それかユメ先輩の腕の中に収まりたい。だが、そうもいかない理由がある
「で、実際何がしたいんだよ」
「取引ですよ」
「取引?」
「えぇ、貴方には価値がある。このキヴォトスで唯一無二のね。取引に乗ってくれるのであれば借金の利子を──いえ、借金自体を減らしてもいいでしょう」
「……」
どう考えても怪しい。怪しさ大爆発だ。だが、借金が減って……アビドスの為になるのなら、俺は……
「……内容を聞いてからだ」
「内容、ですか。簡単な事です。少し体を調べさせて欲しいんですよ」
「他の奴と何も変わらないと思うけどな」
「可能性は否定できませんが、調べてみる価値は充分にあります。貴方も、貴方の三本目の腕もね」
「……乗った」
たったそれだけでいいのなら、乗らない手はない。この男が何者で、どんな企みがあるのかは知らないしどうでもいい。最悪何かあっても逃げてくるぐらいはできるだろう
「契約は守ってもらうぞ、黒服」
──────────────────
「……まさか、本当に調べるだけとは」
あの後、本当にただ体を検査されただけで終わった。痛みもなかったし、変な注射とかを打たれる事もなく、本当にただ身体を調べるだけだった
肝心の借金だが、なんと八億まで減っていた。利子も常識的なレベルまで減っていた。黒服曰く、ここまでする価値があったとの事
「まだ来ないし、ちょっと寝よう」
ホシノもユメ先輩も来ていないし、昨日は寝れなかったから体が重い。ここは一旦眠る事にしよう
「……本当、真面目にやるのは柄じゃないんだけどなぁ」
──────────────────
「おはようございま───」
「しー!」
いつものように、対策委員会の教室の扉を開ける。挨拶をしようとしたら、ユメ先輩が口に指を当てて静かにするように促した
「リンネ君が起きちゃうから」
「…………」
教室の中には、ユメ先輩の膝の上で眠るリンネの姿。すやすやと気持ちよさそうに眠っている
骨崎リンネ。軽薄そうな態度に、掴みどころのない性格に、正直あんまり好感は持てない男だ。アビドスの事も、救いたいのか救いたくないのかよくわからない
『バイト代?……ゲームって結構高いんだよね』
眠っている理由も、大方徹夜でゲームをしたとかその辺だろう。苛立ちは覚えるが、それを外に出すほど子供でもない。ユメ先輩の前だし、後で詰めてやろう
「疲れて寝ちゃってるね。何かやってるのかな?」
「どうせゲームでもしてたんでしょう。さっさと起こさなくていいんですか?」
「いいのいいの。寝かせてあげよ?かなり疲れてるみたいだし」
「……これじゃ何もできませんね」
歪みそうになる顔を必死に抑える。どうして私がこんな奴のために待たなくてはならないのか。こいつが起きるまで、ずっとこうしているつもりなのか
「大丈夫だよ。私達が待とう?」
「……わかりました」
だが、不思議と悪い気はしなかった。多分、リンネに情が湧いたわけではない。これはきっと、ユメ先輩の為だ。リンネも言っていたが、ユメ先輩は嫌いじゃないし
「……ホシノちゃんはさ、リンネ君の事嫌い?」
「……別に普通ですよ」
社交辞令的な、当たり障りのない回答をする。もう手遅れかもしれないが、三人しかいない学校で不和を起こすのは出来る限り避けたい
「リンネ君はね、何をするにも全力なんだ」
「急にどうしたんですか?」
「まぁまぁ、聞いて聞いて」
柔らかな微笑みを絶やさないまま、リンネの頭を優しく撫でて語り始める
「悔いは残さない。リンネ君の口癖。だから、リンネ君は何をするにも全力なんだよ。バイトも、ゲームも、その他の事もね」
「……」
「だから、アビドスの事もきっとそう。リンネ君なりに、全力で救おうとしてるんじゃないかな」
「…リンネがですか?有り得ません」
全力、だなんて言葉とは一番遠い場所にいる男。それがリンネだ。そんなリンネが全力でアビドスを救う?バカらしい。そもそも、あいつが本気でアビドスをどうにかしようと考えているとは思えない
「きっと、リンネ君も同じ事言うと思うな」
「うるさい……」
「……起きましたよ」
「あ、起きた!おはよー」
「んん……おはようございます……」
目を擦っているところを見ると、完全に目が覚めたわけではなさそうだ。だが、そろそろ時間だ。さっさと準備を始めてもらわないと困る
「……ん?あ!?やっば、時間だ!すいません失礼します!」
「はい、行ってらっしゃい」
慌てて飛び起きると、そのまま走り去っていった
……待たせておいて用事あるのかよ
「……ホシノちゃん、提案があるんだけど」
「何ですか」
「リンネ君が何してるか、見にいかない?」
「……どうせ遊びに行ってるかなんかでしょう」
「いいじゃない。見に行ってみようよ」
「……」
「ね、行こう?」
「……はぁ」
どうせ止めても聞かないのはわかっていた。この人はこういう人だ。一度決めた事は絶対に曲げないし、譲らない。一人で行かせるわけにもいかなし、仕方ないか
そうして、リンネを追いかけて──私は信じられないものを見る事になる
「次の配達は……この辺全部か。行くぞ骨!」
「アルバイト?柴関だけじゃ無かったの?」
「これは発見だね……」
「次のバイトはコンビニ……」
「まだ掛け持ちしてるんだ」
「もう夜ですよ?一体いつまで……」
「終わるまで待ってみよう」
結局、バイトが終わったのは深夜三時の事だった
「バイト代は最低限残して返済に充てて……はぁ、金がねえ」
「リンネ………」
「ほらね?言った通りでしょ?」
「えぇ、まぁ……」
……認識を改めなければいけなくなったようだ。確かに、骨崎リンネは全力だ。この目で見てしまった以上、それはもう疑いようのない事実だ
……今度謝ろう
「で、そこにいるのは誰……ってユメ先輩!?ホシノも!?」
「こんばんは、リンネ君」
「…………」
私達の尾行に全く気が付いていなかったリンネは、驚きのあまり固まっていた。私も驚いていたが、ユメ先輩はいつも通りのニコニコ顔だ
「いやー…あはは、バレちゃったか。こういうの柄じゃないんだけどなぁ」
「……リンネ、その、私…」
よく知らずに責めたことを謝りたい。だけど、上手く言葉が出てこない。どうしていいかわからず俯いていると、ユメ先輩が一歩前に出てリンネに話しかける
「リンネ君、今度皆で水族館行かない?」
「行きます!」
「そっか〜!」
「はい〜!」
ユメ先輩が腕を広げた瞬間、リンネが思い切り抱きついた。そしてユメ先輩も、それを優しく受け止める。まるで親子のような二人の光景を見て、胸の奥に痛みが走る。なんだろう、これは
「あ、でも疲れてるんで明日は無しでお願いします」
「うん、いいよ〜」
「じゃ、今日は帰りましょうかね。じゃ、また明日」
「バイバーイ。……ホシノちゃん、水族館楽しみだね」
「……はい」
ユメ先輩が何か言っているが、耳に入らない。頭の中でぐるぐると、さっき見た光景が繰り返されている
(私には、ああいう事はできない)
リンネとの距離を感じながら、家路につく。結局、謝る事も出来なかった
「……あれだけ責めておいて、何も言えないなんて」
……私、本当に最低だ