ミスの後
やらかした〜!
てっきり起こした運命が自分に返ってくるから死ぬもんだとばかり思ってたわ。返ってくるのは本当だけど、使った時点で死が確定するんだね。また一つ賢くなった
「相変わらず記憶は残ってない……か。ま、死人は戻らない方がいいかな」
朧げになった記憶に蓋をして、とりあえず周りの状況を見渡す。どこかの路地裏だが、前と違って建物の雰囲気から場所を特定する事はできそうにない
「とりあえずどっか……」
「お待ちを、約束を忘れたのですか」
振り向くと、黒いスーツを着た化け物がいた
……えぇっと、誰だっけ…見覚えある…うーん…
「あ!思い出した黒服だ!どうかしたの?」
「貴方に…正確に言えば前の貴方に頼まれたのですよ。次に入る学園での身分を偽装してくれと」
「えぇ〜?」
確かにそんな事を頼んだ覚えがある。この世界に来てから既に二回ほど死んでいるが、できれば俺だって生きて二回目の青春を謳歌したい
体は大丈夫なように定めたし、流石に今回は大丈夫だろ、知らんけど
「ま、いいや。適当に選ぶか。アビドス…ミレニアム……山海経も…」
「アビドスと山海経は既に行っていますよ」
「……あれ?そうだっけ」
……記憶、結構無くなってきてるな
体の時みたいにどうにかする事はできるんだろうけど…それは駄目だ。きっと、戻りたくなってしまうから
死人が戻れば、いらない問題を招きかねないからな
「……トリニティ、なんていかがです?」
「……悪くないかも」
「では、こちらでやっておきますね。それと──気が向けばで構いません。私の同胞も貴方に会いたがっていましたので、機会があれば」
「ん、気が向いたらね」
そして、黒服は去っていった
……なんか、凄い便利な人になってきたな。アイツの記憶だけは保持できるようにしといた方が良いかも
「……とりあえず、行くか」
──────────────────
「ええっと、ここは……」
「あぁ、そこはこれをこうして…」
「あ、本当だ。…やっぱり難しいなぁ」
トリニティ入学から一ヶ月。もう最初からそこにいたかのように馴染みきった俺は、滅茶苦茶頑張って三年生のテストを満点解答してやった。まだ一年生なんだけどね
俺の他にも浦和ハナコとかいう人が満点回答してたかな。まぁそれはどうでもよくて
それから、俺の元を訪ねてくる人が多くなった。勉強なりなんなりで助けを求めて俺の元にやってくる。もう便利屋みたいな扱いだ、嫌じゃ無いけど
目の前の彼女もその一人。スイーツ大好き杏山カズサさんだ。元々試験前から交流はあったけど、試験後から俺に勉強を教えてもらいにやってきた。勉強教えると甘いもの奢ってくれるから割と好き
「あはは、ちょっと休憩にしようか」
「賛成〜」
開いた教科書とノートを閉じながら、骨の腕を操って口にマカロンを運ぶ。案の定腕は三本に増えていた
「やっぱりその腕便利だね。ちょっと怖いけど」
「そうそう、本当便利。カズサも食べなよ」
「うん、そうする」
三度目の学園生活だけど、割と今までで一番学生らしく過ごしてるかもしれない。なんだか凄い楽しい。一人紛れ込んだ男子生徒にしてはかなり優しく受け入れてもらってると思う
「最近どう?」
「別に普通。今みたいに勉強教えたり、雑用頼まれたり、たまに運動したり。まぁそんな感じ。……なんだけど」
「どうかしたの?」
「なーんか……トリニティの子達怖いんだよね。なんかこう、良い子達なんだけど…嫌な感じがするというか」
「ふーん…私にそれを言うって事は、私は違うって捉えて良いの?」
「うん。カズサの事は好き」
「……またそんな事言って。私以外にも言ったんでしょ、それ」
「カズサにしか言ってないよ」
「本当に〜?ならいいけどさ。あんまりそういう事言ってると襲われちゃうかもよ。ほら、口開けて」
言われた通りに口を開けた瞬間、口に何かが放り込まれた。チョコの味が口の中に広がる
「美味しい」
「ま、何かあったら呼んでよ。暇だったら助けに行ってあげるから」
「ありがと。でも多分大丈夫だと思う」
「はいはい。それじゃ、続きしよっか」
「オッケー。カズサは真面目だね。それじゃ続き───ん?」
俺の携帯が鳴った。画面を見ると非通知の文字が出ている
「ごめん、電話だ。骨崎ですけど。はい、はいはい。あー…良いですよ」
「誰からだったの?」
「ティーパーティー」
「………はぁ!?」
──────────────────
「あれ、あんたも呼ばれたの?」
「はい。貴方もですか?」
「うん」
ティーパーティー……もっと細かく言えば、桐藤ナギサから直接呼び出しを受けた。場所に向かうと先客がいた。俺はこの人を知っている。俺以外に三年生のテストを満点回答した浦和ハナコだ
「まぁいいや。さっさと入ろうぜ」
「えぇ」
扉を開けて中に入る。呼び出された場所は校舎にあるテラスで、学園の敷地をかなりの範囲見渡す事ができる。夜になれば綺麗な星空が見えるだろう
「……おや、来ましたね」
そこにいたのは、一人の少女だ
ティーパーティー。トリニティの生徒会は三人で運営されている。一人は俺を呼んだフィリウス分派代表の桐藤ナギサ。もう一人はパテル分派代表の聖園ミカ。最後はサンクトゥス分派代表の百合園セイアだ
もっとも、この場にいるのは桐藤ナギサ一人だけだが
「来ましたけど、何の用なんですか?カズサと仲良くお菓子食べてたところなんで手短にお願いします」
「…………」
「ふふっ、では単刀直入に行きましょうか。ティーパーティーの後継者の候補に、貴方達二人を推薦したいのです」
まぁ、大体予想はついていた話だ。俺は別に構わないが……
「浦和ハナコさんはその頭脳を、骨崎リンネさんはその求心力を期待しています」
「ふーん……」
視界の端で、ハナコの表情を捉える。……まぁ、こちらも大方予想通りか
「どうでしょう。受けていただけますか?」
「俺は良いですけど、ハナコには二度とこの話しないでくださいね。どうせシスターフッドからもスカウトかかるでしょうし、そっちにも言っといてください」
俺の言葉に、二人は驚いたような顔をしていた
浦和ハナコ。一目見た瞬間からわかった。ここでどんな話が出ようと受ける気はない──というより、政治云々の話をそもそもしたくないのだ
「何で……」
「それは…ハナコさんが決める事では?」
「あぁ、それもそうですね。聞いてみてください」
結果なんて、分かりきっているけれど
「……申し訳ありませんが、辞退させていただきます」
「……そうですか。残念です」
意外とあっさり引いたな。もう少し粘られると思ってたんだが。俺が首を縦に振ったからいいって事なのだろうか
「んじゃ、終わりっすね。帰っても良いんですよね」
「はい。リンネさんにはまた後で連絡を入れさせてもらいますね」
「あーはいはい。それじゃ、さよなら」
そうして、俺達はその場を後にする。さっさとカズサの元に帰らないと
「ちょっと待ってください」
「ん?ハナコさん、どうかした?」
「いえ、あの……何故、わかったのですか?」
「……あぁ」
二人並んで歩きながら、会話を続ける
「見れば分かる。面倒くさい事は進んでやる物好きに任せて、貴方は好きに学生生活楽しんで。一回だけなんだから」
「─────」
「あ、カズサだ。おーい」
カズサを見つけたので、走って向かう。これから忙しくなりそうだけど、とりあえず今は甘いものでも食べてゆっくりしよう
「……………」
──走り去っていくその姿を、浦和ハナコは静かに見つめていた