「…………」
「……あの、目が怖いんですが」
シスターフッドに拉致られた
トリニティ内でも大きな派閥を形成している秘密主義集団シスターフッド。組織の内情は本当にわからない事だらけで、正直俺も関わりたく無かった
ただでさえティーパーティーの後継者にスカウトされ、現ティーパーティーの補佐をやれとか言われてるこの状況でこれ以上ややこしい事に巻き込まないで欲しいのだが
「目が怖いも何も、怖い目にもなるだろ。いきなりシスターフッドの生徒に囲まれて拉致されたんだぞ」
「拉致?一体何を……私はただ、貴方に用が…」
「うぅ…ごめんナギちゃん。ついでにミカとセイアも……これからシスターフッドに脅されて何か重大な事をさせられるんだ……」
「何故今ティーパーティーの皆さんの名前が!?私はただ貴方個人に用があるだけで別に何かしようとは!」
「こんな風に囲んで人目につかない場所に拉致っといて信じられるか!」
「あ──いや、それはそうかもしれませんが……」
とにかく怖すぎる、目の前のこの女
歌住サクラコ。秘密主義集団シスターフッドを取り纏めるリーダーである。秘密主義集団の長とか、もう肩書だけで怪しすぎて怖い。何されるかわかったもんじゃない
「あまり他人に聞かれたく無い話題だったので……その…」
「お、俺は屈しないぞ!要求は何だ!」
「いや、要求だなんて大それたものでは…私個人のお願いというか……」
「はぁ?」
「いえ、その──どうやったら、貴方のように皆さんから頼られるようになるのかな、と」
「……はぁ???」
ますますわからなくなってきた。確かに俺は色んな人から頼られるけれど、それを理由にシスターフッドのリーダーが接触してくる理由が思い浮かばない
「実は私、誤解されやすくて…」
「誤解…?まぁ確かに、気難しいとか堅苦しいとかそういうイメージしかないけど」
「はい……だから、皆から頼りにされている貴方に憧れたと言いますか……それで、どうしたらそんな風になれるのかと……」
「あぁ……えっと……」
原因は多過ぎてどこからやればいいのかわからないが、取り敢えずイメージ通りの人ではないのはちょっとずつわかってきた
「……うん、まず話がしたいならお前が直接話に来なきゃ。こんな風に拉致るからイメージがやばいことになるんでしょ?」
「仰る通りです……」
「……まぁ、サクラコ様は優秀だし、イメージの払拭さえできれば自然と頼られるようになるんじゃない?となるとどうやってイメージを払拭するかだけど…そうだね」
……もしかしてこの女、結構面白いな?
「今は夏だし、陽気な挨拶と一緒にアイスでも配ろう」
「陽気な挨拶…ですか?」
「そうそう。でもこの場合、ただ陽気なだけでは駄目なんだ。深い意味がこもってないといけない。シスターフッドのリーダーだからね。俺が今思いついた案なら、一つだけあるんだけど」
「そ、それは一体…?」
……やっぱり相当面白いな
「人は争うべきじゃない。目指すべきは世界平和、つまりWORLD PEACE……これを略して」
「略して……?」
「………わっぴ〜!だ」
──────────────────
「あれってシスターフッドのサクラコ様だよね?」
「隣にいるのってリンネ君じゃ……何やってるの?」
「わ、わっぴ〜!」
「わっぴ〜!アイスどうぞ」
本当にやり始めた
真面目な案ではあったんだけど、正直サクラコ様がやるような事ではないと思ってた。けれど、やってみると意外とウケが良い。何より、気難しさが嘘みたいに明るくなって、とても可愛いのだ
「あははっ、わっぴ〜」
「ほら、なんかいい感じじゃない?」
「そ、そうですね……!」
笑いを必死で堪えながらやってたんだけど、思ったよりも効果抜群だった。これ本当にイメージ改善できるんじゃないだろうか
「わっぴ〜!」
あかん本当におもろい
「……何してるの?」
「あ、カズにゃんじゃん。わっぴ〜!はいアイス」
「誰がカズにゃんだ。シスターフッドのサクラコさんだよね?何やってるの?」
「実はね……」
カズサに事情を伝える。流石カズサ、俺の友達。すぐに理解してくれた
「あははっ、何それ。いーじゃん」
「でしょ?あ、カズサもやる?」
「……まぁ、暇だし付き合ったげる」
「よかったな!仲間が増えたぞ!」
「わっぴ〜!」
「聞いてないみたいだね……」
この女楽しみ始めてない?
「……何やってるんです?」
「あ、ハナコじゃん。わっぴ〜」
ハナコにも事情を説明した
「ふっ、ふふふっ、なんですかそれ……あははっ」
「ハナコもやる?わっぴ〜」
「……えぇ、貴方がいるなら」
「いぇーい。仲間増えたぜ」
「わっぴ〜!」
楽しすぎる。まさかこんな楽しいイベントになるとは思わなかった。これはハマりそう
「あれ、リンネ君じゃん。何してるの?」
「あ、ミカ。わっぴ〜」
同じ流れでミカも加入した。この大量のわっぴ〜があればサクラコのイメージ改善も確実だろう
『わっぴ〜!』
その日、トリニティにはわっぴ〜!が響き渡った
──────────────────
「──本日はありがとうございました、リンネさん」
「別にこんぐらいなら良いですよ。今度は拉致らないでくださいね」
アイスを配り終えた後、俺はサクラコ様と二人で話をしていた。イメージアップ大作戦の結果報告だ
「ま、多少マシにはなったんじゃないですか?」
「そうですね。本当、全てリンネさんのおかげです。何かお礼をさせてください」
「お礼……」
……お礼、か
「ん」
「はい?」
腕を広げる。お礼と言ったらアレしかないでしょう
「お礼はハグでお願いします」
「……はい?」
「いや、だから、ハグですって」
「何故そのチョイスを──いや、分かりました」
最近、妙に誰かに抱きしめられたい欲求が強まっている。だからミカとかカズサとかにやってもらってるけどなんか満たされないんだよね
「……これでよろしいでしょうか?」
「もっと強く」
「は、はぁ……」
「あと頭撫でて」
「え、えっと……」
「早く」
「は、はい……」
なんかもう楽しくなってきた。こんなに気持ちよくて落ち着くなんて……これがバブみというやつか
……うーん、でも、やっぱり…
「……なんか違う」
「え?」
「ありがとね。それじゃ」
「ま、待ってください!なんか違うというのはどういう……」
「じゃあまた明日。わっぴ〜」
「リンネさん!?」
──────────────────
「あ、ミカじゃん。今日はありがとね」
「ううん、全然平気。でもちょっと意外かも、リンネ君ああいう事するんだね」
「あー…まぁ今回は事情が事情だし…」
「リンネ君はいい子だね〜」
「あぅ……」
頭を撫でられる。ミカと会うといつもこれだ。何というか弟みたいに見られてる気がして少し悔しい。でも心地よいからそのまま甘える事にしている
「ところでさ、わっぴ〜ってどういう意味なの?」
「WORLD PEACEでわっぴ〜」
「意味もいいじゃん!やっぱりリンネ君凄いね〜!」
「あぅ……」
今度は抱きしめられた。嬉しいような恥ずかしいような……でもやっぱり心地いい。何だか昔にもこんな事があったような……まぁ、うん。デッカいしあんまり考えなくてもいいか
「……