混沌の中へ
「うわぁぁぁあん!イオリぃ!」
「ちょっ、わかったから抱きつくな!」
あの後、俺が選んだのはゲヘナだった
能力の連続使用の影響か、関わった人物の記憶だけじゃなく自分の死因すら忘れていた。記憶だけで済むならまだ良いが、影響がそれ以外にも及ぶのなら命の使い方は考えなければいけないかもしれない
「私は信じています。貴方ならば、必ず私達を理解してくださると!」
「わからんわ!」
現在、美食研究会に拉致られたのを風紀委員のイオリに救出されたところだ。気に入らない店を必ず爆散させるイカれた集団だ
どんなに転生しようと、日常的にデモやらクーデターやらが起きてるレッドウィンターには行きたくないと思っていたが、やっぱりゲヘナも相当ヤバい所だ
「リンネ!無事!?」
「フウカ!無事無事無事!」
駆けつけた彼女の元に走り出すと、そのまま抱きしめられる。彼女の身体からは、いつも甘い匂いがするのだ
俺が所属する給食部の部長である愛清フウカ。ゲヘナには温泉の為に街に穴開けるやつとか店を爆破する奴とかヤバい奴らしかいないので、フウカはほぼ唯一の良心と言っていいだろう
「美食研究会を捕まえた、回収に来て。……早く帰った方がいいよ」
「ありがとイオリ!」
「どういたしまして」
慌ただしい日常。だけど、それが心地よい。実際ここまで慌ただしいのは稀だし、普段はフウカと料理してるかカヨコと猫の面倒見てるぐらいだから、退屈しない日々を送っていると言える
「……帰るか」
「そうだね」
──────────────────
「あー疲れた…やっぱりフウカのご飯美味しい」
「えへへ……ありがとう」
ゲヘナに入ってからは、基本的に昼食はフウカと一緒だ。俺が作ったご飯を食べてもらう事もあれば、今日のようにフウカが作ったのを食べる事もある
「拉致られさえしなければ理想的な生活なんだけどなー…」
「あはは……まぁ、なんだかんだで助かってるし」
「拉致るのと爆破がなければ付き合ってやってもいいんだけどな〜」
実際、店側が悪くないかなと思う事もあるけれど、にしても爆破はやりすぎだし俺を拉致るのとは何の関係もないので、やはり許せないものは許されない
「ねぇ、リンネ」
「ん?」
食器を片付けてから、二人何をするでもなく時が過ぎるのを待つ。こうして二人きりになる時間は少ない。何だかんだと毎日忙しくしているからだ
「リンネってさ、好きな人とかいる?」
「おらんが」
「即答かぁ」
そう言うフウカはどこか寂しそうな表情を浮かべている。普段、彼女は明るく元気だが、時折見せるこの顔は何かを秘めた物を感じさせる
「……フウカは?誰かいたりするの?」
「ん〜……私は…その、いる」
「へー、頑張れよ」
「むぅ……」
頬を膨らませて拗ねるフウカ。そんな彼女を見ていると、こちらまで幸せな気分になってくる。何で拗ねてるのかは知らんけど
「楽しそうだね、リンネ」
「そんな顔してた?」
「うん。すごい幸せそうな顔だった」
「……実際、凄い幸せだからね」
──────────────────
ゲヘナの自治区を一人歩く。目的地は一匹の猫の元だ。相変わらずその辺で銃撃戦が起きている為、流れ弾には気をつけなければ───
「……言ったそばから」
時を止めて流れ弾を回避し、何事もなかったかのように歩き出す。前回での二度の能力使用により獲得した時を止める力。止められるのはせいぜい五秒間程度だが、これがあるだけでもだいぶ便利だ
「よし、着いた」
猫がいる路地裏に到着し───
「何でお前がいるんだよ」
「クックックッ、お元気そうで何よりですよ」
そこにいたのは黒服だった。猫もちゃんといる。よかった
「毎度毎度助けてもらっといてありがたいんだけどさ、いいの?ベアトリーチェだっけ、同胞じゃなかったの?」
「勿論そうでしたが──彼女は、貴方との殺し合いに負けた。それだけの事です」
「冷たいね」
俺がベアトリーチェを殺したことを知ったのは黒服に教えられたからだ。しかし、関係が拗れる事もなく、今まで通り便利な人のポジションにいる
「それで、何か用?」
「特にはありませんよ」
「そ、俺はあったからちょうど良かった。──俺を追ってる人はいる?」
記憶はさっぱり残ってないが、アビドス、山海経、トリニティ、そしてゲヘナ。これでもう四校目だ。ゲヘナ以外では全て死んでいる訳だし、そろそろ俺の正体に迫る者が現れても不思議ではないだろう
「いえ、今の所は」
「そっか。……本当、俺の正体を探る奴を自動的にどうにかする能力でもつけようかな。何かあったよねそういうの」
「また死ぬことになりますよ。今のところは記憶と骨が増えるだけで済んでいますが、他に影響が出ないとは言い切れません」
「だよなぁ」
……まぁ、バレたならその時はその時だ。俺一人に情報を隠蔽する事はできないし、ゲマトリアでも限度があるだろう
「俺が死ななきゃいけないような事態が起きなきゃいいんだけどね」
「───あれ、来てたんだ」
黒服の声じゃない。本来の待ち人の声だ
「あ、カヨコじゃん。先に来てたよ」
「そうみたいだね。……ねぇ、さっきまでここ誰かいた?」
「……いいや?」
黒服はいつの間にか撤収していたようだ。流石と言うべきか、何と言うか……逃げ足が速いのは悪い大人的にプラスか
「……ねえリンネ。私、リンネのことは友達だと思ってる」
「…?俺もだけど、どうかした?」
「だからさ、ちょっと気になる事なんだけど」
何だか、カヨコの様子が変だ。直感で例えるなら──何か、信じられないものを見たり聞いたりした時のような感じだ
何故こんな──いや、待て。もしかして───
「死ななきゃいけない事態って何?教えてくれないかな」
「……」
「有り得ない事だけど、何だか慣れてるような口ぶりだったし」
「……」
「……ねぇ、何とか言ってよ」
……こうなる事を、懸念したばかりだってのに。まさか最初に近づくのが──アビドスでも山海経でもトリニティでもない、カヨコだったなんて
カヨコは頭の切れる奴だ。誤魔化しは──いや、そもそもが馬鹿げた話だ。まだ──いや、無理か
「……なんて事だ。聞いてしまったか」
「……どういう事───!?」
時を止め、その間にカヨコの背後にまわって肩に手をおく。カヨコからすればいきなり背後を取られたんだから驚いて当然だ
バレた以上、ただで帰す訳にもいかない。死人の再干渉は避けなければならない。少し脅して、俺の正体を追わないようにするしかない
「俺もカヨコの事は友達だと思ってる。俺、別に悪い人じゃないからさ、ここは黙って、その疑問を飲み込んでくれないかな?」
「っ……」
「それができないなら……そうだね。ちょっと手荒な真似をしなきゃいけなくなるかも」
「……リンネ、その、何か勘違いしてるみたいだけどさ。別にどうこうしようって訳じゃないから。ちょっと心配なだけ」
「はい?」
「死ぬとか、ちょっとよくわからないけど……リンネが何か抱えてるのはわかったし。何があっても、リンネはリンネだから。ね?」
「……ごめん。早とちりしちゃった」
うーん……もっと気をつけなければ
詳細は知らないにしても、俺がただの生徒じゃない事はカヨコに気付かれてしまった。相手がカヨコだったから良かったものの、下手をしたら大惨事になっていたかもしれない
……カヨコは気づいた、か
「……詳細は聞いて欲しくなさそうだから聞かない。でもさ、自分の事もっと大事にしてね」
「何お前、俺の彼女?」
「急に何言ってんの」
「冗談だよ。……ありがとう」
「……つまんない冗談」
カヨコは視線を落とし、猫に目を向けた
……移り変わる生ではない。一続きの、転生を続ける存在としての俺。それを初めて見つけた生徒
鬼方カヨコ、か
いや本当ね…死因を考えるのが難しくて……
今んところミレニアム編とヴァルキューレ編の死因は決まってるんだけどね…同じキャラを違うアプローチで何回も殺すのって難しい…