「……ねぇヒナ」
「どうしたの?」
「いつもこんなんなの?」
「うん」
「ヒナすご……」
給食部の活動の一環で風紀委員会にお邪魔した。そこで見たのは膨大な量の仕事を捌く風紀委員長の空崎ヒナだった。この学校は色々とおかしいと思う。
「……流石に放っては置けないか。手伝うよ」
「ありがたいけど…これは風紀委員会の仕事だから」
「勝手にやりまーす」
「あ、ちょっと……まぁいいか。頼める?」
「勿論」
仕事内容は書類整理とチェック。パソコンの打ち込みなど、簡単なものばかりだった。これなら俺一人でもできる。他の風紀委員はいないので二人きりだ、ドキドキする
「……あ、給食部からだ。なになに?美食研究会による部員の拉致被害報告…」
「それ、リンネじゃないの?」
「俺だね。美食研も拉致と爆破さえしなければ付き合ってあげてもいいんだけど」
「無理じゃない?」
「だよなぁ。……これは、流石にあかんやつか」
「見せて」
これは風紀委員会……恐らくイオリからの報告書だ。何でも、最近取り締まったグループが変な爆弾のようなものを持っていたらしい。幸い誰かが爆発に巻き込まれる事は無かったようだ
「追うのか?」
「うん。これは私が直接出向く必要がある」
「へー、また今度?」
「そう」
ヒナは強い。それはもう滅茶苦茶に強い。混沌渦巻くゲヘナで風紀委員会が恐れられているのはヒナがいるからと言っていいだろう。やっぱりこの学園おかしくない?
「……そん時は俺もついてくよ」
「来なくていいよ。こうやって手伝ってくれるだけで充分助かってるし。流石に給食部をそこまで巻き込む訳にはいかない」
「……そっか」
正論だ。最早ぐうの音も出ない。レスバ敗北だクソが
「……まぁいいや。とにかく他の仕事やっちゃお」
「うん」
──────────────────
「……やっぱりゲヘナって怖」
道を歩けば銃声が聞こえる。それがゲヘナだ。大抵は不良生徒。稀にガチの犯罪グループもいるそうだが、基本前者の方が多い
毎回風紀委員会に制圧されるようだが、今はまだ到着していないようだ
「手伝いの一環か」
暴れている不良生徒達の元まで行く。数は五人。時止めの練習だと思う事にしよう
「……あぁ?何だお前、怪我したくなきゃさっさと───」
時を止め、五人の中心に手榴弾を投下する
「時は動く」
瞬間、不良生徒達は爆発に巻き込まれて気絶した。これで一安心だろう
「……今、何したの?」
「ストーカーかよ」
どこからともなくカヨコが現れた。止まった時の中は俺以外認識できないから、カヨコ視点だといきなり不良生徒達が吹っ飛んだように見えたはずだ
……しかし、いくら気になるとはいえ付き纏われるとは…
「通りがかっただけ。……本当、リンネって何か変」
「悪口言われたわ。泣きそ」
「めんどくさ……怪我はない?」
「バッチリ元気」
「そっか。……ねぇ、せっかくだしお昼食べてかない?」
「行く!」
適当な店に入り、席に着く。そして注文をし、料理が来るまでの間雑談をする事になった
「リンネって、本当に人間?」
「滅茶苦茶直球だね。常識から疑ってみる?」
「そんなところ。リンネの事、もっと知りたいから」
予想通りと言うべきか。カヨコは俺のことを探っていたようだ。俺の正体について。ま、アビドスにはまず辿り着かないだろうし、山海経もトリニティも骨崎リンネの死を黙っている。ましてや、人が何度も死んで転生しているなんて発想には、いくらカヨコだろうと至ることはできないだろう
「……まぁ、ちゃんと人だよ。化け物でした、なんてオチは無い」
「でも、明らかに何か抱えてる。必ず突き止めてみせるから」
「……何で?」
「………何で、か」
カヨコは俺に、どこか責めるような、それでいて心配するような視線を向ける
「リンネが抱えてるものを誰も理解しなかったらさ、リンネが一人になっちゃうじゃん。何抱えてるのか知らないけど、必ず突き止めるし、受け止めるよ」
「……そっか」
「……照れてる?」
「お互い様だろ」
……一人になる、か
考えたことが無かった訳じゃない。このまま、俺がありとあらゆる所で死に続けたとしたらどうなる?
死人は戻らない方がいい。行く当てが無くなったら、俺は本当に一人になってしまう
……一人は、嫌だ
「……カヨコはさ、俺の事、探してくれる?」
「探す?」
「……何でもない」
……らしくない事を言った。例え輪廻しようと、死人は死人。生前の関係は俺が死んだ時点で終わりを迎える。それをわざわざ掘り返したところで、新たな問題を産むだけだ
「さっさと食べよ。冷めちゃうぞ」
「……うん」
出された食事に箸を伸ばし──
「──え?」
店の奥に、見慣れた銀髪が見えた
「カヨコ!」
「────!?」
嫌な予感がして、カヨコを抱くように庇いつつ伏せさせる。その直後、轟音と衝撃と共に店が吹き飛んだ
──────────────────
「………あれ」
気がつけば、俺はベッドの上で寝ていた。家に置いてあるような奴じゃなく、病院とかのそれだ。身体にはところどころ外傷を処置したような跡がある……何があったんだっけ?確か、何か大変な事があって、それで───
「起きましたか」
「……セナ?」
「はい。私がわかりますか?私の事が、認識できていますか?」
救急医学部部長、氷室セナだ。怪我をしたのはまず間違いないとして、何があったのだろうか
……でっか
「大丈夫…だと思う。何があったのか教えて欲しいんだけど」
「先程、ある店が爆発しました」
「あーうん。大体わかった」
ようはご飯食べてた店がたまたま美食研に目をつけられて吹っ飛ばされた。俺はそれに巻き込まれた訳だ。そしてセナが治療してくれたんだろう
「した……負傷者はそれほど多くありません。ですが、その、あなたは……」
「……俺がどうかした?」
「いえ、無事でよかったと言いたかったんです」
「そりゃどうも」
やっぱりセナはいい子だ。ゲヘナの良心だ
「まだ治りきった訳ではありませんから。それまでは私が責任を持って面倒を見ましょう」
「うぇ、マジで?」
「マジです」
……受け答えはしている。しているんだ。でもね、でもね?でっか…
「どうしました?」
「何でも無いよ」
「……私では不服ですか?」
「いや、そういう訳じゃないけど……」
「……あぁ」
いや本当、でっかいから目のやり場に困る。アコとかもそうだけどね、何なんだろうねあのデカさは。俺の知ってる女の子おっぱい大きい人多い。おかしいな、こっち来るまでは大人だったんだけど。体に精神が引っ張られてない?
「……女性はそういった視線に敏感です。私以外にはそういうのはやめた方がよろしいかと」
「え゛」
バレてた。恥ずかしい。凄い恥ずかしい
「ごめん……」
「謝る必要はありませんよ。ただ少し……いえ、何でもありません。包帯を取り替えますね」
腕を持って、巻かれた包帯を解いていく。もう殆ど痛みもないが、念の為だろう
「……生徒を庇ったと聞きました。誰かの為、というのは素晴らしい事ですが、やり方を考えてください」
「うん」
「やるなとは言いませんが、庇われた側の事も考慮してください。本当に取り返しがつかなくなってからは遅いんですよ」
「うん」
「……聞いていますか?」
「サイズ教えてもらっていい?」
「…………」
「痛った!?ごめんごめんごめんもう言わないからマジでごめん!」
滅茶苦茶強く腕を握られてしまった。鬼ほど痛かった。セナを怒らせるのはヤバいと悟った瞬間である
「全く……元気なのはいい事ですが、時と場所を考えてください」
「はい……」
うん。流石に精神が体に引っ張られすぎだ。大反省
「……そういう事は、治療外で聞いてくださればお答えしますよ」
「え?」
「冗談です」
「えぇ……」
「残念そうですね。ご安心を、冗談です」
ちなみに、美食研究会は流石にブチギレられたらしい