「急げ、急げ……!」
給食部のバイクを全速力で走らせ、目的地のブラックマーケットに向かう。前の俺が死んだ理由──正確には、死にかけの状態になった理由であるあの爆弾。ベアトリーチェが死んで、それがどういう訳か他の地域に流出したのだろう
ヒナは強い。俺の何倍も強い。だが、ヒナはあの爆弾がどういうものなのか知らない。キヴォトスの生徒は銃弾も爆発も平気だ。だからこそ──あの爆弾はヤバいんだ
「無事でいてくれよ……!」
防御は駄目だ。完全に回避する以外の方法はない。あれは──間違いなくヘイローを壊すものだ。
「───っ!」
廃墟の倉庫。目的地に着いた。閉じたシャッターを手榴弾で吹き飛ばして、バイクに乗ったまま倉庫内に突っ込む。倉庫の奥に、戦っているヒナが見えた
不良生徒ではない、人型の機械みたいなこの世界の住人だ。恐らくはガチの犯罪組織だったパターンだ
「風紀委員長……!」
「おい!アレを使え!」
「ッ────!」
一人が、黒い何かをヒナに向けて投げた
「───避けろヒナ!」
「ッ──!?」
爆弾よりも、叫んだ俺の声に気を取られている。翼を使って爆発を防ごうとしているが、アレがただの爆弾ではない以上、それは悪手だ
「時よ止まれェ──ッ!」
瞬間、世界は止まる。奥行きの長い倉庫内。屋内である事と、視界の悪さからあまり速度を出せなかった。まだ爆弾までは距離がある
停止した五秒間の間に、ヒナを爆発範囲の外へ出さなくては。最悪、それが叶わなくとも、爆発が当たるのを防がなくてはならない
「間に合え……!」
速度に制限はかけない。全速力でバイクを走らせる。途中でバイクを乗り捨ててヒナに当てる?無理だ。止まった時の中で俺から離れた物体は停止する。間に合わない
「──なら!」
ハンドルを握り、ヒナの元へバイクを走らせ──横から全速力で衝突した
「───ッ!」
衝撃でヒナの体は飛んだ。俺もバイクから弾き出され、バイクは空中で静止する。爆弾からはある程度離れたが、そもそもあの爆弾がどれ程の威力と範囲なのかは計り知れない。やはり、確実なのは───
「これしかない!」
骨の腕同士を連結させ、ヒナの体を掴む。止まった時間の中で動けるのは、俺と俺が触れた物体のみ。止まった時の中で動ける生物は俺だけだ
腕のロープを手繰り寄せるようにしてヒナの体を直接掴み、爆弾から庇うように抱き寄せた
「限界だ、時は動く……!」
──────────────────
「………何、が…?」
空崎ヒナは困惑していた
変な爆弾を使う犯罪グループを追い、いつものように相手を片付けていく。その中で、投げられた爆弾を防ごうとした時だった
彼の声が、聞こえた
給食部所属で、たまに仕事を手伝ってくれて、少し…ほんの少しだけ、気になっていた彼。骨崎リンネの声がした
それに驚いて、動きを止めた瞬間──私の体は宙に浮いていて、爆発の衝撃で吹っ飛んだ。何故か体が重い。上に何か乗っているような感覚がある
「───っ」
まずは目を開けて、周囲の状況を───
「……え?」
彼だ
私の上に乗っていたのは、彼だ
庇われた?あの一瞬で、あの距離を移動して、あの爆弾から? ありえない。いくらなんでも早すぎる。そんな芸当ができるなら彼はもっと強い筈だ
「──っ!?リンネ!?無事なの!?」
体の状態を見ようと、彼の背中に手を回し──
ぐちゃり、と音がした
「………何、これ」
手袋が、真っ赤に染まっていた
それだけじゃない。ヘイローがヒビだらけだ。ヘイローが割れる、それは死を意味する
助けなければ。セナの元へ連れていけば、きっと──
「……ぁ」
わかっている。無理だ。絶対に間に合わない
「わ…たし………」
どう、すれば
「………ヒ、ナ」
彼が意識を取り戻したのか、苦しそうに、掠れた声で言った
「……!駄目!喋らないで!必ず助かるから、だから──」
「爆弾を…追ってくれ」
爆弾…さっき投げられた、あの爆弾?
「ヘイローを壊す、アレを……キヴォトスから、消し去るんだ……!お前にしか、頼めない……だから、頼む……」
「何、で。何で……!」
「──まだ生きてるぞ!」
「外したのか!?」
うるさい
「ああぁぁぁああああ!!」
銃を滅茶苦茶に乱射して、うるさい奴らを黙らせた
「リンネ!早く治療───」
……無かった
ヘイローが、無かった
寝ているだけ?違う。死んだのだ。死んでしまった。間に合わなかった
「…………」
もう、言葉すら出なかった
初めてみた死体に対しても、何も思わなかった。喪失感と、無力感だけが胸を満たしていた
私は強い。強いから、弱い彼を守らなければならない。ずっと前から、そのつもりだった。でも、結局守れなかった。それどころか、助けられた
「……わかった」
死に際の言葉を思い出す。ヘイローを壊す爆弾を追え。キヴォトスからそれを消し去れ。それができるのは、私だけだ
「全部、ぶっ壊してやる」
──────────────────
「…………」
数日前まで、人がいた病室。立ったまま窓の外を眺め、物思いに耽っていた
数日前、一人の少年が死んだ
初めて見た死体はそれほどいいものでもなかった。ただ冷たくて、硬くて、血まみれだった
空崎ヒナを庇って、骨崎リンネは死んだ
その事実を受け入れられている人が、このゲヘナでどれだけいるだろう
ヒナ委員長は、血眼になって彼が死ぬ原因となった爆弾を追っている。元々ゲヘナ全体に与えていた恐怖が、倍近くまで膨れ上がっているのを何となく感じた。
給食部の彼女も、今は塞ぎ込んでいる。美食研究会が珍しく活動を休止させ、彼女を心配しているようだが……当の本人達も、どことなく暗いように思える
それは、私も同じだ
「……リンネさん」
死体には興味があった。でも、今は見たいとすら思わない。その正体が骨崎リンネだからなのか、それは関係ないのかは知らないが
「っ……はぁ…」
吐き気を無理矢理抑え込む。駄目だ。この事を考えるとまた吐きそうになってしまう。考えるのをやめよう
『やるなとは言いませんが、庇われた側の事も考慮してください。本当に取り返しがつかなくなってからは遅いんですよ』
壁に、拳を叩きつける
「……庇われた側の事、考えろと言ったでしょう…!」
ギリ、と歯が軋むほど強く噛み締める
同時に、床に水滴が落ちた
──────────────────
「……探して、ってこういう事?待ってて、必ず見つけ出すから」
ここのセナさんは多分再開したと同時にブチギレてぶん殴って押し倒してエグいキスしてくる