死人の二度目   作:かゆ、うま2世

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五度目のヴァルキューレ
爆弾を追いかけろ


「まだ仕事ですか、局長」

「……骨崎か、何の用だ」

「局長を心配して来たんですよ」

 

 

深夜になっても仕事を続ける我らが局長に声をかける。雰囲気といい、完全に人生に疲れた中間管理職のお姉さんだ。十六歳ってマジ?嘘だろ

 

 

「例の爆弾の件ですか?」

「そうだ。まだ死者は……一人、出ていたな」

 

 

結局、例の爆弾の流出元はカイザー……元を辿れば黒服だった。理由なんてどうでもいいが、アレでもし誰かが死んだなら、その時は黒服を殺すと念を押しておいた

俺の死──というより、ヘイローを壊す爆弾の事は大々的に報道された。最初は焦ったが、俺の名前も顔も公開されていなかったのは幸いだった

 

 

「コーヒーいります?」

「頼めるか?」

「はーい」

 

 

初めての能力を使わない死だったが、相変わらず記憶は無くなっていた。記憶喪失のトリガーは能力使用ではなく、死であるということがこれで確定した

 

 

「……骨崎」

「はい?」

「貴様は何故公安局に来たんだ?」

「……例の爆弾を追うためです。あれで知り合いが死にましたから、あんなものをこのキヴォトスに残しておく訳には行きません」

「……そうか」

 

 

死んだのは俺だが、それ以外は間違った事は言ってない。俺が公安局に入ったのは爆弾を追う為だ。前の俺はゲヘナの風紀委員長に爆弾を追えと言ってから死んだようだが、風紀委員長だけでは限界がある

だから公安局に入った。キヴォトスから爆弾を完全に消し去る為…なんだけど

仕事中にちょっと変なところがあったから興味本位で調べてみたら、公安局の上層部がカイザーと癒着してる事が発覚してしまった。本当、どうしたものか

 

 

「局長も、あんま思い詰めない方がいいっすよ。なんかあったら俺も手伝いますから」

「……そうか」

「暗、せっかくのいい顔が台無しですよ」

「喧しいぞ」

「あ、ちょっと笑いましたね!」

 

 

いつものように軽口を言い合いながら、注いだコーヒーを局長の元へ運ぶ

 

 

「……やはりお前のコーヒーは美味いな。カフェでもやれるんじゃないか?」

「それ褒めてます?」

「勿論だとも」

「本当かなぁ…」

 

 

何だか複雑な気分をコーヒーと共に飲み干す。自分のコップを片付けてから、局長の机の上にある大量の書類の半分程を手元に引き寄せる

 

 

「……何の真似だ」

「手伝ってあげようと思いまして」

「これはお前の仕事ではないだろう」

「いいじゃないすか別に。それに、これくらい一人でやるには多すぎますよ」

「……」

「何か文句あります?」

「……好きにしろ」

 

 

こうして二人で仕事をする事になった。本当、局長は過労気味だ。だから十六歳なのにそんな人生に疲れた大人みたいな貫禄がつくんだぞ

 

 

「災厄の狐狐坂ワカモ……慈愛の怪盗本名不明……物騒っすね」

「いずれお前も相手にする事になる奴らだぞ。よく覚えておけ」

「えー……」

 

 

俺はそんなに強くない。俺が強いのは時間停止と運命を定める力があるからであって、それらを抜きにしたらもう本当一般生徒レベルの強さだ。風紀委員長みたいに馬鹿げた強さがある訳でもない

時を止めれば何とかなるかもしれないが、それでもワカモとか慈愛の怪盗とかを相手するとか考えたくない

 

 

「……ま、しょうがないか」

「……骨崎、その時は意外と早く来るかもしれんぞ」

「へ?」

「これを見ろ」

 

 

豪邸に住んでいる人からの通報。慈愛の怪盗特有の怪文書みたいな予告状が届いたらしい。内容はよくわかんないから気にしない。俺頭悪りぃからよぉ

 

 

「……行けと?」

「当然だ」

「うわー……」

 

 

──────────────────

 

 

「待てぇ〜いルパーン!」

「何とも古風な台詞ですね!あと私はルパンではありません!」

 

 

慈愛の怪盗を追いかけている。簡単な話だ。奴は物を盗む前に必ず姿を現す。その瞬間に時を止めれば奴のペースを崩して一気に畳み掛ける事ができる

だが、そこはやはり慈愛の怪盗。一筋縄ではいかない。奴の銃弾と即席のトラップを掻い潜りながら近づくには、五秒という時間は短すぎる

 

 

「──あっぶね!」

 

 

奴の持つ杖から発射された銃弾を、時を止めて回避する。あの杖から放たれた銃弾の威力は桁違いだ。直撃はまずい

止まった時間の中、奴に向けてハンドガンを全弾発射する。空中で静止した弾幕を眺めながら、再びハンドガンに弾を込め直す

 

 

「……時は動く」

「────ッ!?」

 

 

いきなり現れた弾幕を完全に回避する事は不可能だ。例え慈愛の怪盗であろうとも、それは変わらない。数発命中し、痛みに悶える奴へ向けて全速力で走る

 

 

「っ…!まさか、公安局にも貴方のような人間がいるとは…!」

「逮捕だ逮捕!」

「───ですが!」

 

 

瞬間、奴がワイヤーのような物を引っ張ったのが見え──目の前に、手榴弾が降ってきた

 

 

「詰めが甘かったようですね」

「まじか…!」

 

 

慈愛の怪盗──清澄アキラは、それが爆ぜるのを視認する事なく、敵に背を向けて走り出した。想定外の事態で予定は狂ったが、目的の物は確保した

あとはこのまま逃げ切るだけ───

 

 

「────え?」

 

 

瞬間──清澄アキラの真横を、何かが通り過ぎた。人の腕の骨。手の部分だけがとてつもない速度で飛んできたのだ

攻撃?能力?正体は分からなかったが、彼は恐らく外したのだろう。そう思い、骨を無視して走り出したのが、勝敗を分けた

ブーメランのように、骨は空中で軌道を曲げた。完全に想定外の事態に、清澄アキラは骨が腹にぶつかるのを防ぐ事ができなかった

 

 

「な───!?」

「あの瞬間、手の部分だけ外して投げたんだ。それはもうよく飛んだぜ。お前が仕掛けた手榴弾の爆発を利用してなぁ!」

 

 

壊れた骨は、力と勢いを持ったまま飛行して元に戻る。遠く離れた骨の手は、人一人を軽々飛ばす程の勢いと力を持って俺の元まで戻ってきた

 

 

「次の瞬間、お前はもう捕まっている」

 

 

充分近づいた所で時を止め、空中で止まった奴の手に手錠をかけて拘束する。そして、そのまま地面に押さえつけた所で、時は動き始めた

 

 

「お前の負けだな」

「……どうやらそのようですね」

 

 

相当疲れたが、何とか俺の勝ちだ。正直危なかった。慈愛の怪盗は伊達じゃないって事か

 

 

「……で、何でこんな事したのさ」

「それを聞いてどうするんです?」

「別に、ちょっと気になっただけ。ただの泥棒って訳じゃないみたいだし」

「………」

 

 

仮面越しに睨まれたような感覚。一瞬後に、慈愛の怪盗は口を開いた

 

 

「……芸術とは、個人の為に存在する物ではありません。その真の価値を理解できる者の元に、芸術とは置かれるべきなのです」

「うんうん」

「ですので──真の価値を理解できる者が現れるまで、私が手元に置いておくのです」

「……そっか。そういうスタンスは嫌いじゃないよ。何というか、信念みたいなのを感じる」

「………」

 

 

仮面越しの顔に、微妙に困惑の色が浮かんだのが分かった

 

 

「狙うのも違法に取引された品ばかり。お前なりの美学なんだろうな。立場上、お前を見逃してはやれないけど、俺お前の事そんなに嫌いじゃないよ」

「……そう、ですか」

「証拠も揃ってるし、通報してきた奴はこっちで逮捕しとくよ」

 

 

時を止め、彼女の仮面を外して素顔を見る。大人びていて、それでいて可愛い顔をしていた

 

 

「……清澄アキラ」

「ん?」

「私の名です」

「……覚えとく」

 

 

──────────────────

 

 

 

「アキラの牢はこっち……」

 

 

あれから数日。連邦矯正局に送られたアキラにもう一回会いに来た。彼女は俺の事を恨んでるかもしれないが、そんな事は関係ない。俺は俺のやりたいようにやるだけだ

 

 

「ここを曲がって───」

「……久しぶりなのに挨拶も無しかい?見ない間に随分と薄情になったね、君は」

 

 

牢の中から聞こえた声に反応する。聞き覚えの無い声だ。声の主は、ちょうど半分ぐらいで髪色を黒と白に分けている女性。……うん、でかい

……今回の俺に、こいつとの記憶は無い。なのにこいつは久しぶり、と言った。最悪だ。恐れていた事態が起きてしまった

 

 

「……申谷カイ」

「待っていたよ。私のリンネ」

 

 

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