死人の二度目   作:かゆ、うま2世

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非番の一日

「………よし、覚悟は決めた。飲みます!」

「あぁ、飲んでくれ」

 

 

そう言って、彼は試験管に口をつけ───

 

 

「まっっっっっず!!!」

「あっははは!味は改良の余地がありそうだね」

 

 

全て飲み干してからそう叫んだ。やはり彼は良い。反応や感触を直球で表現してくれる。おかげでこちらとしてもやりやすい

 

 

「これ何の薬だったの?」

「普通に風邪薬だとも。効力を限界まで高めただけのね」

「本当〜?」

「疑うのかい?酷い奴だな君は」

「騙して体が光る薬飲ませたの誰だよ」

「私だが」

「お前な……」

 

 

やはり、良い。この時間は楽しい。彼と話すのは心の底から楽しい。こんなに積極的に私の薬を飲んでくれるのは彼ぐらいだ。もっと、彼の色んな表情が見てみたい

 

 

「どうせなら最強になる薬とか作れないの?」

「無理だよ。そもそも最強の定義が曖昧だからね」

「ふーん、やる前から逃げ出すんだ」

「いや、話を聞いていたかい?」

「申谷カイともあろうものが!?逃げ出すんだやる前から!」

「あぁいいともやってやろうじゃないか!完成したら土下座だからな!」

 

 

……今思えば、こうやって馬鹿やってる時は本当に楽しかった。私を理解してくれる彼がいて、彼を理解する私がいた。あの時の私は間違いなく幸せだった

 

 

「……死んだ?彼がかい?…へぇ、そうなんだ」

 

 

正直、その知らせを聞いてもあまり驚かなかった。ただ──馬鹿だな、とばかり思った。誰もが、彼が死んだと思いこんでいる。彼が?あり得ないだろう

 

私を理解した骨崎リンネが、そう簡単に死ぬ筈がないのだから

 

 

──────────────────

 

 

 

「でも実際、困っていたんだよ私。巧妙に死を偽装したのかと思ったけど、あの死体は間違いなく君のものだ。確実に一度君は死んだ。となると未知の方法で君は生き返り、別の場所にいることになる。キヴォトス中を虱潰しに探してもよかったけど、ちょうどいい事件が舞い込んできてね。爆弾だよ。例の爆弾。君なら絶対にアレを見過ごさない。つまり山海経に居た時と同じ方法を取ってヴァルキューレに来る。あとは簡単さ。ここに捕まっておけば必ず君に会う機会は訪れる。君を直接追っても良かったんだけど、生憎私は追われる身でね。こっちの方が確実だったのさ」

「え、いや…なんて?」

 

 

前の俺は会ったことがあるようだが、今の俺にとっては初対面だ。そんな人から急に超早口で話しかけられても困惑するしかない

 

 

「おっと、すまない。つい嬉しくてね。……まぁ、要するに、また会えて嬉しいよって事さ。こっちに来たまえよ、そんなに遠くじゃよそよそしいだろ?」

「……何故俺の事を知ってる?」

「何故、か」

 

 

何故俺の転生の事を知っているのか。何としてもこいつから聞き出さなくては

 

「どいつもこいつも、君が死んだと嘆いてばかり。馬鹿だよねぇ。君ほどの男があの程度で死ぬ訳がないだろうに」

「待て待て待て待て。理由になってないぞ。どこで、誰から知ったと聞いているんだ」

「見ないうちに鈍くなったな。もう一度言うぞ?君ほどの男があの程度で死ぬ訳がない。だから君は何処かで必ず生きている。科学者としては失格だがね、こうしてまた会えたから正しかったのさ、私は」

 

 

──なんなんだこの女!?

俺の死体を見たのかは知らないが、どちらにしてもイカれてる。俺の転生の事も知らないで、俺があの程度で死ぬ訳ないって予想だけで俺の事を追ってきたっていうのか?

 

 

「それにしても、何だか様子が変だね。あんなに楽しく過ごしていたじゃないか、私達は。考えられるのは記憶喪失か。生き返る、なんて事象を引き起こすのになんの代償も無いわけがないからね」

「……その通りだよ。俺はあんたを知らない」

「なら、これから知っていけばいいだけの事さ。君は記憶を失っただけ。本質的には何も変わっちゃいない。必ず、もう一度私を理解する」

 

 

……この女、やっぱりヤバい

イカれてる事がわかっただけで話は充分だ。もう関わる必要は無い。秘密を他人に漏らすような奴でもないし、ここはさっさとアキラの元へ───

 

 

「──どこへ行く気だい?」

「───ッ!?」

 

 

次の瞬間には、牢屋から伸びたカイの手が俺の手を掴んでいた。そのまま俺を圧倒的に超える力で引き寄せられ、右腕だけがカイの牢屋の中に引きずり込まれた

 

 

「いっ……離せ!」

「本当に薄情になったな君は。昔はあんなに仲良しだったのに」

「昔の事は忘れてるって知ってるだろ!?」

「ははは、そうだったね。まぁそんな事はどうでもいいのさ。君と私の間ではね!」

「痛っ──!?」

 

 

──噛まれた!?

カイは俺の手を思いっきり噛んだ。歯形が残ったであろう場所を執拗に舐めてくる。まるで血を吸っているかのように

 

 

「君の血を取るのも久しぶりだね。生憎注射器は持ち合わせていなくてね。乱暴なやり方だが、我慢して貰おう」

「血を取るって、何のために!?」

「ふむ。そういえば特に目的はないね。こんな取り方じゃ血をどうこうすることもできないし。まぁやりたくなったからって事で頼むよ」

 

 

狂人だ。こいつは紛れもなく、狂気そのもの。前の俺はこんな奴と関わっていたのか?それとも、前はここまでイカれてはいなかったのか?

どっちにしろ、早いとこ抜け出さないと───

 

 

「─────」

「うおっ!?」

 

 

瞬間、何かが牢の中の俺の手に向かって飛んできた。それを避ける為にカイが口を離したのを見逃さず、牢の中から腕を引き抜き、急いで時を止めて距離を取った

 

 

「あぁ……」

 

 

最早捉えきれない距離まで離れられたとわかったカイが、心底残念そうな声を出した。しかしそれも一瞬。俺たちは飛んできた何かに目を向ける

 

 

「……トランプ?」

 

 

一枚のトランプが、床に突き刺さっていた

 

 

「危ないところでしたね、リンネさん?」

「お前……!」

 

 

声の正体。投げられたトランプの持ち主はアキラだった。カイの隣の牢が、アキラの牢だったわけだ

 

 

「……なるほど。私の邪魔をしたのは君か」

「リンネさん、その女には近づかないようにしてください。もうトランプはありませんから。次は助けてあげられませんよ」

「…………」

 

 

死ぬほど帰りたくなってきた。この二人の空気感がやばい。空気が本当に重すぎる。逃げたい。でも、そういうわけにもいかない

 

 

「邪魔しないでもらえるかな?私は彼と話をしたいんだ」

「聞く耳を持ってはいけませんよ。狂人と話しても疲れるだけですので。生き返るだのなんだのと、貴方も変な人に絡まれましたね」

「いや本当…助かった。マジで」

「いいんですよ。私は貴方の味方ですから」

「……へぇ、君に務まるとは思えないが」

「狂人よりは適任でしょうね」

 

 

怖い。この二人超怖い。早く帰って寝たい。切実に

 

 

「リンネさん、私の牢のすぐ側に。その狂人が何をするかわからない以上、私の側を離れるのは得策ではありません」

「……そうだな」

 

 

確かにアキラの言う通りだ。俺はまだこの女を理解しきれていない。どういう奴かもわからない。何をしてくるかもわからない。こいつから離れているよりも、アキラの近くの方が確かに安全かもしれない

 

 

「……記憶喪失、間違いなさそうだね。全く、案外傷つくものだ、忘れられるという事は」

「リンネさんにとって、貴方はその程度の存在だった。それだけの話でしょう?もっとも、以前会っていたという話が貴方の妄想でなければの話ですが」

「リンネ。こうして君に会えた時点で、私がここにいる意味は無くなった。早くここを出よう。また実験に付き合ってもらうぞ。何、爆弾はこっちで追えば良い。ヴァルキューレよりもいい環境を用意するよ?」

「っ………」

 

 

無意識にアキラの牢の鉄格子を強く握り──その上に、暖かい感触を感じた

 

 

「……怖いのであれば、私の手を。その気になればいつでも牢から出られます。貴方を連れて逃げるなど容易い」

「は?」

 

 

サラッととんでもない事言わなかった?

 

 

「待って、お前らっていつでも出られるの?」

「えぇ。この程度の牢なら。あの女もそうですね。私は出たところで貴方を破る術がない。だから大人しく捕まっていただけです」

「連邦矯正局……いや、こいつらが異常なの…?」

 

「──泥棒猫が、リンネに触るんじゃない」

 

 

瞬間──目の前に数本の試験管が飛んできた。その奥には、どうやったのか牢から出てきた申谷カイの姿があった。少し驚いたが、俺が時を止める方が早かった

 

 

「……マジだったのか」

 

 

目の前に広がった白色。どういうわけか俺が捕まえた時の服装に戻ったアキラが、そのマントで俺を抱くように保護していた

 

 

「マジで誰なのか知らないが……ここはアキラに甘えさせて貰うか」

 

 

試験管を狙ってハンドガンを発砲。時が動き出し、試験管は空中で割られた

 

 

「……へぇ。妙な技を持っているね。思えば君の戦うところは見た事が無かった」

「その力、逃げるのに役立ててください。私達が組めば必ず逃げられます」

「……あぁ、わかった」

「ははは!そんなに仲良くされると嫉いてしまうなぁ。君のいる場所はそこじゃない」

「貴女の側とでも言う気ですか?それだけは何があってもあり得ませんね」

「……何度も言うが、俺はお前を知らない」

「あぁそうかい。それなら思い出させてやるまでさ」

「ッ───!」

 

 

一本の注射器と、複数の試験管がこちらに向かって投げられた。注射器の速度に俺は反応できなかったが、それはアキラが弾いた。時を止め、試験管に向けてハンドガンを撃ち終えた後、骨の腕を手首で割り、腕の部分をカイの奥に向かって投げた

俺とアキラは、引き寄せられる手の力によってカイから離れるように移動した

 

 

「……なるほど。見えてきたぞ。数秒の差もない同時射撃。そして瞬間移動……時でも止めたのかな、君は」

「……」

「ただ、そう長い時間止めてはいられないようだね。せいぜいが…うん、五秒ってところかな?」

 

 

三回だ。俺はこいつの前で三回しか時を止めていない。だというのに、こいつは完璧にそれを見破ってきた

 

 

「……事情は分かりませんが、迅速に貴方をここから逃がします!」

 

 

あの時と同じ。ワイヤーを引っ張り、上から落ちてきた手榴弾。それで一瞬時間を稼ぎ、出口に向かって駆け出した

 

 

「……あれじゃ私には追えないか。慈愛の怪盗、厄介なものだね」

 

 

──────────────────

 

 

「いや本当…助かったよ、アキラ」

「いえ。貴方を守る為ならば、これくらい造作もありません」

「はは……」

 

 

近くのビルの屋上にて、俺とアキラは休憩を取っていた。今頃矯正局は大騒ぎなんだろうが、今だけなので勘弁して欲しい

 

 

「もう夜になってるし……はぁ。アキラはこれからどうするの?」

「矯正局に戻りますよ。まだ貴方を破れませんし」

「そっか」

「えぇ、では」

 

 

飛び去っていくアキラを見てから、俺も帰路につき───

 

 

「……何で銃声がするんだよ。今日は非番だってのに」

 

 

すぐ近くの建物から聞こえた銃声。非番だとしても、公安局員としては放っておけない

急いでその建物に向かい、ドアを蹴破って中に入る

 

 

「戦闘の跡……」

 

 

壊されたドローンに、倒れている機械みたいな住人。余程コテンパンにされたのか、そこら中にゴロゴロ転がってる

奥へと進んで行くと、扉の奥に気配があった。ちょうど四人分だ

 

 

「……ふぅ」

 

 

深呼吸と共に、扉を蹴破った

 

 

「ヴァルキューレ公安局だ!武器を捨てろ!」

 

 

扉を開けた先にいたのは──狐耳を生やし、セーラー服を着た四人の少女だった

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