「あ、ニコだ」
「あ、リンネ君。久しぶり」
あの日、俺が出会った四人の少女のうちの一人。それが彼女だ。どうやら彼女達はSRT特殊学園というところに所属しているようで。なんと特殊部隊なんだとか
戦いに無縁な優しさの塊ですみたいな雰囲気を醸し出しておきながら、その実クソ強特殊部隊。それがニコなのだ
「パトロール?」
「当たり。ニコも珍しいね、休日?」
「そんなところ。せっかくだしお昼食べる?おいなりさん作りすぎちゃって」
「いいの!?」
ニコのおいなりさんは絶品だ。それはもう美味い。あの味を知ってしまった以上、食べられる機会を逃す奴はこの世にいない
「いただきます!」
どういうわけか弁当みたいにして持っていたので、近くの公園でベンチに座って一緒に食べ始めた
「んーっまい!」
「あはは、よく噛んで食べてね?」
「はーい!」
お母さんかな?
「………」
無言で微笑みを浮かべながら俺の頭を撫でてくる。意識してやっているのか、無意識にやっているのかはわからないが、多分後者だと思う。どっちにしても嬉しいけど
「そういえば、最近矯正局によく行ってるみたいだけど、何かあったの?」
「ん……特にはないよ。ちょっと会いたい人があそこにいるってだけ」
間違ったことは言ってない。定期的にアキラに会いに行き、ついでにカイの監視もしてる。基本カイとは話さない。前の俺が何をしてあそこまで執着されるようになったのかは知らないが、俺を追って犯罪まで犯すような奴の事など知らん
「……そっか。何かあったらいつでも助けになるからね」
「ありがと」
マジでいい子。マジで母性の化身。俺の母親はニコだったのかもしれない
「ふぁ…ぁ……いや、違うんだよ。決して俺はパトロール中に寝るような奴では…!」
必死で弁解すると、ニコはクスリと笑ってまた頭を撫でてきた
「リンネ君、いつも頑張ってるもんね。慈愛の怪盗の逮捕、例の爆弾の追跡。疲れるのも無理ないよ」
「いや、別に俺はそんな……」
「頑張ってるリンネ君にはご褒美あげます」
ニコは自分の太ももをポンポンと叩いた。これはつまり、膝枕をしてくれるということだろうか
「……いいの?」
「もちろん。ほら、横になって?」
言われるがままに、俺はゆっくりと身体を倒していく。柔らかくて、暖かくて、甘い匂いがする。そして優しく俺の髪を撫でてくれる。まさに天国だ
「ふふ、よしよし」
「あぅ……」
段々と眠気が襲ってくる。意識が朦朧としてきて、感じるのはニコの温もりだけ。目を閉じれば、そのまま眠れそうだ
「……おやすみなさい、リンネ君。ゆっくり休んでね」
──────────────────
「……んぅ」
……目が覚めてきた
すごいぐっすり眠れた気がする。まるで夢のような時間だった。この柔らかい感触……感触……
……感触、無くない?
「ニコは……」
目を開けて、上を見ると───
「……パトロール中に昼寝とは、良いご身分じゃないか」
「あ」
カンナ局長がいた
「……これには深い訳が…」
「言い訳なら後で聞く。とにかく起きろ」
「はい……」
立ち上がって伸びをする。これから微妙に大変そうだが、あの体験ができただけで充分だ。そう思う事にしよう
「署に戻ってから説教すか…?」
「その通りだ。覚悟し──!?」
瞬間、爆発音が周囲に響いた。周りを見渡し、空へと昇る煙を見つけた。キヴォトスなら良くあること……の筈なのに、何故だか妙に胸騒ぎがする
「……局長、市民を頼みます」
「何を──待て!どこに行く気だ!」
局長の静止を振り切って、その方角に向かって走り出した。距離はそれほど遠くない。全力で走ればすぐ着くだろう
「……こっちか」
建物の路地裏から少しだけ体を出して確認する。そこにいたのは、FOX小隊の四人と、狐面を被った一人の少女だった。あの面に狐耳、どことなく和風な服。間違いない。狐坂ワカモだ
「手を貸した方が良さそうか」
一瞬、注意を俺に向ける。それだけできれば充分だ。オトギが必ずやってくれる
「ヴァルキューレ公安局だ!狐坂ワカモだな、武器を捨てろ!」
「───え?」
ワカモは、予想に反して素っ頓狂な声を漏らした。一瞬俺まで困惑したが、ワカモは完全に拘束するまで油断できない。そろそろ飛んでくる頃だろう
「え、あ──痛っ!?」
オトギの狙撃が命中したのを確認したと同時に時を止め、ワカモの元まで全力疾走で向かう。止まった時間の中で拘束するには時間が足りないが、背後に回るには充分だ
「い、いつの間に!?」
「容疑者確保」
取り押さえて手錠をかけるのには数秒もかからない。手から武器を弾き、手錠をかけて取り押さえた
……だが、何か変だ。碌に抵抗してこない
「………」
仮面を外してみる。整った顔が、どういう訳か真っ赤に染まって息も荒かった
「……様子が変だが、連行する」
「え?あ、はい……」
聞いていた話と全く違う。こんなに素直に従ってくるなんて聞いてない。路地裏から見た時の暴れっぷりはどこに行ったんだ
「……リンネ、何をやったの?」
「あ、クルミか。怪我無い?大丈夫?」
「いや、私は平気だけど…何で急にそんなに大人しくなったのよ」
「わからん……なんかいきなりこうなった」
『一目惚れとかしたんじゃないの?』
「オトギ、冗談が下手だぞ」
狙撃手のオトギとポイントマンのクルミだ。二人のやりとりは何だか漫才みたいで永遠に見てられる
「助かった、リンネ。小隊を代表して礼を言う」
「気にしないでいいよ。仕事の範疇だし。むしろ割り込んじゃってごめん」
「私達だけでは時間がかかっていた。本当に感謝している」
「本当、助かったよリンネ君」
出会ったあの日以来、FOX小隊とは良い関係を築いていると思う。少なくとも俺はそう思ってる。だからこういう時は助け合いたい
「……それで、その。ワカモには何があったんだ?」
「俺が聞きたい。何があったんだお前」
捕まえているワカモの顔を覗き込むように見つめる。すると、更に顔を赤く染めて視線を逸らされた
「……ちょっと傷ついた」
「あはは……」
それから少しして、ワカモは矯正局へ連行されていった。何かあればまた俺が向かうし、あそこにはアキラもいる。頼めば時間稼ぎぐらいはしてくれると思う
「今日は本当に助かった」
「気にしないでって。また困ったことがあったらいつでも呼んで」
「……本当に、FOX小隊に欲しいぐらいだ。お前さえよければ入らないか?」
「嬉しいけど遠慮しとく。俺がいなきゃ局長が過労死しちゃうし」
「あぁ……」
俺がいないと多分死ぬ。マジで。局長はもっと休みを取るべきだ
「……爆弾を追う正義の心。慈愛の怪盗を捕らえる力。本当に、心の底からお前を尊敬する」
「褒めすぎだって。……皆も凄いよ、本当に」
「……そうか。また会おう」
「うん。それじゃ」
別れを告げて、俺達はそれぞれの帰路につく────
「……骨崎リンネ」
「あ、局長。聞きました?俺慈愛の怪盗だけじゃなくてワカモまで捕まえたんすよ。次の局長は俺っすかね。今の局長見てるとなりたいとか微塵も思わないですけど」
「パトロール中の昼寝。独断専行。言うべき事は色々あるな?」
「………見逃してもらえたりとかは?」
「ダメだ」
その後、局長にこれでもかというぐらい怒られた。反省文まで書く羽目になった。またニコに膝枕してもらった。やったぁ
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「……で、局長。話って何すか」
後日、局長からの呼び出しを受けた。また怒られるのかと思ったけど、どうやらそうではなさそうだ
「……FOX小隊が、例の爆弾に関する任務につくことになった」
「……そうですか」
「あぁ。そこでお前に話が来ている」
「俺に?」
わからない。何故FOX小隊の任務で俺に話が来るのだろうか。てか俺名指しで話が来てるの?
「FOX小隊からの強い要望でな、お前も任務に同行してもらう」
「……あ、そっすか。了解でーす」
リンネ君、小細工とか能力無視した直接対決だとそんなに強くないんだけど、時止めたりやたら戦闘中頭切れるからその気になればヒナ委員長とか相手でも結構やり合えるイメージ