「アキラ、久しぶ──あ」
「あ」
矯正局のアキラの牢に行くと、隣の牢にワカモが居た。カイ、アキラ、ワカモを並べて収監する矯正局のセンスには脱帽です。いや、マジで。なんで三人並んでんの
「……リンネさん、この狐に何をしたんですか。隣に来てから毎日何か呟いていてうるさいのですが」
「会っただけだよ。本当に」
「──あ、あなた様!どうか、どうかこの私にあなた様のお名前をお聞かせください!」
「えっと……」
あなた様とか敬語とかツッコミどころは色々あるけれど、とりあえず名前だ。流石に名乗らないのは不味いし、教えても問題ないだろう
「……骨崎リンネだけど」
「リンネ…リンネ!このワカモ、リンネ様に身も心も捧げます!」
「……リンネさん、何したんです?」
「会った」
俺に付け込もうとしてる……?いや、メリットが無い。多分、ワカモもアキラみたいにいつでも出られるタイプだろうし、わざわざ俺に付き纏って何の得がある?
……まさか、オトギの冗談が真実だったとかのオチはないよな
「……浅ましい女だね」
「何を───!」
「喧嘩しないでね?」
「あ──やっと私の言葉に反応してくれたね。全く、あまり待たせすぎるのは減点だぞ?」
この空間、死ぬほど気疲れする。前まではカイをフル無視してアキラと楽しく話してたのに、今はワカモとカイの衝突を避けなきゃいけなくなってしまった
「……大変ですね」
「理解を示してくれるのは本当に嬉しいよアキラ」
本当、アキラは個人的に割と好き。犯罪を犯したのも、自分の信念に従った結果の行動だったり、本人はかなり礼儀正しい子だし、普通に良い人だと思う
「……今日はもう帰る」
「そうですか。それでは、また」
アキラの見送りと、ワカモの引き止める声を背に、俺はその場を後にした
「……見つけた」
「あれ、ユキノ?」
FOX小隊の隊長、七度ユキノ。会うのはワカモを捕まえたあの日以来だが、どうしてこんな所に居るのだろうか
「どしたのこんな所で」
「お前を探していてな。矯正局に行ったと聞いたので、ここで待っていたんだ」
「俺を探して?何か用事……まぁ、俺もあるか」
ユキノには、聞きたい事があるんだった
「お前を任務に誘った理由。それを話しに来た」
「俺も聞きたかったんだよね。何で俺なのか」
「……そうだな。座ろう、歩きながら話すには少し長い話になる」
近くのベンチに腰掛けて、少しの間無言の時間が流れる。その間にユキノは覚悟を決めたのか、真っ直ぐこちらを見つめてきた
「ヘイローを壊す爆弾。それを追う任務だ。当然、危険度はワカモの時とは比べ物にならない。死ぬ可能性もある。……死なせてしまう可能性も、だ」
「そうだな」
「……私には、自信がない。私が死なない自信がない。皆を、死なせない自信がない。私は小隊のリーダーだ。皆を背負う立場なのに、私は…」
「オッケー、わかった。そこで黙れ」
ユキノの言いたいことはわかった。その上で言わなきゃならない事も、聞きたい事もでてきた
「まず、俺を呼んだのはお前の意思か?FOX小隊全員の意思か?」
「……それは、FOX小隊の意思だ。お前が爆弾を追っているのを知っていたから。お前も、戦いたいんだろう?」
事実だ。流出した爆弾は必ず潰す。俺一人でも、例え何度死のうとも。そう決めた。だからその機会がやってきたなら迷わず戦う
「……お前の意思でもあるんだろ?」
「……お見通しだな。私は、小隊の皆を死なせない自信がなくて、お前に助けを求めた。お前がいれば、何かが変わる気がした。お前が一緒に戦ってくれれば、皆を守ってくれると思った。……情けない話だろう?お前を巻き込んで、自分だけ楽になろうとしている」
……あぁ、そういうことか
「ユキノ」
「……何と罵っても構わ──」
「ほい」
ユキノの頭に手を置いて、優しく撫でる。すると、彼女は目を丸くして固まってしまった
「……え、と」
「死ぬのも怖い、死なせるのも怖い。お前、要は覚悟ができてないんだ。誰かの命を背負う覚悟も、自分の命を懸ける覚悟も」
「……覚悟」
「だから……うん。もういっその事来るな。俺が一人でやるから。恥じる事はないよ、当たり前の事だ」
「何を──」
「俺はとっくに覚悟できてる。爆弾を追うって決めた時から──いや、ずっと前からできてる」
この世界での一度目から。次があるなんて知らなくても、死ぬ覚悟はできていた。大切なものを守る為に、この身を犠牲にする覚悟ができていた
「お前は小隊のリーダーだ。もしこの任務に臨むなら、死ぬ覚悟も、死なせる覚悟も必要だ。……酷な事だが、そうしなくちゃいけない」
「……あぁ」
「怖いなら黙って見てろ。それを飲み込んで進むなら、俺を連れてけ」
ユキノは一瞬俯き、顔を上げる。そして、強い意志を持った目で見つめてくる
「……何があっても、私達の正義は揺らがない」
「……そうか」
「覚悟はできた。きっと、皆も同じだ。リンネ、改めて──力を貸してくれないだろうか」
「了解だ」
差し出された手を握り返す。ユキノの手が震えているのがわかる。恐怖を押し殺して、俺を頼った。彼女の勇気に応えよう
「……五秒間」
「え?」
「俺が最強無敵のナイスガイになれる時間だよ。その間なら俺はなんでもできる。安心しろよ、五秒間で俺がお前らを守ってやっから」
「……ふふ、なんだそれ」
「ははは、だな」
緊張の糸が切れたのか、二人で笑い合う。少しは元気になったみたいだな。良かった
「でも嘘じゃないからな。本当だぞ」
「わかっているよ。……ありがとう、本当に」
「それじゃ、行こうか」
「ああ」
──────────────────
「………」
街中の、とあるビル
俺とFOX小隊の四人が、固まって歩いていた。全方位を警戒し、どんな音も聞き逃さぬよう、足音を立てずにゆっくり歩く
「──三時の方向!爆弾だ!」
「六時の方向からも来る!」
誰が叫んだかは関係ない。その声を聞いた瞬間に、俺は時を止める。五秒間で投げられた爆弾に発砲、空中で爆破させる
「制圧した」
「……うん。一人も残ってないよ」
──固まって動く。今回に限ってはこれが最適解だ。例の爆弾は当たった時点で死ぬ危険性がある以上、こうして固まって爆弾の位置を知らせてもらい、俺が時を止めている間に対処するのが最善だ
「まさかこんなに爆弾が多いなんて……」
「本当、リンネ君を呼んでよかった」
「早く行こう」
既に侵入からかなりの時間が経過している。敵の数も段々と少なくなってきているし、このままいけば上手く終わる筈だ
「……扉だ」
「俺が見る」
時を止めて扉の先を見ると、今までもいた機械の住人が大勢いた。十数人程度だ
「十数人いる」
「別の道を行く?」
「ここだけやけに警備が厳重だ。何かあるかもしれない」
「じゃ、全員やっちゃう?」
「やるか」
全員扉から離れ、手榴弾を一つ手に取って投げた
合図はなかった。爆発で扉ごと壁が吹き飛んだのを見た瞬間、全員が敵に向けて射撃を始めていた
「──!爆弾来る!」
投げられた爆弾は、あまりにも数が多かった。時が動き出した後を計算に入れて撃ち抜くには、五秒間では難しい
──けど、難しいだけだ
「爆弾は壊した!やれ!」
オトギの狙撃が、最後の一人を捉え、戦闘は終了した
「……クリア、進むぞ」
その言葉に、俺も従おうとして──その場に膝をついてしまった
「……待って、リンネ君が」
俺の顔の下の地面には、赤い水滴が垂れていた。時間停止を酷使したせいか、体に負荷が思ったよりもかかっていたらしい
「ちょっと、大丈夫なの?」
「一旦休んでく?」
「……これが終わったらゆっくり休むよ。それよりも早く見に行こう。この先に何があるのか、何もなければそれでいい」
ニコの手を取って立ち上がり、制圧した部屋に入る。また固まって全方位を警戒しつつ、ゆっくりと中を進んでいく
「扉だ」
「クルミ、待て。トラップだ」
扉の下の部分に仕掛けられたワイヤートラップ。当然例の爆弾が使われているんだろう
「解除してくるわ」
「任せた」
トラップの解除をクルミに任せ、新しい敵が来ないか警戒する。やはりと言うべきか、FOX小隊は本当に優秀だ。冷静で、個人の能力も高く、何より信頼関係がある
これなら、きっとこの先も生き残れ───
「───え?」
バスン、と音がした
音の正体は恐らく銃声。新しい敵ではない。発生源は──倒した敵だ。倒れた姿勢のまま、何かを撃った
何を撃ったか、そんなもの──扉のトラップに付いている、爆弾以外あり得ない
「クル───」
爆弾が爆ぜるよりも先に時を止める。クルミの元へ走り出したユキノの腹に蹴りを入れ、クルミの元まで走り出す。
残りは一秒。クルミを抱えて逃げるには時間が足りないし、何より爆弾の威力がわからない。この部屋全体を巻き込む程の爆発を起こされれば全て無駄だ
なら──この状況での最適解をとるだけだ
「……またこれか」
爆弾に覆い被さり──時は動き始めた
──────────────────
爆弾が爆ぜ、周囲に煙が満ちた
どうなったのか、わからない。いきなり体が後ろに飛んだ。クルミは無事なのか。あの状況で、リンネが五秒間を発動しない筈がない。きっとその五秒間の間で、最善の行動をとった筈だ
──なら、リンネは?
「──全員無事か!」
段々と煙が晴れていく。周囲を見渡し──ニコはいる、クルミもオトギもいる
けど、一人足りない
「リンネ!どこにいる!?」
叫ぼうと、返事は返ってこなかった
どこか、見えない所にいるのでは。そう思って周囲をくまなく探し──足に、何かが当たった
「……これ、は」
一丁のハンドガンだった
「……リンネ?」
間違いなく、これは彼のものだ。なら──彼の末路は分かりきっている
単純だ。一欠片も残らなかったのだ。きっと、爆発を私達に当てない為に爆弾を自らの体で覆ったのだ。結果、爆発によって彼の体は吹っ飛んで、一欠片も残らなかった
「FOX1!リンネ君は!?」
「…………」
「答えて!お願いだから……!」
「……っ!」
答えられなかった。覚悟はしていた筈だ。でも、いざ目の前にすると、頭が真っ白になって、何も考えられなくなる
「……嘘、よね?」
「リンネ……そんな…」
私の様子を見て、何が起きたか大体察したのだろう
「っ───!」
瞬間、発砲音が響いた
FOX2──ニコが、爆弾に向けて銃弾を放った奴にトドメを刺したのだ。でも、明らかに過剰だ
「──返せ、返せ返せ返せ!」
弾切れを起こしたら、次は拳を使い始めた
「……やめろ、FOX2」
「なんで!」
「命令だ、やめろ」
「っ、ユキノ──」
涙を流しながら、憎悪に満ちた表情を向け──その表情は、一瞬で消えた。きっと、私も泣いている。他の二人も、きっと同じだ
「……行こう。悲しむのは、その後でいい」
──────────────────
すっかり静かになった局長室で、一人書類を捌き続ける。前と量は変わらないのに、何故だか多く感じる理由は──分かりきっている
「……リンネ」
FOX小隊の任務に同行したリンネの訃報が届いたのは、つい数日前の事だ。その時は信じられなかったが、事実、訪ねてくる喧しい声がない以上、今では完全に信じている。彼は死んだのだと
あくまでも要請。任務に参加する事を選んだのはリンネ自身だったから、FOX小隊への責任追及は行われなかった。何より、彼女らが持ち帰った爆弾のサンプル。これにより、ヘイローを壊す爆弾に対しての対抗策が生まれていく事だろう
「…………」
それでも──正義感に溢れた警官を一人失ったという事実は、心に重くのしかかっている。あれだけうるさくても、いなくなってしまえば、それはそれで寂しく感じてしまう
「……美味しくないな」
自分で淹れたコーヒーは、思ったよりも不味かった
──────────────────
「………」
矯正局は、異様な静かさに包まれていた。三人とも、骨崎リンネの訃報については知っている。しかし──悲しむ素振りを見せる者は誰もいなかった
「……貴女のこと、狂人だと思っていましたが──ええ、今なら分かります。貴女の気持ちが」
カイの言葉を、狂人の妄言と切り捨てていたアキラが、初めて共感を示した。黙っているが、ワカモも同じ気持ちだろう。同じ囚人であるからこその、共通認識のような物なのだろうか。真実を知る者はいないが、それに何の問題もない
「……またか、忙しいな君は。まぁ、それならもうここにいる必要も無い。探しに行くとするよ」
囚人達は動き始める。一人は楽しかった日々を求めて。一人はただ一人の理解者を求めて。一人は身を焦がすほどの愛のままに
骨崎リンネを見つけるまで、誰も彼女達を止められない
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「……結局、触れなかったが──彼のヘイロー、あんなに暗い色だったか?」