「はぁ……めんどくさ…」
いつになっても宿題というものは面倒なものだ。量も多いし、何より遊びたいのに遊べないというのが嫌になる
ただ、幸いなことに今部室には俺とヒマリ部長だけ。つまり上手くやれば宿題をスキップできるのだ
「むず…こんなん全知でも解けんやろ」
「貸しなさい」
ちょっろ
「いやー、流石!ミレニアムが誇る超天才清楚系美少女ハッカー!」
「ふふ、そうでしょうそうでしょう!」
やっぱりこの人ちょろすぎないかな。滅茶苦茶頭いいし凄腕のハッカーなのにこの性格は大丈夫なのか?まぁ、助かるから良いんだけど
「……あ、そういえば。最近あの女とよく会っているみたいですが、何をしているんです?」
「あー……別に何も。ちょっと仕事手伝ってるだけですよ」
「……何でも構いませんが、あの女は絶対に人の意見を聞きませんからね、碌なことになりませんよ」
よく知っているな、と感心すら覚える。実際彼女はヒマリ部長の言う通りの性格をしてる。まぁ、だからこそ───
「だからこそ、側に誰かいてあげないと駄目なんだと思いますよ、あの人」
「……随分と入れ込んでいるようですね」
「まさか。そんなんじゃありませんよ」
「…………そう」
なんか微妙にしっとりした雰囲気になってきてしまった。気まずい。何か話題を変えなければ……そうだ
「てかまだ終わんないんですか?全知も案外大した事ないすね!」
「五秒で済ませます」
やっぱりちょろい
「終わったら一緒に出かけません?」
「いいでしょう。このミレニアムが誇る超天才清楚系美少女ハッカーと二人で出かけるという栄誉を───」
長話になりそうなので終わるまでスマホをいじる事にしよう
「───という訳で、この私とのデートを存分に楽しむことを許可します」
「デート?なんすかそれ」
「え?」
「え?」
──────────────────
ミレニアム自治区郊外の立入禁止区域、通称「廃墟」にて、俺は──俺達は歩いていた。目的は当然このエリアの調査。同行者は───
「リオ会長、俺も出来るだけ頑張りますけど、危ないんで下がっててくださいね」
「……えぇ、そうさせてもらうわ」
ミレニアムの生徒会長、調月リオ。あの日呼び出された時以来、この関係は続いている。何を知っているのかわからないので、俺の転生の事がバレたかと心配したが、別にそういう訳ではなかったらしい
俺が頼まれたのは、廃墟を調査する際のリオ会長の護衛だ。立入禁止区域に入るワクワク感を味わえるので承諾した。何でこんな所を調査してるのかは知らない
「!ドローンだ。多くなってきましたね」
「頼むわ」
「人使いの荒い……ま、約束なんでやりますよ」
時を止め、まとまっている所に爆破弾を撃ち込む。時が動き出した時には全てが終わっているだろう
「流石ね」
「もっと褒めてくれてもいいっすよ」
軽口に反応してくれない。俺は別にいいけれど、ヒマリ部長が嫌ってるのもこういう所なんだろうな、なんて思ってしまう
「狭、暗……でもこの先なんかありそうですね」
「……えぇ、恐らく」
暗くて狭い通路の中を、時折出て来るロボットみたいなのをボコボコにしながら進む。この程度なら、何体出てこようと俺とウタハの敵じゃない
「……あ、光だ」
「行きましょう」
通路の先に見えた光。俺たちはそこに近づき───
「───これ、は」
そこにあったのは、ただ広い空間だった。目を引くのは──やはり、中心にいる一人の少女だ
椅子のような何かに寝かされており、髪は地面につくほど長い。服は着ていない。恐らく意識もない。言える事があるとすれば、その少女は美しかった
「綺麗……」
思わず呟いてしまう。まるで人形のように整った顔立ち。長く伸びたまつ毛、白く透き通った肌。芸術品と言って差し支えないだろう
「あれは……人間?」
「……わからないわ。調べてみない事には」
「………」
とりあえず裸はどうかと思うので、俺の上着をかけてあげる事にする。彼女に近づきながら部屋?の中を見渡すと、他にも結構変なものが置いてあることに気がついた
丸い、大きい……ドローン?のような物だったり、結構デカめの機械だったり、調べれば色々わかりそうだ
「その前に服を着ろ名を知らぬ少女よ……」
少女に上着をかける時──指が肌に触れた
「え?」
バチッと、痺れるような感覚がした
──────────────────
「……何、が」
目が覚めると、さっきと同じ空間にいた。違う所があるとすれば、リオ会長がいない事と──あの少女の側に、全く同じ容姿の少女がもう一人立っていることだ
「……何者ですか。どうやってここに」
「…いや、わからないよ。あっちで君に触ったらここに来た」
多分、ここは彼女の心の中とかそういう場所だと思う。彼女が二人いるのが気になるけど……
「まぁいいや。よくわかんないけど仲良くしよ。名前は?」
「…………」
全く反応してくれない。警戒されてるのはまず間違いない
「ちょっと話するだけでいいんだよ、君にもその子にも何もしないから」
「……」
「……これは直感だけど、君、俺の事なんとなくわかってるよね?」
「……殺害不可。本当に、危害を加えるつもりはないのですね?」
「うん、本当だよ」
多分、この子は色々わかってる。俺が死ねない事とか、そういう殆ど誰にも言ってない事も全部
「俺、何でこんなところに来れたんだろうね?君──名前、まだ知らなかったね」
「……私に名はありません。私は…鍵にすぎませんから」
「へー。鍵か……鍵…KEY……それじゃ、ケイって呼ぶことにするよ」
「……好きにしてください」
今の会話中も、俺からもう一人の彼女を守るような仕草を崩さない。ケイにとってその子は余程大事らしい
「俺は骨崎リンネ。どういう奴かは知ってるでしょ?殺害不可ってそういう意味だもんね」
「……はい」
「……そんなに怖い顔しなくてもいいじゃん。わっぴ〜!だよ」
「何ですかそれは」
「……何だろうね?」
自分でも何を言ったのか分からなかった。なんだわっぴ〜って。咄嗟に出てきた言葉だけど、どういう意味なのか全くわからない
「……あれ、何これ」
「……いくら貴方でも、ここにそう長くいられる訳ではないのですね」
指先が砂嵐みたいに震動している。どうやらもう時間切れらしい
「そうみたいだね。ま、また来るよ。その時はゆっくりお話ししよう」
「……もう来ないでください」
「ひど!」
そうして、俺は元の世界に戻った
──────────────────
「──リンネ、どうかしたの?」
「ん……あれ、俺どうなってました?」
「その子に触れるなり固まったわ。何があったの?」
「……や、何もありませんでしたよ」
結局、あの子がどういう存在なのかはわからなかったけれど、少なくとも悪い子ではないと思う。彼女についてはこれから調べていけばいいだけの話だ
「今日は戻るわ。調査は後日開始する」
「あれ、置いてっていいんですか?」
「何が起きるかわからない以上、ここに置いておくのが賢明よ」
「はーい」
……今度は、アイスでも持って行ってあげよう