死人の二度目   作:かゆ、うま2世

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骨崎リンネは───

「……驚いた。病弱ってキャラ付けじゃなかったんですね」

「えぇ…まさか、見られてしまうとは」

 

 

かなり驚いたが、必要なのは会話だ。ヒマリ部長が今どういう状態にあるのか。それを把握しなければならない

 

 

「不治の病、ってやつですか?」

「……その通りです。三年生までは生きられないと」

「……そうですか」

 

 

初めての経験だ。俺が死んだ事は何度もあるのに、身近な誰かに迫る死、というのは初めてだった

 

 

「いいのですよ。天才とは儚いもの。ましてや私のような超天才清楚系美少女ハッカーともなれば、寿命ぐらい縮むでしょう」

「口が減りませんね。なんか、いつも通り……」

 

 

注意深く見てみて、わかった。本当に、もう長くないんだろう。恐らく、体には痛みが走っている筈だ。顔色は…隠しているようだが悪いし、汗の量も多い

ヒマリ部長は優しい人だ。俺に、できるだけ心配をかけないようにと気丈な態度を取っているんだろう

 

 

「全知なのに変な所バカですよね。キツイならキツイって言ってくださいよ」

「……わかりますか?」

「わかりますよ、ヒマリ部長の事ですから」

「ふふっ……流石ですね」

 

 

そう言って微笑んだ。無理して笑う必要なんてないのに、そんな風に笑って欲しくはないのに

 

 

「……リンネ」

「どうしました?」

「言いたい事があります」

「はい」

「貴方は、私の自慢の後輩です。私がいなくなった後も、どうか、強く生きて下さい」

「……痛いだろうに、人の事ばかり気にして」

「それが、先輩というものですから」

「………」

「あぁ、もう一つ言っておくことが」

 

 

そう言うと、咳き込んだ。苦しそうな声を出しながら、それでも必死に伝えようとしてくれている

 

 

「私、貴方のことが好きです」

「へ?」

 

 

素っ頓狂な声が漏れてしまった。ひたすら、ただひたすらに驚いた。告白、いつかされたいとは思っていたけれど、まさかこんな形でされるとは思わなかった

 

 

「返事は結構。わかっていますから。せめて伝えておきたかった」

「……そう、ですか」

 

 

………決めた

 

 

「ヒマリ」

「どうか───!?」

 

 

車椅子に座る彼女の体を、思いっきり抱きしめる。右手の指で、彼女の手の甲を撫でた

 

 

「……何だか、体の痛みが引いていくようです」

「そう、よかった」

「……本当に、暖かいですね」

 

 

少し可哀想だけど手を離す。彼女は名残惜しそうにこちらを見つめていた

 

 

「ありがとうございます。おかげで元気が出ました」

「……そう、ですか。それはっ…よかった」

 

 

行く場所ができた

 

 

「ちょっと外出ます。さようなら、ヒマリ部長」

「……えぇ、また」

 

 

 

 

 

 

「おや、手に血が……いつの間に怪我………これは…指の、骨?」

 

 

──────────────────

 

 

 

「……死にそうだ」

 

 

激痛に耐えながら、一人歩く。さっきヒマリ部長を抱きしめた時、骨で手の甲を傷つけた。運命は定めた。俺の末路は決まっている

 

 

「こうなるんだな…一つ、勉強になった」

 

 

まだ死んでいないのは、もう一発、自分に運命を定めたからだ。死ぬ事には変わりないが、それでも最後に会いたい人がいる

 

 

「リンネ?」

「あ……チヒロか」

「どうしたの、顔色悪いよ?」

「あはは…ちょっと体調悪くて……帰って寝るよ」

「大丈夫?ついて行こっか?」

「いや、大丈夫。一人で帰れるよ」

「そっか……じゃあ、また明日ね」

「うん……さよなら」

 

 

向かう先は家ではない。リオ会長と何度も行ったあの廃墟──その最奥にいる、ケイのところだ

 

 

「あれ…もう着いたのか」

 

 

激痛に耐えながらゆっくり歩いていたにしては早く着いた気がする。それだけ急いでいるという事だろうか

でも──彼女に会うなら、その前にやっておく事がある

 

 

「……これでよし。ケイ、来たよ」

 

 

彼女の体に触れ、心の中に入る。俺を見るなり、どこか察したような表情を浮かべた

 

 

「あはは……いや、ちょっとやむを得ない事情があってさ。ケイに会うまで死ねないように定めてここまで来たんだ」

「……そうですか」

「悲しんでくれる?」

「……どうせ、また蘇るのでしょう?無意味です」

「変わんないね……」

 

 

でも、その態度が今は嬉しい。こういう、緩やかな死は今まで無かったから、ちょっとだけ変な気分になる。俺を知っている人の前だから、というのもあるかもしれないが

 

 

「でも、多分もう会えないかもしれない。全部忘れちゃうから」

「……何故、私なのですか?最期に会うのが、何故」

「……わかんない。でも、俺はケイに会いたかったから」

「またそんな事を……」

 

 

きっと、そろそろ時間が尽きる

 

 

「……さよなら、ケイ」

「また今度です、リンネ」

 

 

──────────────────

 

 

 

そうして、彼の体は目の前で縦に割れた。飛び散った血が、外の体を汚していることだろう。だが、そんな事はどうだっていい

 

 

「……これが貴方の血の味ですか」

 

 

口元についたのを舐めてみると、とても甘かった。アイスとはまた違った甘さ。これならば、ずっと飲み続けていられる

 

 

「さよなら、なんてできる訳がないでしょう。変な所で馬鹿ですね、リンネは」

 

 

彼だったものをかき集め、胸に抱く。外の世界でも同じように割れているだろう体が、こうしてこの世界に残ったのは嬉しい誤算だ

 

 

「貴方が私を忘れても、私は貴方を覚えていますから。逃しませんよ」

 

 

いずれ来るその時に、彼は気付くだろうか。私がどんな気持ちで彼を見ていたか、を

 

 

「貴方が教えた愛ですよ、リンネ」

 

 

─────────────────

 

 

 

「……ヒマリ、リンネの死亡を確認したわ」

「───は?」

 

 

それは、余りにも突然の出来事だった。あの日、部室を出て行って以来行方不明だった彼。死体は見ていない。でも、この女が嘘をつくとは思えない。間違いなく事実で、喪失感だけが胸に残った

 

 

「"彼女"の側で、縦に真っ二つに割れていた。即死だったみたい」

 

 

きっと、彼の死に自分が関わっている事はわかっていた。彼が行方不明になったあの日から、急激に回復した体。詳しい事はわからなくても、因果関係を疑わない方がおかしい

 

 

「ヒマリ、どうかしたのかしら?」

「……いえ、何でもありません」

「そう。リンネの事はこのまま行方不明扱いにしておくわ。いいわね」

「構いませんよ」

 

 

恐らく、未知の方法で私の体を治し、その代償としての死。大好きだった後輩が、私の為に死んだのだ。体が治ったとしても、どうしてそれを喜べる?

 

 

「……ヒマリ?」

「……貴女は、悲しくないのですか?」

 

 

違う、それはただの八つ当たりだ

 

 

「……私だって、思う事が無いわけじゃないわ」

「なら、何故そんな淡々としているんです?」

 

 

違う、違う違う違う違う違う違う

 

 

「──だから嫌いなんです」

「──時間が必要ね」

 

 

そうして、部屋には私だけが残った

 

 

「……天才が、聞いて呆れますね」

 

 

私が殺したようなものだというのに、やる事が八つ当たりだなんて

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

誰に対しての、謝罪だろうか

 

 

──────────────────

 

 

 

部屋を出て、モモトークを開く。見るのは、彼から届いた最後の連絡

 

後は頼みます、とだけ書かれたメッセージ

 

 

「……何が言いたいのかわからないわよ」

 

 

ぽっかりと、胸に穴が空いたようだ。ただの依頼の関係が、いつの間にかここまで大きいものになっていたなんて思いもしなかった

 

 

「頼まれた以上、必ずやり遂げてみせるわ。だから……だか、ら」

 

 

ぽたり、と画面に水滴が落ちた




てことで書かない事に決めました
百鬼夜行やら赤冬のキャラはどっかで出せたらいいかなとは思いつつ、あと一章だけやって再開編を書こうと思います
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