「──時を止めるんだァ──ッ!」
俺の目の前で、放たれた銃弾は静止した。時間停止は間に合った。しかし、状況がまずいのは変わらない
「……二秒間、私もこの時間を動ける」
「ッ……!」
シロコが動ける二秒間。その間に銃弾の数が増えていき、たかが数秒間では回避できない程の弾丸が飛んでくる
「クソ…!限界だ、時は動く!」
止まった時間は動き出す。動き出す風景の中、無数の銃弾が俺に迫り───銃弾が、俺に当たる事はなかった
『私がいる以上、リンネさんに傷一つつけさせません』
「プラナ!」
プラナの力か、弾丸の軌道が全て逸れていく。おかげで何とか命拾いをした
「……どういうつもりだ、シロコ」
少し時間ができて、こうして観察してみてわかった。あのシロコ、何か変だ。髪も長いし、服も違う。体つきも変わっているし、何よりヘイローが変だ。俺のように黒くなっている
「……もう、無いの。リンネ先輩を守る方法も、先生を守る方法も。これで、全部終わる筈だから」
「何言ってんのかわかんねぇよ、シロコ」
やるべきことは、シロコを止めて詳しく話を聞く事だ
「プラナ、あのバリア、ゼロ距離だと無意味か?」
『ゼロ距離では防げません。常に距離をとって戦ってください』
「そうか」
『!来ます!』
地を蹴り、シロコが迫る。速い。でも、俺が時を止める方が早い。動ける時間の差は三秒。それだけあれば距離を取る事はできる
「……時は動き出───」
嫌な予感がして、後ろを向いた
「───何!?」
手榴弾だ。恐らく、シロコは俺が時を止めることまで計算に入れた上で、これを投げたんだ。俺の真後ろに。時間が動き出した瞬間、俺に当たるように
プラナが保護してくれるなら手榴弾からのダメージは想定しなくていい。しかし、爆風には勢いがある。シロコの元まで俺を飛ばすには充分な威力だ
「っ……!」
「捕まえた」
シロコは首を掴み、アサルトライフルを俺の腹に押し付けてきた
「く……!」
「……終わりだよ、リンネ先輩」
引き金に、指をかける
「……何があったのか、知らないが…やっぱりお前はお前だな」
「っ……うるさい……!」
力は碌に入ってない。銃を持つ手は震えて、今にも泣きそうな顔をしている。きっと、こいつは──
「俺はお前を撃たない。たったの二十五日間だけど、お前の事はいつだって大切に思ってるからな」
「黙って……!」
「撃てよ。撃てるもんならな」
「うぅ……あぁ……ああぁぁぁぁぁぁ!!」
銃が、地面に落ちていく。同時にシロコの手からも力が抜けていき、俺の首から離れていった
「だめ、私……私には、できない……」
膝をつくシロコを抱き締める。俺と会う前から、たった一人で全てを抱えてきた。滅んだキヴォトスも、死んだ後輩と先輩達も、自分の事も、全部背負ってきた。そんな重荷を下ろすために、今日くらい泣いてもいいだろう
「よく頑張ったな、シロコ」
「リンネ、先輩……」
「必ず助けるよ。約束する」
きっと、その為に俺はこの世界に来たのだから
「─────シロコ!」
抱きしめていたシロコを後ろに投げる。目の前に、何か本能的にヤバい物が見えたから。ブラックホールのような、あるいは皆既日食のような、形容し難い光のような物が迫ってきていた
『リンネさん!』
「あ──だめ、やめて、やめろ!」
回避なんてできる筈もなく──俺は、光に呑まれた
──────────────────
……何か、いる
倒れた俺を起こそうとするシロコじゃない。他にも、大勢誰かがいて、俺を見ている
「新たな箱の主よ」
「永遠に輪廻を続けるお前に──望み通り、色彩の嚮導者の役割を与えよう」
……色彩。さっきの光か
あれは──俺のヘイローの変質と同じ性質の物だった。だから、呑み込まれた時に理解できた。俺のヘイローが変質していった理由
骨の腕は関係ない。俺の精神の問題だ。死を恐れず、自らそれに向かっていく。生物として矛盾した行動と共に輪廻を繰り返せば、神秘は恐怖に反転していく
今ので完全に反転しきった。もう一欠片も神秘は残ってないだろう。だから、ヘイローは黒く染まった。シロコと同じように
……あぁ、でも、ラッキー
「『色彩の嚮導者』は我々無名の司祭の意思を代弁するのみ。己の意思を持てると思うな」
「『箱』の力も、運命を定めるその力も、我々が預かる」
シロコは……
「リンネ、先輩………」
怪我はない、無事だ
ならいい。道は見えた。後は、進むだけだ
「……シロコ、一緒に行こうか」
「……それは、どういう…」
骨の腕を纏わせる
「貴様は別の時間軸の存在。この時間軸ではその力を充分に発揮する事はできぬ」
「何故抗う?」
「理解できぬ」
「理解できぬ」
「理解できぬ」
「……何故抗う、ね」
そんなの、最初から決まっている
『私の生徒を、よろしくお願いします』
「名前も知らない。初めて会った変な女に頼まれたからだ!」
ただ反転しただけじゃない。色彩は俺が食い尽くした。色彩の力と、後一押し。それで、力は完全に動く
撃つべき場所も、数も、完全に理解した
「一発じゃ、足りないってんなら───!」
骨を纏わせた腕を──自分の体に突き刺した
「五発全部使ってやるぜェ──ッ!」
運命は既に定まった。この状況を切り抜け、俺の世界にシロコを連れて行く為だけの力。それが俺の運命だ
「俺と!俺が定めた奴だけが時間軸を移動する!そして──それを見た奴らは全員爆死する!」
右手をスイッチを握るような形にして、親指を振り下ろした
「何…!?」
「気をしっかり持てよシロコ!」
大量の爆発音と共に、体が浮くような感覚が襲ってくる。視界が真っ白に染まり、意識が飛びそうになる
「シロコ!」
シロコにシッテムの箱を投げ渡す
「それを使って俺を探せ!多分全部忘れてるけど!もう一回!俺を探してくれ!」
「わ──わかった!」
視界に光が満ちていって、何も見えなくなる。最後に見たのは、必死に手を伸ばすシロコの姿だった
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「………ん」
目覚めたのは、どこかの平原
隣にシロコは居ない。恐らくは成功した筈だ
「時間切れ、か」
死体が一つ、その場にできた