結論から。アビドスの危機の正体は莫大な借金だ。この辺の砂漠化に対抗するために資金が必要。その為にカイザーに借金しまくったせいでやばいらしい
全校生徒数はまさかの五人。皆見限ってどっかいっちゃったんだろうな
まぁ、それはいいんだ。良くはないが、存在自体は確認していた危機の正体が借金だったというだけ、対策を考えるのはこれからの話だ
「…………」
「……何したのリンネ」
「わかんない……助けてせんせぇ…」
それよりも目下の問題はこれ、対策委員会委員長である小鳥遊ホシノだ。俺を見るなり信じられないものを見るような目をしていた彼女は、未だに一言も喋らず俺をじっと睨みつけている
「………ホシノ先輩?」
「駄目みたいですね…」
そう、アビドスにシロコがいた
俺たちが出会ったシロコとは似てるけど微妙に違う──多分、彼女の地雷の正体はそれだろう。俺と先生は触れない事に決めた
ホシノの恐怖から逃れる為、先生に必死にしがみついている。小鳥遊ホシノ。見ただけで分かる。クソ強い。クソ強い人に睨まれてる。クソ怖い
「……ねぇ」
「ひゃい!」
ホシノからの呼びかけ。上擦った声で答える。彼女は再び俺を睨むと、言葉を続けた
「名前、もう一度言ってくれる?」
「……骨崎リンネ、です」
「年齢」
「年齢………」
……思えば、俺は何歳なんだろうか。身体は学生のそれだけど、年齢的には振れ幅のある見た目だし…
「……記憶が無い、ので、わからないです」
「記憶が無い?」
さらに目が鋭くなった。こわい
「自分の事とか、覚えてないの?」
「……はい」
「記憶喪失になった理由は?身体は大丈夫なの?」
「それも、わからないです……」
「覚えてるのは?」
「自分の名前だけです」
「そっか」
一通り質問が終わると、ホシノは考えるような仕草をした。アビドスの皆もこんな雰囲気のホシノを見た事がないのか、全員が少し怯えているような気がする
「ま、いいか。ごめんね、色々聞いちゃって」
ホシノの雰囲気が少し和らいだような気がした。先程のような迫力が無くなり、今度は柔和な雰囲気が出ている
「それじゃ、いつも通り始めよっか」
「無理があると思うな…?」
──────────────────
「………わからない事ばかり」
いつもの会議──いや、いつも通りではなかった会議を終え、小鳥遊ホシノは今一人校舎で佇んでいた
「……リンネ」
死んだ筈の骨崎リンネが、今私の目の前に現れた
小鳥遊ホシノにとって、骨崎リンネは死人だった。受け入れられるかどうかは別問題として、目の前でバラバラに砕けた事、事実としては理解していた
だからこそ、今日現れた骨崎リンネがわからない。が、推測はできる。そういう不思議な事ができそうな大人を、小鳥遊ホシノは一人だけ知っている
「…………」
だか──結局、あのリンネが何者なのかはわからない。本物か、本物そっくりの何かか。現状では、何も
………もし、本物だったら、私はどうすべきなのだろう。私がリンネにした事、今でもずっと覚えていて、ずっと謝りたいと思っていて、言葉を伝える前に、目の前で砕けた
謝って、それで終わる話じゃない。誰よりもアビドスの為に頑張っていたリンネの事を、勝手な想像で罵った。謝っただけで許されるような問題じゃない
「………あ」
考えて──ふと思い出した
あのリンネは記憶喪失だ。私の事も、ユメ先輩の事も、アビドスの事も何も覚えてなかった。そんな状態で、ただ事実と共に謝罪をされたなら、リンネはどんな気持ちだろうか。それは、ただ一方的な感情の押し付けではないのだろうか
直感で言えば、あのリンネは本物のリンネだと感じている。声や顔じゃなく、もっと根本的な何かで、同じ存在だと感じている。だが、その根拠は結局ただの直感だ。理由や理屈に依らない確信は、今この状況においては何の役にも立たない
………私の事も、ユメ先輩の事も、アビドスの事も、何もかも忘れている。何だか、それは、すごく────
「……嫌だ」
─────────結局は、エゴか
──────────────────
「や、さっきはごめんねー?」
「あぁいや、だいじょぶです…」
あれから少しして、アビドスには沢山あるらしい空き教室の一つで、俺はホシノと二人で話をしていた。先生も他の皆も何処かへ行っている。完全に俺たち二人だけだ
「……あの」
「どうかした?」
「こうなる前の俺を、ホシノさんは知ってるんですか?」
「……うん」
ホシノは俯いたまま、少し涙ぐんだ声で話し始めた。俺は彼女から目を逸らしたりせず、じっと話を聞く事にした
「知ってる。たった一人の同級生だったから」
……俺はアビドスの生徒だったのだろうか。なら、何で七囚人を捕まえたりしてたんだろう。そういうのはヴァルキューレ公安局の仕事の筈なのに
「……色々あって離れちゃって、それっきりだった。だからさ、ちょっとびっくりしたんだ」
「あぁ…別に、気にしてないです」
長い間行方不明だった人が、ある日いきなり訪ねて来た。ホシノ目線から見ればそんな感じだ。俺が何なのか、彼女には探らなければならない理由が幾らでもある
「思い出して欲しい……ですよね」
「……そうだね。うん、思い出して欲しい。けど、焦らないでね。気楽に、ゆ〜っくりでいいんだよ」
どこかマイペースさを感じる笑顔。ただ、彼女の目の奥で小さく揺れる悲しさだけは、どうにも誤魔化しきれていなかった
「……?」
遠くから、ドタドタと走るような足音。誰かが近づいて来ているような気がする
「……あぁ。ちょっと騒がしい先輩が来るからさ。先輩って言っても、卒業生だけどね」
騒がしい先輩、か。どんな人なのだろうか。どんな人であれ、ホシノと出会った時のようにならない事を願う
そんなこんな考えていると───
「───リンネ君!」
勢いよく開いた扉。現れたのは、水色の髪の女性。………なんだか、どこかで
「っ………!」
「わっ!?」
「あー……」
彼女は、数秒と経たない内に俺を抱きしめて─────
「さっき伝えたじゃないですか。リンネは今記憶喪失で────」
「ユメ……先輩?」
「…………は?」