シャーレに、七囚人が居た
「リンネ、この書類はここに置いておくからな」
「リンネさん、少しお時間よろしいでしょうか。えぇ、後でも構いませんよ」
「あなた様、一旦休憩なされては?」
シャーレとアビドスの行き来生活が始まってから数日。初日に帰ったら三人ともいてもう笑っちゃうよね
まぁ仕事手伝ってくれるからもう何でもいい
「…………」
「……いい加減慣れなってシロコ」
初日から七囚人の皆に対して警戒心マックスなのがシロコ。まぁファーストコンタクトを考えると当然の反応だよね
さて、仕事に追われているが、アビドスの事について考えよう。重要なのはどうやって借金を完済するかだ。この前銀行強盗行った時に、借りてる相手に問題がある事はわかった。でも相手が本当に良くない
カイザーグループ。キヴォトスでも有数の大企業。色々と黒い噂があるけど、潰すのはまず無理だろう
「となると、正当な契約上で勝つしかない……」
そうなった場合、やっぱりやるべき事は借金の返済だ。バカみたいな量の借金を何とか返す術が必要になってくる
でも、ストレートな手段故に難しい……
「……やーめた」
こういうのは先生に任せる。俺頭悪いからよぉ
「……皆ー?そろそろアビドスに行ってくるから、好きにしてて」
それだけ言ってシロコにワープを頼むと、三秒後には誰もいない道路の上に居た。あの日以来、シロコが俺の言葉を拒む事はなくなった。従順。あまりにも従順。ちょっと不健全なぐらいには従順
「……昼ごはん食べるか。柴関行くけど来る……ごめん」
「……いいの。私お腹空いてないし」
「……そういえば!シロコって普段何してるの?」
微妙に気まずくなってしまった空気を何とかするために話題を変える。ついでに気になる事も聞いとこう
「リンネ先輩を見てる」
「……ほ、他は?」
「他……?」
「朝は?」
「リンネ先輩を見てる」
「昼間は?」
「リンネ先輩を見てる」
「夜は!?」
「リンネ先輩を見てる」
「……本当にそれしかしてないの?」
「うん」
……思い返してみれば、俺の生活、ほぼ常に隣にシロコがいる気がする。起きた時、食事、着替え、歯磨き、寝る時……
何故だ。何故今の今まで違和感を感じなかった
「リンネ先輩?」
シロコが俺の顔を覗いてくる。いつも通りの無表情。でも、そこに微かな心配の色を感じた
「……もしかしてさ、俺ってシロコに色々やらせてる?」
「ん、歯磨きは流石にびっくりした。甘えん坊さんだね」
「本当にごめん」
何故今の今まで気づかなかった。後輩に何をやらせているんだ俺……!
「いいよ。甘えてくれると嬉しいから」
「そ、そう?」
もしかしたらシロコは天使だったのかもしれない。いや、可愛いのは前から知ってんだけど。とにかく、シロコには後で何か奢ろう
……ていうか、これ生活の全てをシロコに任せる事が…
「駄目だろそれは!」
「?」
「……あ、ううん。何でもないよ」
思わず叫んだが……今はとりあえず保留。後で考えよう。まずは借金を何とかしないとだ
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「大将!柴関ラーメン一つ!」
「あいよ!」
ここはセリカのバイト先である為、シロコは迂闊に入れない。でも超美味いのでちょくちょく通っている
ただ、味の割に人が少ないのが不思議なところ。立地のせいなんだろうけど、人の多い所ならもっと人気出るだろうに。まぁ、俺が考える事でもないけど
「……しかし、本当に何も覚えてねえんだな」
「?何か言いました?」
「いいや。……元気にやってんならそれでいいか」
よく聞こえなかったけど、とりあえずラーメンが美味いからもう何でもいいや。俺の他の客も四人組がいるだけだし、静かな昼が過ごせそう───
「隣、いい?」
「……友達はいいの?」
「それどころじゃなくなったからさ」
隣に座ってきたのは、角のついた白黒っぽい……恐らくゲヘナ生であろう女子生徒。俺より少し年上っぽい印象だけど、本当に誰だろう
「……久しぶり。偶然だけど、やっと見つけた」
「………?久しぶり?」
「ん……私の事、覚えてる?」
「……悪い、全く」
「……………そっか。想定はしてたけど、やっぱりちょっと悲しいな」
記憶を無くす前の俺……活動範囲はかなり広域に及んでいたようだ。アビドス、ゲヘナ、七囚人。少なくともこれだけの勢力と交流があった事が分かる
「私、鬼方カヨコ。ずっと探してたよ」
「うーん……どう言えばいいのかわかんないけど…とりあえず、おめでとう?」
「ふふっ、ありがと」
ゲヘナは治安が悪い事で有名。な筈なのに、カヨコはかなり話が通じそうだ。それに、不思議とこの距離感が心地いい
「……でも、ごめん。記憶がまるっと無くなってて」
「……別に、いいよ」
カヨコの手が、俺の体に当てられた
「こうして生きててくれるだけで、充分」
その手は、流れるような手つきで俺の頬に当てられた
………顔がいい。近い
「ね、今は何してるの?」
「シャーレで先生の手伝い」
「そっか。どこかの学校に通ってる訳じゃないんだね」
「うん」
なんか、やたらと距離が近い。少なくとも、シロコに負けず劣らずといったところか
とりあえず、新たな知り合いができたのは喜ばしい事────
「……なんか、お前の友達騒がしくない?」
「まぁ、変な事は起きないと思う────」
カチリ。スイッチのような音が聞こえた
「カヨコ!」
全身で感じた嫌な予感。椅子から立ち、起きるであろう爆発から彼女を庇う。その瞬間、大音量が鼓膜を貫いた
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「────ネ、リンネ!」
「……あぁ?」
頭と、脇腹が痛む。カヨコの知り合いはテロリスト集団だったのだろうか。いや、今聞こえた焦っているような声はカヨコのものだ。だとすると……事故が一番あり得る確率か
「リンネ、大丈夫!?」
「……お前の友達テロリストかよ。俺は大丈夫だから、周り見といてくれ」
シロコと、恐らく見ているであろう七囚人達に向けてそう言う。考えるべきは俺のケガと……後は柴関の大将の安否…ま、多分大丈夫だろう。キヴォトスの住人は頑丈だからな
「……カヨコは無事?」
「私は大丈夫。でもリンネが……ごめんなさい!」
「………謝るなよ。あー痛い」
俺のケガは……頭から血が出てるのと………
「……流石にヘイローあっても不味いのかな、これは」
脇腹を貫いている鉄骨。これのせいで俺は動けない。引き抜けば血が吹き出すし、刺さりっぱなしなのも良くない
……何で俺、カヨコの事を庇ったんだろう。知り合いだとは知っている。でもそれは事実として知っているだけだ。恋人かもしれない。友人であるかもしれない。けど、他人だ
こんな時だからこそなのか、やけに頭がクリアだ
「……ぇ、ねぇ!」
「……………あー?」
「生きてるわね!それならしっかり意識を保って!」
「ごごごごごごめんなさい!」
「うーん、これは流石に不味いかなー」
…………カヨコの知り合いだ。店を爆破した張本人…けど、悪い人ではなさそう
「……………悪いけど、動けないんだ。早いとこコレ抜いてくれると…」
「煙が多い……!柴関も無くなってるし…大将ー!無事ですかー!」
……………………この、声は
「…………セリカ?」
「え………?リンネ、先輩?」
因みに百鬼夜行はストーリーが追加されて色々わかったら別作品でやろうと思ってます