死人の二度目   作:かゆ、うま2世

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骨崎リンネの願い事

 

 

 

 

 

 

「……は?ホシノが?」

 

 

置き手紙と共にホシノが消えた。それがアビドスの後輩達からの連絡内容だった。置き手紙には、私が敵になったらヘイローを壊せだとか、そりゃもう色んなことが書いてあったとの事だ

状況の全貌は把握できないが、どういうことかは分かる。アビドスが抱える借金を返す為の手段として、ホシノは自分を使ったんだ

 

 

「わかった。今すぐ向かうから待ってろ」

 

 

焦りと同様は隠して、一度通話を切る。今一番焦っているのはアビドスの後輩達だ。俺まで焦っている訳にはいかない

 

 

「……シロコ、後の三人も。どうせ聞いてるんだろ?ホシノの居場所は多分あの砂漠だ。偵察を頼みたい。俺は先生と一緒に行く」

「……わかった。先に行ってる」

 

 

隣にいたシロコは消えた。七囚人の三人も動き出すだろう。なら、次にやることは決まっている

セナがいないうちに病室を出て、シャーレにいる先生の元に走る。シロコのワープはこういう状況では便利だが、人を運んだり連続で使用したりするのは彼女への負担が大きい。また彼女自身が訪れたことのない場所へワープする事もできない。少しでも彼女の余力を残しておくべきだ

 

 

「先生!話は聞いてるか?」

『うん、ホシノの事だよね?私もこれから向かうところ』

「先に合流しよう。少し待ってて────先生?」

 

 

電話越しに、何か大きな音が聞こえた。一瞬の音では無く、継続して聞こえる、風を切るような鈍い音。そう、まるで、プロペラの音のような────

 

 

「っ!先生!無事──」

『リンネさん!』

 

 

背後から感じる、自然のものとは異なる強い風圧。プラナの叫びと共に、背後にいる何かに気づいた

 

 

「嘘、だろ。ここまで堂々と───」

 

 

考えてみれば当然の話だ。相手にとって一番の障害はシャーレだ。俺──はともかく先生を潰して仕舞えばアビドスの生徒たちだけでは今回の事態に太刀打ちできない

風圧と光で抵抗能力を奪われた一瞬の隙に、俺の意識は刈り取られた

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「…………頭、痛」

 

 

目覚めたのは、どっかの牢屋の中だった。拘束はされていない。牢屋の中だからいらないって事だろう。……まぁ、流石に銃は奪っとけよと思うけど

 

 

「………なるほど。牢屋に入れてるって事は殺すつもりはないんだろうけど……はぁ、雑な仕事しやがって」

 

 

視線の先には、同じ牢の中に倒れている先生がいた。拉致される時に頭を殴られたのか、頭に包帯が巻かれている

死なないようにした応急処置なんだろうが、処置も雑だしそもそも怪我が酷すぎる。このままじゃ確実に先生は死ぬ

プラナが助けを呼んだだろうが、シロコ達がここの連中……十中八九カイザーの奴らを倒して助けに来るまでは時間がかかるし、間違いなくその前に先生の限界がくる

 

 

「……詰み、か」

 

 

そもそも牢を出られないし、出られても先生を連れての脱出は不可。先生の延命も無理。かといって無視はできない

………となると

 

 

「お前に頼るしかないのか」

 

 

ずるずる、ずるずる

先生の服を掴んで、俺の元まで引っ張っている腕があった。腕だけ。肘から上もないし、なんなら肉も皮もついてない、骨だけの腕

 

 

「……………」

 

 

骨の腕が引っ張ってきた先生に右手を添えると、その右手に骨の腕が重なった。準備ができて───その時が、明確に目の前に迫っているのが実感できた

 

運命を定める力の代償は、俺の命だ

 

 

『リンネさん、貴方はこのキヴォトスで輪廻転生を繰り返している可能性があります』

 

 

いつか、プラナから言われた言葉。その時はまだピンと来てなくて、どこか他人事のように聞き流していた

でも、今なら分かる。こうやって、沢山の俺の屍が築かれて──その上に、成り立っているものが多くあるんだと

 

 

「………凄いな、お前は」

 

 

───怖いな、死ぬのは。本当に怖い。前の俺がどうだったのかは知らないが、これを味わった上でもう一度死に向かっていけるのは本当に凄いと、未だにどこか他人事のように考えてしまう

 

 

「……ごめん」

 

 

ボソリと呟きながら、右手を先生の額に向かって伸ばす。先生に向けてか、シロコに向けてか、あるいはそれ以外の誰かに向けてか。自分でもよくわからない謝罪を、口に出す

 

 

「………またね」

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「………海?」

 

 

さざ波の音、カモメの鳴き声。目覚めた私を出迎えたのは二つの音と、清々しい晴天に包まれたどこかのビーチだった

リンネとの通話の最中、いきなりシャーレの窓が割れて───覚えているのはそこまでだったけど、今の自分の状態ぐらいは推測できる

 

 

「……私、マズイよなぁ」

 

 

ここが何処なのか。恐らくは夢のようなものだろうけど、よくわからない。現実ではない事だけは確かだけど────

 

 

「その通り。マズイよ先生」

「……リンネ」

 

 

隣に座った、初めての私以外の人間。シャーレに所属したあの日以来、毎日のように顔を合わせた私の生徒

……その身に背負ったものに気づいたのは、いつの事だっただろうか。アロナから伝えられた、骨崎リンネの真実に

 

 

「二人揃って拉致られちゃって、情け無い事この上ないね」

 

 

軽い失敗を嘲るような、どこか冗談めいた声が隣から聞こえた。強がりだな、と感覚で分かった。何かに怯えているその声で、彼が無理をしているとすぐに理解できた

 

 

「ま、すぐに助けが来るからさ。大人しく待っててくれよな」

「……ごめんね、リンネ」

 

 

私の命は、それまで保たない。リンネを一人残して、果たすべき責任も残っているのに、私は終わる。最期に話せてよかったな、なんて事を思った

 

 

「先生は死なないよ」

 

 

潮風が、二人を撫でた

 

 

「死ぬのは俺」

 

 

何を言ったのか、わからなかった。思わずリンネを見ると、彼はいつもと何も変わらない笑みを浮かべていた

 

 

「俺が死ぬ事で先生は助かるんだ」

 

 

ゆっくりと、言い聞かせるように話し始めた彼の声が耳に届く。私は動けず、彼の言葉をただ聞き続けるしか出来なかった。嫌だとも、どうしてとも言えたけれど──その言葉から強い意志を感じさせられて、何も返せなかった

 

 

「……さて!先生はこれから俺の命を犠牲に助かる訳だ。……別に怒ってもないし恨んでもないよ」

 

 

何も答えられずにいる私の横で、リンネは立ち上がった。そのまま歩いていく彼の背中を見ながら、私は追いかけることも出来ずにいた

 

 

「ただ、引きずって苦しんで欲しいだけ。いつまでもいつまでも、俺に助けられたことを後悔して生きていって欲しいだけ」

「なんで、そんな」

 

 

……気を抜けば泣きそうな声。リンネにそれを悟られないよう、必死に取り繕いながら問うた

 

 

「……死ぬってさ、想われる事だと思うんだ。ユメ先輩、ホシノ、シロコ。皆俺の事を───俺の死を想ってた。だから、先生にも俺を想って欲しい。ただそれだけだよ」

 

 

ぱちゃり、ぱちゃりと、リンネが海を歩く音が響く。振り返る事なく、ただひたすらに水平線の向こう側を見つめて歩き続ける

 

 

「……またね、先生」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

牢屋の中にあったのは、眠った大人と首無し死体だった。骨崎リンネの力によって先生の命は繋がれ、その代償は首無し死体が全てを背負った

 

 

「───先輩ッ!」

 

 

部屋のドアが嫌な音を立てて壊れ、シロコが姿を見せる。牢屋を塗り潰すほど飛び散った血、首のない死体。その正体が誰なのか、シロコは悟った

 

 

「……あ、あぁ」

 

 

素手で鉄格子を引きちぎって、死体への道を確保。おぼつかない足取りでリンネの亡骸へと近づいて行く

 

 

「私の、せいで……!ごめん、なさい、先輩…!」

 

 

どれだけ呼び掛けようとも反応はない。リンネの身体は既に冷たくなっていた。それでもシロコは必死に彼の亡骸を抱き上げ、泣き叫ぶ

 

 

「なん、で…何で!もう、もう嫌!置いていかないで!先輩、ねぇ……!」

 

 

その身に血を浴びながら、シロコは亡骸を抱き締め続ける。自分の時と同じように、骨崎リンネが先生を助けた事はわかっていた。その真意も

 

 

「先輩……!やだよ、お願いだから───おいていかないで」

 

 

離れるべきではなかった。何を言われても、側で守り続けるべきだった。あの時も、今も───どうして私は、救われるばかりで救えないのだ

 

泣き叫ぶシロコを、先生は未だ混濁した意識で眺めていた ─── シロコの泣き声が、牢屋の外まで響き渡る。それを、ただじっと聞いていた

 

 

「……………」

 

 

地面に転がったハンドガン。リンネが持っていたものだ。使うところは終ぞ見なかったが、何故だか印象的だった

銃に手を伸ばし、触れ───バチリ、と音が鳴った。弾かれた。銃が、触れられるのを拒絶したような──そんな感じがした

 

 

「………先生?」

 

 

その音で気づいたのか、シロコは涙でぐちゃぐちゃな顔をそのままに、こちらを見た

 

 

「ごめん、シロコ」

 

 

謝って許される問題ではない。リンネが死んだのはシロコのせいではなく、他でもない自分のせい。だから、シロコにかけられる言葉なんて、私にはない

 

 

「……行こう」

 

 

服越しに触れ、拾った銃を懐に仕舞った

 

 

 

──────────────────

 

 

 

………光が、見えた

後輩達と、血まみれの先生ともう一人のシロコちゃんも、同時に見えた。助けられたんだなって、他人事みたいに考えた

 

 

「……それ、どうしたの」

 

 

勝利──の筈なのに、余りにも空気が重かった。言うまでもなく、先生ともう一人のシロコちゃんについた血のせいだ

まず間違いなく致死量の血、何処にもいない骨崎リンネ。嫌な予感ばかりが頭に浮かんでは、その予感を肯定するように心が理解していく

 

 

「……先輩の血。先輩と先生が捕まって、先輩が先生を助けた」

 

 

シロコちゃんが答えた。どうしようもないくらいに、簡潔に。思考が巡り、一つの結論に行き着いた

 

先生とリンネが捕まったのは、シャーレが私を助ける為に動くのを阻止する為だろう。なら、単純な話だ

私の行動が、リンネの死を招いた

 

 

「……ごめん。ごめんなさいみんな、ごめんなさい先生」

「……ホシノ先輩のせいじゃないよ」

「私のせいだよ」

 

 

みんなの言葉は暖かくて優しくて──その度に、自分が嫌になってくる。最初から全部、私が悪いのに

 

 

「……本当、駄目な先輩だな…」

 

 

償う術など、無いのだろう

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