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私はORTと平和を掴んだマスターである。名前など無い。
彼女と平和を掴んだとは言ったものの、別にゴールインした訳ではないので勘違いしない様に。
見た目的に世間ではアウトなのだよ、成人男性と少女というそれは。
私もまだ捕まりたくない。というか、捕まったら今度こそ洒落になりそうにないので勘弁願いたい。
まぁ、それは兎も角として。現在、私はORTと共に三咲町のスーパーへと買い物に来ていた。
実を言うと、ORTをスーパーに連れて来た事が一度もないのだ。
商店街に行ったこそあるものの、スーパーには連れて来た事がなかった。
というか、彼女を連れて買い物をしたのはそれきりだ。
だが、もう色々と平和になったので、彼女を連れても良いだろうと判断した私は彼女と共に買い物に来たのだ。
「多くの食材が並んでいます。肉、野菜、果物、菓子類…様々です。マスター、此処は何ですか?」
「此処はスーパーと言うんだ。そうだな…商店街にある売り物の殆どが一個の建物の中にある、という感じかな」
「つまり、このスーパー自体が一つの店という事ですか?」
「あぁ、そんな感じで構わない」
目を輝かせながら店内を見渡すORTを見て、私は少し吹き出した。
平和になってから、ORTが全面的に表情を出す様になってくれた。
外見的にもおかしくない様ではあるのだが、ORTという生物の事を知っている私としては珍しく感じてしまう。
だが、良い事なのは確かだ。彼女が人間らしい事の証明でもある。
私としても、それは実に嬉しい事だ。
「マスター、今日は何を作るのですか?」
「今日は、ピラフを作ろうと思ってる。まぁ、ピラフはピラフでも普通のピラフじゃなくて、ちょっとアレンジを加えるけど」
「ぴらふ…?」
可愛らしく首を傾げる彼女。うわ、私のサーヴァント、可愛い過ぎ…?
と、いかんいかん。私はまだ犯罪者にはなりたくない。封印指定扱いはされたけれど。
「ピラフというのは、炒めた米を様々な具と出汁や香辛料を加えて炊いた料理だ。今日の場合、私はそれにオムレツを乗せるつもりだ」
「オムレツ…オムライスに乗っていた卵ですか?」
「そう。肉や野菜、海産物が入ったピラフをふわふわのオムレツが包む…美味しそうだろう?」
「マスター、迅速に済ませましょう。早く食べたくなりました」
「ははっ、そうか。平和になってから更に食いしん坊になったな?」
「マスターの料理は美味しいですから。食べれるのであれば、永遠に食べていたいです」
「それは流石に私が保たないから、勘弁してほしいな…」
私は持久力というのがあまりないのだ。
さて。買い物を終え、帰宅もした訳だし、さっそく取り掛かると致そうか。
まず、材料のおさらいから。
必要な材料は米が二合、むきエビを約200g、玉ねぎを1/4個、にんじんを1/3本、ピーマンを一個とマッシュルームを50g。
みりん、コンソメ顆粒、鶏ガラスープの素、水、バター、塩コショウだ。
ではまず、玉ねぎ、にんじん、ピーマンをみじん切りにする。マッシュルームは汁気を切る様にしよう。
米は洗ってザルにあげてから炊飯器の内釜に入れ、そこにみりん大さじ2、コンソメ顆粒大さじ1、鶏ガラスープの素大さじ1/2を加える。
無洗米の場合も水を含ませるから、同様に進めた方が良いかもしれない。
そして、水250㎖を加えて混ぜる。
混ぜ終えたら、切り終えた玉ねぎやにんじん、マッシュルーム、むきえびは凍ったままで入れて、炊き込みモードで炊飯する。
炊き終わるまでに時間があるし、この間にオムレツを済ませても良いが…炊き終えて混ぜた後にも一手間あるので、それを終えてからにするか。
「マスター、気になった事があるのですが」
「どうした?」
「遠野志貴は、何故ディノスではないのですか?」
「ぶふっ」
唐突のその問いに、私はつい吹き出してしまった。
そうかそうか。異聞帯のORTである彼女にとって、遠野志貴―――もとい、その異聞帯において本体の彼女に死を与えた最後の恐竜人類、テペウは印象に残る相手だったか。
まぁ、ジュラシック月姫なんて呼ばれてたからなぁ…ORTがそこを勘違いするのも無理はない。
何より、直死の魔眼なんて持ってる人間は本当に数少ないのだ。原作を見る限りだと、持っているのは志貴と両儀式くらいなものだし。
「彼はテペウじゃないからな。正確には別人だ」
「…そうなのですか? しかし、魂の定形は明らかに同じでした」
「人はそういうものだ。必ず何処かで、誰かと繋がりがある。テペウの場合は逆だ、遠野志貴がテペウに似ていたのではなく、テペウが遠野志貴に似通っていたんだ。どことなく似ている、程度だがね」
だが、あれはとても感動すべき出来事だった。
あのテペウの行動に…否、あのディノス達の、ミクトランに生きる全ての生物達の行動に、私は感動せざるを得なかった。
生きる事に消極的で、特別に興味がなくて、世界が滅びる事を受け入れて何もしなかった彼らが行動を起こした。
皆が無惨に散った。だが、最期まで抗い続けるその姿は、本来在るべきものとは違うけれども、確かに『人理』を生きる者達に相応しいまのだった。
星詠みのテペウ。彼の一撃によって、ORTの命は削り切られた。最期の決戦へと、彼が持ち込んでくれたのだ。
ラストアークのBGMやSEが使われた事もそうだが、あのストーリーは実に素晴らしいものだった。生きている内にあれのアニメを見る事が出来なかったのが、実に残念だ。
大号泣待ったなしだっただろうな、きっと。
「ん、そろそろか。あと少しで出来上がるから、座って待っていてくれ」
「はい、マスター」
炊き込みが終わったら、ピーマンとバターを入れ混ぜ、蓋をしてから保温を切る。そしてそのまま15分おく。
先も言った一手間とはこれの事だ。15分という時間が掛かるので、オムレツを作るならこの15分を使った方が良い。
卵をボールに割り、箸を使ってよく溶かす。溶かし終えたら其処に牛乳、マヨネーズを加えてよく混ぜる。
混ぜ終えたそれを、火を掛けたフライパンにバターを入れ、溶ける前に弱火にして卵液を入れ込む。
弱火ではあるが、不思議な事に卵はそれでも簡単に固まり始める。だから5秒程度経ったら、菜箸でフライパンのふちから中心の方へ大きくグルグル混ぜる。スクランブルエッグを作るイメージを浮かべるのも良いだろう。
このまま何もしなくても良いが、フライパンを前後に動かすと今以上にふわふわになるからオススメだ。
混ぜるのは10秒程度。混ぜ終えたら、触らずにまた10秒待つ。
火から下ろし、菜箸を使って卵の縁をフライパンから剥がす。
そして、皿に盛り付けたピラフの上をそれを乗せ、ナイフで切って開けば―――完成。
「よし、これで完成。出来上がったぞ、ORT」
「ありがとうございます、マスター」
「気にするな。さぁ、食べよう」
「はい―――いただきます」
「いただきます」
手に取ったスプーンを、オムライスに包まれたピラフへと入れ込む。
湯気が漂い、鼻から入り込み食欲を唆らせる刺激のある臭いに従うまま、ORTは掬ったそれを小さな口へと運ぶ。
オムレツの甘い味と、ピラフに入ったエビやコショウといった美味が溶け合い、彼女の口の中を漂って充満させる。
最高の味が広がり、そのあまりの美味しさに鉄仮面の如き無表情が崩れ、微笑む様な優しい小さな笑みが顕になる。
そして、一言。
「美味しい」
その一言だけで、私は腹一杯になるというものだ。
良かったよ、と言う様に私もピラフを口へと運ぶ。
うん―――美味しい。やはり食卓は、誰かと一緒に食べるに限る。
こういう幸せが、一番良いな。