ORTさんちの今日のご飯   作:全智一皆

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第二話「英国式朝食の昼食」

 

■  ■

 吾輩は休日を謳歌するマスターである。名前など無い。

 季節が春に入り、寒さが若干薄れて日の暖かさに眠気が勢いを増すこの日は、私が営んでいる何でも屋も休業である。

 というのも、最近は依頼も増えて私の仕事が多くなっていた。実に嬉しい事だ、有名になればなる程に得られるお金も多くなる。お金が増えればORTの食費に困らない。大変素晴らしい事だ。

 まぁ、仕事が増えれば当然の様に自由な時間も減るが、それは仕方ない事だと受け入れていた。労働者とは元来そういうものだ。寧ろ私の様な何でも屋は、自由な時間など本来ならば有ってない様なものだろう。

 そんなこんなで頑張っていると、ORTを含めた色々な方々に頑張り過ぎではないか、と心配されてしまったのだ。

 私としては、そこまで根を詰めていたつもりはなかったのだが、周りの人達にはそう見えていたのだろう。

 私が無理をすれば、贔屓してくれている人達やORTにも迷惑を掛けてしまう。それは避けたかったので、しっかりと休む事にした。

 

 しかし、まぁ、私が営む店の名前が売れている事は個人的に嬉しい。今日まで頑張ってきた甲斐があるというものだ。

 ORTが仕事を手伝ってくれる様になったのも、きっと名が売れた事に関連しているのだろう。ORTの写真を取りに来る人達も何人か居たのが、何よりの証拠だ。

 内心では、危ない人が来たらどうしようかと怖がっているのはご愛嬌。勿論、ORTではなくその危ない人の心配だ。下手をすれば間違いなく死ぬ。また争い事に巻き込まれるのは勘弁なのだ。

 

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

 今日は、久々の休日である。

 

「……暇だな」

「暇」

 

 ベッドに倒れる私がそう言うと、私の方を向いて寝転んでいるORTが鸚鵡返しをする。

 休日とは言うものの、今思い返せば1ヶ月は休まず働いていたのもあって、何をすれば良いのかを完全に忘れてしまっている。

 いかんな、これは本格的に不味い。ワーカーホリック以外の何者でもないぞ私。

 

「マスターは、無趣味なのですか?」

「いや、無趣味という訳ではない……と思うが………ううむ」

 

 聞かれて否定しようとするが、言い淀んでしまった自分に困ってしまう。

 確かに、そうかもしれない。実際に指摘されて考えてみると、私には趣味といった趣味が特に無いなと思い出す。

 本を読む事もそこまでなく、しかしゲームをするかと言えばそうでもない。基本的に、働き続けていたから趣味がないのだ。

 ……これ、本当にワーカーホリックでは?

 

「ORTは、何か趣味は見つかったか?」

 

 話を逸らす為、私はORTにそう尋ねた。

 彼女と出会ってから、それなりの月日が経った。しかし、一緒に暮らしているものの未だ彼女が趣味らしいものに走っている姿を見た事がない。

 

「見つけました」

「マジか」

 

 まさかの事実だ。ORTに趣味が出来ていた。

 あのORTに趣味か……何とも感慨深いな。とても喜ばしく、とても嬉しい事だ。

 

「マスターと食事をする事です」

「それは……趣味と言っていいのか?」

「楽しみとして愛好する事柄。それを意味するのが趣味であるならば、私にとっての趣味はマスターとの食事です」

「そ、そうか。ありがとう」

 

 無表情ながら、何処かドヤっとしている様な雰囲気ではっきりと言う彼女。実に可愛らしい。

 そうもはっきり言われると私も照れくさいが、素直に感謝しておく。自分のサーヴァントからマスターと食事する事が楽しいと言ってもらえるのであれば、マスター冥利に尽きるというものだ。

 料理を作る側としても、かなり嬉しい言葉だ。しかし、そう言われると……私の趣味は、料理になるのだろうか。

 ORTに料理を作る事。それが、私の趣味だとすると―――うん、納得出来るな。自分でも驚くぐらいにしっくりと来る。

 

「…うん、そうだな。私も、ついさっき趣味を見つけた」

「ついさっきですか?」

「あぁ。料理が趣味だな、君に料理を出すのは楽しい」

「料理…マスターらしいです」

「そうか?」

「はい」

 

 私らしい、か。自分ではよく分からないが、きっと1番私を見てきたであろう彼女がそう言うのならば、間違いないだろう。

 そうやって語らい合って、時間は過ぎていき―――ORTがとある事に気付いた。

 

「マスター、大変です」

「どうした?」

「お昼になってしまいました。朝食も食べていないのに」

「あぁ、もうそんな時間か……あっという間だな」

「マスター」

 

 くいくいと袖を引っ張られ、つい小さく吹き出してしまう。

 分かりやすい子だ。そんな目で見ずとも、しっかり用意するとも。私もお腹が減った。

 

「分かった、では昼食にしよう。期待して待ってなさい」

「はい。楽しみに待っています」

 

 そう言われて、張り切らない料理人は居ない。さぁ、頑張って作ると致しましょうか。

 ベッドから起き上がり、キッチンへと向かって食材を確認する。

 

「朝食も摂っていなかった事だし、少し多めでも問題はないだろうが……。さて、何を作ったものだろう」

 

 冷蔵庫にはソーセージやベーコンなどの肉類が多く、卵は残り数個と言った所。野菜室にはまだ使っていないトマトがある。

 レンジの上には買ったばかりの食パン。油は残っている。

 そういえば、昨日は業務スーパーで色々と衝動買いをしたなと思い出し、キッチンを探してみるとベイクドビーンズがあった。

 ……よし。

 

「昼食だが、イングリッシュ・ブレックファーストを作ろう」

 

 イングリッシュ・ブレックファースト。その名前の通り『英国の朝食』の事であり、ベーコンに目玉焼き、ベイクドビーンズ、マッシュルーム、トマトにトーストなどの食材を一つの皿に盛り付けた豪華な朝食だ。

 あれなら十分に腹も膨れるだろう。まぁ、ORTの場合はかなり食べるだろうが。

 そうと決まれば、早速調理を開始するとしよう。私はエプロンを身に着けて、準備を進めて調理に挑む。

 

 まずはフライパンに少量の油を引き、その上にソーセージとベーコンを乗せてこんがりと焼き色が付くまで焼く。大きさは自由だが、ソーセージは大きい方が良いだろう。見栄えも良いし、腹も溜まる。

 そうして焼いている間に、洗ったトマトとマッシュルームを各々カットする。マッシュルームは縦半分、トマトは横半分が好ましい。

 この後はベーコンとソーセージに隙間を開け、その隙間にトマトとマッシュルームを投入して焼く。

 こうすると時間短縮にもなるし、ベーコンやソーセージの油でトマトとマッシュルームにも味付けが効いて、調味料を付け足さずともしっかりとした良い味になる。

 全て焼き終えたら皿に移し、フライパンの油を拭いてベイクドビーンズを入れて焼く。市販されているベイクドビーンズは味付けがされているので、開封して直ぐにでも食べられる。だが、鍋や電子レンジで温めた方が美味しくなるので、どうせなら温める事を私はオススメする。

 ベイクドビーンズを温め終えたら皿に移し、しっかりとベイクドビーンズの汁は吹いてからフライパンに卵を割って投入し、目玉焼きを作る。一気に2つくらい入れても問題無いが、入れ過ぎには注意だ。

 数分くらいして目玉焼きが完成したら、目玉焼きを皿に移し、フライパンに油を追加して其処でパンを揚げる。

 ベーコンやソーセージなどを焼いてる間にレンジで焼くのが基本だが、これに関しては私が個人的に揚げたパンの方が好きだからだ。真似する必要はないので、皆が好きなように焼こう。

 全てを終えたら、後はパンやベーコンに味付けをしたりして、良い具合に皿に盛り付ければ―――完成だ。

 

「よし、出来たぞ」

「…!」

 

 大きな白い皿に盛り付けられた豪華な料理に、ORTは釘付けになっていた。目が輝いている様にも見える。

 私が作ってきた料理の中でも、かなり盛り付けた品だ。基本的に多く盛り付ける事はしないのだが、これがイギリスの朝食だ。こうして見ると、派手な盛り付けも中々良いなと思う。

 

「さて。それじゃ、いただきます」

「いただきます」

 

 配ったフォークとナイフを手に取り、太いソーセージを斜めに切ってそれを口へと運ぶ。

 ぱきっ、と良い音が鳴ると共に熱い肉汁が解放され、口の中で暴れ出す。やはりソーセージはこれだ、他の肉とはまた違った美味さがある。これだから辞められん。

 歯応えも良いし、味付けも丁度良い。しっかりと調理出来た様で何よりだ。

 

「……!!」

 

 ORTの方も、目を見開いてよく噛んで味わっている。美味しそうに頬張っている姿を見ると、やはり娘の様で可愛らしいと思う。

 トーストも、ベイクドビーンズと一緒に食べるとより美味しい。これならマーガリンを塗っても良いかもしれないな。

 

「マスター、今日も美味しいです」

「そうか、なら良かったよ。食材は余ってるから、遠慮なくおかわりして良いぞ」

「はい。では、さっそく」

「流石に早過ぎじゃないか…!?」

 

 さっきまでゆっくり味わってただろ…!? さっきの一瞬で食べ切ったのか?

 我がサーヴァントながら、凄いな。これは騎士王にも負けない。流石はアルテミット・ワンである。

 しかし、まぁ……こうして彼女が幸せそうに美味しく食べている姿を見れるのだから、それは些細な事だろう。

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