飲めば透明人間になれる秘密のエッチな飲み薬、気が付けば異世界で巨乳剣士が目の前に!?~天才科学者と呼ばれたこの私が女剣士の召使を始めたら~   作:でぃくし

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その呪いの名は『約束』

「…………?」

 

固い何かがぶつかり合った音が聞こえたまま、いつまで経っても刃は私の頭上に落ちてこなかった。不思議に思って目を開けると、手足を失っていたはずのミチェリが立ち上がり、カリエンテの魔剣を素手で受け止めていたのだ。

 

「……」

 

カリエンテは信じられないものを見るような目で彼女を見ている。

一方でミチェリも自分の体の変化に戸惑っている様子だった。

 

「……何なのこれ」

 

ミチェリの手は異形のものへと変化していた。

 

まるで魚と虫が混ざり合ったかのような不気味な腕だ。グッピーを尾びれを思わせる青くグラス模様の入った巨大なひれが、きらめきながら風に吹かれ、そよそよと揺れている。

 

そして、その鉤爪の生えた手は、まるで燃え上がるようにその形状を変化させるラ・フエンテ・デ・サングレの血の刃に焼かれ、切り刻まれながらも、すぐさま再生し、徐々に押し返していく。

 

下半身の変化はさらに顕著だった。

 

斑のある薄い長い背びれが二枚、彼女の腰から突き出している。

その下の蚊のそれによく似た斑点の入った巨大な腹部は、青い鱗と無数の黒い棘で覆われており、先端が鋭く尖った節の目立つ足が四本生えていた。

 

「何が起こってるんだ?!お前は……お前は一体何なんだ!?」

 

カリエンテの顔からはすっかり余裕が消え失せている。

彼女は雄叫び上げながら全力でミチェリの腕を押し戻そうとするが、ミチェリの手に握られたラ・フエンテ・デ・サングレは微動だにしなかった。

 

「魔女」

 

ミチェリは事も無げに答えると、そっと腕を押し込む。

その途端、カリエンテの足元で土煙が巻き上がり、彼女の体は凄まじい勢いで地面に叩きつけられていた。

 

「ぐっ、があっ!?」

 

カリエンテは背中を打ち付けて倒れ込む。

私は慌てて彼女を助け起こそうとしたが、カリエンテに睨まれてしまった。

仕方がない。彼女が怒るのは当たり前だ。

 

カリエンテは今の叩きつけられた衝撃で脱臼したのか、右腕をだらんとぶら下げたまま、左手だけでラ・フエンテ・デ・サングレを構えていた。

それでも、彼女は諦めることなく必死に反撃の手段を講じているようだった。

 

だが、ミチェリの方はカリエンテにもはや興味を失っているのか、奇妙に変化した自分の体をぼんやりと見つめていた。

 

「……お姉ちゃんの嘘つき」

 

ミチェリがぽつりと呟いたその言葉に、カリエンテは一瞬呆気に取られた表情を浮かべる。しかし、すぐに気を取り直し、再びミチェリに斬りかかろうとして──……その動きを止めた。

 

「…………」

 

カリエンテが石像のように硬直したまま静止している。

彼女の体は空気中に貼りつけられたかのごとく宙に浮かんだままピクリとも動かなかった。

 

その表情には怯えもなければ驚きもなく、ただ純粋な闘争心だけがあり、それ故に何が起きているか一切わからないままに停止しているように見えた。

 

ミチェリはそんなカリエンテに対し何を言うわけでもなく、まるで宙を泳ぐかのようにひれを風に揺らしながら、ゆったりと私に近づいてくる。

私は動けなかった。もちろん、カリエンテのように停止させられていたからではない。

 

恐怖もあったが、何が起きるかを見届けなければならないと思ったからだ。

ミチェリは私の前で立ち止まる。

 

「ねえ、おじいちゃま、私……」

「ミチェリお嬢様……」

 

「……あのね。お願いがあるの」

 

「お願い……ですか。も、もちろんです……この爺に出来ることであれば、どうぞなんなりと……」

 

「や、やめろ……アズマーキラ……耳を貸すな……」

 

地面に倒れ伏していた老人が苦悶の表情を上げ、喉から搾り出すような声を出す。

しかし、私はミチェリの言葉に耳を傾けることに決めていた。この子がどんな願いを口にしようとも、私の答えは決まっているのだ。

 

ミチェリは少し悲しそうに微笑んでから、私に語りかける。

 

「……お薬はまだある?」

「??お薬……ですか?」

 

「うん、透明になれるお薬」

「……」

 

「だってこんな姿、見てられないでしょ?」

「……」

 

「ねえ、お願い」

「い、いえ、あの……私は……今の、ミチェリお嬢様の……お姿も、う、美しいと……思います……」

 

「「…………」」

 

私は正直に思ったことを言ったつもりだったが、ミチェリは困ったような顔をするだけだった。

 

「ねえ……」

「はい……」

 

「私の気持ちはどうだっていいの?」

「い、いえ、そのようなことは決して!ご不快な思いをさせてしまったのであれば、申し訳ございません……で、でも、でも!」

 

「……」

「でも、私には他に言い方がないんです!どんな見た目だっていいんです!生きて!あなたに生きていて欲しいのです!」

 

ミチェリは私の言葉を吟味するように考え込んでいたが、やがて小さくため息をつくと静かに口を開く。

 

「おじいちゃまって本当にひどい顔……」

「え!?はは……すみません……汚いですよね……こんなの……」

 

「私のせいで殴られたり、蹴られたり……」

「い、いえ……お嬢様のためならこれしきのこと……は、はは」

 

「……でもこんな体で私に生きろだなんて、おじいちゃまって本当は自分のことしか考えてないんでしょ」

「……」

 

「……でも……でもね。それでもね。おじいちゃまが生きてて欲しいって言うなら……しょうがないなあって思っちゃうの。だって、私もおじいちゃまと約束しちゃったから」

 

そう言って笑う彼女の目は潤んでいるように見えた。そして、鉤爪のついた手をこちらに向けると、まるで催眠術をかけるかのようにぐるぐると回す。

 

「だから、私はそんな悪いおじいちゃまに呪いをかけちゃう。それでいい?」

「えっ!?あっ、はい!いいです!はい!どうぞ!カエルでも馬車でもなんでも好きに変えちゃってください!」

 

「ちょっと、おじいちゃま!真面目にやってちょうだいよ。私の一生をかけた呪いなんだよ?」

「……は、はい、申し訳ありません……ミチェリお嬢様……」

 

私は目を閉じて、ミチェリの言葉を待った。

 

「……必ず私を別の世界に連れて行くこと」

 

「は……はい……もちろんでございます……」

 

「絶対に途中で投げ出したりしないこと」

 

「は、はい……い、命に代えても……成し遂げて見せます……」

 

「じゃあ、約束」

 

「はい、約束です……絶対に守ります!絶対に……必ず!」

 

私が胸を張って答えると、ミチェリは笑顔を見せてくれた。それはまるで花が咲くように可憐な笑みだった。

 

「大切にしてね」

「えっ!?あっ……はい……」

 

その言葉に思わず目を開けた瞬間、ミチェリの全身はまるでガラス細工が砕けるように粉々になって弾け飛んだ。

 

「ミ、ミチェリ……お嬢さ……」

 

彼女の声がまだ耳に残っているのに、もうミチェリはどこにもいなかった。

頭がおかしくなりそうだった。

 

「うあぁ!!うわぁあぁ……!」

 

ミチェリの小さな破片が風に乗って私の体を通り抜けていく。私は必死に手を伸ばしたが、何も掴むことはできなかった。

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