今日も今日とて戦場なり。
オレたち忍は一族ごとに暮らし、国から依頼を受け、さまざまな仕事をこなす。一戦力として戦場に駆り出されることもあれば、大名の相手やら名家のお嬢様の愛玩動物を探すこともある。
今は戦争中……というかオレが生まれる前からずっと戦争中だから、戦える者は戦へ行く。うちは一族では基礎的な戦闘訓練をクリアして、分身と少しの火遁が使えれば初陣。一族の年上の子どもたちを見るに、どうやら7歳前後で忍として使われるらしい。
「失礼。カナタ様は優秀でいらっしゃいますのに、なぜ8歳の初陣であったので?」
「よく聞かれます。実は7つの頃に長く病をこじらせてしまいまして、お恥ずかしい限りです」
「まあ、今はお身体の方は……」
「長引きましたが、今はこのように。戦場に立つのを許される身となりました」
オレに兄弟はいない。兄も弟も、姉も妹も。現族長の唯一の息子ということもあってか大事をとって初陣を遅らせたという。早めに父と母には弟をつくっていただきたい。
同い年や一つ下の世代の中には、すでに散った者もいるのに。世間話ひとつで気が沈む。その程度の差で、オレは生かされていた。
オレの前世では戦いで命が吹き飛ぶ事象に縁がなく、創作物か海外のことだと思っていた。事故だったとしても小さい子どもが亡くなるニュースには心が痛むのに、ここでは泣く暇もないほど加速的に産まれては消えていく。
そういうものと慣れるしかなくとも、やはり納得いかないことであった。
「今日も、相手は千手ですか」
「そうだ。これからも戦う相手よ。奴らの戦い方をよく覚えて対応しろ」
うちは一族は、忍の中でも1、2を争う優秀な戦闘集団だ。故に高難易度の依頼が回され、大名は強兵として使いたがる。
その我々に対抗できるのは千手一族だけ。向こうがうちはを雇ったと聞けばこちらは千手を雇い、あちらが千手を雇ったと聞けばうちはがその逆へ雇われる。
自然と互いが顔を合わせる戦場は増え、殺し合い、憎しみ合う。そういう関係だった。
うちはと千手の祖は元は兄弟であり、そのさらに祖たる六道仙人の跡継ぎ争いを始めた。この関係はその延長とも言える。……利害感情が含まれるようになったが。潔く弟に跡目を譲れなかったのか、インドラ兄様よ?
ざわりざわり。
お前はオレの弟ではないとばかりに心がさざめいた。オレだってお前みたいな子々孫々に迷惑かけてる野郎が兄なぞごめんだね。挙げ句の果てにオレに取り憑いて! 不機嫌なのはオレの方だ。
本当ならオレたち子孫が殺し合う必要はないはずなのだ。しかしこちらが「千手が正当な後継者です」と表明して片付く段階ではすでにない。悲しみと憎しみが積み重なりすぎた。
ここから先はどれだけ積み重なっても、取り返しがつかないのは変わらない。だからさっさとお互いが負の感情を飲み込んでハイ終わり、で
嫌いなやつと関わるからイライラするのに。物理的にできない理由があるなら国すら滅ぼしてしまえ。まあ、今のオレには不可能で意味のない妄想だが。
余計なことは考えず、「あいつ」と戦おう。
「……で……」
「なら…………は……?」
索敵すれば簡単に「あいつ」は見つかった。数は3。チャクラを抑えるのはあまり得意ではないのだろうか。推定年齢的にオレよりも場数は踏んでるはずだが、少しポンコツなのかもしれない。オレに負けたし。
またも心がざわめく。インドラうるさい。
いきなりは仕掛けず罠を周りに仕掛けよう。起爆札を糸で張り巡らせる。
……あ、やはりあちらも罠を仕掛けていたか。でなければ悠長に開けた場所で会話するはずもない。鳴子が鳴らぬようこちらの罠を張る。
千手は森の千手というだけあって、森林での戦い方に秀でている。地の利は必ず千手にあると思ってよい。が、逆にその自信を打ち砕く作戦もまたある。
「父上」
「出来たか。では仕掛ける」
同行していた部隊が奴らの真上にクナイの雨を降らせる。
「!」
「!?」
「あいつ」は驚いた顔で見上げ、隣の千手が抱えて横へ逃げようとする。隙を与えぬようタイミングを合わせて、罠を起動。
ドゴォォンッ! 起爆札の景気の良い爆発がやつらを包む。しかしその直後鳴子のカラカラとした音が近辺からけたたましく響いた。オレたちは触っていない。つまり。
「わざと鳴らしたか」
「ここが本隊と気づいていたか?」
これはメタ読みというやつだろうか。今回目的の暗殺対象へ辿り着くためのルートはいくつかあり、「今のうちは一族ならここを通る」「しかし他のルートも有効かつ手薄には出来ない」「進行上に千手がいたら始末しようとする」と考えていたようだ。
罠は回避されやすい殺傷力の高いものではなく、待機組を一手に集中させられる警報。こういう手もあるのか。
「奴らは無視して先を行く」
「はい、頭領」
「カナタ、惜しいだろうが今は気にするな」
起爆札を抜けた「あいつ」は脱兎のごとく。目で追っていたことを咎められる。……今、無意識だったな。たるんでいる。
とにかく迅速に目的達成する。さっさと終われば人的被害も抑えられるのだから。
忍の足であれば大した時間はかからない。目標は火の国でも上から数えた方が早い良家の当主殿である。うちはの雇い主はなりふり構えないようだ。
最悪成功報酬を貰えるタイミングが無い仕事。しかしうちは一族の信用のために結果は出す必要有り。こちらもなりふり構えないらしい。
炎の扱いに長けるうちはが火の車とは、全く笑えない。
さて、一直線に終わらせる作戦であるが、当然まだ妨害は続くはずだ。なにもしないうちに逃げるわけがない。父上も部下たちも理解している。
オレと父上のいるこの小隊が本隊であるが、始末が済むなら他の部隊が達成してしまってもよい。当然他が陽動でオレたちが本命だが。
ぐだぐだとぬかす内に目標の城へ到達する。見張りを幻術にかけるが情報はなし。目的の部屋へのクリアリング、偽装された部屋。千手のチャクラを確認。戦闘、終了。
散開して他の部屋の主の、チャクラと顔面を確認していく。三人目でオレが引き当てた。
写輪眼で対象を確認。眠っている……よし。
即殺。
「グゥッ……」
「……
「まことか。……たしかに、対象沈黙。よくぞ成功させた。各位、帰還する!」
人殺しを褒められるのも慣れたものだ。違和感はずっとあるのに、なにも感じないよう努めるのは忍術の扱いよりも上手くなったような気がする。
とにかくこんな大したことのない仕事で死人なぞ出したくもない。相手が千手で森の只中。帰りが一番恐ろしい。
写輪眼は物を透かして見れやしないが感知できれば問題ない。……だから今回の総力であろう千手が帰路を塞いでいるのもわかっていた。他の部隊はうまく中心地からは離脱できたようだ。遠くでこちらを様子見する視線を感じる。
両者すぐに金属音を響かせると思って構えていたのに、
「フン、もうすこし潔癖な一族と思っていたのだが……こんなしょうもない戦場で会敵することになろうとは」
「……そちらにも依頼されていた仕事だろう。お互い舐められたものだな」
「……貴様らも不本意と来たか」
「ふむ、お前たちの方も高潔とは言えぬと」
千手もうちはの対抗に選ばれたものの、今回の仕事にさほど旨味があるわけではないのだろうか。そう解釈する。
オレも多少は国内情勢を学んでいるものの知らない事情の方が多く、またその事情もすぐに移ろいゆくものだから、父の返し全ては理解できない。
「かと言って我ら千手の名にかけて……貴様らを逃す選択は無い」
「同感だ」
オレは物申したいんですがね〜〜。
言いだろうがたまには停戦しても。
話を切り上げた瞬間鍔迫り合う父。鉄の打ち合う音が耳に届くより先にオレは控えていた『あいつ』へクナイを投げた。ほぼ反射だったが『あいつ』も鏡合わせのようにオレにクナイを飛ばした。
互いに数は同じの小隊。他の味方もマンツーマンで相手取っている。
クナイ同士がぶつかると同時に互いへ追撃の忍術を撃ち出す。今日こそは勝てるだろうかという思考が湧く。
……しかし今回は父より「被害を抑えて完遂するのが最優先」だと聞いていた。オレはそこそこ優秀なのでちゃんと覚えている。
『あいつ』が火遁でオレが水遁。オレを睨んでいた目が見開かれる。
水蒸気で目を塞がぬよう、風を利用されぬよう慎重に性質を選んだようだ。学習できてえらいなァ。今回は失敗したがおまえは学びを得て成長しているぞ。
そしておまえが五大性質変化をほぼ使えたことに、オレもかなり驚いているぞ。は? 全然ポンコツじゃないじゃないか、こいつ。
瞬間的に周囲に水の粒が散布される。
少々動揺しつつも視界が塞がった事で、写輪眼を持つうちはは機会を逃さず各々散って離脱。オレももちろん離脱。『あいつ』を負かすためだけに残るのは流石に無謀というもの。
「ッ、逃げるか!」
「……!」
見えなくともオレの方へ手裏剣を投げてきた。怒りに身を任せた攻撃など子どもでも避けられるぞ、未熟者め。しかし反応と対応でやや仲間の離脱スピードに遅れを取ったのは事実。千手のやる気がもっとあったら死んでたかもしれない。
気を引き締めていこう。
性質変化って念より融通効く気がする