それでは、どうぞ( ^-^)_旦~
闘技場内のライトが全て消えた。
一分も経たないうちに、闘技場内の天井に設置されている、複数の巨大モニターの電源が入り映像を映し出す。
映し出されたのは1人の男、二十代半ばぐらいで、青い髪にサングラスをつけ、ノーネクタイにグレーのスラックスを履いている。
モニターに映し出された男は、左手に持つマイクを口元まで、持って行き、
声を張り上げる。
『皆様大変長らく、お待たせ致しました。
これよりマーズファイト東京7区闘技場での、初ファイトを始めたいとぉ〜
思いまーす』
両手を広げながら、男は興行の開催を告げる。
それを聞いた瞬間、観客達がどよめく
『本日、この闘技場では初の興行のため、3試合しかありません。
しかしご安心ください、試合数の少なさは、試合の質と、配当金の高さで補わせてもらいます。
今日の良き日に対し、オーナーより
見事当てたお客様には、当たった金額から1,5倍の金額をお支払いさせて頂くとのことです』
そこで、映像が切り替わり、豪華なソファーに深々と座り、葉巻を吹かす
肥満体の男が映る。
年齢は、四十代ぐらいか、肥満のせいで、腹に贅肉があり、顔はむくんでいるかのように、膨れている。
だがその目は鋭く、油断ならない感じを醸(かも)し出している。
ゆったりとジンベエを着ている、その男こそ、マーズファイトのオーナーである、荻窪行徳(おぎくぼゆきのり)
その人である。
親しい者達の中には、音読みして
ぎょうとくと呼ばれる事もある。
今年45歳を迎えるこの男は、マーズファイト創業者、風神率王の信頼厚く、彼の息子総司と共に、このマーズファイトのオーナーになっている。
ただ総司はUNASAの仕事があるため
あまり姿を表さないので、一部の客を
除いて、オーナーは荻窪だけだと思われている。
モニターに映った荻窪は、ソファーに
腰を沈めたまま、ニコリと笑い、話し出す。
『皆様今宵のマーズファイトにお集まり頂きありがとうございます』
座ったままだが、深く頭を下げ荻窪は一礼する。
『皆様のおかげを持ちまして、このマーズファイトも今では、日本だけでなく、アメリカやローマ、そして2ヶ月前には、MO手術を作り出した、最先端技術を持つ、ドイツでの興行も、行う事が出来ました』
目の前のテーブルに乗せている、ワイングラスを掲げ、その中味を荻窪は飲み干す
『失礼喋っていると口が乾きまして……この東京7区闘技場は、国内では7つ目になる、マーズファイト専用の秘密闘技場です。
ここはほんの三週間前までは、東京に潜む亜人種、喰種が会員制のレストランを開き、人を喰っていました。
皆様の見下ろす闘技場には、人の血が
無念が、はたまた怒りが、染み込んでいます。
人外の化け物との戦いを見せ物とする
我が興行に相応しいと思い、ここを買い取りました。
まぁそれだけではなく、破格の安値で
売っていたと言う理由もありますが』
くくっと、頬の肉をうごめかせながら、荻窪は冗談混じりに笑う。
『実況の、青山君が言った通り、
本日の試合は質にこだわりました。
全て高ランク試合、第一試合には
Aランク闘士を、第2試合には
Sランク闘士を、そして最終第3試合には特別な装備を持たせた闘士が登場いたします』
すると今まで座っていた、荻窪が億劫そうに立ち上がり、両手を大きく広げる。
『それでは皆様、血は肉踊る、
人外の戦いに酔いしれてくださぁーい』
荻窪が言い終わると同時に画面が切り替わり、荻窪が青山と呼んだ、実況が
再度映し出される。
『荻窪オーナーありがとうございました。
それでは、第一試合、両選手の入場です』
青山が言い終わるのに、合わせて
スポットライトが、1つの入り口を照らす。
『はじめに、A級闘士、サトル
ロックフィル・峰崎の入場で〜す』
スピーカーから、ベートーベンの第九が流れだし、スポットライトが人影を照らす。
人影は漆黒の体に、頭に触角のようなものが生えており、左手に何か大きなモノを持っている。
大きさは、旅行に使うキャリーケースより、もう少し大きめで赤い液体を人滴らせている。
やがて、黒い人影はゆっくりと歩き、
スポットライトを浴びその姿を現すと
「じょうじ!!」
奇怪な叫び声を上げ、左手に持っているものを、高々と持ち上げる。
観客達は光に映ったそれの、正体に気づくと、悲鳴を上げる。
黒い人影が持っていたのは、もの言わぬ骸、正確には今日第一試合を戦うはずだった、サトル・ロックフィル峰崎の千切れた上半身だけの死体だった。
『これは……そんなテラフォーマー達は特別に隔離して見張りもいるはず、まさか見張りもやられ、壊されたとでも言うのか?』
実況の青山が、頭を抱え込んでうずくまる。
青山だけではない。
観客達も、テラフォーマーの恐ろしさを知っているため、恐怖に駆られる。
闘技場内は悲鳴や、我先に逃げようとする観客達によって大混乱になった。
だが、恐怖の対象は一匹だけではなかった。
テラフォーマーが、現れた入り口から
続々と新たなテラフォーマ達が出てくる。
その数最初に出てきたテラフォーマーと合わせると全部で6体。
皆同じテラフォーマだが、2体だけ
手に武器を持っており、他の四体とは
違う雰囲気を醸し出している。
一匹は、巨大な斧を持っている。
枝の長さが、2メートルあり、その柄の先に、巨大な刃があり、その刃から
人間の血が滴り落ちているのが、更に
恐怖を煽る。
もう1匹は、片手に細いエストックの形をした剣に、縦1メートル、横幅も1メートルの巨大な盾を持っている。
このエストックからも、血が滴り落ちており、この二匹のテラフォーマーが
殺戮を行ったことは、火を見るより明らかだ。
不気味な光を放つ、武器をゴキブリ達は見せびらかすように、振ったり、突いたりする。
「こんなの聞いてねぇぞ」
「あいつら、こっちに来るんじゃないのか?」
「運営は何してるんだ? 早くなんとかしろー」
先の荻窪の挨拶の時は彼を称え、
試合を楽しみにしていた、観客達が
罵詈雑言を撒き散らす。
『そんな、クインケまで、ゴキブリ共の手に……A級闘士もS級闘士も
奴らにヤられたのか』
青山が蒼白な顔になり、握っていた
マイクを捨てると、放送席から、逃げ出した。
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「行徳さんにも困ったものだ、
三週間で興行を開こうとするから、
見落としがある。
優秀な人だが、たまに爪が甘いのが
あの人の厄介な欠点だよ」
VIP専用の最高級観覧室で、闘技場内の
混乱など無縁とばかりに、風神総司は
モニターを見ている。
笑みすら浮かべて、モニターを見るその姿は、はたから見ると余裕すら、窺える。
「とはいえ、どうするんだ兄貴
まさか、観客達を見殺しにするのか?
」
背後から立って、同じモニターの映像を弟の雷(あずま)も覗いている。
「大事な観客達を見殺しになどするか!! 」
総司はそう弟に、断言すると携帯電話をかけ始める。
「もしもし行徳さん。
新しい闘技場の初ファイトがとんだ事になったな」
総司は自分と同じマーズファイトのオーナーである。
荻窪に電話をかけたのだ。
「闘技場内はパニックだ、で生き残った闘士はいないのか?……そうか見張り達も含め全滅か。
行徳さんあんたを護衛してる闘士は
……国内だから、B級2人しか連れてない……B級だと、戦力にならんな」
総司は電話ごしに、皮肉たっぷりに
嘲ける。
「何?、今都内にいる、A級闘士とS級に応援要請したと……残念だが行徳さんそれじゃ間に合わないよ」
電話の向こうの相手に見えないが、やれやれとばかりに、片手を広げる。
事態への対応が遅いのに呆れているのだ。
とはいえ、今回は初ファイト、規模も
いつもより、小さくしている。
トラブルが起こるなど、荻窪はおろか
他の運営員達も想像もしてなかった。
「でも心配はいらない。
行徳さんには、俺が仕事で忙しい分
頑張ってもらってるからな。
ここは俺が頑張らせて貰うよ」
総司はそう言うと、電話を切った。
切る前に携帯からは声が聞こえてきていたが、総司は無視する。
「というわけだ、雷。
俺とお前の2人で、ゴキブリ共を
片づけるぞ、出来れば生け捕りにしたいが駄目なら殺しても構わん」
使い終わった携帯を、胸の内ポケットに入れながら、兄が弟に命じる。
「あのゴキブリが、持ってるクインケは甲赫、相性が悪いなぁ」
モニターの映った、巨大斧を持つテラフォーマーを指差しながら、兄の命令に弟は難色を示す。
「ならば、盾持ちを仕留めろ、俺が
斧使いを仕留める」
「待て待て兄貴、相性は悪いが
勝てないとは、俺は言ってないぜ」
赫眼を光らせながら、弟は兄に
自信に満ちた笑みを浮かべる。
「クインケ持ち二匹は、俺がやる
兄貴は、残りの4匹を頼む」
「良いだろう、素手の4匹は俺が
片付ける、クインケ持ちは任せた」
「任された」
雷はサムズアップを返す。
「久し振りだ、見る方でなく、見せる方になるのは」
腕が鳴ると呟き、総司は首をコキコキと鳴らす。
「そうだった兄貴は、UNASAに就職するまで、ここで闘士して稼いでたんだった」
「R級闘士まで行った、戦績は25勝無敗だった」
「そりゃすげぇ、俺も出ようかって、
出られないんだった」
「心配するな、クインケの導入の次は喰種の参戦を、俺も行徳さんも考えてる」
「そいつは楽しみだ」
持ってきていた、カバンから雷と風と
竜の書かれたマスクを、雷はつける。
雷は数年前まで、二区で大暴れしていたSS級喰種、通り名は、二区の風神
または雷神。
「参戦だけではない。
いずれ数を揃え、雷お前たち喰種には
火星に行ってもらうのが、俺のプランだ」
「俺たち喰種を火星へだと」
突拍子も無いことを、言い出した兄に
弟は、驚く。
「火星のテラフォーマーの力は
地球で作ったクローンテラフォーマーを上回るそうだ。
いかにクインケ持ちとはいえ、これに手こずるようじゃ、火星で骸を晒すはめになるぞ」
驚く弟を、兄は挑発する。
「面白れぇ、兄貴こそ俺を誰と
思ってる、SS級喰種の風神だぜ」
「その意気だ、ではゴキブリ退治と行くか」
総司は締めくくると、観覧室を出ていき、その後ろにぴったりと付いてくる。
2人の兄弟は、ともに獲物を狙う
肉食獣のような、好戦的な笑みを浮かべ、闘技場に向かった。
最後まで読んで頂きありがとうございました(^ー^)