新たにブルーム様、高評価ありがとうございます。
謎の魔方陣の発動により、最愛の少年『南雲ハジメ』が地球から連れ去られてから、トールは彼を捜し出し連れ戻す為に地球を離れ、百にならんとする程の世界を捜索して来たが、ハジメの行方は闇として知れなかった。
「此処も違ったか……次!」
それ故にかトールの口に出した声音には彼女の心情を表すかの様に、苛立ち低く鋭く尖っていた。一つの世界を数時間から十数時間程の時間探索し、ハジメやそのクラスメート達の存在を感知出来なければ直ぐに別の異界へと渡る。今訪れている世界も数時間程探索を行ったが、トールはこの世界でもハジメの存在を感じ取る事が適わず早々に見切りをつけると空間ゲートを展開し、くぐり抜けて行く。
「ハジメさん、待っててくださいね。トールが必ず迎えに行きますから!」
何の手掛かりも無いままに異空間を新たな世界へと向かい翔けるトールは、心のなかでハジメに呼び掛けるのだが、それは改めて決意の程を自らに言い聞かせる。それは一月もの間、彼女の最愛の少年と敬愛するその父母と引き離された故の寂寥と焦燥とを払拭する為。
「次の世界を探して、もしハジメさんが見つからなかったら、一度日本へ戻ってみましょう。もしかしたらあちらで何か新しい手掛かりが見つかっているかもですしね」
地球を発つ際にトールはハジメの両親である愁と菫に対して、直ぐにハジメが見つからなかった場合にでも途中経過を報告する為に、折を見て帰還すると告げていたのだが、一分一秒でも早くハジメの元へと気が急いていた為にそれを失念していたのだった。
「そうと決まればチャチャッと次に行ってみよう!」
気持ちを切り替え、闇に落ちそうになりかけていた精神を前向きに持って行く。ハジメと再会した時に彼には、自分のとびっきりの笑顔を見てもらいたいからと。
そして、トールは当たりを付けていた一つの世界にゲートを開き、その世界へと本来の姿であるドラゴンの姿で通り抜けて顕現する。
しかし。
「エクスプロージョン!」
その世界へと到着した瞬間に強烈な轟音と魔力の収斂と爆散とがトールの身に降り掛かるが、彼女はそれを感じる暇も無く認識の埓外からのソレを、トールは強かに撃ち付けられてしまいその意識を刈り取られてしまったのだった。
その日、アクセルと云う街を拠点として駆け出しの冒険者として活動しているジャージ姿の少年サトウ・カズマと、その相棒であるアークプリーストのアクアは、新たに自分達のパーティーへの加入を希望するアークウィザードの少女めぐみんの力の程を確かめる為に、この世界のこの時期に冬眠から覚め活動を始める割とポピュラーな、初心者でも容易に対応を間違わなければ十分に対処できるモンスターである巨大なカエル、ジャイアントトードの討伐へと意気揚々(カズマ以外は)赴いて来たのだが。
そのめぐみんが標的たるジャイアントトードへと放った筈の爆裂魔法を期せずして食らってしまったドラゴンが、真っ逆さまに轟音と振動とを伴ってその巨体が草原へと墜落してしまう。その恐ろしい現実の一部始終を目撃させられてしまい、サトウカズマは呆然としてそれを眺めていたが、しかしそれは数舜の事。
ハッとカズマは我に返ると、追いつき始めた現状認識にパニックになりそうな精神を必死に抑えながら、隣で自分と同じ様にこの状況に呆けているアクアに声を掛ける。
「な、な、な、な、何でいきなりこんな馬鹿でかいドラゴンが現れんだよ!?此処は初心者の街の筈だろう、アクアッ!?それからめぐみんッ!お前何をトチ狂えば初心者があんなドラゴンに魔法攻撃をブチ当てられんだよっ!?」
オーバーアクション気味に身振り手振りを交えて自分よりは多少はこの世界の事を、詳しく知っていると思われる相棒のアクアに口角泡を飛ばす程の勢いで問う。
このアクセル街で冒険者として登録したその日に判った事だが、このアクアと云う女性は常人ではあり得ない程の途轍もない魔力量を有していながらも、残念な程に知力と幸運値が異常な程に低く、故に行動も行き当たりばったりで考え無しに行動しては、トラブルを引き起こす。この世界でカズマの身に訪れる不運な出来事は大抵の場合アクアがその原因であった。
「そっ、そ、そんなの私にだって解らないわよッ!私だって突然こんな高位のドラゴンが異空間ゲートを開いて現れるなんて、思いもしないわよ!全くッ、こんなのイレギュラー過ぎるにも程があるわよ!それにいくら私の幸運値が低いからって毎回毎回私がハズレを引くって前提で話を進めないでよねッ!!」
カズマと同様にアクアもまた、この突飛な状況を理解している筈も無く、その整った顔立ちはボロボロに崩れてアワアワとアワテフタメキ半泣きでカズマに反論するが、彼女も内心自分の不運っぷりに自覚がある様で必死にそれを否定する。
「カーーッ!!やっぱりお前も自覚してんじゃねぇかよ、自分がトラブルメーカーだってよ。だろうと思ったんだよ俺も。だぁ~ーっ、やっぱ使えねぇなぁ、この!駄女神ッ!それと張本人のめぐみんッ!お前もどうすんだよコレ。今の内になんとかしないと、このドラゴンが目覚めた時にこのままじゃ俺達コイツの餌食になっちまうだろうが!」
カズマからの半ば言い掛かりにも近い言葉にアクアはギャーギャーと騒ぎながら反論しているのたが、カズマはそれを無視してもう一人の仲間、この原因を呼び込んだ主犯であるアークウィザードのめぐみんへと目を向けると。
「フフフっ……決まった……ぅきゅうぅ……」
そのめぐみんは己の放った爆裂魔法が、生命体として遥かに人間を超越する巨大なドラゴンにダメージを与え、撃ち落とすせた事に満足し不敵に北叟笑むのだが、格好をつけた一言を呟くと、まるで糸の切れたマリオネットの様に顔面から草萌ゆる草原へとダイブ……倒れ込んでしまった。
「おいッ!?どうしたんだめぐみんッ!何だか知らないけど、疲れてる所悪いが、さっきの爆裂魔法をもう一発あのドラゴンに食らわしてくれっ!!」
いきなり自分の前でバタリと倒れ込んだめぐみんの様子を多少は気にかけて問い掛けるカズマだが、それ以上にこの状況を脱する為には先のめぐみんが放った爆裂魔法しかないと、彼女にそれを要請するのだが。
「ぁぁ…それなのですがカズマ。私の爆裂魔法は絶大な威力を誇ってはいますが、それ故に消費する魔力も莫大なのです」
力無く横たわったままに、ポツポツとカズマに爆裂魔法についての説明を始める。
「だから……それでどうなんだってんだよ?」
めぐみんの説明にカズマは何やら嫌な予感を感じつつも、その先の説明を促すのだが、何と無くカズマにはこの後の展開が理解出来る気がする。このカズマと云う少年は冴えない風貌ではあるが、地頭が良く機転も利き察しも良かった。
「なので今の私では一発の爆裂魔法で現在持ち合わせている魔力量の全てを消費していまいまして……ですから今私は……一歩も動けないのです。ですからカズマ、逃げるのなら私の事も運んでいただけると、とてもありがたいのですが………」
「ダーーーーッ!!やっぱコイツもアクアと同類かよぉーーッ!いや解ってたよ出会った時から何となくだけどなぁッ!」
両手を両側頭部に当てて首を左右に振りながらの、カズマの絶望の叫びが草原地帯にこだまする。そんなカズマ達が狼狽し痴態を演じる最中に、地に落ちて気を失っていたドラゴンがムクリと身を起こす。二十メートルを超える巨体のドラゴンが身動げば、当然ながらその周辺からはそれに伴う可動音が響き、カズマ達もこれはいよいよ拙い事態が起こるだろうと、悲鳴をあげそうになるのを必死に堪えて無事にこの場から逃走を図る事を考えねばと思うのだがしかし。
『……ハラ…ホロ…ヒレ…ハレホロ……ハジメしゃん……いまトールが迎…に行きましゅ……』
そのドラゴンは、どうやら未だ正気を失っていた様でフラフラと首を揺らしている。どうやらそのドラゴンは脳震盪でも起こしているのか、その口から何やら変な言葉を呟いている。しかもそのドラゴンの正気を失いながら発している言葉は。
この様な話を聞いた事はないだろうか、プロボクサーや引退された元ボクサーの方がインタビューなどで度々語られる事だが。対戦相手が打つと解っているならば、強大な威力のパンチでもまずはグッと堪えて耐える事が出来るが、しかし意識の外から受けてしまったパンチは当然それを警戒も防御態勢も整っていないのだから、然程強力な攻撃でなくとも耐えられず、ダウンやノックアウトを食らってしまうと。
まさに、めぐみんの爆裂魔法を食らってしまったドラゴンの今の状態がソレであった。もし仮にこのドラゴンがめぐみんの爆裂魔法を感知していたならば、それはあっさりと対応されていた事だろう。脱線は此処までとして、話を戻そう。
「えっ!?今のは日本語のネタと名前か?…おいアクア、何でドラゴンが日本語を使ってるんだよ!?」
ドラゴンの口から発せられたその言葉に、カズマは思わずその場に停止してしまった。まさかこの異世界で自分の故郷である日本のお笑いのネタと人の名前らしきものを巨大なドラゴンが口にするのだから、彼がそうなってしまうのもやむ無しか。
「しっ、知らないわよ、私がそんな事知ってるわけないでしょう!」
「なっ、お前なぁ!物知らずにも程があるだろうが。だからお前は駄女神なんだよ!」
そして、問われたアクアもまた、ドラゴンが日本語を口にした事に驚きを露わにするが、やはり彼女がその理由を知る筈も無かろう。そして魔力切れによってマインドダウンしてしまい、うつ伏せ状態で草地に倒れ伏すめぐみんは自分を置いて、カズマとアクアの二人が啀み合う様を何も出来ず聞いているのだが、内心はそんな事よりも一刻も早くこの場から身を隠した方が良いのではないかと思うが、同時に自らの魔法で撃ち落としたドラゴンが呟いた聞いたこともない言語を、カズマとアクアがどうやら理解している様で、この事に対する興味が身のうちから湧いて出てくる。
「あ……あのう、お二人はさっきから何を言っているのでしょうか、私にはあのドラゴンが発した言葉を理解する言葉出来ないのですが、二人はそれを理解していると解釈してもよいのでしょうか?」
なのでめぐみんは、こんな場合だと理解していながらも己の探究心満たす事を優先し、二人にその事を尋ねてみるが。
「ああーっ!また駄女神って言った駄女神ってッ!」
「あぁ言ったさ!何度でも言ってやるよ!この駄女神っ!疫病神ッ!」
喧嘩に夢中で、めぐみんの言葉など聞こえていないかの様に二人は振る舞う。異界から訪れたドラゴンが話す言語を理解できるルーキー冒険者が居る、などと言う事が国中に広まるのはかなりヤバい事になりそうだから、此処は敢えて知らん振りで誤魔化すのが吉かとカズマは短時間で今後の展開を推察し、そう結論を付けわざとやっているのだ。
今日、初めて会ったばかりのめぐみんと今後もパーティーとして共に行動出来るかも、そしてどれ程彼女に信頼を置けるかも未知数なのだから。因みにアクアの方はと言えば、その様な推察など彼女の知力では思いも付かぬ事であり、本気でカズマの発言に憤慨し食って掛かっているだけなのだが。
「あのう……お二人共私の声が聞こえてますか……どうやら聞こえていないようですね。ふむ、でしたら今の質問は後日にでも改めて伺うとして、ならば一つ忠告しておきますけど良いですか?いい加減啀み合いは止めてドラゴンの様子を確認する事をお勧めしますよ。こうしている間にもあのドラゴンの目覚めは刻一刻と迫っていますからね。なのでそろそろ身を隠す手段を見つけましょう。後、私もついでに連れて行って欲しいのですが……」
ワタワタとして言い合い、自分の話を聴いてはくれない二人にめぐみんは、現状の危機を二人に再認識させ動けぬ自分を連れて安全圏へと逃れる事を願い二人に提案する。
「ほへっ!?」
「はっ!?ヤバっ……」
めぐみんのその言葉に漸く現状の危うさを思い出す二人だったが、しかしもう三人にこの場から逃れるだけの時間は完全に失われてしまっている。絶望に染まり青褪めた顔でカズマは、恐る恐るドラゴンの様子を再度確認してみると。
ゆらゆらと揺れていたドラゴンの頭部と首周りのそれが止まり固定され、距離が離れている為にカズマ達からは見えないが、人間で言えば白目を剥いていた状態だった眼球も瞳孔が回復している。
『……此処は誰?私は何処……』
しかし、未だ精神状態は完全回復とまではいかない様で、まだ可笑しなセリフを口走っていた。ゴクリと緊張からつばを飲み込み、カズマはこの現状からの生き残りを掛けて思考を加速させ始める。そして。
「ちくしょうッ!やっぱこれしか思い浮かばねぇッ!!」
自分の隣でワタワタとしているアクアとうつ伏せに倒れ伏すめぐみんの二人の着衣の襟首を引っ掴み、カズマは逃げるのではなく、何故かドラゴンへと向かって駆け出した。
「へっ!?ちょっとなにするのよカズマ!!ちょっ、止めてよね。私の襟首掴んでるどうする気よっ、てかアンタ何処へ行くつもりってまさかそっちは、ギャー!?止めてぇ〜カジュマしゃ〜ん!!」
「ほえっ!?なっ、何のつもりですかカズマ?ちょっと、私の身体を引きずらないで下さいッ!痛いです本当に痛いんです!」
襟首を捕まれたままに、騒ぎまくる二人の叫びを無視してカズマは一直線にドラゴンへと向かう。果たしてカズマが選んだ策とは何か。
『はっ!しまったっ!私とした事が何だか良く解らない理由で昏倒するなんて。くっ……ハジメさんと逢えないからと、不覚……ん!?』
異空間ゲートから新たなる世界へと転移したその瞬間を、まるで狙いすましたかの様なタイミングで突如として己の身に打ち付けられた衝撃から、正気を取り戻したトールは己の迂闊さを猛省する。終末を齎すとも言われる強大な存在であるドラゴンとても、不意を突かれては弱者の全霊を尽くした攻撃の前には強かなダメージを被る事もあるのだ。
ましてや自分も初めて訪れる異界とあっては、何が起こるかも解らないのだから己の力がどれ程強大だろうとも、警戒心を確りと持って当たるべきだった。
暫し自らを戒めてからトールは改めて、自分の状況を確認を行おうとしていた所にふと自分のすぐ近くに幾つかの生命の存在を感じて、その反応に視線を向けてみると。
「すいませんでしたーーーっ!」
土下座をした人間の男が左手で青い髪の女の後頭部を押さえ付けて、自分と同じ様に土下座をさせて右手には草地にうつ伏せに倒れ伏すマントを羽織り魔女の様な帽子を被った少女の背を押さえて、トールから十メートル程離れた場所から絶叫の様な大音声で謝罪の言葉を述べていたのだった。
『なっ……何だこの人間は……』
第一村人ならぬ、第一異世界人とのファーストコンタクトの言葉が、いきなりの謝罪の言葉であった。トールはこの
『はっ!さてはあの強烈な不意打ちは貴様達の仕業かッ!?』
縦に長い瞳孔の眼と人間のそれとは違う発声器官から発せられた声とに強烈なプレッシャーを掛けて、トールはその人間達に問い質す。
「はッ、はいぃッ!!それについては言い訳のしようもありませんがしかし、アレは決して貴方様の狙っての事ではなかったんです!この辺りを彷徨いている、あのバカデッカいカエルを狙ってのモノだったんですッ!」
カズマは土下座の体勢から何度も何度も頭を地に付く程に下げつつ、同時に左手で首根っこを押さえ付けたアクアの頭を自分と同じ様に上下させ、攻撃の理由を説明する。
成る程、そう言う事だったのかとトールは自分の視界にチラホラと映るカエルを認める。確かにあの様な巨体を誇るカエルならば人間や他の小さな生物にとっては脅威となろう。そう状況判断しトールは彼の発言には嘘は無さそうだと納得するのだが。
「ちょっと止めてよカズマ。頭を押さえて上下させないでっ!痛い痛いっ。私、女神、女神なのよ!少しは敬いなさいよ。それにアンタ何時までもこうしてるつもりよ、さっさとこの手を離してってばッ!」
その相方であろう女、自らを女神と称する女の言動には初対面であるにも関わらずトールは、何故だかこの人間の男がこの痛い女と共に居る事でとても苦労しているのではと思ってしまった。かの泣き喚きながらの自己主張が果てしなくウザいと、この僅か数十秒の二人のやり取りからトールはそう思ったのだった。
「黙れ駄女神ッ!此処はあのドラゴン様に嘘偽りの無い事実を話して赦しを乞うのが正解だろうが!大体お前は
「ああっ!また駄女神って言った駄女神って!私は女神よ正真正銘の女神なんだから、訂正してゴメンナサイしなさいよねッ!このヒキニートのくせに!」
しかし、何時しかトールの存在を放って啀み合いを始める二人にトールは次第次第に苛々が募り始める。
この男の方、カズマとやらは何とかこの場を治めようと必死な想いでいる事は解るが、何時しかこの相方女のペースに巻き込まれ、ごちゃごちゃと騒ぎだすのだからトールが苛つくのも然もありなん。
『やかましいぞ!少しは大人しくしたらどうなのだ、鬱陶しいっ!』
トールは大音声のプレッシャーと鋭い殺気を放ち二人を一喝すると、二人は両手を取り合って『ヒイィィィッ』と縮こまり、ガクガクと震え上がる。そして地に伏したままのめぐみんもまた、トールのプレッシャーと殺気を当てられ、恐ろしさのあまり正気を失いそうになるがマインドダウンの影響に依って身動ぎ一つとて出来ぬ状態では何も為すことも出来ず恐怖に震えるだけだった。
『……少しは大人しくなったか、まあ良い。では一つ聞くが、先程私の身に撃たれた魔法だが、それを撃ったのは貴様達三人のうちの誰なのだ?』
トールの問い掛けに二人は手を握り合って恐怖に震え、ガチガチと歯を鳴らし言葉も発せずに只その目線で倒れ伏すめぐみんが主犯だという事実を伝える。二人の視線を追い、トールは倒れ伏し身動きの取れないめぐみんを凝視して呟く。
「……フンッ、成る程。確かにその娘の格好を見れば如何にも魔道士然とした格好だな」
「なっ…カズマ、アクア、実は今私は背中に猛烈な悪寒を感じているのですが、一体何がどうなっているのでしょう?」
うつ伏せの体勢と帽子を着装している為に今の状況を目視での確認が出来ないめぐみんは、我が身に感じるプレッシャーから己の置かれている立場が退っ引きならない状況に在る事だけは伝わっているようで、冷や汗をかきながら恐々として質問をするのだが、二人からの答えは返らない。
「あ……あのですねドラゴン様。さっきも言いました様に俺達は貴方様に敵対する気なんか一切無い訳でして、このめぐみんも意図して貴方様に爆裂魔法を放ったんじゃないんですぅッ!」
「そっ、そうなのよ。カズマってば言っちゃ何だけど、まだ駆け出しの最低ランクの冒険者でレベルも低いし経験も無いし、相棒に私って高レベルのアークプリーストが着いているから何とかこれまでやってこれたんだけど、私とカズマだけじゃ攻撃力が足りないから……今日はその火力不足を補う為に新たに加入してくれたこのめぐみんの力を見る為に今日、此処に来たの。だから貴女に爆裂魔法がヒットしたのは本当に只の偶然だったのよ!」
二人は必死になってトールに対してめぐみんの助命を乞うているのだが、肝心のめぐみんにはそれが伝わってはいなかった。それが何故かは先に少しだけ触れたが。
「あの……それともう一つカズマとアクアに質問なのですが。どうやらお二人はそちらのドラゴンと今同じ言語で話をしている様ですが、一体何を話しているのでしょうか?聞いた事の無い言語ですので、さっきから私にはサッパリなのですが?」
そう言う事である。カズマはこの世界に転移するに際し、この世界の言語を強制的に修得させられた為にこの世界の言語を理解できるし、アクアもまた“駄女神”として天界に座していた事もあり、日本語やこの世界の言語をはじめ幾つかの言語を使うことが出来るのだった。
そして、二人はめぐみんの素朴な疑問の言葉に今更ながらに、その事に思い至るのだが、カズマとしては出会ったばかりのめぐみんに対して日本の事や日本語をはじめとした一連の自分の秘密に関わりそうな事柄は、現時点では内密にするつもりでいたのだが。
「それはねぇめぐみん!なんと実は、このドラゴンが話している言語はカズマの故郷の日本って国の言葉なのよ。いやぁまさか日本語を話すドラゴンが居るなんてカズマはおろか女神であるこの私ですら知らなかった事なのよ!」
そんなカズマの思惑など一欠片の考慮もせずに、アクアはその残念な知力にふさわしい駄目っぷりを発揮して、アッサリとその事実を暴露するのだった。
「ちょッおま、お前なぁ〜ッ!巫山戯んなよ!人が折角上手い感じにその辺誤魔化そうとしてたのにこのおバカさんがぁッ!」
アクアの胸ぐらを掴み腕をスイングさせて振り回してカズマは、安定のおバカさ加減を発揮するアクアを咎める。それはそうだろう。生命の危機に晒されたギリギリの状況で、必死こいて生存とその後に待つ厄介事の種を少しでも減らそうと知恵を絞っている所に、それをアッサリとバラすのだからカズマの反応も当然の事と言っても良い。
だが騒がしい二人はさて置き、その二人の騒動を横目に見つつトールは、騒がしい二人と地に伏す少女の言動から自分が勘違いをしていた事に気が付かされた。
『何と!そちらの二人が日本語で我に語り掛けて来たので、この世界の言語は日本語と近しい物だと思っていたが、真のこの世界の言語はその娘の話す言葉だったのか!?』
『ならば我も此方の言葉に合わせた方が良いだろうな。しかし……ふむ、言われてみればその格好は地球のジャージと言う衣服だな。成る程、ジャージの男よ、貴様どうやら日本からの転生、或いは転移者だな』
自分の勘違いを戒め、今後の対応を考慮してトールは方針を定めると、カズマを見下ろしてその素性を推察して尋ねる。カズマは蟀谷に冷やりとして一滴が滴り落ちる感触を感じながら答える。此処でこの強大なドラゴンに嘘など付きようがないと半ば諦めの心境で。
「………あっ、はい」
『ふむ、ならば』
トールはカズマの返答にならばと頷くとその巨体を立ち上がらせ、そして。
「なっ……なんだぁッ!?」
カズマとアクアの眼前で立ち上がったトールは、その巨体の存在を曖昧にさせると次第にその姿を縮小させていく。やがてその存在が人間レベルのサイズまで縮むと、何時の間にか二人の前には美しく長い金髪のツインテールのヘアスタイルに、頭部両側にはドラゴンの角を模した飾りと、その中央部にはホワイトブリムを着装し、背中にはやはりドラゴンを思わせる翼と、臀部付近からはこれまたドラゴンの様な尻尾を備えた若干コスプレチックなメイド服姿の、アクアを越えるふくよかな肉感を持った途轍もなく美しい長身の少女が立っていた。
その少女の美しさに思わず見惚れてしまい、カズマは他の女性陣から見てアホ面を晒し、隣のアクアからも「全くしょうがないわね、これだから童貞ヒキニートは」と吐き捨てられるが、カズマの耳にその言葉は届いていなかった。
カズマからの視線なぞ一向にお構い無しにトールは自分の胸元から、ある物を取り出してそんなカズマの眼前に突き付ける。そして日本語ではなく、めぐみんが話すこの世界の言語を短時間でマスターし、この世界の言語で質問をする。
「そこの日本人!貴方に一つ尋ねます。この写真に写る、凛々しくも愛らしいハジメさんと会った事はないですか!?」
それはハジメを捜索するにあたりトールが南雲家から持参した、愛しいハジメとトールが写された一枚の写真であった。
トールの、このすば世界の捜索終わりませんでした。あともうちょっとだけつづくんじゃ、となりました。