南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

15 / 52
お待たせしました。
漸く文章を纏める事が出来ました。



第十五話

 

 白崎香織を部屋に招き入れてドアを閉じたハジメは、そのままの流れでドアの施錠しようとしてハッとして思い留まった。こんな遅い時間に自分を訪ねてから来た寝間着姿の女子を招き入れた上に、施錠までしてしまったのでは彼女には勿論の事他者に知られようものならば、どの様な誤解をされてしまうか解ったものではない。

 ただでさえ白崎香織はその容姿の美しさと気立ての良さや面倒見の良い為人からクラスに留まらず、学校内の多くの生徒達から偶像たるアイドルを超えて女神の如く崇められているのだ。もしその様な存在である女子と個室に二人きり等という状況に置かれている事を知られようならば、その時の有り様を脳内でシミュレートしてハジメは空恐ろしさに思わずブルっと身を震わせてしまうのだった。

 

 「どうかしたの、南雲君?」

 

 「えっ、あっ、べっ、別に何でも無いよ。」

 

 自分を招き入れてくれたハジメに感謝しながら、香織はハジメが指し示した窓際に設えられているテーブルへと向かう最中に、チラリと盗み見てみた想い人が急に身震いを起こしたハジメの様子を訝しく思い尋ねると、少しだけ吃りつつ何でも無いと答えたハジメの『そうなんだ』との言葉に何の疑問も持たずにあっさりと受け入れテーブルと共に置かれているチェアへと腰を下ろした。

 

 『天然なのかそっち方面に対して無知なのか、その格好といい無防備にも程があるんじゃないかな。』

 

 ハジメにはその気は無いが、同じ年齢の男子が此処には大勢いるのだかし、香織はもう少し自分の容姿が思春期男子にどの様な影響を与えているのか気を配って頂きたいものである。他の男子と違い、白崎香織と云う女子を客観視する事が出来るだけハジメだからこそ、まるで老婆心さながらに彼女の貞操的な意味でその無防備さが些か心配になってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 テーブルに火魔法をプログラムして自らが作った小型のコンロでお湯を沸かし、宿側がサービスで各部屋に置いていてくれたこの世界のティーバッグをやはり宿側が備えていてくれた二つのカップに投入し、そのお湯を注ぎ入れて暫し待つ。やがて些して時間を置かずお湯が無色から茶葉の紅へと変わった事を確認し一つを白崎へと差し出して、ハジメは彼女の対面のチェアーに腰掛ける。

 

 「ありがとう、頂きます。」

 

 謝辞を述べると香織は直ぐにハジメが淹れたこの世界の紅茶っぽいティーを静かに一口含みホッと溜め息を吐くと、その顔をほころばせた。

 ティーバッグに使われている茶葉が良品であったのか、それを抽出する為に沸かしたお湯の温度が適切だったのか香織はその味に満足した様でハジメはそれがとても微笑ましく思えた。

 

 「…………」

 

 香織はカップの中身を半分程口にし、そのカップをソーサーに戻すと無言でハジメに顔を向けるのだが、その顔は直ぐにハジメから背け彼女は先までのほころんだ笑顔を喪失した様に、躊躇いがちな硬い表情へと変化させ押し黙ってしまった。

 

 「白崎さん、話ってのはやっぱり重要な要件なのかな?」

 

 彼女のその様子から、ハジメは香織が自分の元を訪れた理由が重要な話なのだろうと推察し、黙してしまった彼女に対し、ならばこちらからアプローチを掛けた方が良いだろうと判断し努めて優しく問い掛けた。

 

 「……あの………」

 

 躊躇いがちに香織は一度ハジメに顔を向けて彼の問い掛けに答えようとするが、直ぐに言葉に詰まり再び俯いてしまった。流石にこうまでも辛そうな態度を見せられてしまってはハジメも彼女の事が本格的に心配になってしまう。

 

 「それとも、何か言い辛い事だったりする?」

 

 「っ、それは……あの南雲君、私は。」

 

 言葉を躊躇う香織に苛立つ事もせず、寧ろ彼女の事を思い遣る気遣いさえ感じるハジメの呼掛ける静かな声音に、香織は彼の本来持つ優しい為人を実感し心の内から湧いて来る暖かさに応えるべく言葉を紡ぎ始めた。

 

 「あの私、夕飯の後ちょっと部屋でうたた寝しちゃったんだけど。」

 

 「うん。」

 

 不安に苛まれてか途切れ途切れに紡がれる白崎の言葉に、ハジメは時に相槌を時に頷きながら聴き入る。香織の話を要約すると、それは彼女がうたた寝をしている時に見た、あまり縁起が良く無い夢に起因する事であった。

 

 「夢の中の南雲君に私、何度も呼び掛けたんだけど……気付いてくれなくて。それで最後は……」

 

 彼女が語る夢の話も終盤に差し掛かり、おそらくはもう結末を残すだけなのだろうが香織は其処でまた言葉をつまらせてしまう。

 

 「………どうなったの?」

 

 この数分間、彼女の口から語られる言葉からも真摯に自分を想ってくれている事が、流石に鈍感なハジメにもアリアリと見て取れる。

 酷く憂いの色を濃くする香織の様子から、彼女にとってそれは余程悲しさを掻き立てる夢だったのだろうと言う事も。

 ハジメはこれまでの話の流れからして、きゅと口を噤む彼女が何を言い淀んでいるのか、大方の予想は付いている。しかしこの様な場合に於いて女性に対しどう云った対応をするべきなのか、その経験値の不足から結局は話の続きを促す事しか出来なかった。

 何せ基本彼の周りにいる異性と言えば、その殆どが異世界から来訪して来たドラゴン達であり価値観始めとし様々な事が現代日本人のそれとは違いすぎるのだ、しかもそれも僅かこの1年弱の期間での事。そんな彼等彼女等との濃過ぎる日々を過ごしているが故か、なのでごく一般的な同年代の女子とのコミュニケーションをとる事を不得手としているも致し方なかろう。

 

 そんなハジメの胸中は置いて、香織はハジメの問い掛けに小さく口を開き言の葉を紡ぐのだった。

 

 「………消えてしまったの……」

 

 彼女が紡ぎ出した、その言葉と同じく今にも消え入りそうな音声で。

 

 「そう、なんだ……」

 

 「あの、白崎さん。」

 

 ハジメは相槌でも打つかの様に彼女に応える。香織の語った話の結末はハジメも半ば『そんな感じなんだろうな』と予想していた事であった為、それに対して然程驚く事は無かったのだったが『しかしそれにしてもと』以前から、ハジメは気になっていた事をこの際だからと香織に尋ねてみようかと続けて問い掛ける。

 

 「どうして白崎さんは、そんなに僕の事を気に掛けてくれるの?正直僕って天之河君みたいに美形でも無いし、クラスのみんなと積極的に関わってる訳でも友好的って訳でも無いし、はっきり言って白崎さんにアレコレと気に掛けてもらえる様な人間だと、思えないんだけど……」

 

 香織と向かい合い手にしたカップをくゆらせながら、ハジメは彼女に視線を固定して淡々とした声音で尋ねる。学内に於いては他者との交友があまり多く無く、且つ自身も積極的に関わろうとして来なかった故に他者からの好意に疎いハジメではあるが今の香織の態度には、そんな彼でも流石にこれ程ハッキリと好意を示してくれていると理解出来た。

 しかし、香織の様な才色兼備な上に人格面に於いても信頼の置かれている女子に、自分自身で客観視して見てお世辞にもイケているとは言い難い自分にその様な好意を彼女が向けている事がハジメには理解出来ないのだった。

 

 「そんな事無いよっ!南雲君は凄い人だよ、私知ってるんだ。」

 

 ハジメからの問に、香織は思わず声を大にして彼の発した低い自己評価を否定すた。彼女が意図して行なった事では無いのだろうが、香織はトンっとテーブルを握った右拳を小さく打ち付けて。その影響でテーブルの上に置いてある香織が口を付けたカップが僅かに震える。

 思わぬ香織の力説にハジメもテーブルの上のカップの様に少したじろいでしまい、そんな自分の挙動に微苦笑しつつ『たはは、そっ、そうなんだ』と言葉に詰まりながらも応じる。

 

 「私ね、高校に入学する前から一方的にだけど南雲君の事、知ってたんだ。その時の出来事があって、私は南雲君が凄いと思ったんだよ。」

 

 苦笑するハジメに対し香織が返した答えは、ハジメがまるで予想もしていなかった答えであった。香織が過去の自分を知っていると云う、しかし少なくともハジメの記憶の中には過去に香織と出会ったと言う事実は無い。

 

 「えっ、そうなの?」

 

 故にハジメは驚きを以て香織に尋ねる、すると香織はコクリと頷いてハジメの問を肯定し、ソレから直ぐに香織はその出会いのエピソードを語り始めるのだった。

 香織が語るのはハジメ達が中学生だった頃の、何時の日だったかハジメはもう忘れ去っていたエピソードであった。二十一世紀の現代に於いては如何にも時代遅れ、或いはレトロとでも形容すれば良いだろうか、所謂ヤンキーと呼ばれるか若しくは昭和の時代ならばツッパリとでも呼称される、如何にもな風体と言動を取る学生達。

 その学生達が地元朧塚商店街の一角にて、通りすがった老婆と少年とに恐喝まがいの難癖をつけている場面に割って入ったハジメが、その老婆と孫であると思われる小さな少年を庇い、且つ二人に代わり必死に土下座謝罪を行なっていたとの事であった。

 

 「あの日、見ず知らずのお婆さんと男の子の為に、自分が傷付きながらも助けようと一生懸命になってる南雲君の姿に私すっごく感銘を受けたんだ。」

 

 ハジメとの出会いの思い出を香織は懐かしそうに語る、きっと彼女の脳裏には今でも鮮明にその情景を覚えているのだろう。但しその記憶は彼女の脳内で現実と比して三倍ほど美化の彼女されているかも知れないのだが。閑話休題、彼女に言われてハジメはその時の事を思い出し『確かにそんな事もあったな』と得心するのだが、同時にそんな自分の姿を彼女に見られていて、それを彼女が高く評価してくれている事に面映ゆく思う。

 

 「あんな時、光輝君や龍太郎君なんか力尽くで解決しちゃうから私、ちょっと怖いなって思うの。でも南雲君はそうじゃ無くて、自分は大変な目に遭っていたのに、真摯に平和的に解決しようとしてたから。」

 

 うっとりとハジメの行いを語る香織の様子に次第に、ハジメは面映ゆさを超え狂信的とまでは行かないかも知れないが、香織が自分に対しそれに近しいモノを感じゾクリと背筋に得体し知れない感覚が走るのを感じた。彼女が自分を高く評価してくれている事は有り難いが、彼女が表する程に自分は出来た人間では無いのだ。

 

 「そうなんだ。だけど白崎さん、もしもだけど仮にあの時の僕に天之河君や坂上君くらいに力が有ったとするなら、きっと僕だってあの時とは違う方法で事にあたってたと思うんだよね。そりゃあ、平和的に話し合いで解決できればそれに越した事は無いけど、残念だけど世の中会話が成り立たない人って少なからず存在しているから、場合に寄っちゃ武力行使も已む無しだよ。」

 

 「な……南雲、君。」

 

 香織は、このハジメの言葉に驚愕し“ハッ”と息を詰まらせてしまった。高校生となりハジメと同じクラスとなり、初めて彼を知ったあの日の中学生当時よりも彼の為人をより知る事が出来た香織だ。

 意外にもハジメはクラスの皆が一目も二目も置く光輝に対しても臆すること無く自らの意見を主張する事の出来る胆力を備えていて、彼女があの当時抱いた彼の印象よりも確りとした自己の主張を持つ人物なのだとも知った。

 しかしそれでも彼女はハジメという人物は、基本的にはあの頃と変わらず平和的な気性の男子だと香織は信じて疑わなかったのだ。なのに今のハジメの言葉は彼女のその思いを覆してしまう程に衝撃的であった。

 

 『南雲君……前とは変わってしまったんだ。やっぱりトールさん達と暮らす様になってから、そうなったのかな』

 

 そしてその原因がトール達にあるのではないかと推察するのだが、彼女のその推察は正鵠を射ていた。異世界からの来訪者であり、しかも人間とは異なる生命体であるドラゴン達との交流する中で、日本と外国以上に文化や価値観と云った物がまるで違う存在との生活は互いの違いにより、時に否し時に受け入れながら都度お互いに摺合せを行いながら一年程の時間を共に過ごしてきて、彼の考えもその影響から変わって来ていたのだった。

 

 『情けは人の為ならずとか言う言葉がこの国にはあるんですよね。愚か者と云う連中はどこの世界でも変わらず存在してますけど、そんな下等で愚かな連中など容赦無く殲滅するに限りますけど。それが駄目だと言うのならきっちり痛い目に遭わせなければ、連中も学ばないと思いますよ』

 

 ハジメとトールが町内会の見廻りを行なった際に不適切な行動を取る不良グループに注意した時の事、それに反抗する様に絡んで来た者達には手痛いしっぺ返しを喰らわせたトールにハジメがやり過ぎではないかと注意を与えた時に、トールが反論して放った言葉ががそれである。

 殲滅などと不穏当な発言は兎も角として、ハジメもそう言われてみて思い致せば確かに彼女の言にも頷ける部分はあると認めざるを得なかったのだ。

 

 「今にして思うとだけど、あの時の僕の行動は実はあまり良く無かったんじゃ無いかと思うんだ。何故かと言うと、僕の土下座謝罪で何とかあの場は収まったけど、でもあれじゃ結局は一時しのぎでしか無いんだよね。あの時のおばあさんと子供と僕も無事には済んだけど、結果としてそれで彼らは何か改心したって訳でも無いし、もしかしたら今でも何処かであの時と同じ様な真似をしてたりって可能性だってあると思うんだ。だから天之河君達のやり方も全部が全部間違っているとは言えないと僕は思うよ。まあだけど、暴力はあくまでも抑止力として、なるだけそれを行使せずに済むのなら、それに越した事は無いんだけどね。」

 

 そうやって、ハジメは彼女達との交流から以前の事なかれ主義から脱却し、時と場合に於いては力の行使も選択せねばならないし、自己の主張も通さなければならないと云う考えに至った。まあけれどハジメ自身には揉め事を腕っ節で解決出来る力など持ち合わせてはいないし、出来うるならば争いよりも平和的な解決を求めるといった彼が元来持っている心根には変わりは無いのだ。

 

 「そっか……今の南雲はあの日の南雲君とは変わってしまったところもあるけど、変わらないところもあるんだね。何だかちょっと寂しい気もするけど、南雲君の変わらない部分には安心もしちゃうな。」

 

 それを感じた香織は、ホッとひと息吐くと口元を微かに緩め安堵感も顕な朗らかな声音で自らの心情を伝えるのだった。

 

 「うん。良くも悪くも、人間って変わっていくものだと思うよ。それがより良い方向へと向かう成長だったり、或いは何某かの原因で闇堕ちしたりとかね。」

 

 その彼女の想いを受け、後頭部を掻きながらハジメは香織に応える。内心に少しばかり格好を付け過ぎたかな、等と自らの発した言葉に照れ臭さを感じつつ。

 

 「うん。えっと、あのね南雲君、私さっき話した夢の事もあって、本当は南雲君に明日の実戦訓練を辞退する様に説得しようと思ってたんだ。でも、今の南雲君の話を聞いて私が南雲君にそれを勧めたとしてもきっと南雲君は断るんだろうなって事が理解出来ちゃった。だからもうそれはしないけど、だけど南雲君、私も気を引き締めて明日は訓練に挑むけど、南雲君も明日は十分に気を付けてね。」

 

 そんなハジメの仕草と言葉とに、香織は屈託なく微笑みながら彼の言葉に頷き、その見解に同意してみせるのだった。そして、その流れのままに香織は続けてこの時間に自分がハジメの部屋へと訪れた真の目的を打ち明ける。自分が抱いた不安感が完全に払拭された訳では無いが、香織が思っていた以上にハジメが人間的に成長しているのだと、短い会話の中から香織はそう理解した。

 そして、彼の成長を促した者は間違い無くトールと云うメイド姿の規格外の存在があっての事だとも。その事実に香織はトールに対する嫉妬心を覚える、否、意中のハジメと共に生活している彼女に対する嫉妬心ならば香織はもうずっと前から抱いていたのだ、ならば自分が抱くこの感情はトールに対する小さな敗北感なのかも知れないと香織はこの時そう自覚したのだった。微かに胸の奥に“チクリ”とした痛みを伴って。

 

 「うん。ありがとう白崎さん心配してくれて。うん、解ったよ明日は僕もしっかり気を付けて訓練に臨むよ。」

 

 彼女の口に出さない想いに気が付く事無くハジメが香織に応えると、彼女は口元を手の甲でちょっとだけ隠して、柔らかな笑顔と少し控えめな笑声を溢れさせる。

 

 「ふふふ。南雲君の事だからきっと何か便利な道具とか創ってるんだよね。」

 

 「ははは……まあ、多少の備えはしてるけど、なるだけそれは大っぴらにはしたくないんだよね。」

 

 それから間もなく二人の語らいの時間は終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ハジメと香織が暫しの語らいの時間を持っていたその時刻、ハジメの部屋へと香織が入室して行く現場を目撃してしまった檜山は、彼らが泊まっている宿屋の外敷地内の一角に一人佇んでいた、日も沈み深い藍色から深淵の黒に無数の小さな銀光瞬く夜空の下に。見る者が見ればその小さな銀光の配列が地球の夜空に輝く星々とはまるで違っている事に気が付くだろうが、生憎と精神が憎悪の暗黒面へと堕している今の檜山がそれに気が付く事は無いだろう。

 

 「くっ!!南雲ォ……あんま調子こいてんじゃねぇゾ………」

 

 『バシッ』と右の拳を左の掌に打ち付けて檜山はハジメに対して怨嗟に声を震わせながらブツブツと、呟く様はおそらく一部の者を除いては彼の精神がまともでは無いと云う事に気が付く筈である。

 

 「何でアイツなんだよ白崎……あんなオタクなヤローの何処が良いって言うんだよ…………白崎だけじゃねぇ……トールさんみたいな人までアイツに……」

 

 気のある相手である白崎香織と、ご町内でも評判の美少女(異世界のドラゴンである事実を知らない)メイドが、よりにもよってあんな陰キャ野郎(檜山視点ではそう見えるハジメ)に好意を抱いている。そんな有り得ない現実を檜山は嘆く、怒りの慟哭の声をあげたいところではあるのだろう。しかしそうしなかったのは、彼の中に僅かに残った理性のリミッターがその思いにブレーキを掛け大声を抑止したのだろうか。

 

 

 

 

 無限の星々に彩られた美しい満天の星空の下、宿屋の敷地の一角でドス黒い感情を撒き散らす檜山を、そこからほんの少し離れた場所からその様を覗き見る者が一人。彼から見咎められない様に身を建物の陰に隠して、その者は彼の挙動がさも可笑しいと思ってか口元を妖しく歪め檜山の挙動を眺めている。

 

 「ふふふ……何だか面白い事になりそうだねぇ。これは僕が何かをする必要も無いかもね。」

 

 『僕』と言う一人称を使うその妖しい者は、まるで道化師のパフォーマンスでも見るかの様に愉しげに檜山を眺めつつ、戯けた調子で独り言ちる。バシッ、バシッっと檜山が自分の掌に拳を打ち付ける姿に更に喜悦する。彼のそんな様を数分間ただ眺めやるが、その喜悦の時間はやがて終りを迎える。檜山が自らの行いの虚しさに気が付きその場を去り、夜の帳の中に姿を消す事によって。

 

 「あれ?もう帰っちゃうんだ。つまんないの。でもまあ、良っか!面白かったし。」

 

 ある意味、檜山本人としては人に見られたくは無いであろう情け無い姿を、片隅から覗き見ると云う行為を行っていながらその様な戯れ言を宣う様は、この者の方がよほど道化師じみていると言えまいか。

 

 「て事で、上手く事が運べば貴女達の目的も達せられるかもだよ!」

 

 その者は去り行く檜山を嘲笑いながら見送ると、自分の後方の空を見上げる様に顔を向けて語り掛けた。

 

 「でも、不便だよね。僕らには当たり前に見えているし、ちゃんと存在も当たり前に把握出来ている人間が君達には、それをキチンと認識出来ないなんてさ!?」

 

 その者は、さも可笑しいとクスクスと微笑み言葉を続ける。建物の片隅の暗い空間に、ほんの地上数メートル程の高度に滞空する人成らざる存在に語り掛ける。銀髪碧眼に背には暗い夜空にあってさえも輝いて見える豪奢な天使の羽を持つ美しき存在に。

 

 「余計な事は言わなくても良い。我が創造主様は、調和を乱す異分子さえ速やかに抹消出来れば、その過程は問わない………それが叶えば、我が創造主様がお前の希望を叶えて下さるだろう。」

 

 地球人類の大半がその姿をみれば天使だと認識するだろう美しい姿を持つソレは、その者の戯れ言に淡々と応える。姿同様、その声音にも美しさが現れているのだが、しかしその姿にも声音にも生ある者の熱量を感じさせない無機質さだけしか感じられなかった。

 

 




当初、ハジメと香織の語らいは、原作をなぞり簡潔にまとめるつもりでしたが、この辺りで香織にも原作とは変わってしまったハジメの事をハッキリと認識させたいと思ったは良いものの、中々文章に起こせず一月以上掛かってしまいました。
かなり自己満足な展開だとは思いますが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。