南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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お待たせしました。
ようやく迷宮へと突入します。


第十六話

 

 ハジメや香織、檜山をはじめとする生徒達の抱えた思いを他所に時間は無常に過ぎてゆく。朝を迎え騎士団による先導を受けつつハジメ達は遂に初めての実戦訓練を行う地、オルクス大迷宮の入り口前の広場へと集合した。

 両親から受け継いたオタクとしての(さが)故にハジメはこの遠征に不安はあれども、異世界モノの定番である迷宮(ダンジョン)に行くに当たり好奇心が沸いていたのも事実である。しかし。

 

 『何か思ってたのと違う!』

 

 ハジメは声に出さず、心のなかで独り言ちてしまうのだった。博物館の様な重厚な造りのゲートに、入口の前には受付窓口と制服を着用した綺麗な受付嬢とか業務に当たり、迷宮への出入りをチェックしている。

更にはその周囲には沢山の露店、所謂屋台や出店が一応はきちんと区画を区切ってはいるが多数出店していて、多くの客や冷やかしの人々がたむろしていて、ちょっとしたお祭り広場の様相を呈している。それが許せないとは言わないが、ハジメとしては迷宮への入口はもっと陰気なモノだと思っていたのだ。

 

 『風情も何もあった物じゃないよコレは………』

 

 そんな感想が出る辺り、ハジメの精神は両親からの受けた英才教育の賜物と言えようか。

 メルド団長を中心にその後ろに騎士団員が整列し、整列しているとは言い難いが取り敢えず集合はしているハジメ達。所々で小さな会話の声が聴こえてくる。

 

 「よォし!みんな揃っているな。ではコレからオルクス大迷宮にてお前達の初実戦訓練を行う訳だが…」

 

 生徒達の話し声を圧し、周辺数十メートル四方に響き渡る程の大音声でメルド団長がハジメ達に話し掛ける。それはこの迷宮に於ける今回の実戦訓練に対する注意伝達事項を改めて知らしめる為にであるのだが。

 

 『あぁ、もう惜しいですよメルドさん、其処は皆が静かになるのを黙して待って、静かになってから『はい君達が静かになるまで◯分掛かりました』と言うべきですよ』

 

 またしてもハジメはその様な取り留めもない事を考えていた。この状況でその様な浮かれた事を考えている事をメルドや騎士団員に知られれば、それこそ噴飯物だろうが。

 

 『ハッ!こんな状況で、フザケた事ばかり考えてるなんて、僕ってやっぱりちょっと、いや結構緊張してるのかな。いけないな、気を引き締めないと』

 

 ハジメ自身自分の現在の浮かれたテンションに端と気が付き、左右に顔を振るい己を戒めてメルド団長の訓示に神経を集中する。

 

 

 

「以上がこの迷宮の注意点であり、本日の訓練のメニューだ、何か質問はあるか?訓練中にも随時指摘事項は其々に伝えるが、今のうちに知りたい事があるなら答えるぞ。」

 

 生徒達への訓示を話し終え、メルドは締め括りに付け加える。その言葉にクラスメート達は微かにざわつくが、手を挙げてメルド団長に対して質問をぶつける者は居なさそうである。

 

 「メルドさんの話はだいたい理解出来たし、実際のところはやってみないと何とも言えないよな。」

 

 生徒たちの一団の中、遠藤が属する永山重吾をリーダーとする一団の側にハジメは身を寄せていて、そのハジメに対して遠藤が語り掛ける。

 

 「うん、同感。結局は教わった事や注意された事を実践できるかどうかだよね。ことわざに、習うより慣れよってあるけど、でも本当はどちらも必要な事だよね。」

 

 この世界に召喚されてた一月あまりの日々を、騎士団からの指導により魔法や武具の取り扱い、それを以ての訓練を受けてクラスメート達はそれなりに形は身に付き始めているとハジメの素人目にも、それは理解出来る。だからメルド団長も渋々ながらも今回の遠征を了承したのだろう。不十分ながらも習わせた、ならば次は慣れさせる段階だ、それが今回の大迷宮遠征である。

 この世界の食糧事情を支える程のチートスキルを得ている畑山教諭以外の生徒達を戦いに、もっと言及するのならば生物の命を奪い取る事に馴らす為の経験をさせる事。そしてメルド団長達はきっと実戦訓練の最中でも、適時生徒達の行動に対して評価や指摘も入れてくれるだろう。

 生徒達を生き残らせる為にも、自国を護るための貴重な戦力をより強く育てる為にも。

 

『でも本当は命の奪い合いの為の訓練や経験じゃ無く、正義の為なんて烏滸がましい事は言わないけど、これからの人生をより良く生きる為の経験を積ませて貰えるのなら大歓迎なんだけどな』

 

 ハジメは心中そう願うが、それが叶わぬ願いである事も重々承知していた。

 

 「はい、特に理解出来ないと感じた所はありません、メルドさん。なので実践の中で気が付いた部分の指摘をお願いします。」

 

 そして、生徒達のざわめきが静まった頃合いを見計らい、天之河光輝が毎度の様に生徒達を代表してメルドに応える。

 

 「そうか……では皆もそれでいいんだな?」

 

 それを受けてメルド団長は、最終確認の為に首を巡らせてもう一度生徒達全員の顔を見て回って問うと、ハジメを含めた全員が首を縦に頷いて返す。

 

 「うむ、では行こうか。」

 

 メルドをはじめとした騎士団に先導されて、ハジメ達もその後から順番に受付を済ませてオルクス大迷宮へと入場して行くのだった。尚、この入場受付の際にまたしても遠藤の存在が希薄化してしまい受付嬢に気付いてもらえ無かったりと、一悶着があった事を記述しておこう。

 

 

 

 

 

 受付を終え迷宮の中へと入場してみれば、其処は表の喧騒とは打って変わり賑やかさとは無縁の世界だった。迷宮の第一層の通路は縦横五メートル程の広さがあり、照明などの設備は無いものの迷宮の壁面や天井部分が薄く発光していて、鮮明とまではいかないがある程度の距離は見通せる。なのでこの迷宮には照明設備は然程必要としないそうで、その淡く光っている光源は緑光石と云う少し特殊な鉱石だと言う。

 

 「この迷宮はその緑光石の鉱脈を掘って作ったものだそうだ。」

 

 そう言った、この迷宮についての蘊蓄を大まかに掻い摘んでメルド団長が解説してくれた。

 

 『へぇ〜……何だかやっと、異世界迷宮らしくなってきたな。でも同時に危険なエリアに入り込んだって事でもあるんだよね、改めて十分に気を引き締め無いと』

 

 遥かな昔に創り出されたと思われる迷宮に、原理や理屈も解らない発光する鉱石とくれば、ハジメの中のオタク心を大いに満たしてくれると言う物なのだが、ハジメ自身が自らを戒めた様に此処は危険に満ちた場所でもあると言う事。いくらメルド団長達、騎士団の先導があるとは云えど楽観してばかりはいられない。

 

 「何か、すげえ雰囲気あるな。」

 

 「だなぁ。この微妙な明るさとか如何にもって感じだし……」

 

 「突然その辺りから魔物とか湧いて来たりとかありそうだよね。」 

 

 そう思っているのはハジメだけでは無い様で、クラスメート達も好奇心いっぱいと言った様相を見せながら、辺りをキョロキョロと見渡したり各々会話を交わしながらメルド団長や先導役の団員の後に続き通路を歩いて行く。

 

 「君達、妙に緊張し過ぎていないのはけっこうだが。ここら辺りはまだ安全圏だけど、しかしもう間もなく魔物の棲息領域に入るから油断はするなよ。」

 

 ハジメと共に最後尾に着いている騎士団員の一人が、苦笑しながらも会話を交わしているクラスメートの一団に注意を促すと、注意を受けた一団はバツが悪そうに頭を掻いたりテヘペロっと舌を出して誤魔化し、ちょっと大袈裟な仕草で気を引き締めましたとのリアクションをしてみせアピールする。

 

 「プッ……」

 

 そんなクラスメート達の行動にハジメはクスッと微苦笑を洩らしてしまい、件の騎士団員に目を向けられてまう。そしてハジメも先のクラスメートと同様に真面目を装ってみせるのだった。

 

 

 そうこうしている内にハジメは歩を進めている迷宮内の通路の前方が少し開けている事に気が付いた。

 

 「ヨシ、この辺りから魔物の棲息域に差し掛かるぞ。みんな気を引き締める様にな!」

 

 そのタイミングで先頭を進むメルド団長が、振り返り一団に声を掛けて注意を促す。

 

 「……ハイ、分かりましたメルドさん!」

 

 クラスメートを代表し、天之河がメルド団長の注意に少し仰々しく返事を返すと、メルド団長は首をゆっくりと縦に振り進行を促す。その後に従い先へ進むと、其処は天上高が七〜八メートル程のドーム状の空間になっていた。

 唐突に迷宮内の通路の空間が拡がった事により、クラスメート達はその空間を緊張をはらませた表情でキョロキョロと見渡している。此処から先何かがあるのだろうと本能的に感じているのかも知れない。

 

 そして程なくして、それは一行の前に現実として訪れるのだった。わらわらと、あちこちの壁の隙間から灰色の毛玉の様な固体が現れた。

 

 「現れたな。よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれッ!みんなにも交代で前に出てもらうからな、準備しておけよ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、大した敵じゃ無いぞ。冷静に行け!」

 

 それに即応し、メルド団長は素早く的確に皆に対して指示を飛ばす。メルド団長の指示に従い天之河達のグループが即応し戦闘態勢を調え前に出る。が、メルドの言う様にラットマンと云う魔物はかなりの速度で接近、飛び掛かって来きた。

 

 「っ……」

 

 灰色の体毛に不気味に光る赤黒い目玉のネズミの顔をしていて、二足歩行でムキムキマッチョにシックスパックを超えてエイトパックな腹筋周りには体毛が無く、まるで其処をアピールポイントとしているかの様でさえあるのだが、前衛として光輝達と共に最初に相対する事となった雫が、その不快な姿に嫌悪感を顕にその整った(かんばせ)の頬を小さく引き攣らせる。

 

 「ヨシッ!行くぞッ!!」

 

 光輝の掛け声を合図に共に前衛の三人である雫と龍太郎が、近接戦闘の間合いに入ったラットマンを迎撃する。

 

 「鈴、香織ちゃん僕達も準備!」

 

 「うん!」

 

 「ええ!」

 

 後衛の魔法職の三人、白崎香織と中村恵理と谷口鈴が魔法の詠唱の準備に入る。適材適所、前衛三人に後衛が三人と人員と役職とのバランスが取れた良いパーティーだろう。

 

 「ハァッ!!」

 

 「ドりゃァッ!!」

 

 「………!」

 

 前衛の三人は既に複数体のラットマンと接敵し、其々に一体ずつを撃破していた。後方から天之河達の戦いを観戦していたハジメも、当初彼が危惧していた様な他の生物の命を奪う行いに対する忌避感に苛まれる事無く戦う天之河達の様子に内心安堵する。

 

 「はぁ、天之河君も雫ちゃんも凄いね!」

 

 「うん!だねぇ。」

 

 「うむ。異世界人である事を差し引いても初陣でこれ程とは見事。」

 

 そして騎士団員をはじめクラスメート達は前衛三人の戦いっぷりに感嘆し、特に女子の多くは天之河と八重樫の剣技にうっとりとして見つめている程だ。

 

 前衛の三人が初陣に於いて見事に戦っている間に後衛の三人も魔力の集中を終えた。

 

 「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ!」

 

 三人は呼吸を合わせて、集中した魔力を言の葉に乗せて詠唱し。

 

 「螺炎!」

 

 “螺炎”と、力強くその放つ魔法の名称を高らかに響かせる。その言葉がトリガーとなり渦巻く螺旋状の炎が放たれ、ラットマンを襲う。圧倒的な高熱に晒されたラットマンは苦悶の悲鳴を上げ藻掻き苦しみ、やがてその轟炎によって僅かな灰だけを残して焼き尽くされてしまった。

 

 

 

 

 「あぁ、うん、良くやったな。」 

 

 暫く間を空けてメルド団長は、戦いを終えた天之河パーティーを苦笑混じりに褒める。メルドの目から見ても彼等の力量は初陣としては破格の出来と言っても差し支え無かったのだろう。

 メルドの言葉にクラスメート達はにわかに活気づき、楽勝ムードが形成され始める。確かにメルドもこれならば今回の遠征、生徒たちの実力ならば目標の二十階層クリアも行けるだろうとお墨付きを与えても良いと思うのだが、それはそれ。

 

 「次はお前達にもやってもらうからな。気を抜くなよ!」

 

 そんな子供達のムードにメルド団長は内心苦笑しつつも『しょうがねぇな』と思いつつも、引率の責任者としては油断と増長とに繋がり兼ねない状況に釘を刺さねばと一言の注意を与える。

 

 「それとな……今回は訓練だから良いが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。今のは明らかにオーバーキルだからな?」

 

 そして再度光輝達に向き直って注意事項を伝えると、香織達はやり過ぎを自覚しその頬を赤らめるのだった。

 

 

 

 そこからは特段問題もなくクラスメート達は順次交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を重ね下って行き、そしていよいよ順番が回りハジメと相成った。

 

 「へっ、攻撃手段も持たねぇザコに何が出来んだよ!?」

 

 メルド団長に促されて先頭へと歩を進めるハジメに対し、檜山が皮肉タップリに嘲け挑発するのだが、ハジメはそれに対し檜山に一瞥もくれる事無く無言のままにメルド団長の元へと向かった。

 

 「ちっ……ダンマリかよ。」

 

 自分を顧みもせずに歩み去るハジメの態度に檜山は激昂しそうになるのたが、一応は時と場所を弁えるだけの理性は有していた様で、その気持ちを抑えてその一言を呟くだけに抑えた。まあ、だからと言ってそれで彼を評価する要素など、何処を探そうとも皆無なのだが。

 

 そしてハジメは一団の先頭にて、メルド団長からのアドバイスを受ける。何時もの様に砕けた感じで、妙な緊張感を持たせない様にメルドはハジメに聞かせる。

 

 「坊主は生産職だから、あまり無理をする必要はないからな。一応自分の身を守れるくらいの経験を積むつもりでやってみろ。うちの若い連中を付けるから、介助に付いては心配無用だぞ。」

 

 「解りました。ありがとうございますメルドさん。でもちょっとやってみたい事があるから、最初はそれを試させて下さい。」

 

 メルドの言葉にハジメは返事を返すと背中に背負っていた背嚢を降ろし手に持ち、騎士団員の誰かに預かって貰えないかと願うと。

 

 「南雲君、それ私が預かるよ。」

 

 白崎香織が騎士団員が動き出すよりも先に、自らが預かるとハジメに申し出る。

 

 「………ありがとう白崎さん。でもコレちょっと重いかもだよ?」

 

 ハジメの背嚢にはポーションなどの回復アイテム以外にも、いくつかのハジメが造ったアイテムが収納されており、そこそこの重量がある。それを女性に持たせても良いのだろうかと逡巡するも、にこやかに微笑む香織の表情に断っても無駄だと判断したハジメは感謝を伝えて、その背嚢を彼女に手渡す事にした。

 

 「ヨシッ!来たぞ坊主。早く準備をしろッ!相手は五体いるぞ。」

 

前方を警戒索敵をしていたメルド団長が魔物の接近を告げる。

 

 「はいッ!!」

 

 その声に応えてハジメはメルド達よりも三歩程前方へと突出し、素早く両の掌を床へと着ける。グッと前を向き魔物との彼我の距離を素早く確認し、十分な距離と相手の移動速度とを大まかに計測して、両手に魔力を素早く集中して使用する魔法名を口して唱える。

 

 「滑石錬成ッ!!」

 

 ハジメは両手を地に付けて自らに与えられたスキルを発動する。クラスメート達の中でも魔力の数値は最も高いハジメは彼を目掛けて疾走してくる魔物を相手に、錬成により通路の床をよく滑る擬似的な御影石の様なツルツル状態へと作り替える。

 

 「キャヒィ~ン!?」

 

 勢い良くハジメに向かい駆けて来てきた四匹の魔物は、突如として変化してしまった足元の状態に勢い余ってつんのめり、そのままのスピードで床上を滑走してしまう。

 

 「剣山錬成!!」

 

 そして自分に向かいなすが儘に床上を滑り続ける魔物達の前方に凡そ1,5メートル程の障壁を展開。しかも凶悪な事にその障壁の側面、不幸な魔物達の真正面には夥しい本数の長さ1メートル程の巨大な針が横向きに突起の様に飛び出しており、憐れにも自らの疾走速度でもって魔物はその針に刺し貫かれに行く羽目になってしまったのだった。

 ハジメは自らの魔法をトラップの様に使用いて一気に四体の魔物を始末してのけた。しかし……

 

 「ハジメ君!もう一体上だよ!」

 

 最後の一体は最後尾に位置してきたおかげで同胞の失態を目敏く見咎めて、ハジメが作り上げたトラップに化掛からずに済み、咄嗟にその脚力を活かして空高くへと跳び上がっていたのであった。その事に逸早く気が付いた香織が悲鳴に近い大声でハジメに声を掛けた。

 

 「!!」

 

 香織に言われる迄もなくハジメは当にその事を目視確認により知っており、慌てる事無く対処する。

 高く跳び上がった魔物は放物線を描く様な軌道で今はもう落下軌道にあり、そのまま空中でアクションを起こさないのならばハジメの眼前数十センチメートル程の位置に着地するだろう。ハラハラと想い人であるハジメの危機に香織は思わず両目を閉じてしまう。

 しかし当人であるハジメは冷静に相手の落下軌道を目で追い確認、相手が企図した位置に到達する直前に再度力ある言葉を発する。

 

 「錬成ッ!間欠泉(ゲイザー)ぁぁッ!!」

 

 ハジメの言葉に反応し、彼が手を着いている迷宮の床から二十センチメートル程前方の大凡直径六十センチメートル程、円錐状に床が途轍も無い速度で間欠泉の様に噴出し、後本の数十センチメートル程でハジメの目前の床へと着地する筈だった魔物の体躯を貫きつつ迷宮の天井へと叩きつけるのだった。

 

 腹部を円錐状の床材の石に貫かれた上に、高速で背面を天井に打ち付けられた衝撃に憐れな魔物は断末魔の声さえも発する事無く憤死してしまった。

 

  「……………」

 

 岩石同士の衝突の轟音が止み、周囲はあまりの事態に誰も言葉を発せないでいた。

 ゴクリと誰かの唾を飲み込む音が無音の空間に、思いの外にそれはよく響き渡る。

 

 「す……すげぇ………」

 

 誰かが感嘆の思いを込めてハジメを指してそう評せば、それは瞬く間に周囲に伝播して多くのクラスメート達がハジメを称えはじめた。

 

 それはパーティーを組んでいないハジメの援護に付いていた騎士団員と責任者として監督していたメルド団長も同様であり、ハジメの思わぬ殊勲に驚嘆してしまう。生産職として特化した天職やスキルしか持ち合わせていないハジメが、まさかその生産職のスキルをこの様な形で有効活用出来ようとは誰も想像だにしていなかったのだ。

 

 「見事だったぞ坊主。まさか錬成の技能だけでこれ程の戦果を上げるとはな。異世界人の発想とは思い掛けない物だな!」

 

 「ありがとうございます。でも団長達のフォローがあるって安心感があったから、思いっきり行けただけですよ。」

 

 「ハハハっ!そうか、だが謙遜する事も無いぞ坊主。増長されるのは不味いが、此処は素直に喜んでおけよ!」

 

 戦いを終えて、錬成により創り変えた周囲の状態を元に戻し終えてホッと一息吐いたハジメの肩に手を置いてメルドがハジメを称える。ハジメは思わぬ皆からの称賛の声が照れ臭く頭を掻く。其処へ……

 

 「南雲君本当に凄かったよ。私最後の方は思わず目をつぶっちゃったけど、南雲君が無事で良かった。」

 

 ハジメから預かっていた背嚢を彼に返す為に香織はハジメへと歩み寄り、満面の笑顔でハジメの健闘を称え且つ彼の無事を喜ぶ。

 

 「うん。ありがとう白崎さん、それとリュックも預かってくれて助かったよ。」

 

 頬を朱に染めて白崎から差し出された背嚢をハジメは受け取りながら感謝を伝える。昨夜の二人での語らった事もあり、ハジメは今の彼女には以前感じていた程の苦手意識や忌避感は無くなっている。なので、ハジメも笑顔で以って彼女と相対するのだった。

 

 「……ハッ!?ううん。こんな事お安い御用だよ!」

 

 彼の笑顔。これまではその顔はほぼトールが独占していて、香織は彼女に対して激しい嫉妬心を感じていたものだった。しかし今、その笑顔を彼が自分に向けてくれた。その事実があまりにも予想外であり、そして望外の喜びでもあった。

 

 その様な事もあり、彼女はハジメの返答に対し暫し放心してしまっていたのだった。そして、ハジメと香織。その二人の会話を面白く思わない者がいる。

 

 「チッ。雑魚が小賢しい手を使って目立ちやがってッ!」

 

 「だよなぁ。まともな魔法を使えないからって、あんなもん反則も良いところだぜ!?」

 

 「マジそれだよな!あんな派手なだけの技何か魔物だって慣れっちまえば引っ掛かりゃしないっての!」

 

 口々に嫉妬心丸出しで、ハジメの戦果を認めきれずにそれを腐す檜山一派の小悪党組。何時も彼らが見下しているハジメの活躍が余程気に入らないと見える。その様に、他者の粗を探し腐すよりも、その技術の活用を正当に評価して自らの行動の参考とする方が、己の成長の糧となり得るかもしれないと言う物なのに、残念ながら彼等の貧困なロジックではその発想に行き着くことは無い様だ。

 

 「ヨシ。コレでみんな一通り戦いの経験は積んだ訳だが、今回の目的地はもう少し先だ。此処で暫く休憩を挟み二十階層へ向かうぞ。」

 

 メルド団長の号令に生徒達にの間にふと安堵の溜め息が漏れる。騎士団員達の引率もあり生徒達は何処か遠足気分もあったのだが、戦いの経験はやはり彼等の体力もだが精神的な負担もあったのだろう。

 

 

 

 

 そしてハジメ達は、二十階層にたどり着いた。其処は今回の遠征の目的地としていた地点である。この世界では、この階層へと到れる事が一流の冒険者としての指針となるとの事だが、其処で彼らを待ち受けているモノは果たして。

 

 それは間もなく彼ら自身の身を持って知る事となるだろう。




次回は二十階層でのアレコレから例のやらかしがあって………奈落へゴー!?
ハジメが原作通りに奈落へと墜ちて以降またトールちゃんの異世界道中記を書きたいと思っています。果たしてトールちゃんはどんな世界を訪れるやら?
取り敢えず二つの候補作品から、ど
ちらかを選んで作ろうかと。
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