南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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お待たせしました、十七話です。
新たに、華奢あ〜ん様、過分なる星10評価をありがとうございます。


第十七話

 

 メルド団長を筆頭とする王国騎士団の選抜メンバーに先導され、ハジメ達は遂に本日の目標であるオルクス大迷宮の二十階層へと到着した。

 一階層から順番にクラスメート達は其々に数名ずつのチーム、所謂パーティーを組んだうえでチーム毎に実践訓練を行い、この二十階層に到着するまでに全員が一度以上の実戦を経験していた。

 このトータスにて、ハジメ以外の生徒達が皆戦闘職の天職を得ていた事もあって全員が初体験の実戦を、さしたる問題も無くクリアできていた。其々の深層心理がどうなのかは知らないが、表面上は精神に異常をきたしている者もいない様なのでメルド団長もホッとしているだろうなと、ハジメは責任者であるメルド団長の心中を慮る。

 

 『国とか貴族とかって言うか、ほぼ教会からせっつかれて今回の遠征が企図されたんだろうけど、メルド団長の目から見て僕らはまだ戦地に赴くには時期尚早だって思ってるんだろうな。技術よりも主にメンタルの面で』

 

 同じ人間とは言えど異文化、更には時空をも越えた世界の若者を相手に戦闘技能を学ばせなければならないのだ、幸いと言えないだろうがハジメ達地球人類はこの世界の人間よりも基本的なスペックが高いと言う事で、戦闘技能に関しては今回の遠征で見せたハジメ達の能力に一定の域には達していると評価してはいる様だが、それはまだ今回相手取っているモノが互いに意思疎通も図れない魔物であるからだ。しかしこれから先、本番と言える戦争へと駆り出されれば相対する者は種族は違えども、まだ遭遇はして無いから実態は知らないが、おそらくは知的生命体である魔人族。

 

 「よし、お前達。ここから先は複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ!」

 

 それを相手に戦う事が出来るのだろうか。ハジメとしてもメルド団長と同様に、それが出来るとは思えなかった。否(中にはその様な精神の箍を持たない者もいるかも知れないから)全員が全員無理だとはは言えないが、纏まった戦力として十全に機能出来るかと言えば、それは否であろう。

 

 「そして、今日の訓練はこの二十階層で終了だ!最後まで気を抜くなよ!」

 

 ハジメが思考に耽っている内にもメルド団長からの指示が続き、生徒達はその言葉に其々に反応する。ホッと一息吐く者や、自分の成長の成果に手応えを感じている者や自らの力に酔い痴れている万能感に浸る者など人夫々(ひとそれぞれ)

 

 「フフフっ……香織ってばさっきから、南雲君に随分と熱い視線で見つめちゃって。」

 

 メルド団長の言葉も素通りしているかの様子でハジメを見つめている香織に、雫が微笑まし気な温かな眼差しを向けながら誂う。

 

 「な、な、なななっ、もうッ!そんな事無いんだから。変な事言ってからかわないでよ雫ちゃんッ!」

 

 あたふたと言葉を吃らせて香織は雫の言葉を否定するのだが、そのリアクションが彼女の否定の言葉を否定しているのだと、当の本人は気が付いていない様だが。

 

 「あら、私は別にからかってなんか無いわよ。さっき南雲君の実地訓練の時、香織ってば南雲君の事をハジメ君って呼んでたのよ。だから私は、もしかして貴女達の関係に何か変化があったのかなって、思ったんだけど違ったかしら?」

 

 同性の幼馴染であり親友でもある気安さから、雫は香織に下世話な突っ込みを入れる。先のハジメの初陣の時に、香織はハジメの身を案じ咄嗟に彼の名を叫んでいた事を雫に指摘され、その頬をあり得ない程に赤く染め『あわわわっ』と狼狽えている。

 

 「落ち着いて香織、多分私以外は気が付いてないから。と言うより貴女がそんなにパニックになってちゃ逆に何かあったとみんなに感づかれるかも知れないわよ。」

 

 雫が、そんな彼女を落ち着く様になだめすかし、香織はハッとして表面的には冷静を装って居住まいを正すと、誤魔化しの咳払いを一つ入れてから雫の先の質問に答える。

 

 「そっ、それは……まあ、確かにありはしたかな……でも………」

 

 聞かれた問に香織が小さな声で微笑みも喜びも無く、若干愁いの見て取れる様な表情で答える。その様子に雫は、ハジメと香織の間には、何やら自分が想像していた結果とは違う展開があったのか、それとも香織が望んでいる結果では無かったのだろうかと推察する。

 

 『南雲君の心にはトールさんが居て、私はそこに入り込めそうに無さそうだから』

 

 昨夜のハジメとの語らいにより、香織はそう感じ取っていた。二人はそれ程多くは語りあった訳では無かったが、初めて彼と出会った時と高校へと入学してから一年と少々の時間に彼から感じた変化から彼女はその様に察していたのだった。そう言った意味に於いて、雫の推察は正鵠を射ていると言っても良いだろう。

 

 『でも、貴方を想うくらいは別に良いよね、南雲君』

 

 香織は少し離れた場所で、幾人かの騎士団員と何かを話し合っている想い人であるハジメを静かに見つめながら、誰からも回答を得られない自らの切ない想いに胸を焦がし、胸の内で(こいねが)うのだった。

 

 

 メルド団長からの説明と指示の時間も兼ねた小休止を終え、実戦訓練が再開される。前階層である十九階層からの続きとして、二グループ後に再度ハジメの順番が回ってくると云う手順だ。

 

 一番手はハジメを毛嫌いしている檜山達のグループで、メルド団長が言う様に複数種の魔物の混成団との実戦となり、コレを檜山達は卒無くこなし数分間の戦闘で魔物達を討伐し得た。

 次いで、巨漢の永山重吾をリーダーとしハジメと良好な関係を築いている遠藤浩介のグループでコレもまたパーティーの特性を活かした立ち回りで魔物の集団を撃破。

 

 「よし合格だ。重吾を中心に連携も上手く取れていたな、よく纏まった良いパーティーだな。」

 

 メルド団長が戦いの評価を下す。パワーファイターの永山が前衛として巨体を活かしたインファイトによる攻撃を担当。後衛として、治癒師の辻綾子と付与術士の吉野真央と土術師の野村健太郎がサポート役と、パーティーとしてのバランスがこのレベルとしては良く取れている。そこに加えて。

 

 「それに目立ってはいないが、浩介も特性を活かした良い動きだったぞ!」

 

 遊撃として、暗殺者の天職を持つ遠藤が彼の特徴でもある異様な迄の影の薄さを有効に活用し、メインアタッカーの永山に集中しがちな敵の隙を突いてその意識の外から、できれば暗殺者としての技能で魔物の命を刈り取る。

 普段から遠藤はその場に居ながらも周囲の者達に気が付いてもらえない事が多いのだが、今の評価からも解るようにメルド団長は遠藤の戦う様をきちんと見てくれていて、それを評価してくれた事に遠藤は深く感激し、瞳にうっすらと光る滴がしたたるのだった。

 遠藤達の歓ぶ様を、温かな眼差しで見つめていたメルドは次にハジメへと目を向けた。

 

 「さて坊主で二巡目も最後だが、複数種の連携には流石に前回の様には行かないだろう。」

 

 先に思わぬ戦法と実力を見せたハジメだが、彼の技能である錬成を行うには地面に手を着くか、もしくはその手に素材となる鉱物を持つ必要がある。前回ハジメが使った錬成の戦法だが、歴戦の勇士であるメルドの目から観て、敵前にて屈んだ状態を取る事はレベルや知能の低い魔物相手には有効であったが、知能とレベルが高い連携を見せる高レベルの魔物相手には、やはり辛いものがあるだろう。

 

 「はい。」

 

 ハジメ自身も先の戦闘で、その事は十分に理解していてメルドの言葉に素直に頷き、メルドは三人の騎士団員にハジメのサポートに着く様に命じるのだった。

 ハジメは自分のサポートに着いてくれる騎士団員に礼を述べると背負っていた背嚢を降ろし、その中の荷をまさぐりはじめた。

 

 「あっ、南雲君。荷物また私が預かるよ。」

 

 それに気が付いた香織が先の様にそれを預かる様に申し出る。ガサガサと大きな背嚢の中をあさりつつハジメは彼女に謝辞を伝え。

 

 「ありがとう白崎さん。でもちょっと待ってて、今回はちょっと試したい道具があるから、それを取り出して……よし、これだ。」

 

 目的の品物を見つけたハジメは、それを取り出して右手に納める。長さは凡そ五十センチ程で円柱形をしており一見すると映画で有名な騎士が使う光剣の様な剣の柄の様にも見える。その先端部が四センチ程の長さは先に行くほど細まっており、凡そ直径ニセンチ更。そしてパッと見には解らないが最先端の中心部には一ミリにも満たない小さな穴が開いてる。

 更にその四センチ程の先端部から下は逆に少し太まっており直径は五センチ以上ありそうで、それが凡そ十五センチ程で、処々にメカ的な排気口の様なスリットやボタンスイッチの様な意匠が確認できる。そこから下は持ち手になるのだろうか、直径が四センチ程と狭まり、掌で握るにはに程よい太さだろう。

 

 「よし。白崎さんまたよろしくお願いします。」

 

 握り心地を確認してハジメは一人頷くと香織に向き直り、頭を軽く下げて背嚢を差し出し預ける。

 

 「はい。それが南雲君が造った道具なんだね。」

 

 ハジメの背嚢を預かりながら香織は、ハジメが手に持つ円柱形の棒を見て問う。それが一体どんなものかと好奇心が刺激されるのは当然だろう。其処には意中の相手を心配する思いもあるが、その相手の事をより知りたいと云う欲求もあるだろう。

 

 「うん。まあそんなところだよ、ありがとう白崎さん。じゃあ行ってくるね。」

 

 ハジメは背嚢を彼女に手渡しながら返事を返しつつ、謝辞を述べて一団の先頭へと向う。

 

 「そうなんだね。うん、気を付けてね南雲君。」

 

 彼の背中に香織は先と同じ様に見送る。

 

 「大丈夫よ、香織。騎士団の人も着いているんだし、私達は見守りましょう。」

 

 不安げな眼差しをハジメに向ける香織の肩に親友の雫が優しく手を添えて宥め、二人は共に彼の背を見送る。

 

 ハジメ達を先頭に、二十階層を探索しつつ周囲を警戒する一行。其処に逸早く状況の変化に気が付いたメルド団長が表情を変えた。

 

 「よし、来たぞ!二人は先陣を切って魔物を間引け。その間に坊主は準備を整えろッ!」

 

 左側方から三体と、この階層にしては少ないが数だが一行へ向かって疾走して来る。

 

 「承知!」

 

 メルド団長の指示に二人の騎士が左右に展開し疾駆して突撃、ほぼ同時に二体の魔物を構えた剣で一刀の元に斬り伏せる。団長であるメルド程では無いにしろ、鍛え抜かれた剣技で二十階層の魔物を一撃で屠るのだから流石に大した物だ。

 更には、残った一体が不利な状況に逃走を図れない様に退路を塞ぐまでの動きを見せた。退路を断たれた魔物は、己の置かれた状況どうするかと逡巡した様だが意を決し、二人の騎士を相手取るよりも生き残る可能性が高いと判断しハジメへと向かい駆出した。

 

 「来るぞ坊主!構えろ。」

 

 「はいッ!」

 

 メルドの指示に返事を返し、団長の言う通りにハジメは獲物を構えるのが、その構え方はいまいち様になっていない。毎日の合同鍛錬にハジメも参加しているのだが、インドア派のハジメは武術の腕前の方は錬成をはじめとした技能や魔力程の実力アップは叶わなかった。

 だが、単純にハジメに向かい真っ直ぐに疾駆してこの状況ならば、素人同然のハジメでもタイミングを間違えなければ。

 

 迫りくる魔物を前に、ハジメは円筒形の単筒を両手に構えて右手親指でスイッチボタンを押し込み魔力を込める。それに反応して円筒形の単筒から小さな機械音が唸りを上げて響き渡り。複数箇所あるスリットから吸排気、そして淡い光が漏れる。

 瞬間毎に小さな機械音の唸りは更に甲高く響く。ハジメが造り上げた内部の小さなピストンが毎分数万回転のスピードでシリンダー内を上下運動し、内部に組み込まれた魔石が反応し増幅。そこにハジメのずば抜けた魔力も相まり途轍も無い超圧力を生み出す。

 

 発動の為のエネルギーは瞬く間に臨界を迎えた。魔物も既にハジメの間近に迫って来ている。迎撃の準備は整った。

 

 「ウォーター・ブレード!」

 

 ハジメは少しぎこちなく、膝を少し軽く曲げて、野球の右バッターボックスに立ったバッターの様に構えて発動の言葉を唱え、押し込んだスイッチを今度は上へと押し込み、同時に大きく振り抜いた。

 かつてハジメが父である愁に見せられた、三十年以上昔に放送された銀色のボディスーツを着込んだメタルな宇宙刑事が、その武器を使う時に紡ぐセリフを意識して。

 

 「アギャ……ぁぁ!!?」

 

 タイミングはドンピシャ。ハジメがその武器を振り抜くと甲高く『ギャーン』と切断音を響かせて魔物の胴体はハジメの前方1メートル程手前で上下に分断されてしまう。

 しかも魔物自身が自らの身に何事かが起こった事には気が付いた様だが、それが何なのか瞬時には解らず戸惑いを見せる。そこにハジメは体制を立て直して今度は上段からソレを振り下ろした。

 

 「アギャァッ………」

 

 魔物の肉体は四つに分断され断末魔を残して崩れ去ってしまう。

 ハジメの使った武器らそれは先に説明した、円筒形の先端部の1ミリにも満たない小さな穴から5000MPaにも加圧されて発せられた、刃渡りが1メートルにも及ぶ超高圧の水の刃。この地球上にも存在する工業用のウォーターカッターを参考にして、ハジメの持つ天職である創造者(クリエイター)技術者(エンジニア)の技能を駆使し、地球には無い特殊な鉱石を錬成にて加工し、水を生み出す魔術式とピストンモーターを動かす為の魔術式と刃を形成するフィールド維持する為のを術式付与(プログラミング)して完成させた、斬って良し突いて良しの細剣。

 

 「…………坊主、今のは一体何をやったんだ!?お前がソレを振り抜いた時に何か薄い光の様な光跡が少しだけ視えたんだが?」

 

 あまりの出来事に言葉を失っていた一行だが、魔物の死を確認したメルド団長はハジメがどの様にして魔物を斃したのか、其処がいまいち理解が出来なかった。戦うハジメから距離を置いていた事もあるが、僅か一ミリにも満たない細い糸の様な水の刃を確りとは視認出来なかったのは無理からぬ事だろう。

 ハジメは戦いの緊張、残心を解いてブレードを右手に持ってメルド団長へと向き直って、説明した。

 

 「何と水に圧力を加えて刃にするとは、坊主達の世界にはそんな技術もあるのか、大した物だな、良くやったぞ!お前達もな。」

 

 ハジメと地球の技術に大いに感心しメルド団長は、ハジメと騎士団とを労う。

 

 ハジメを最後に全員が二巡目を終えて三巡目に入り、次は天之河グループの順番となる。二十階層の探索も終盤に差し掛かり、この迷宮をよく知るメルド団長が大きく声を上げ全員に言い渡す。

 

 「擬態しているぞ!周りをよぉく注意しておけ!」

 

 その直後だ、前方でせり出していた壁が突如として変色しながらムクリと起き上がった。それは魔物であった。ソレは身体も色も壁と同化していたが、今は本来の体色である褐色となり二本足で立ち上がり、そして胸を叩きドラミングを始めた。厄介な事だが、ソレはカメレオンのような擬態の能力を持ったゴリラの魔物だ。

 

 「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

 メルド団長の声が響き、光輝達が迎え撃つ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返し、光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことが出来ず苦心する。しかし、それは相手も同様である。

 

 龍太郎の人壁を抜けられないと感じ、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

 『グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!』

 

 と、部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

 「ぐぅッ!?」

 

 「うわッ!?」

 

 「きゃあ!?」

 

 体をビリビリと衝撃が走る。ダメージ自体は無いものの身体が硬直してしまう。それはロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手をスタン状態にさせる。

 

 まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。しかしロックマウントはその隙に突撃をかまして来るかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。意外にも見事な砲丸投げのフォームでだ。

 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

 

 しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。なんと、投げられた岩もまたロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。その姿は、さながら有名なル○ンダイブだ。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。香織も恵里も鈴も「ひぃッ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

 「こらこら、戦闘中に何やってるんだ!」

 

 慌ててメルド団長が流石の剣技でダイブ中のロックマウントを切り捨てる。

 

 香織達は「す、すいません」と謝るものの、相当気持ち悪かったらしく、まだ顔が青褪めていた。うら若き少女達なのだ無理も無かろう。

 

 しかし、そんな様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊である我らが勇者(残念)天之河光輝である。

 

「貴様らァ……よくも香織達を……許さない!」

 

 少女達が気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしく『彼女達を怯えさせるなんて!』と、微妙な点で怒りをあらわにする光輝と、それに呼応して彼の聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

「あっ、こら、馬鹿者がぁッ!」

 

 無謀にもメルド団長の声を無視して、光輝は大上段から振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。技もへったくれも何も無い、怒り任せの斬撃を。

 その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。曲線を描く極太の輝く斬撃がロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁をも破壊し尽くしてようやく止まった。

 

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。その中で光輝が『ふぅ~』と息を吐き、やり遂げた感タップリのイケメンスマイルで香織達へ振り返った。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ!と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長に『バゴーン』と鈍い音を響かせて頭に拳骨を食らった。

 

 「へぶぅ!?」

 

 その衝撃に間抜けな声を漏らして天之河はギャグ漫画の様に体勢を崩して頭を押さえる。

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃ無いだろうがッ!崩落でもしたらどうすんだ!」

 

 メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。その時、ふと香織が崩れた壁の方の天井近くに視線を向けた。

 

 「……あれ、何かな?キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶の様なソレに香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

 『まあ確かに綺麗だよね』

 

 この世界で色々な鉱物を手にしたハジメも初めて見る鉱石で、鉱物の見た目など気にしないハジメが見てもソレは華麗だと感じた程だ。

 

 「ほぉ、あれはグランツ鉱石だな。」

 

 メルド団長が呟く。グランツ鉱石とは、宝石の原石みたいなもので。特に何か効能があるわけでは無いのだが、涼やかで煌びやかな輝きが貴族や富裕層の女性に人気が高く、それを用いて作られる宝飾品は高額で取引されている。

 

 「素敵……」

 

 香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫ともう一人だけは気がついていたのだが。

 

 『うわぁ……如何にもなブービートラップだな。アレだけの鉱石量な上に人気の品なんだから、大抵の人は欲しがるよね。欲に駆られて手を出そうものなら』

 

 そんな香織の乙女な想いにも気が付かず、ハジメは何とも散文的な感想とオタク特有の展開を予想していたりする。

 

 「ヘヘッ、だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁をこの世界で強化された身体能力で軽く登っていく。しかしそれにメルド団長が慌てて止めに入ろうとする。

 

 「こら!大介ッ勝手なことをするなッ。安全確認もまだなんだぞ!」

 

 しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 

 『馬鹿なっ!そんなお約束に引っ掛からないでよ!?』

 

 メルド団長は、止めようと檜山を追いかけ、ハジメは思わず心中で檜山に突っ込む。同時に騎士団員の一人がフェアスコープと言うトラップ探知機でで鉱石の辺りを確認する。

 

 そして、その確認結果に表情が一気に青褪めた。

 

 「団長!トラップです!」

 

 焦りに裏返りそうな声で慌てて報告する騎士団員だが。

 

 「ッ!?」

 

 しかし、メルド団長も騎士団員の警告も一歩遅かった。檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏があるをまさに地で行く結果である。

 

 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるでそれは召喚されたあの日の再現の様だとハジメは思った。

 

 「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが時遅く、それは間に合わなかった。

 

 部屋の中に眩い光が満ち、ハジメ達の視界を白一色に染めあげる。同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 そして………………

 




やらかしまくりの二十階層から、次回はいよいよ。
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