南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

20 / 52
お待たせしました。
今回はトールの異世界探訪回です。
ありふれ3期も始まりましたね。しかも十六話構成だとか、しかもメイドラゴン劇場版も来年公開との事、今から楽しみ過ぎますね。


第二十話

 

 トールのハジメの行方を捜す為の旅路は未だ続いていた。はじめの一月余りの時を彼女は何の手掛かりも無く、手当たり次第に無数の異世界を巡りゆくも発見には至らず、一度地球へと帰還したトールだったが、其処で思わぬ収穫を得る事が出来たのだった。

 それはハジメの父、愁の元に警察より提供されたハジメのクラスメイトが撮影していた動画であった。

 其処に映っていたのはトールも知らない言語で記されていた、大規模召喚を目的とした魔法陣の展開される様子だった。知らぬ言語故に世界の特定には至らなかったのだが、それでもかなり捜索範囲を絞ることが出来た、だがそれはほんの些細な手掛かりと言えるだろう。何故ならそれは、ある程度の絞り込みが出来たと言えども、それでも次元世界は無数に存在しているのだから。

 

 「ふむ、この世界の下等な人間共の文明の発展度合い、元の私の世界と然程変わらないか。まあ、下等生物の文明なんて、そんな事はどうでも良いんですけどね。」

 

 その僅かな手掛かりを元に、旅を続けるトールは一つの世界へと訪れていた。認識阻害の魔法を掛けて、本来のドラゴンの姿で高空から広くその世界を眺め回してトールはその様に呟く。トールは、彼女のその人間レベルを遥かに超えた高過ぎる視力と、その佇む高度も相まってこの世界の大陸の遥か彼方までをも視界に捉えていた。

 トールの目に映るその世界の光景は森林や幾重にも連なった山々がほとんどを占めていて、処々に大小の様々な人間が築いたであろう村や都市が点在している。

 

 その光景は地球と比較すると、如何にも発展の遅れた未開の世界と言った様相を呈していた。現代の科学文明の発達した地球とは比較のしようも無い程に。

 

 「へぇ、見た感じ神による世界への干渉はありそうなものの極めて最低限に留めてるみたいですね。」

 

 はるか遠目に映る宗教施設と思われる建物を見て取り、更にはその世界の魔法と思しき能力を行使している人間の存在を確認しトールはそう結論付ける。

 

 「感じられる力の程も、一部を除いて私達の世界の上級レベルと比べると、何ともお粗末と言っていい程度ですし。」

 

 トールが幾つか感じ取った、強い力の反応も然して脅威と成り得そうにも無いと判断し、彼女は少しだけ安堵する。それはもしも仮にこの世界にハジメが居たとしたら、彼の身に何か不測の事態が起こっている可能性が高いだろうと思えたからに他ならない。

 トールはその様な事を考えながらこの世界の様子を窺いつつ、先ずは一通りこの世界の人間達の居住地を当たってみようかと、一つの大きな都市を目指し移動しようとしたその時だった。

 

 「んッ?コレは………」

 

 先に感知したこの世界に於ける強者と思しき反応を持つ物が、力を行使している事を察知し訝しむ。

 

 「毎度の事だけど、この世界に何かしらのアテがある訳でもないし、行ってみるかな。」

 

 トールはその力の反応があった方角へと向かい、身を翻して移動を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 どこまでも続く澄んだ青空には、処々に真白な雲が片手で数えられる程度浮かび、ゆったりと流れ行く。

 その青空の下には雄大な自然の環境が拡がりを見せている。三千メートルを超えるであろう巨峰が、その頂から末広がりに純白の雪の衣を纏っている様は、日本人ならば霊峰富士を想起させられる事だろう。

 山頂は雪の白に染まっているが、その中腹辺りから麓には幾重にもグラデーションが掛かった樹木の緑色が、その周辺数十キロメートルにも及ぶ大森林を形成していた。

 遠目から見たその光景はまさに絶景との形容が相応しいだろうか、もしもこの光景を下北沢のガールズバンドのSNS担当大臣のギターヴォーカルが目にしようものならば、確実に映えを意識し、その景色をバックに決め顔で自撮りした写真をイソスタにアップした事だろう。

 

 遠目には長閑で優雅な光景に見えていたその景色は、突然発せられた轟音によって瞬く間に破られた。

 

 青く生い茂る大森林の一角に響き渡たると、雄々しく聳える巨木が破砕音を引っ立てて無残に飛び散り、地面は大きく抉れて土砂や岩石を撒き散らした。それにより、けたたましい鳴き声を上げながら周囲数百メートル程の範囲の樹木に羽を休めていた鳥達が、地の穴蔵や(くさむら)に身を潜めていた小さな生き物達が慌てて逃走して行く。

 それはこの、長閑であった筈の大森林に於いて今まさに“ある一団”による大蹂躙劇が開始された事を知らしめる狼煙であった。一箇所から始まった破壊は直ぐに規模を拡大してゆく。

 

 「フハハハッ!有象無象が何体来ようと無駄な事よ。喰らうがいい我の斬撃を!」

 

 さも愉快とばかりに大きな体躯と美しく銀色の体毛を持つ狼の様な魔獣が人語でそう宣いながら、向かい来る魔物達に前脚を振るい斬撃を飛ばして屠る。それはこの世界においてフェンリルと呼ばれる、最強格の魔獣。その斬撃により迫る魔物が胴体から真っ二つに斬り裂かれる。

 

 『すごいフェルおじちゃん!スイだって負けないよ、ブタさん達をビュッてしてやっつけるんだから!』

 

 薄い水色の体色を持つ小さなスライムが念話を使い、楽しそうにフェンリルの攻撃を讃えつつ自らも負けじと、その身の内から液体を高速で飛ばして、迫る二足歩行の豚の顔を持つ魔物に喰らわせる。高速で打ち出された液体の弾丸により額に風穴を開けられた魔物は絶命しその場に斃れる。

 

 『待てよ!フェルとスイばっかりずるいぞ、アイツのせいで鬱憤が溜まってんだから、ここは俺に譲れよなッ!』

 

 体長1メートル程の小さな体躯の赤桃色の鱗を持つ小型のドラゴンが先に狩りを始めた二体に、そんなボヤキをこぼしながら迫る魔物に超高速で突進を仕掛ける。それはピクシードラゴンと言う種の小型のドラゴンだ。その身に雷の魔法を纏い雷光を輝かせて紫電を放ちつつ魔物の肉体を打ち抜く。

 

 「全くのう、ドラの言う通りじゃわい。主殿の知人故に我慢して堪えてやったが、鬱陶しい事この上なしじゃ、儂は彼奴(あやつ)にはもう会いとう無いぞい。おっと、ほれ其処じゃ!」

 

 黒い鱗に覆われた、妙に年寄り地味た口調で話すドラゴンがひょいと前脚をかざすと、熱風と共に魔力を圧縮縮小して詰め込んだ火球を放つと、たちまちのうちに魔物の肉体は黒い消し炭となり崩れ去る。体長二メートル程で黒い鱗を持つドラゴン。それはこの世界に於ける最強種であるドラゴンの中でも、ずば抜けて強大な実力をもつ“古の竜”エンシェントドラゴン。

 

 「こりゃいかんな、もう少し加減をせねば、獲物が消し炭になってしまうわい。解ってはいても手応えが無いのう。」

 

 この四体、四種の魔獣達が蹂躙劇を引き起こしている元凶であった。

 

 『全くだぜ、あの変態エルフ。会うたびにやたらとしつこく俺達に気持ち悪く絡んで来やがって、ウザいったらありゃしないぜ!』

 

 「フン!まあお主らが鬱憤を溜める気持ちも解らぬでは無いが、ソレとコレとは話は別よ。我とてここ暫く人の街に居た為に狩りに出掛けてはおらぬのでな、この場は早い者勝ちよ、ソラッ!」

 

 彼らがこうも好戦的なのは魔獣故の本能もさる事ながら、どうやら直近に何やら鬱憤が溜まる出来事があったのだろう。特に二体のドラゴン種などは態度にそれが顕著に現れている。

 

 『そうだよドラちゃん、スイだっていっぱいビューッてしてたくさんやっつけるんだから!』

 

 「フハハッ早い者勝ちか、それで良かろう。しかし儂も永く生きておるが、やはりスイ程に強いスライムと逢う(おう)た事は無いぞい。これはフェルよ、これらお主もうかうかしておれんよのう。」

 

 「フンッ、それは当然よ爺!何せスイは産まれて間もない頃から我と共に旅をしておったのだ、戦いの何たるかは我がとうに教えておる!」

 

 『ハハハッ!フェルの言う通りだぜゴン爺、それにスイは特殊個体だしな強くて当たり前だぜ、それに進化のたびに色んなスキルを身に着けるしな!』

 

 この付近に存在していた魔物達を屠る手を止める事も無く動きながらも、この四体は互いに会話を交わす余裕さえあった。それ程に四体が強大な能力を有している事が窺えるであろう。力の反応を追いかけて来たトールは上空から認識阻害はそのままにそれを窺う。会話を交わす魔獣達の言葉から、次第にトールはこの世界の言語を学び彼らの会話を理解してゆく。

 

 『ふむ、こうして近くで見てみるとやはり、私には及ばない様ですがあの者達それなりに力はありそうですね。特にあの黒いドラゴンは中でも頭一つ抜けているようです。一見すると(なり)は小さいですけど、本来の姿はおそらくルコアさんに近いくらいの大きさか、私の世界でもそれなりの強者として存在出来そうですね。しかし………』

 

 トールの持って生まれた才と永い戦いの日々とで培われた観察眼により、この四体の能力をその様に推察する。特に黒い鱗のドラゴンが魔力によって、己の身体を小さくしているのだと云う事を見抜く。

 

 しかしとトールは疑問を持つ、種族も何も違うこの四体が轡を並べて魔物を駆逐する理由がどこにあるのかと、トールは訝しむ。四体がそれぞれに能力を有していながら、仲違いもせずに行動を共にしている事が不思議でならない。コレだけの力があるものならば互いに力比べをせずにはいられないだろうとトールは思う。

 

 『何らかの理由があるんでしょうけど、しかし……あの少し先にいる人間は何なのだろう。もしかするとアレが関係しているのか?』

 

 四体の魔獣達が繰り広げる蹂躙劇の現場から数百メートル程離れた場所から、その場へと小走りで近づいてくる人間の姿をトールは視界に入れる。ゼェゼェと息を切らしながらえっちらおっちらと、まさかとは思うがまるで魔獣達を追っている様に感じられる。一見すると強さも何も感じられない只の人間に過ぎない、にも関わらずその人間には何かしらの加護や魔法が掛けられている事をトールは感知していた。

 

 「ハァハァ、おっ、お〜いみんなちょっと待ってくれぇ〜!こんな森の中に一人で置いていかれちゃ、怖くてたまらないだろう!」

 

 トールの目に留まった人間が息切れをおこしながらも、魔獣達に声を掛ける。やはりこの魔獣と人間とは関わり合いがあった様だ。

 

 「フン!相も変わらず肝の小さい男よ。神様方の加護も授かり、我の結界魔法も掛けていると言うのに毎度毎度お主は……」

 

 フェルと呼ばれた巨大の狼の舌打ち交じりの物言いに、トールの蟀谷辺りが少し引くつく。

 

 『神の加護……全くこの世界の神はそんな物を人間に与えて、何をやらせようと言うのか』

 

 神に依存する人間達を醜悪なモノと認識しているトールは、ソレに嫌悪と不穏な物を感じた。それはこの世界の事を彼女が知らないが故なのだが、仮にトールが事実を知ったならば、きっとその理由の下らなさに呆れ果て溜息の一つも吐く事だろう。

 

 「あのなぁ、何時も言ってるけど仕方無いだろう。分かっちゃいても怖い物は怖いんだってのッ!!」

 

 切羽詰まった真剣さの滲む声音で人間が、狼に反論する。

 

 「我の結界の堅牢さは、お主も経験して十分承知しているであろう。ならばどっしりと構えておれば良いのだ。全く………」

 

 まるで聞き分けの無い子供に言い聞かせる様に、フェルと呼ばれる狼の魔獣が人間に諭すが、しかし最後はそれが呆れ混じりのボヤキとなっていた。

 

 

 

 

 四体の魔獣達による蹂躙劇はなおも続く、最初に戦い始めた場より更に数百メートルの距離を戦いながら移動し、それに伴い自然破壊の範囲も拡大していく。そして数刻………

 

 「この辺りの魔物は粗方片付いたな。まあ今日の所はこの程度で満足しておくか。」

 

 『うん。スイもい〜っぱいビュッビュ出来て楽しかった!』

 

 「そうじゃな、あまり狩り過ぎてしまっては、またあの時の様に主殿に大目玉を喰らうじゃろうしな。」

 

 『だなぁ。それに腹も空いたし、そろそろ飯にしようぜ!』

 

 四体の魔獣達が、心ゆくまで戦闘を楽しめた事で満足したとばかりに語り合う。

 

 「うむ、確かにもう昼時でもあるのだしな、そうと決まれば……」

 

 魔物達の死体を量産し、屍山血河を築いた四体は満足げに言葉を交わし頷き合う。全員一致で食事を摂ろうと言う事に決まり、そして彼らの後を追ってきた一人の人間へと目を向ける。

 

 四体の魔獣達が目を向けた人間にトールも目を向ける。その人間は魔獣達が斃した獣の死骸を手に取ると、次元収納と思われるスペースへと次々に投入していく。

 

 『中々便利なものを持っている様ですね、神とやらの加護は別としても、あの人間ちょっと気になりますねぇ』

 

 その様子を眺めやりトールはその人間が思いの外大容量の次元収納を持っている事が窺え、内心少し感心し今少しこの一団の動向を観察を続ける事にした。

 

 「おい、お(ぬし)よ腹が減ったぞ!」

 

 巨大な体躯の狼の様な魔獣フェンリルが、自分達が獲物として乱獲した魔物を次元収納(アイテムボックス)に収納している人間にそう呼びかける。

 

 「………あのなぁフェル、俺今、みんなが斃した魔物をアイテムボックスに片してるだろう。もう少しで終わるんだから、ちょっとは我慢してろよ。だいたいみんなやり過ぎなんだよ、この間みたいにまた、絶滅危惧種を絶滅させてしまったりしたら洒落にならないだろ、少しは加減してくれよ!」

 

 溜め息を一つ吐いてフェンリルに呼ばれた人間が、それに答える。彼のその返答の言葉により、この魔物達が此れ迄にやらかしてきた事の一端が知れる。

 

 「ぐぬぬ……解ったわ、だが出来るだけ早く済ませるのだぞ!」

 

 「了解。」

 

 その人間の言葉に思い当たる節があってか、フェンリルは少しばかりバツが悪そうに口ごもり、不本意そうにではあるが彼の言葉に妥協し片付け作業を続けるその人間に従うのだった。

 

 『(あるじ)ぃ〜、スイもお腹へったのお。』

 

 「ああ、ゴメンなスイ。もうすぐ終わるからちょっと待っててな。」

 

 『うん。わかった!スイ、主の事待ってるね。』

 

 人間がフェルと呼んだ狼型の魔獣に対する対応と違い、まだ幼い我が子に接するが如き声音で呼び掛けると、小さなスライムはポヨポヨと嬉しそうに飛び跳ねながら素直に人間の言葉に従う。

 

 「はあ〜っ、やっぱりスイは良い子だねぇ。よぉ〜し、じゃあ早く終わらせてスイにいっぱい美味しい物食べさせてあげるからな。」

 

 スライムのその仕草に主と呼ばれた人間は、その愛らしさにデロデロと溶けた様に表情を崩しながら親バカさながらの甘やかす言葉で返す。

 

 「全くお主は毎度の事ながら、スイに甘すぎるぞ!」

 

 「全くじゃのう主殿よ。」

 

 『ホントだぜ。』

 

 他の三魔獣の人間に対するぼやき節が漏れる。

 

 

 

 

 流石に大破壊が繰り返された場所で食事にするのも気分的によろしく無いとの人間の言により、彼らはその場から少し離れた開けた場所へと移動し昼食を摂る事とした。

 

 「別に我はあの場で食っても構わなかったのだがな。」

 

 「まあフェルはそうは言うけどさ、俺としてはあんな場所で料理や食事なんてしたくないんだよ。」

 

 破壊の爪痕と飛び散った魔物たちの血痕が残る環境での料理や食事を摂る事など、文明社会に暮らす人間には衛生のみならず精神的にも辛い物があろう。多少なりとも人間社会で暮らしているトールも何となくではあるが人間の言に頷けるが。

 

 『南雲家の家事を預かる私としてはあの人間の発言にも頷けはしますけど、こんな魔物の蔓延る未開の奥地でそんな事に拘ってちゃ生き残る事も出来ないでしょうね。尤もあの人間は連れ立っている魔獣達がなまじ実力が高いものだから、その辺の心配もなさそうですし、そんな事に思いが至らないのかも知れませんね』

 

 観察を続け、トールはこの人間のあり様に違和感を持つ。

 

 「取り敢えず、作り置きしといた唐揚げとトンカツが残ってるからそれで良いかみんな?」

 

 次元収納からシステムキッチンの様なアイテムを取り出して設置しながら、人間が魔獣にそう尋ねる。

 

 「うむ。どちらも美味いからなそれを食べたいぞ。」

 

 『あるじ〜、スイもあるじのからあげ好き〜!』

 

 『おう!あれ美味えもんな!』

 

 「そうじゃな、主殿よついでに酒の一杯もあれば言う事無しなんじゃがのう。」

 

 キッチンの設置を終え、各魔獣達の前に取り出した皿を用意する。苦笑しつつその皿に『先ずは唐揚げからな』と応えて山の様に大盛りに唐揚げを盛ってやると、さて何を作ろうかと思案しながら人間はキッチンの前に立つ。

 その間にも魔獣達はバクバク、ガツガツと出された唐揚げを美味そうにかっ食らってゆく。ほんの僅かな時間で一皿食べ終えた魔獣達は人間にお代わりを要求し、相変わらずだなと言いたそうに苦笑しながら今度は何十枚ものトンカツを各魔獣達の皿に、またしても山盛りにして渡してやる。

 

 「お主よ、あの黒い液体をタップリと掛けてくれ!」

 

 狼型の魔獣が何やら要求すると我も我もと魔獣達が追従する。

 

 「ハハハッ、わかってるよ。今掛けるって。」

 

 と、人間が次元収納から陶器の瓶を取り出してトンカツに黒い液体を掛けてゆくと、その独特の良い香りが辺りに拡がってゆき、空に佇むトールの鼻腔にもソレが届いた。

 

 『この匂い、まさかとは思いますけどまるでウスターソースか、トンカツソースの様な匂いですね。地球なら一般的ですけど、アレは私の世界にも存在しなかった物なのに、こんな世界にソレがあるなんて思えませんが、あの人間にはやはり何かあるのか』

 

 家事全般万能なトールは人間が取り出した調味料の匂いから、そう判断を下す。そんな物を持つ人間にトールは更に興味をひかれ、その彼の行動に注視する事とした。

 

 「お主よ。我は久しぶりにアレを食べたいぞ、作ってくれ!」

 

 唐揚げとトンカツを食べて腹の中も熟れ少し落ち着いたのか、狼型の魔獣がリラックスし寛いだ様に地に伏せて、キッチンにて何を作ったものかと思案していた人間に抽象的な言葉で注文も出す。

 

 「アレってなんだよフェル?」

 

 「うむ、お主と最初に出会った時に食べたアレだ。」

 

 アレと抽象的に言われても、注文が何なのか直ぐには見当が付く筈も無く人間が問い返すと、其処で注文を受けた人間にもフェルが何を求めているのかの答えを得る事が出来た様で『ああ』と頷く。

 

 「ああ、生姜焼きか……分かったよ、じゃあ生姜焼きを作るか。」

 

 得心がいき、人間が次元収納から肉の塊を大量に取り出してゆく様を見届けながら、フェルが己の尻尾をブンブンと左右に振っている。

 

 「フェルよその様にお主が嬉しそうに尻尾を振っている所を見るに、その生姜焼きとはそれ程に美味い物なのかのう?」

 

 その様子に気が付いた黒いドラゴンが、生姜焼きがそれ程迄の料理なのかと好奇心に駆られて問う。

 

 「ん……そうか、爺はまだアレを食した事は無かったのだな。あやつの料理にハズレはない事は爺も知っていよう、ならば期待をして待っていると良い。」

 

 自分が作る訳でも無いにも拘らずフェルがゴン爺に得意気に、焦らす様に煽ると他の魔獣もそれに続けて生姜焼きの美味しさをアレコレと伝える。

 

 「そうか。それ程にか、では楽しみに待っているかのう。」

 

 「そうだった、漬け置きした肉がもう無かったんだったな。ちょっと時間が掛かるけどそれで良いか?」

 

 「うむ、構わぬぞい。みんなにコレでもかと期待を押し上げられたからの、じっくり待つ事にするぞい主殿よ。」

 

 魔獣達の返答に頷くと人間は山盛りの肉の山を崩して、包丁を入れ切り分けを開始する。その肉を切り分ける手捌きと手早さは中々の物で、トールもその人間の包丁捌きに『やりますね』と少し感心を示す。

 作業は進み、人間が切り分けた肉を漬けだれを掛ける為に用意した幾つかのボウルに肉を入れてゆき、入れ終えると再び次元収納から陶器の瓶を取り出す。

 しかしその瓶が、どうやら彼が思っていたよりも軽かった様で蓋を開けて中を確認してみた。

 

 「あっ、しまった。俺の作った特製たれも切れてるんだった、しょうが無い、ネットスーパーでたれを買うか。」

 

 空の瓶を戻すと、その人間は頭を掻きながら独りごちる。そして人間の行動を観察していたトールは其処で思い掛けない出来事を目撃する。

 何も無い筈の空間、その人間の目の前に突如として小さな半透明の光を帯びた板状の物が出現したのだった。その板状の物体をトールは目を凝らして凝視する。

 

 其処に映し出された意外過ぎる文字と映像にトールは驚愕する。ソレはハジメや愁が使うパソコンモニターに映される画像と酷似していて、しかも文字が日本語で表記されているからであった。

 そのモニターの画面を慣れた手付きで人間は操作すると、懐から取り出したコインを投入した。

 

 すると淡い光を放ち何も無い空間からトールも良く知っている品物が現れた。その意外すぎる物品が現れた事にトールは更に驚愕させられてしまうのだが、ハッと我に返ると意を決して自らに掛けていた認識阻害の魔法を解くのだった。

 

 「なッ!!??」

 

 突如出現した強大すぎる力の反応に魔獣達が驚愕の声を上げて、その反応のする空を見上げる。彼らの居る地上から僅か十数メートルの上空に、予告も無く突如現れたのは巨体を誇る一頭のドラゴンの姿。

 しかもソレが自分達では無く、自らが主と認める人間の男に強い眼光を送り睨めつけているのだ。

 

 「ん?どうしたんだみんなしていきなり、焦った様に空なんか見上げて?」

 

 しかしその強大な力の反応に気が付かない人間はのほほんとした態度で共に行動する魔獣達の様子を訝りながら、半身を回して彼らが見上げる空へと目を向け。

 

 そして驚愕し、その場で腰を抜かしてしまう。あまりの出来事にアワアワと恐慌に陥ってしまうが、何も出来ず狼狽えるばかり。頼りの従魔たちも、余りにも主に近過ぎて迂闊に手出しも出来ぬ状況に置かれてしまい動けないでいる。

 そのドラゴンが放つ力の程が、この世界の強者たる彼らをしてそうせしめているのだった。神の加護を受けているとは言えどもこの状況はあまりにも厳しいだろうと従魔達も覚悟を決めるが、しかし意外な事にそのドラゴンは従魔達の主を襲おうとはせず、しかもそれどころか人間の言葉をもって語り掛けてきた。

 

 「其処の人間!今の映像は何だったのだ!?それにその“たれ”をどうやって手に入れたッ!!?」

 

 「えっ!?」

 

 腰を抜かしている人間も、あまりにも意外すぎるドラゴンからの問い掛けに、思わず気の抜けた疑問符が口から漏れ出るのだった。 

 




『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の世界を訪れたトールさん。果たして彼らとの邂逅はどうなることでしょうか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。