南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

25 / 52
今回は前回と違い、終始ハジメ君の動向を追います。


第二十五話

 

 ピチャン、ピチャン、と一定の間隔で滴る水滴が弾ける澄んだ音が狭い空間に響く。其処はハジメが錬成によって壁を掘り進み、精根尽き果て意識を失い倒れてしまった場所。

 

 「…………ん……っ………」

 

 その場で意識を失っているハジメであるが、その意識が戻り始めているのだろうかハジメの口から小さなうめき声が漏れている、そうなれば途絶えていた彼の意識が戻るのも間もなくだろうが、そんな迷い込んで来た一人の人間の事など何も関係など無いと言わんばかりに水滴は、ほぼ等間隔でハジメの頬に滴り落ちている。

 

 そして、それから程なくして倒れ伏していたハジメの身体が小さくピクりと震え、再びハジメの口からうめき声が漏れ出ると数秒の間を置いてゆっくりとハジメの瞼が開かれた。

 

 「……………………」

 

 数度の瞬きを繰り返し瞳も見開かれてはいるものの意識はまだ完全覚醒とまでは行かないのか、ハジメは焦点の合わない目を固定したまま只その場でボーッとしているだけであるが、やがてその意識も覚醒するであろう。

 

 『冷たいな……』

 

 未だ覚めやらぬ感覚の中でハジメは今、その冷たいと言う感覚だけを捉えていた。それはハジメの頬を打つ水滴の滴りだけでは無く、その水滴が作った水の溜まりにハジメがその身を浸しているからなのだが、そこ迄は今のハジメには認識出来なかった。

 

 『でも美味しいな、この水…………』

 

 ハッキリとしない意識の中でそう思うのは、頬に落ちる水滴が伝わりハジメの口内へと流れ落ちており、ハジメはそれを無意味の内に味わい嚥下していたからだろう。そしてそれこそが自分が命を繋ぎ止められた要因である事をやがてハジメは知る。

 

 「あれ……僕は……生きてる!?」

 

 開かれた瞳に輝きが戻り靄が掛かっていた様な意識も確りと覚醒し、何故自分がこの場に居るのかを思い出してハジメは口に出してそれを確認し、ムクリと半身を起このだが。

 

 「痛っ……っぅ……」

 

 膝を付いた状態で掘り進んだが故にこの空間は然程高さが無く、ハジメは身を起こした為にその天井で強かに額を強打してしまった。そしてその痛みにより状況を思い出し自分の迂闊さを嘆きながらも、ならばと錬成によって空間を確保しようと手を上げるが、そこでハジメは左腕を失ってしまった事を思い出した。

 

 「そうだった、僕の腕は………っ、うっ!」

 

 しばし呆然と失った左腕を見ていたハジメ自らの置かれた状況を認識し、またしても絶望感に囚われるが同時に無いはずの左腕に鋭い痛みを感じるのだった。幻肢痛、無いはずの手足に痛みや痒みなどを感じる難治性の疼痛。それがハジメを襲い、失った左腕を押さえてハジメは苦痛に呻き、そして気が付く。

 

 「えっ、何で!?腕に傷が無いし、もう血も出てない!」

 

 いつの間にか断ち切られた腕の断面は肉によって塞がり肌色の皮膚までもが形成されており、流した血の跡も付いてはいなかった。その事を訝しみハジメは辺りを窺うと、ほんの微かなマッチ一本の炎の明るさにも満たない緑光石の欠片が照らした空間に左腕から流れ出た血の痕跡が残されておりまだ凝固もしていなかった。それはつまり、ハジメがここへ逃げ込み気を失ってから覚醒するまで然程の時間経過が無かった事を示しているし、確認出来た血の量は相当な物で失血死していても可怪しくは無いと医学の知識の無いハジメにも理解出来る程である。にも関わらずハジメの左腕の断面が傷跡餌残さず塞がれている、有り得ないその事実にハジメの頭は混乱しそうになる。

 

 其処に再びハジメの頬に水滴が滴りハジメの頬から口へと伝わり、それをハジメは舌で舐め取る。

 

 「なっ、まさか……これが!?」

 

 その瞬間ハジメの身の裡に微かな活力が甦る。幻肢痛と貧血からくる倦怠感はあるもののハジメはコレこれが自分の命を繋ぎ止めたものであると察知してその水源を求めて錬成を始める。

 ふらつきながら錬成を繰り返し奥へと進んで行きつつ、流れ出る水を飲む。そうする事で活力もそうだが魔力までもが回復して行く事をハジメは知る。次第に水量を増やす流れにハジメは夢中になって掘り進む、この絶望の中に見つけ出した微かな光。コレこそが、コレを手にしなければ自分は死んでしまうのだとハジメの本能が訴える。その本能に従い掘り進みハジメは遂に見つけるのだった。

 

 「これが……」

 

 バスケットボール程のサイズの青白く発光する球状の鉱石が其処には存在していた。そしてそれが絶え間なく、あの水を生み出している事をハジメの目が捉えた。

 

「ああっ……」

 

 ハジメは夢遊病者の様にのそのそと近づいて、その鉱石へと手を伸ばして直に口を付けて流れ出る水を喉を鳴らして嚥下していく。飲む事にハジメの中にある倦怠感などの不調が解消されていく。

 

 神結晶!それがこの鉱石の名前である。歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったッ。大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものだッ!

 直径は三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、それがやがて液体となって溢れ出すッ!

 その液体を〝神水〟と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。流石に欠損部位を再生するような力は無いが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われているッ!

 

 この力によってハジメの切断跡も塞がり既のところで命を繋ぎ止め、そして今失った左腕以外の全てを回復したのだった。だが………

 ハジメはその場で体育座りの様に膝を折って座り込み膝に顔を埋めた。死の淵から生還したハジメだが、今後の事を考えるとアノ恐怖が蘇ってきた。

 ベヒモスをも越える力を持つ魔物達が跋扈する世界をチート的な戦闘能力を持たないハジメが生き残る可能性は極めて低い、否、ゼロにも等しい事である。そう思うとハジメは怖くて仕方が無かった。

 ハジメの前で途轍も無い力を見せつけて群れを成す狼を屠ったウサギ、そのウサギが恐れをなして逃走するという選択肢しか無かった爪熊。最低でもウサギはあのベヒモスを凌駕しているだろうし、それを越える爪熊。

 ハジメの脳裏に蘇る、あの爪熊がハジメの左腕を食べる姿が、態とらしくゆっくりとハジメを睨め付けながら左腕を食らい尽くしてゆくあの光景を思い出してしまい、ハジメは折角神水によって得た筈の生への渇望が萎びていく。

 

 『誰か、助けてよ………』

 

 助けを望むも、それが詮無い望みである事は自分自身が一番承知している。誰が好き好んで他者の為に、想像も絶するバケモノが跋扈する虎穴に飛び込んで来ようかと。そして次第にハジメの思考がマイナス方向へと向かって行く、いっそあの時死ねれば良かったと。

 この時ハジメの中からスッポリと抜けていた。ハジメの為にならば、たとえどんな絶望的な状況にだろうとも一切の躊躇を見せずに飛び込んで来てくれる存在がいる事を。今もなお居なくなってしまったハジメを探して無限の世界を駆け巡っている存在がいる事を。視野狭窄、圧倒的なまでの恐怖と絶望がその事をハジメの内から消し去ってしまっていた。

 そうしておよそ四日程の日々をハジメは無為に過ごした。恐怖に怯えながらも空腹により腹の虫は鳴りそれを埋める為に、ここにある唯一口に出来る神水を飲んでは尿意を催し用を足す。

 そんな日々の中で次第にハジメの精神に変化が起こり始める。何故に自分がこの様な理不尽な目に遭わなければならないのかと。恐怖と空腹感に苛まれながらも次第に心の中に擡げてくる怒り、望まずして神とやら言う存在により理不尽に異世界へと拉致され、生存確率を上げる為に自身の有用さを証明するべく己の技量を用いて商品を開発してゆきつつ、戦闘訓練を熟す日々。それにより一定の評価と同時に一部には嫉妬や恨みを(それは日本にいる時からもあるのだが)買ってしまう羽目となり、遂にはベヒモスとの戦闘に於いて味方の攻撃でこの奈落へと落とされてしまったのだ。

 

 「そうだよ、アレってどう考えても故意にやった事だよな。そうとしか思えない!」

 

 不自然に弧を描き自分の足元に着弾した火魔法、それはどう考えてもハジメを狙ってのものであり、しかもそれが恰も戦闘中の混乱によるものだと第三者から見れば事故にしか見えない様に狙い澄まされていたものだったのだとハジメは結論付ける。

 

 「巫山戯るなよ、僕が何をしたってんだ!」

 

 ハジメの中に沸々とした怒りが沸き起こり、ガバっと立ち上がり、その怒りの叫びを錬成により作成した空間に響き渡たらせる。そしてハジメの心が黒く染まってゆく。自分の身にこの理不尽な状況を与えた全てのモノに対する怒りと殺意とを抱く。

 ベヒモス、爪熊、ウサギに狼、自分を落としたクラスメートに、何よりも自分を拉致ったクソったれなエヒトとか云う神、殺してやる。

 

 「殺してやるよ、この俺が一匹残らず殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……………………」

 

 渦巻く殺意を口に乗せてハジメのテンションはマイナス方向へと振り切れる。

 

 「殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺し尽くしてェ、そして帰る!日本へ!父さんの元へ母さんの元へカンナちゃんやイルルの元へ、そしてトールの元へ…………トール、ト…………ル。」

 

 懐かしき世界、愛すべき人々の存在を思い出しハジメはふと我に返る。我に返りそして脱力する。

 

 「そ……そうだよな、父さんも母さんも俺の帰りを待っていてくれている、それにトールはきっと今も俺の事を探していてくれている筈だ!」

 

 黒く染まりつつあったハジメの心の闇が次第に晴れてゆく、愛すべき人達の事を思い出し思い浮かべた事でハジメの顔付きも変わって行く。

 

 『父様と母様とハジメさんと居ると、私の胸は何だかとても満たされてぽかぽかするんですよ。それにそれ以上にハジメさんと居るとキュンとしちゃうんです!』

 

 独りぼっちだった異世界から来たドラゴンは南雲家での生活に安らぎを覚え心からの信頼を寄せてくれた、そして自分に対して惜しみ無い情愛を示してくれた。ならば自分はその想いに応えねばならないのだとハジメは決意を新たにする。

 

 「父さんと母さんの為にも、闘いの本能を持ちながらも地球での暮らしを受け容れてくれたトール達の為にも、俺は殺戮者なんぞにはなっちゃいけないんだ。そんな事を皆が喜んでくれる筈も無いじゃあねえか!」

 

 一寸先は闇の世界、一瞬の後には己の命が失われてしまうかも知れない過酷な世界に於いて、殺生をせずに生き抜く事は出来ないであろうし、また自分に対して殺意や理不尽を突き付けてくるモノ達に対して、全てを赦して見逃す事など出来はしないだろうが、それでも可能な限りは。

 

 「そうだ!クソったれな神や俺に歯向かって来る奴には容赦はしねぇで殺してやるが、そうで無い者まで皆殺しとやってちゃ、みんなに顔向け出来ねぇじゃあねぇか!」

 

 「けどまあ、やられた分はやり返さねぇとな。」

 

 クラスメートにも仲の良い友人は居る。遠藤などは親友と言っても良いだろう。この世界に来てからこの方生き残る為の方策として遠藤は彼の技能を駆使して協会関係者や王国貴族達の事をスパイしてハジメに情報を提供してくれていた、謂わば共犯者でもあるし。白崎香織や八重樫雫も何かと自分を気に掛けてくれていたし、坂上や園部と云った連中も自分に一目置いていてくれたし。それにこの世界で出会い共に働いた親方や職人達に、あの土壇場で自分を信じてくれたメルド団長。闇に蝕まれてその様な人達までをも殺戮しまくる事は自身の人としての尊厳をも捨て去る事を意味するではないかと。

 だが、全てを許容できるだけの度量など持ち合わせてもいないし持つ気も無い。やられたらやり返すし殺意を向けて来る奴には先手必勝でやってやる。其処だけはハジメも譲るつもりは無いのだった。

 

 「そうと決まりゃあ、先ずは生き抜く事を考えねぇとな!」

 

 胡座をかいて座り込みハジメは生きる為の方策を思案する。そこでふと思い出したのは、数日前に()っぽり出した自分の背嚢。無造作に投げ捨てた背嚢をハジメは回収して中身をぶちまける。

 

 「魔導コンロとウォーターブレードとナイフと工具か。」

 

 奈落への墜落の際に大半の物が背嚢から飛び出し失われてしまったが、それでもその三つが背嚢の中に残されていた。

 

 「まあ良いさ、これがありゃあ何とかなるだろうな。多分……っと。」

 

 そう呟いた時に不意にハジメの腹が空腹を訴えて大きく不満の威を表した。

 

 「ハハッ……やっぱ生きる為には食わなけりゃならないよなぁ。」

 

 決意を胸にハジメは行動を開始する。生き残り日本へと帰る為に、愛する人達との再会する為に本当の意味でのハジメのサバイバルが此処から始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 深層のとある一角の暗がりに群れをなした二尾の狼が居た。この階層に於いて最弱クラスの力しか無い二尾の狼は常に群れをなして行動している、大抵は四〜六匹の群れを形成し待ち伏せを基本戦術としてその弱さを補っているのであった。ご多分に漏れず、この群れも四匹で構成されていた。しかしこの群れはこれから消滅する!!

 

 狩場を探して迷宮内を移動していた群れは、ようやく納得のゆく狩場を見つけてそれぞれが四方へと散開して岩陰に身を潜めた。群れ長期戦を覚悟してその身と気配を闇に溶かし獲物が来るのを待つ。

 群れをなして狩りを行うには確りとした連携を取らなければならない。人間ならば言葉をもってしてのコミュニケーションや戦闘訓練によってそれを身に付けるが、この二尾の狼達は持って生まれた種族特性なのか、或いは血族故の血の絆なのかは定かでは無いがちょっとしたテレパシーと言うにはいささか言い過ぎではあるが、互いの存在を感じ取れる特性を持っている。

 

 『!?』

 

 岩陰の一角に身を潜めていた群れのリーダー格に当たるその狼は突然に襲い掛かった異変に戸惑いを見せた。それは、四匹であった筈の自分の群れの中の一匹の気配が完全に途絶え、今は自分を含めて三匹分の気配しか感じられなくなっていた。自分と対になる反対側に身を潜めていた筈の一匹がその存在を消してしまったのだ。

 何事かと伏せていた身を起こそうと四肢に力を入れて立ち上がろうとしたその時、今度は別の方角に潜んでいる仲間の一匹の悲鳴が聴こえてきた。それは何らかの罠に捕らわれた焦燥感である様だった、それを察した残りの仲間と共に救援に向かうべく立ち上がるが、その時には既に藻掻いていた仲間の存在が消え去ってしまっていた。

 こうなっては不味いと二匹は合流して、消えた仲間の元へと辿り着き匂いをかいでその場で何が起こったのかを探り始める。しかしその瞬間に突如としてグニャリと地面が歪み、同時に二頭を囲む様に急速に周囲にせり上がって壁を形成したかと思えば、それが押し迫って二匹を拘束する。

 狼も危機を察して逃走を図ろうとしたものの、グニャリと歪んだ地面が脚を固着して動きを封じられており、それも叶わず二頭の狼は呆気なく岩廊に捕らえられてしまったのだった。それは恰も釈迦の掌の中で踊らされた挙句に岩に閉じ込められた孫悟空の如く。

 それをなしたのは当然ながらハジメである。持ち前の魔力と錬成の能力を駆使してハジメは、はるかに格上である四匹の狼を猟ってみせたのだった。無論ソレだけでは無く、この狩りを成功させる為にハジメは数日間掛けて錬成の再訓練を行い、それよりも数倍の速度での高速錬成を成し得る程に成長していたのだった。

 

 「よう、気分はどうだ?身動きを封じられるってのはどうな気分だ!?まあそんな事はどうでもいいか。」

 

 かすかに開いている隙間から見える狼の顔、忌々しげに自分を睨み威嚇の唸りを上げてガンをくれる狼にハジメは不適な嗤いを浮かべながら、理解もされないであろう言葉を投げかける。

 

 「お前達も直ぐに仲間の元へ送ってやるよ、運が無かったと諦めるこったな。まぁアレだ死んじまう奴はよ、踊っ(ダンス)ちまったのさ不運(ハードラック)とよ。」

 

 ハジメが話す言葉など狼には何一つとして理解出来ないでいるのだが、たった一つだけ狼には理解出来た事があった。それはこれから目の前の矮小な存在が、自分の命を刈り取ってしまうと言う事だ。この過酷な奈落で今日まで狩りを成功させて生き長らえてきた自分達が、遂には狩られる日が来てしまったのだ。

 

 「じゃあな、死ねよ……ウォーターブレード!」

 

 低層階に於いては通じたであろう錬成によって作り出して一定の戦果を挙げた剣山錬成も、奈落の奥底に住まう想像を絶する魔物には通じないだろうとの確信があったハジメは、その能力は相手の動きを封じ込める為の使用に限定して、止めを刺す為にはこのウォーターブレードを使うしか無いだろうと判断し、錬成訓練のさなかに更に改良を加えたウォーターブレードを完成させたのだった。それまでの5000Mpaの水圧から、更に強化を施して、何と水圧を7000Mpaまで上昇させるに至ったのであった。ただし、いくら武器を改良しようともハジメ自身の剣技の程は推して知るべし。

 素人に毛が生えたとも言えないレベル、ならば相手を身動き出来ぬ様に拘束してしまえば、素人のハジメであったとしても的を外す事も無いだろう。その推測は見事に的中しハジメは狼に狙いを定めてウォーターブレードを構えて、その発動スイッチを無慈悲に押した。

 7000Mpaと云うとんでもない程に加圧された小さな穴から射出される水の剣が、岩の一部から覗いていた狼の顔に細い穴を穿って狼の脳を破壊して、その命を断ち切った。短い断末魔の悲鳴だけを残して。

 

 「よっしゃあ!これで飯にありつける!」

 

 四匹全ての命を狩り尽くしハジメは小さく片手でガッツポーズを決めて喜びを表す。十日を超える日々を水だけで済ませていたハジメは固形物に飢えていた。本当ならばトールが作ってくれた温かで美味な料理を味わいところだが、この場に於いてそれは無い物ねだりも甚だしいと言うもの。

 地球へと帰還するか、或いはトールが迎えに来てくれるその日までをハジメは例えそれがどの様な物であろうとも口にして餓死する事態を避けなければならないのだ。どんなにクソ不味い物でもかっ喰らい生き抜かなければならない、彼女の元へと帰るその日まで。

 

 「さてと、それじゃあ前に読んだ異世界料理道に倣って血抜きってのをやってから食った方がナンボか美味いんだよな。」

 

 ハジメは殺した狼の一頭を逆さに吊るして、その体の数箇所にウォーターブレードで穴を開けて狼の体から血を噴出させ始める。勿論の事、周囲を錬成の機能によって簡易的なドーム空間を作成して安全な空間を確保してからそれを行っている。安全を確実に確保する事がハジメが、このサバイバルレースを勝ち残るうえでの絶対条件なのだ、其処は抜かりは無い。

 ウズウズとしながらハジメは滴れ流れる狼の血を見ながら、まだかまだかと待ち構える。そうしながら思い立ったハジメは他の個体も同様に血抜きをしておくかと行動を開始して四体全てを吊るし終えれば、いつの間にか最初の一体から流れていた血も流れてはおらず、ハジメは錬成による戒めを解いて地面に置くと不器用ながら片手でナイフを使って狼の皮を剥ぎ、手頃なサイズに切ってから錬成によって作った金属の串に刺して、魔導コンロに火を入れて川魚を焼く要領で暫く焼いて行く。

 

 「うわっ、何かちっとも美味そうな匂いじゃないなぁ。けど、贅沢も言ってられねぇし我慢しなきゃならねぇよな。」

 

 何とも言えない異臭を放ち焼き上がっていく狼の肉に不満を良いつつも我慢して、ハジメは焼き上がりを待つ。数分の後程よく焼き色が付いた肉を前にハジメはゴクリとツバを飲み込み、串から肉を抜いて素手で焼けた肉を掴み大きく口を開けて肉に噛み付いた。ガツガツと一刻も早く飢えを満たそうと本能のままにかっ食らうのだった。

 




ハジメ君の人外化への第一歩か刻まれました、
技能によって原作とは若干違う狩りの手順と、原作と違う日本への帰還する為のモチベーションを得たハジメ君でした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。