南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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誤字報告ありがとうございます。
爪熊との戦いの決着です。
お陰様を持ちまして、自作最短話数で150000PVを皆様のお陰で到達出来ました。拙作をお読み頂いた皆様に感謝致します。


第二十八話

 

 「行くぜ!」

 

 ドンナーを構えて銃口を爪熊へと向ける。この時ハジメの心中では自らに対する問い掛けを行っていた。それは自身に絶望的な恐怖を植え付けた爪熊を前にして、怖じ気付かずに恐れをなさず冷静でいられるかと言う事である。

 

 しかし幸いにして、宿命の敵を目の前にしてもハジメの胸中に恐れは無かったし気負いも無い。冷静かと問われれば、そうとは言えないのだが、悪く無い高揚感が精神から溢れ出てくる事を自分でも感じている。

 口の端を悪童の様に歪めて何の躊躇いも無く、ハジメはドンナーの引き金をあっさりと引いた。その瞬間に、相も変わらず鈍く重い炸裂音と、心地良く伝わる反動とを感じる。刹那の間に電磁加速された弾丸が爪熊へと向かって目視も利かない速度で、悪魔の如く突進する。

 しかし敵もさるモノ、この階層の頂点に君臨しているだけの事はある。爪熊はハジメが引き金を引くよりも、一瞬速く身体を動かしていた。初見である筈のドンナーを危険な物だと本能的に察知したのだろうか、はたまた己に対して殺気をぶつけて来るハジメの動向を警戒していたからなのか、咄嗟に地に這いつくばる様に身を屈めて音速を超えた死の弾丸を回避してのけた。

 

 「グガァッ!?」

 

 しかし、爪熊も速く動けたのは一瞬の事であり、ドンナーの弾丸を完全に回避し得た訳では無かったのだった。爪熊はこれ迄に経験した事の無い感覚が己の身に降り掛かった事に驚愕する。ドンナーの弾丸が爪熊の肩部を少しだけだが削り取っており、其処から鮮血が溢れ出し、白い毛皮を朱に染め上げていた。

 今初めて爪熊は知ったのだった、此れが痛みというものだと。これ迄に己が殺し喰らってきた獲物達は皆すべからくこの痛みと言うモノを味わっていたのだと。

 

 「グルァァァアッ!!」

 

 その感覚を知り爪熊の中で目の前の“小物”に対する認識が変わり、身の中で怒涛の如く怒りがこみ上げて、爪熊は立ち上がりながら大きく咆哮する。立ち上がり体勢を立て直して目の前の小物、ハジメを睨め付けて威嚇の唸りを上げた。

 

 「ほぉ!眼つきが変わったじゃあねぇか!どうやら俺を、敵として認識出来たみたいだなッ!!」

 

 先程までとは違いハジメに対してビシビシと鋭い殺気を放つ爪熊に呼び掛ける。少々挑発気味に爪熊を嗤いながら見やりつつも、ハジメは爪熊に対して油断はしていない。僅かな油断が死につながると言う事を、ハジメはこの二週間弱の時間の中で嫌と言うほどに身に沁みているのだから。

 

 「ヘヘッ、来いよデカブツ。始めようぜ殺し合いをよ!?」

 

 で、ありながらもハジメは爪熊を挑発する。それはこの目の前に立つモノこそがハジメにとっての因縁の相手なのだから、それは相手に呑まれる事など無いのだと、自分のハートに発破を掛ける意味合いを込めているのかも知れない。

 

 「グラァアアァァッ!!」

 

 爪熊は咆哮する。ハジメの挑発に乗った訳では無かろうが、爪熊はその咆哮一発ハジメへと向かい突進して来る。爪熊の、その巨大に似合わぬ高速での突進。対してハジメもそれを黙って眺めている理由(わけ)も無く、油断無く爪熊へと向けていたドンナーの引き金を引いて超音速の弾丸を放つ。狙い過たずドンナーの弾丸は爪熊の眉間へ向けて直進していたはずであったのだが、着弾の直前に爪熊は側宙回避で以ってソレを回避する。その巨体には似つかわしく無い超絶的な反応は、流石にこの階層に君臨する王者と言って過言では無いだろう。

 

 『なんて回避をしやがる!?』内心にハジメは爪熊の行動を驚嘆する。

 

 側宙による円運動を加えての突進により爪熊とハジメとの距離はロングレンジから一挙にミドルレンジへと縮まる、だがその距離は爪熊に取っては己の間合い。腕の一振りを爪熊は袈裟斬りの様に繰り出してハジメに浴びせ掛ける。

 

 「おっとッ!」

 

 その攻撃の危険性を重々承知しているハジメは斜め後方へと、ウサギの肉を食べて強化されたステータスを用いて高速のバックステップで素早く回避する。ウサギや自分の左腕を鎌鼬の様に、離れた位置から切断した斬撃が襲ってくる事をハジメは忘れよう筈もなく、流れる様にその動作を行ったのだ。ハジメが回避した事により、その跡地には三本の爪痕が深々と刻まれる。

 

 「コイツはオマケだぜ取っときな!」

 

 更にはハジメは回避しながらも同時にマントに隠した内懐から取り出したアイテムを、ポイッと爪熊の方へと放おって転がす。カラコロと音を立てて転がるソレは爪熊の足元付近て止まる。

 何だコレは、爪熊は転がって来たソレが何かは解らないが生ある物と違い殺気などを放っている訳でも無いので、さして気にも留めなかった。直径五センチ程度の暗緑色の球体は、その瞬間に眩い光を放ち爪熊の視界を白く染め上げる。それはハジメが再現して造った現代兵器の一つ、閃光手榴弾。閃光を発する非致死性兵器。手榴弾の一種であり、屋内での近接戦闘や人質救出作戦、さらには暴動鎮圧等に用いられる。故に爪熊に対して肉体的なダメージは無く、暫くの間視界を奪うに留まるのだが。

 

 「グワッ!ガァッ!?」

 

 眩い光に視界を奪われ、白い闇の中で敵を求めて狂った様に両腕を振る爪熊。これぞ千載一遇の好機と判断したハジメは空かさずドンナーを構えると、間髪入れずに引き金を引く。轟音を立ててマッハ10に迫る高速の弾丸が爪熊へと向けて、銃口から煙と紫電を撒き散らし大気を突直引き裂いて直進して爪熊へと着弾する。

 

 「グッグルァァァアアッッ!!」

 

 ドンナーの弾丸が命中し爪熊はその威力の前にその場から、たたらを踏む様にヨタヨタと数メートル程飛ばされてしまう。しかも偶然か、はたまた必然だったのかハジメが放った無慈悲なドンナーの弾丸は爪熊の左肩部に着弾して爪熊と爪熊の左腕とに、永遠の別離を与えたのであった。本来ならば頭部に着弾して生命丸ごと刈り取るつもりだったのだが、爪熊が暴れていた事も影響し尚且つ強者故の本能からか、或いは運が左右したのかドンナーの弾丸は爪熊の左腕を弾き飛ばすに留まってしまいハジメしては若干不本意であろう。

 

 「ほう、コイツは偶然か?にしても出来過ぎじゃねぇか!?」

 

 爪熊の胴体からもぎ取られた左腕が地に落ちて血溜まりを作る。其処へ歩み寄って、ハジメは無造作にソレを拾い上げる。そうしている内にも爪熊はよろけながらも体勢を立て直そう立ち上がるが、しかし爪熊は己の身から溢れる激しい痛みに悲鳴の様に唸りを上げて痛みを訴えた。

 

 「ハンッ!痛ぇか?今までお前に殺された魔物達もその痛みってヤツを味わってきたんだぜ。当然俺だってこの間テメぇにヤラれてその痛みを嫌って程味わったぜ。」

 

 「グルゥゥゥ………」

 

 爪熊は唸る。閃光手榴弾による盲目状態も、今はまだ薄っすらとだが次第に回復してきている。左腕を失った事による痛みと怒りの綯い交ぜな唸りを上げて、ハジメを眼光鋭く見据える。目の前小物が何を言っているのかは相も変わらず理解出来てはいないが、それがやけに癇に障る。其処にまるで燃料を投下する様に小物が手に取った、ついさっき迄きちんと己の身と繋がっていた筈の己の腕を見せ付ける様に掲げて、しかもあろう事か小物はソレを己の眼前で喰らいついた。

 

 「……かぁ〜ッ、やっぱ不味いわ!しっかし、マジで不味い筈なのに、どう言う訳か狼やウサギのよりも美味く感じるぜ!」

 

 目の前で繰り広げられるその行為に、爪熊の中で怒りのボルテージが高まって行く。この時、爪熊が怒りの感情の儘に小物に対して攻撃を加えていたならば、この先の爪熊の運命は違ったモノになっていただろう。この時こそが爪熊にとってのターニングポイントなのであった。

 

 

 

 爪熊の眼前で、ハジメは前回相対した時に爪熊に見せつけられた様に意趣返しの意味合いを込めて、爪熊の左腕を食べてみせたのだが。しかし、この行為は結果としてハジメに取っては悪手であった。初めて魔物の肉を、ニ尾の狼の肉を食べた時にその身を襲った、精神と肉体とを跡形も無く破壊され尽くしてしまいそうな激烈な痛みに苛まれのたうち回ってしまったのだが、二度目のウサギの肉を食べた時には然程の苦しみは味合わなかった。それはおそらく狼とウサギとの間に生物としての格の差が、ほんの僅かな僅差程度しか無かったからなのだろう。しかしどうやらウサギと爪熊との間には越え様の無い巨大な壁の様な隔たりがあるのだろう、例えるならば薄気味の悪い巨人の進撃を阻む程の超大な壁の如く。

 

 『ぐっ……来やがった。』

 

 肉体が狼の肉を食べた事により変容してしまったが為にその時程では無いのだが、爪熊の血肉を食らってしまった事によりハジメの肉体を更に変容させようとする痛みに襲われる。よりにも寄ってこんな時にとハジメの内心に焦燥するのだが、相対する爪熊がこんな好機に仕掛けて来ない事を訝しみつつも安堵する。爪熊の事だからこの機会を絶好の好機と見て攻撃を繰り出して来るのではと思っていた所にちょっとした肩透かしを食らった気分だが。

 

 『そうだよな。コイツもそれなりにダメージは食らってるんだから多少逡巡するのは当たり前だろうし、回復にも時間が掛かるか。尤もソレは俺もだけどな……』

 

 この状況を冷静に分析し結論付ける。そして爪熊の肉を食した事による変異も次第に落ち着き始め、徐々に身体の自由も回復し始めた。

 

 『よし、ちょっとずつ動ける様になって来たぞ、なら!』

 

 ゆっくりとホルスターに収納していたウォーターブレードを左手の義手でとりだして、その先端部に右手をかざす。すう〜っと一呼吸置いてそれに錬成を掛ける。

 

 『良し完了!そろそろ全開で動けそうだが、熊ヤローの方もそろそろ動けそうだな………』

 

 この時爪熊の方も視力を取り戻していたのだが、眼前の敵であるハジメを憎しみと怒りに震えて睨め付けていたのだが、同時にその存在を脅威と捉えてか警戒するばかりで自ら動こうとはしていなかったのだった。その事がハジメに取っては好となり、爪熊に取っては不運となる。そして回復したハジメは動き出す。

 

 「ボッとしてんじゃねぇぞ!食らえッ!」

 

 左手に持ったウォーターブレードの先端を爪熊へと向けてハジメはその起動スイッチを押す。唸りを上げて内部のプログラムが起動して水魔法を発動し超小型ポンプが稼働してその水に圧力を掛けて、先端部より超高圧の水の刃を形成する筈であったのだが。

 

 「ウォーターブレード改良した超高圧シャワースプレーだぜ!」

 

 ウォーターブレードはその先端部にコンマ五ミリの小さな穴から高圧の水のブレードを形成する武器であるのだが、ハジメは先に錬成によって先端部の穴を漏斗状に形状変化をさせて散水栓の様に広範囲に水が飛ぶ様に細工を行っていたのだった。

 

 「グルァァ!???」

 

 突如、目の前に対峙する敵が自分に向かって放って来た大量の水飛沫に爪熊は戸惑う。自分に水をぶっ掛けて小物は何をしたいのだと疑問に思うが、いい加減に自分にぶっ掛けられる水が鬱陶しくて堪らない。面倒なとばかりに腕を振って爪熊は水を振り払おうと藻掻くのだが、その鬱陶しい水も程無くして止まり爪熊は更に混乱する。

 

 「フッ!」

 

 「ガァァァァァッ!!」

 

 水浸しとなった爪熊をハジメはシニカルに微笑って見やると、馬鹿にされたとでも思ったのか爪熊は怒りを込めて上体を大きく伸ばして残った右腕を大上段に振り抜こうと構えるのだったが、その腕が振るわれる事は無かった。それは、その瞬間にハジメが無言のままに両脚から全開の纏雷を発動させたからだった。纏雷の雷のエネルギーはウォータースプレーによってばら撒かれ地に溜まった水を伝わり爪熊の巨躯に多大なダメージを与えた。

 

 「ァガァァグルァッ………」

 

 プスプスと全身の彼方此方から煙を噴き出し爪熊は苦悶の悲鳴を上げる。全身をウォータースプレーで水浸しにされていた為に、纏雷によって爪熊は隈無く瞬間的にその身に電流を流されてしまったのだった。ほんの二口程度爪熊の肉を食べただけであるにも拘らず、多少ではあるがパワーアップがなされたハジメであったが故に纏雷によって放たれた電力も向上したのだろう。

 もしもコレを食らったのがただの人間だったならば、全身を真っ黒焦げに焼かれほぼ即死していただろう。そうはならなかっただけでも爪熊の肉体は驚異的な頑健だ。全身を襲う痺れに抗う様に爪熊はその眼の前の加害者を怒りを込めて睨めつける。この時点でもうこの戦いの勝敗は決していた。

 

 「爪熊、お前は全くスゲェ奴だったぜ。今度はいいヤツに……生まれ変わる必要はねぇな。」

 

 ウォーターブレードを元の形に戻し、ホルスターに仕舞いながらハジメは爪熊へと語り掛ける。更にウォーターブレードの隣のホルスターにセットしていたアイテムを手にして、其れをドンナーの銃口に取り付ける。

 

 「お前の肉はキッチリ俺が食ってやるし、その毛皮は有効活用させてもらうぜ。じゃあな。食らいやがれェッ!!」

 

 サイレンサーの様な装置を取り付けたドンナーを構えて爪熊に照準を合わせ撃鉄を起こし、纏雷を発動して引き金を引くとドンナーの本体で超電磁加速されて弾丸が発射される。更にその先端に取り付けた装置によって、弾丸は加えて渦巻く炎を纏い、撒き散らしながら爪熊へと向かい飛ぶ。コンマゼロを幾桁か書き足した秒後に炎を纏った超電磁の弾丸は爪熊から頭部とその生命とを消失させたのだった。

 残された爪熊の首元からは炎が立ち昇り肉と毛皮を焦がしていくのだった。ハジメはクルリとドンナーを回して、熱で揺らめく銃口にふぅーッと息を吹きかけると勝利宣言を高らかに告げる。

 

 「ヘヘッ、燃えたろ!」

 

 宣言を終えるとドンナーとサイレンサーの様な装置とを分離してその何方もホルスターへと仕舞い、一息吐く。強敵を斃した事の実感が沸き起こり口の端がめくれる。因縁の相手から見事に勝利を勝ち取ったのだ。恐れること無く真っ向からの生き残りを賭けた戦いに、ハジメは勝利を納めたのだから今はその余韻に浸っていても良いだろう。

 

 「ぶっつけ本番だったが、上手く行って良かったぜ。」

 

 其処でハジメは最後を決めてくれた、ドンナーに取り付けていた装置に目をやり左手の義手で其れを撫でる。そして思い出した。

 

 「そう言や、俺とした事が迂闊にもコイツの名前はまだ決めて無かったな……………決めだぜ、ドンナー・フォーティーフォーソニック・オン・ファイアー。オイルが沸騰しそうな良い名前だぜ。」

 

 数秒間黙して思案して考えて出て来た名前が其れである。製品名と言うよりもソレは技名である。その内スクエアだの何だのと派生技が生まれそうな何ともコメントに困る命名である。

 

 

 宿命の戦いを勝利で乗り越えてハジメはこの階層で成すべきことは成し遂げた。これからは本格的に迷宮脱出の為に行動するのみである。生きて日本へ帰る為に、愛すべき人達の下へと帰る為に。

 

 「帰るんだ………俺は。」

 

  

 

 

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル18

 

天職∶創造者(クリエイター)技術者(エンジニア)

 

 筋力:550

 

 体力:660

 

 耐性:500

 

 敏捷:570

 

 魔力:1950

 

 魔耐:2100

 

 技能:術式作成・術式付与・術式削除・術式改良付与・慈竜之愛・賢竜之加護・毒耐性【強】・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・言語理解

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時の針は少しばかり遡る。ハジメが奈落の底の狭い穴蔵で絶望に沈んでいた頃にまで。

 

 きらびやかな装飾に飾られた美しく豪奢で巨大な王城。その一室の天蓋付きのベッドで眠る一人の美しい少女。それは奈落の底へと落ち行く想い人を前にして正気を失い、夢の世界へと退避をさせられたハジメのクラスメート白崎香織であった。

 その傍らには、幼き日から彼女と共にある親友が付き添い彼女の眠りを見守っていた。かれこれ五日もの間香織は目を覚ますこと無く深い眠りについていた。

 

 「香織……まだ目を覚まさないのね。でも、その方が良いのかも知れないわね。このまま夢の世界に心を委ねていた方が、辛い現実と向き合わずに済むのだもの。」

 

 ホルアドを後にした一行は翌日には王国へと帰還し、事の顛末を責任者であるメルド団長が王国首脳部と境界へと報告し、現在は全員王城にて待機状態に置かれている。黙して眠る親友を見守る八重樫雫はその胸中に複雑な思いを抱えて語り掛ける。その顛末を香織に伝えなければならないとの思いもさることながら、このまま眠ったままならば伝えずに済むのにとも。

 そんな思いを抱えながら親友を見守っていた雫の目の前で、五日目にして変化が起こる。ただ寝息を立てていただけだった香織が、その目尻が僅かにひく付き小さな吐息が漏れる。

 

 「………ぅ、ぅぅん。」

 

 「えっ、香織!?」

 

 やがて時間を掛けてゆっくりと親友の瞼が開いて行く様を雫は驚きを持って見る。パチリパチリと瞼を瞬かせてぼ〜っとした表情で辺りを窺う香織。未だ脳の回転は始まらないのか香織は暫し天蓋を眺めている。

 

 「香織…………」

 

 小さな声で親友の名を呼んで、雫は彼女の正気を確かめる。その声に反応して香織は声の方向にゆっくりと頭を傾げて、その声の主をぼやけた眼で見つめて何とも呑気なぼやっとした口調でその名を呼ぶのだった。

 

 「あれ、雫ちゃん。おはよう。」

 

 「えっと、おはよう香織。」

 

 二人の幼馴染の五日ぶりの会話の、それが最初の一言であった。

 




次回はクラスメート達の王国帰還後のアレコレを語ります。
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