南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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王国へと帰還したクラスメート達は一体?


第二十九話

 

 オルクス大迷宮での遠征訓練の翌日。ホルアドの街からハイリヒ王国王城へと帰還の途に着いた一行を乗せた馬車列が街道に連なり進行する。

 その馬車列の中の一両に今回の惨事の戦犯と言っても過言では無い檜山大介と、とある人物を乗せていた。檜山はその車内において一人顔色を悪くして不安に押し潰されてしまいそうな表情で、自分の対面に座り普段と何ら変わらぬ澄ました顔をしている相手を見やり、躊躇いながら声を掛ける。

 

 「本当にお前が言った様に言えば俺は助かるんだな?」

 

 オドオドと情け無く震えた声音が今の檜山の心境を如実に表している。その事を目の前の人物は相手の心理を読むまでも無く把握しており、ニヤリと嗤って誂う様に檜山に応える。

 

 「そうだねぇ。キミが余程の大根役者じゃあ無けりゃボクが言った様に行動すれば間違い無く赦される筈だよ。何せ彼は心の奥底から性善説を信じて疑わない人だからさ。」

 

 ある人物の為人を思い起こしてその人物はさも楽しげに檜山に語る。確りと相手を見れば、その瞳には悦楽の色さえ見えるのだが、精神的に余裕の無い檜山にはそんな眼前の相手の事も見えないでいる。

 

 「そっ、それはそうかも知れないけど、だからって絶対って訳じゃ無いだろう!?」

 

 「本当、キミって小心者だよねぇ。そんなにボクの言ったことが信じられないなら勝手にすりゃ良いよ、それでキミがどうなってもボクの知ったこっちゃ無いしね。」

 

 その人物は胸元で組んでいた腕を解いて、右手を上げ人差し指を左右に振りながら小心者の小悪党を嘲りながら、有り余る余裕の態度を見せ付けて煽り立て、出来なければお前を見捨ててしまうぞと脅しも加える。

 

 「………分かったよ。やるよ、やりゃ良いんだろやりゃあ!」

 

 「うん。そそっ、精々上手くやってくれよね!」

 

 そうなれば、頼る者もいない愚かな小悪党は首を縦に振るしか無い訳で、檜山の返答に気を良くして鼻歌でも歌いそうな声音で機嫌良く煽るのだった。

 

 

 

 

 その日の正午を目前にした時刻、一行は王城へと帰還を果たした。

 

 眠り続ける香織を彼女に充てがわれた部屋のベッドで休ませて、他の一行は全員揃って玉座に座る国王を始めとした王家の一族並び、正教教会の教皇イシュタルとおつきの司教が三名に王国の文官と武官と貴族達が謁見の間に参集し、此度の遠征の結果報告をメルド団長から受けていた。

 

 「何と……南雲殿が!?」

 

 玉座を前に跪き全てを話し終えたメルドを前に、国王エリヒド・S・B・ハイリヒはハジメの戦死を告げられ微かに声を震わせながら、唸る。

 それに合わせ波紋の様に、ざわめきが謁見の間に拡がってゆく。多くの新製品を考案開発し、多くの富を齎したハジメの死をこの場に参集した一同は、それを簡単には受け容れられぬのだ。ハジメが齎した技術の多くは街場の職人達にも伝えられ、製品の量産は軌道に乗りハイリヒ王国の第二次産業は活況を呈し始めているのだが、その核心たるプログラムは現在はハジメにしか創造が出来ないのだ。勿論プログラムを必要とはしない製品もあり問題無く売り出す事が出来る商品もあるのだが、プログラムが必要となる精密な機器ではそうも行かない。

 それだけハジメの存在は豊穣の女神と称される畑山愛子と並びハイリヒ王国にとっては大きな物となっているのだが、しかし事はそれだけでは無かったのだった。それは何よりも唯一絶対の神であるエヒトが遣わした勇者の一行の一人が喪われてしまったと云う事実を、その神への信仰心を最大の是とするこの世界の人々にとって、巨大な衝撃を齎してしまったのである。

 

 「此度の結果の全ての責任は偏に私にありますれば、罰せられるは私ただ一人。この生命如何様にも処して頂きたく存じます。しかし他の者にその責が及ぶ事は無き様にお願い致します。」

 

 跪き頭を垂れて自らの監督責任を告げ、沙汰を受けるは自分だけに留めて欲しいとメルドは願い出るが、衝撃の大きさに参集した首脳陣も直ぐには其れに答えられずにいる。彼方此方で其々が隣り合う者と口々にどうするべきかと思案し合うも答えは出ずにしばしの時が過ぎる。中には当然メルドの監督責任を問う声もあるが、一部からは使徒に選ばれながら死んでしまったハジメ自身に落ち度があったのだと口汚く宣う輩も存在する。その様な者達は残念な事にハジメの齎した技術を当初は馬鹿にして、結果ハイリヒ王国に訪れた空前の好景気のおこぼれに預かれなかった先見の明が無かった無能な貴族の一団なのだが。

 

 「貴方達は何を言っているんだッ!南雲は俺達を救う為に力を尽くして一生懸命に戦ったんだぞ!それを言うに事欠いて無能などと巫山戯た事を言わないでくれッ!!」

 

 そんな一部貴族達の言い様に正義感の強い天之河光輝が怒りも露わに前に進み出て苦言を呈する。その勢いに、最強勇者である光輝に睨まれては自らの立場が更に悪くなると、無い頭でも理解出来るのだろう、低俗貴族の一団も顔を赤くして押し黙ってしまうのだった。

 

 「其れにメルド団長だけが悪い訳じゃ無いッ!俺達全員がまだまだ未熟だったから、団長や騎士団の皆はそんな俺達を良く導いてくれたんだ!それでも事は起こってしまったたんだッ!貴方達だってあの場に居たらそれが分かるはずだ!!」

 

 「止めなさい光輝!光輝の気持ちは分かるけど今はそんな事を言ってる場合じゃ無いでしょう!」

 

 「そうだぜ光輝。一旦落ち着こうぜ!」

 

 しかしそれでも気が済まぬとばかりに光輝が更に言い募ろうとするが、それを雫と龍太郎が抑え宥めて落ち着かせる。幼馴染二人に言い含められ天之河も気持ちがクールダウンしてか、落ち着きを取り戻しクラスメート達の列へと戻る。彼が列へと戻ると入れ替わる様に一人の生徒が前へと進め出た。

 

 「みんな待ってくれ!いや、待って下さい。今回の原因は全部俺が悪いんだッ!上手いこと魔物を倒す事が出来て、調子に乗って見え透いた罠に引っ掛かった俺が全部悪いんだ。だから団長を責めないで下さい。罰なら俺が受けるか……罰なら俺に与えて下さいッ!!」

 

 誰あろう、それは今回の最大の戦犯である檜山大介その人である。彼が述べた様に本来ならば罰は当然彼に与えて然るべしであろうが、流石に神に遣わされた使徒たる者を罰するのも憚られよう。それ様な事情もありメルドはその全ての責を自らが受けようと申し出たのだ。

 

 「大介お前は控えていろ!それらも含めて監督責任を全う出来なかった俺が悪いのだ。」

 

 子供達を護りたい、例えそれが戦犯にあたる檜山であろうとも。今後の精神的な成長を願いメルドは彼の責をも負っかぶるつもりなのだ。

 

 「だけどメルド団長ッ!此処で黙って隠れて団長だけを悪者にするなんて、そんな事したら俺はみんなに顔向け出来なくなっちまうんだ。そうなったら俺はもうみんなと一緒に居られなくなる。だから俺にも、いや俺に罰を与えてくれ!お願いします。お願いします。お願いします。お願いします!」

 

 土下座し頭を下げて四方に向けて何度も願い出て自分の罪を訴える檜山の姿勢に感動の涙を薄っすらと浮かべて天之河が再度前へと進み出る。

 

 「檜山、君のその自分の罪から逃れず責任を全うしようとする姿。俺は確かに見届けたぞッ!戦いも人生も俺達はまだまだ経験不足だ。これからも何度も俺達は間違いを犯すかも知れない。だけどその現実から目をそらさず自分の罪と向き合う君を俺は尊敬するっ!」

 

 「あっ……天之河……俺、俺は………」

 

 来た!内心に檜山はほくそ笑みながら、その思いを表面には見せずに感涙の涙を流して見せる。コレこそが帰りの馬車の車中で檜山があの人物に伝えられた今回の件をチャラと出来るとそそのかした方法であった。クラスメートの中でも最大戦力にして最大の発言力を持つ天之河光輝を味方に付ける。その作戦は百点満点の結果を檜山に齎したのであった。

 

 「うん。何も言うな檜山。その態度から君が十分に反省している事は俺にもみんなにも伝わった筈だよ。」

 

 跪き涙ながらに訴える檜山の肩に手を置いて天之河が、彼を慮り宥める。その一見すると美しい光景にこの場に会した一同の中には感涙に噎ぶ者も現れる。勇者にそう言われては何も言えないとの雰囲気が醸成され、やがてその思いに謁見の間は支配されるのだった。

 

 「皆さん、この通り檜山も反省して自分の罪を告白したんです。ですからメルド団長にも檜山にも今回は寛大な処置をお願いします。」

 

 其処にとどめとばかりに楔を打ち込む天之河の一言に、この場に於ける処遇は決定されたのだった。

 

 それから数分の後、国王がメルド団長に対して語り掛ける。

 

 「メルドよ、そなたの報告相解った。自らの立場を弁え嘘偽り無く真実のみを語っていると言う事も承知した。であれば、事が事だけに為政者として我はそなたに厳罰を下さねばならぬ処であろう。しかしそれは、この、我が国最高の戦力たるお主を罰する事は国家の戦力を大いに損ねる事となろう。今は魔人族との戦いもあり、人族国家は大凡足並みを揃えている状況だが、その戦いに決着が付けばその後どうなるかお主にも想像がつこう。」

 

 国王の言うところにはメルドも十分に承知している。今は戦力を増強した魔人族と云う共通の敵が存在しているが、しかしその魔人族との戦争が終わればその後は一枚岩とは言えない人族の其々の国家間での小競り合いが行われる可能性も高い。特に、傭兵上がりで弱肉強食の気勢が強く、エヒト神に対する信仰心も薄いヘルシャー帝国などは、ハジメの開発した製品により好況に沸くハイリヒ王国にどの様なチョッカイを掛けてくるか解ったものでは無い。

 

 「はっ!ですがそれでは。国内外に示しが着きますまい。なればやはり責任を取る者が必要である事は必定でしょう。」

 

 「うむ。お主の言は誠に正論である。なれば我はそなたに対して三日間の謹慎処分及び三ヶ月間の減給を言い渡す。謹慎処分が明け次第、そなたには再び勇者一行の教練を続ける様此処に命じるものとする。それで宜しいでしょうかな、イシュタル教皇猊下も。」

 

 玉座から国王がイシュタルへと向き直って伺いを立てるのは、実務質的なこの国の支配者が彼である事を如実に物語っている。振られたイシュタルは厳粛な態度を崩さずに応える。

 

 「そうでありますな。己の責から逃れようとせぬメルド団長と檜山殿の態度は武人の鑑と言えましょう。なれば私からは取り立てて今回の件を荒立てようとは思いませぬ。」

 

 此処でメルド団長や檜山に厳罰でも下そうものなら勇者である天之河の機嫌を大いに損ねてしまうだろうと、イシュタルも打算的に理解している。ならば答えは知れたもの。

 

 「分かり申した。再度メルドに告げる。そなたに対する処分は先に述べた通りとする。」

 

 イシュタルの言質も取れて国王はメルド団長に正式に沙汰を告げると、メルド団長は粛々としてその処分を受け容れるのだった。メルドの返答に国王は頷くと、玉座から立ち上がって一同に向かう。

 

 「更に加え明後日に、南雲ハジメ殿の国葬を行い彼の者の偉業を讃えるものとする。本日の沙汰は此れにて終了とする。尚、この件に関しての異議申し立ては一切認めない物とする。その事を皆周知徹底する様にな。では皆此れにて解散せよ。」

 

 こうして、今回の一件は一部の者には不満を残しながらも一件落着と相成った。そして香織が目を覚ます前に国王の宣言通りにハジメの葬儀は大々的に執り行われたのだった。

 

 

 

 

 

 

 あの日から五日もの間眠り続けていた香織が、意識を取り戻した。それはとても喜ばしい事の筈であるのだが、今の雫の内心は其れを素直には喜べなかった。南雲ハジメの消失が一体どれ程彼女の心に大きく傷付けてしまうのか、それを想像するだけで雫の心は参ってしまいそうだ。

 

 「香織大丈夫?私の事分かる!?」

 

 しかし、だからと言って一度目覚めてしまった親友を放置しておく訳にも行かず、雫は香織に呼び掛ける。

 

 「雫ちゃん……あれ?私、えっと……」

 

 親友からのその呼び掛けに、ぼんやりと返事を返した香織は、次第に明瞭になり始めた意識に従い記憶をたどり始める。そして彼女にとって最も辛い記憶が呼び覚まされようとしていた。

 

 「確か迷宮で……はっ!そうだよ南雲くんが私達を助けようと!」

 

 長い間眠りに就いていた為に、ガバリと勢いよく起き上がれはしなかったが沸き立つ焦燥に駆り立てられて、香織はこうしては居られないとばかりにベッドから身を起こそうと藻掻く。

 

 「駄目よ香織ッ!落ち着いて貴女はずっと眠っていたのだから、精神も体力も本調子では無いのよ。そんな状態で何が出来るというの!?」

 

 「でも、でもッ!こうしている間にも南雲君が迷宮に一人でッ!!だから早く助けに行かなきゃ!」

 

 雫は今にもハジメの為に動き出そうとする香織の身体を抑えて、宥め落ち着かせようと試みるも、想い人が未だ窮地にあるのだから助けなければと自分の想いを親友のぶつける。未だ本調子では無い体調の為に上手く動かない己の身体をもどかしく思いながら、強く訴える。

 

 「冷静になりなさい香織ッ!今の貴女が迷宮へ行ったからって何が出来るって言うの!?あの階層へ下りるまでにも多くの魔物を倒しながら行かなきゃならないし、仮にあの階層に到達出来たとしても今の私達じゃ全員掛かりで立ち向かっても、あのバケモノは倒す事が出来ないわよ!そんな事、貴女だって解っているでしょう!?」

 

 自分の体調を顧みず、その思いの丈を訴える親友を雫も少し語調を強めて諌める。体調のみ成らず技量も経験もレベルも何もかもがオルクス大迷宮の下層を攻略するには足りな過ぎると言う現実を突き付けて。その親友から告げられる残酷な現実に香織は言葉に詰まりワナワナと震えて目を見張る。

 

 「っ……でもッ!」

 

 彼女にもそんな事は十分過ぎる程理解出来ているのだ、あの魔物の絶望的な恐ろしさも身に沁みて理解しているのだが、それでも香織は想い人を救いたいと純粋に。

 

 「落ち着いて香織、私だって気持ちは同じよ。」

 

 「えっ、雫ちゃんも南雲君の事が好きなの!?」

 

 “南雲ハジメを救いたい”その想いは香織と同様に雫も持ち合わせていた。語気を緩め切々と訴えかける様に雫は親友へ、自分もまた同じだと告げる。親友の意外な告白に驚愕する。まさか、幼い頃から共にあった親友が自分と同じ人に好意を抱いている。トールだけでも香織にとっては、白色彗星帝国の如き脅威の難敵であると云うのに、更に其処に親友である雫が加わるなど、難攻不落のイゼルローン要塞を攻略する以上の難事業である。

 

 「へぇ………そうなんだぁ……」

 

 だがしかし恋は盲目とは言ったもの、親友の告白に香織の眼から虹彩が薄れて黒に染まり、その背後からも薄暗いやっとした暗幕のような物が発現する。そして雫は見たのだった!

 香織の背後から揺ら揺らと揺れ動きながら立ち昇っていた靄が、次第に寄り集まって形を形成し始めるのを!程無くして寄り集まり形作られたソレはまるで般若の様な凶相を持った女性の姿である。

 圧倒的なまでの存在感を顕にするソレは、正に彼女の潜在能力を形にしたもの、パワーあるヴィジョンッ!その名も幽波紋(スタンド)なのか!?

 

 「ちっ、違うわよ!そうじゃ無くって、私も出来ることなら南雲君を助けたいって事よッ!」

 

 雫はまだ起き抜けであるにも拘らず、その様な気迫を見せる友人の様子にヒクリと蟀谷を引くつかせながら自分の真意を香織に伝える。内心には『コイツ面倒くせぇ』と思いながらも、それをおくびにも出さずに。

 

 「……ふぅ。だけどあんな奥深い奈落に落ちて行った南雲君が生きているのかどうかは分からない。けれど、私達を逃がす為にたった一人であのバケモノに挑んで行った彼を、あんな場所に一人残しておくなんて私も嫌だもの。」

 

 「だから、私は南雲君の消息を知る為にも強くなるわ。強くなってあの橋の先へ進んでみせるわ。」

 

 しかし誤解されたままでは堪らないとの思いも合わさりつつも雫は香織に自分の本意を告げる。

 

 「そっか、ごめんね雫ちゃん。私勘違いしちゃったよ、あはは……」

 

 「ええ、分かってくれれば良いのよ。それよりも香織、貴女もその気があるのなら一緒に強くなりましょう。」

 

 元が幼馴染で親友である二人、雫が真意を伝えるとその場の空気は瞬く間に氷解して優しい空間となる。識者が見れば、尊い“ゆるゆり”な空気が醸し出され癒される者もいよう。

 

 「うん。でもね雫ちゃん、南雲君は絶対に生きてるよ。私には判るんだ。それはそうと、私が眠っている間の事教えて欲しいんだけど、良いかな?」

 

 「ええ、それは構わないけど。香織にとっては少し辛い事もあるわよ。」

 

 早くも立ち直りを見せる強い親友の姿を雫は眩しく思いながらも、ハジメの国葬などが執り行われた結果として公式的にハジメが死亡したとして扱われている事など香織に取っては赦せないと思われる事情なども伝えなければと思えば憂鬱な気持ちにもなろうと言うものである。

 

 

 

 時は遡り、ハジメの国葬が執り行われたその夜。

 

 王宮の一角にてその人物は、人知れず一人夜風を心地良さそうに浴びていた。花の咲き乱れる庭園にて一人夜空を見上げ鼻歌を歌い、罪無き花を一輪手にとって。

 

 「此れで良いんだよね。キミもキミの主にとってもさ。」

 

 誰も居ないにも拘らずその人物は語り掛ける。此処に他者が居れば、その人物が残念な人物でありイマジナリーフレンドとでも話をしているのだろうと判断して、見て見ぬ振りでもしてやり過ごすだろうと思われる。

 

 「ええ、十分です。不穏分子も消え去り、勇者も更に強く成長しようと決意したのならば上出来でしょう。」

 

 しかし、その言葉に応える者が確かに存在しているのは明らかである。近くに寄れば返答を返す者の声が確かに聴こえるのだから。

 それは光学的な迷彩を施して、その人物にしか姿が見えない様に偽装してその人物の背後に立っている。銀色の髪と美しい翼を持つ妙齢の女性の姿をしていた。その姿に大半の男は心を奪われるであろう美しさであるのだが、しかしその眼は生を感じさせない無機質であり彼女がただの人では無い事は誰にでも理解出来よう。尤も、その背にある翼の存在により彼女が只人で無い事は明白であるのだが、しかし人によってはその眼にも神聖さを見出す者もいよう。

 

 「う〜ん。でもねぇ、今回の件で心をポキっと折られた子達もいるしね。今後の戦力ダウンも否めないと思うんだけど、まぁ、キミのご主人も絶対的に人間族を勝たせようとは思ってないみたいだし、OKなのかな?」

 

 賢しらにその人物は神聖さを醸す翼ある女性に語り掛ける。それはいっそ清々しいとさえ言えるふてぶてしさである。

 

 「否定はしませんが、あまり深く詮索をしない事を勧めます。」

 

 無機質な眼をしていると言う訳でも無いであろうが、翼ある女性はその様に返されても気を悪くした素振りも見せず淡々とその人物からの皮肉に応えると、背を向けて翼を小さく羽ばたかせて地から1メートル程飛び上がる。

 

 「ハイハイ了解。ボクとしても、此方の希望を叶えてくれるのなら文句は無いし、藪蛇になるのもあれだから言う通りにするよ、キミたちが裏切らないならねッ!」

 

 両手のひらを開いて戯けてその人物が応えると、翼ある女性は振り返り念押しをする様にその人物に告げた。

 

 「それは、貴女の心得と結果次第と言う事にしましょう。今後も結果を出し続ければ此方としても問題はありません。」

 

 それは互いに互いを利用し合う。二人の間にあるのは歪に過ぎる打算的なる関係。その二人が何を望むのかは今はまだ語るまい。

 

 

 

 

 

 爪熊を斃してから二日、ハジメは遂にこの階層の全てを探査し尽くしていた。結果として解ったことは上層へと登る階段やシステム等が存在しない事であり、脱出を目指すのならば下層へと下らなければならないと言う事であった。

 

 「まぁこう言った展開のお約束ではあるんだろうが、何だかこの迷宮の製作者の思惑に乗るのも釈然としないんだよな。」

 

 昨日発見した下層へと下る階段を目の前にしてハジメは不満を独り言ちる。探索の最中に襲い来る魔物達を屠るのもいい加減ウンザリだが、試しにと強引に上層へ上がろうとして迷宮の天井に錬成を掛けたり、ドンナーで発砲したりと試みるものの成果は得られず全てが徒労と終わってしまった事にムカつきながら。

 

 「まぁ、愚痴ってもムカ付き指数が上昇するだけだしな。しょうがねぇし行くとするか。」

 

 爪熊の毛皮で新たに作ったマントを翻してハジメはボリボリと頭を掻きつつ、下層へと下る階段を見据えると意を決して歩を進めるのだった。

 




第二のヒロインにして、原作の本妻さんに早く登場して欲しいものです。個人的に。
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