南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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ほんの少しですが、今回は他のドラゴン達を出演させました。


第三話

 

 結局、南雲ハジメはこの日の午前中の授業時間のほぼ全てを睡眠時間に当ててしまったのだった。まあそれは今回ばかりの話では無く、オタクとしての趣味にこれまでの人生の時間の大半を費やしているハジメである、ゲームのプレイやちょっとしたプログラミングに読書にアニメ鑑賞にプラモデルの制作などを、夜を徹して没頭した挙げ句この日の様に授業時間を睡眠時間に充ててしまう事などしょっちゅうだ。

 なのでそんな事情もあり、この日の朝に起こった一悶着の様にハジメがクラスメートから、非難や注意を受けるのは致し方無い部分はある。それでも檜山の様に私怨をぶつける為にハジメに絡む事は如何なものかとは思うだろうが。

 

 「いただきます。」

 

 午前の授業終了のチャイムの音によってその眼を覚ましたハジメは、トールが届けてくれた弁当を前に手を併せて小さな声で敬意と感謝とを表すと早速右手に箸を持ち、トールが言った様にあっさりとした煮込み料理中心の消化に良いそのおかずを食し始める。

 

 「……………」

 

 ハジメの隣の席から遠藤がチラチラとトールが作った弁当を羨ましそうに見ていたのだが、しかし生憎とハジメはトールと違いこの時遠藤の存在を認識しておらず、その事に気が付く事は無かった。

 

 「ごちそうさま。」

 

 ササッと弁当を食べ終えたハジメは両手を併せ感謝の言葉を述べると机の上を手早く片付け始める、どうせ午前中を寝て過ごしたのだから今日はもう一日中眠って過ごそうとの腹積もりでいた。

 胃袋も適度に満たされた事で、どうせ放っておいてもそのうち睡魔が訪れて眠りの園へと誘ってくれるのだからと独り言ちつつ両手を机の上に着いて、いざ鎌倉(すいみん)と昼寝をするだけなのに意味もなく意気込んで上体を横たえようとしたハジメだったが、自分の目の前に人影が差した事に気が付き何事かと顔を上へと上げてみれば。

 

 「へっ!?坂上君?」

 

 其処に居たのは意外な人物、ハジメとしてはあまり関わり合いになりたくないと思っているクラスの人気者、天之河光輝の友人である脳筋巨漢のクラスメート坂上龍太郎。

 『何故、坂上君が僕の所に来てるんだろう、珍しい事もあるもんだなぁ。』と内心訝しむハジメに坂上が話し掛ける。

 

 「南雲、今朝はすまなかった。」

 

 「えっ!?」

 

 更に意外な事に坂上はハジメに対して謝罪の言葉と共に軽く頭を下げて来たのだった。何故(なにゆえ)〜っとハジメは現状に理解が追いつかず軽くパニくってしまいそうになるが、その理由を本人が若干罰が悪そうに頭を掻きつつであるが述べる。

 

 「俺は、南雲……お前の事を何も知らないで普段の印象だけで、何事にもヤル気の無い奴だって決めつけていた。けど、今朝のトールさんの話からすると、お前は全部が全部そうだって訳じゃ無いって解った。」

 

 「…………」

 

 無言、ハジメは坂上が語る話を只黙って聞いていた。あまりにも、坂上がこの様な態度を示している事が意外過ぎて。

 

 「ゲームを作る仕事ってのは俺にはよく解らないけど、休みの日をずっと親父さんの手伝いに費やしたって事はすげえ立派だって思うぜ。まあ只、だからと言っても今日一日中寝てたのは感心しねえけどな。」

 

 好意と言う程の気持ちを坂上がハジメに対して抱いている訳では無い様だが、それでも坂上がハジメに対する評価を多少なりとも改めた事がその言葉から見て取れる。

 

 「ハハ……それでわざわざ謝罪してくれるなんて、坂上君って結構良い人なんだね。」

 

 「別にそんなモンじゃ無ぇよ。俺は只曲がった事が嫌いなんだ、だから自分が悪いって思ったならちゃんと謝らなきゃってな、マジでそれだけだ。」

 

 良くも悪くも坂上と云う人物は、単純明快にして基本的には善人なんだろうなとハジメもまた坂上に対する評価を上方修正するのだった。

 

 「うん分かったよ坂上君、その謝罪は受け取っておくね。わざわざありがとう、確かに僕はあまり褒められた人間じゃ無い事も事実だし皆に非難や否定される部分が多い事も承知しているけど、でもそう云う面も含めて僕は僕だから。」

 

 「おう、まあ南雲のそんな部分に付いては俺もあんまり好きにゃなれないだろうけどな、けどソレはそれで別だ。まあ俺の話はそれだけだ邪魔したな。」

 

 サラッと手を振って坂上はハジメの元を去り己の席へと戻ると、いつもの如く幼馴染四人組として昼休みの時間を語り過ごすつもりの様だ。

 これでゆっくり眠れるな、とハジメは先程中断した眠る為の体勢を取るべく机の上に突っ伏して眼を閉じるが、流石に瞬間的に眠りに落ちはしない様で何気無しに周囲の生徒達や、授業時間を終え昼休みであるにも拘わらず生徒の質問に真摯に応える教諭の声が耳に入ってくる。

 

 「確かに、龍太郎が言うよう家業を手伝っていると言うのは立派だとは思うけど、でもだからと言って一日中寝て過ごして学生の本分を疎かにしてしまうって事は、単に本人の努力が足りていないって事じゃないのか?」

 

 「確かに光輝が言う様に学業が疎かになっているって一面は否めないけど、流石に二日間もほとんど睡眠無しで仕事をしていたと言うのならそれは努力がどうのって話じゃ無いでしょう。」

 

 「うん、私も雫ちゃんと同意見かな。どんなに努力をしたって二日も満足に眠って無かったら、きっと精神も体力も限界が来ちゃうよ。」

 

 殊に天之河一派の声は教室内によく響き渡って来て、眠る為に幕を下ろそうとしていたハジメの耳朶から耳穴を通って鼓膜を小さく震わせてる。

 どうやら彼等は先の坂上との会話より知った、土日二日間の自分の事を話題にしており否応にもそれが聴こえてくる為、ハジメはダウンなテンションで『ああもう、僕の話題なんか俎上に乗せないでもっとトップカーストっぽい話でもしなよ。』と辟易とさせられる。

 なら、もういっその自分が事教室を出て行って“千葉の捻くれ腐り目ボッチ”よろしく誰も来なさそうなベストプレイスでも見つけて其処で寝ようかな等と、溜息を吐きつつハジメがゆっくりと身を起こし始めたその時だった。

 

 「きゃっ!何っ!?」

 

 一人の女子生徒の悲鳴交じりの声が響き、何事かとその声に反応した者達が教室内を見渡すと、その女子生徒の上げた悲鳴の発生原因は直ぐに解ったが、それが一体どの様な現象なのかを理解した者は極少数であった。

 

 「こっ!光輝君っ!?」

 

 「光輝っ!?」

 

 「何だ!オイ光輝ィ!?」

 

 「なっ!?何だこれはッ!?」

 

 天之河光輝の足元を発生源として眩く白い輝きが教室の床を真円の形に広がって行き、その当事者である天之河も幼馴染の三人もあまりの事に理解が追いつかないでいる。

 

 「みんなっ!速く教室から出るのよっ!」

 

 突然起こった異常な事態に逸早く畑山教諭が生徒達に教室から避難する様に促すが、その光源が教室全体に拡がる速さの前には彼女のその言葉は意味をなさなかった。

 

 「なっ!?これはッ!魔法陣!?うっ……」

 

 天之河達の声が響く中、その異変の正体に逸早く気が付いたのはハジメだった。異界からの来訪者であるトール達を身近に見知っているハジメは、この地球上には実在していないと思われている魔法や魔術と云った非現実的なモノが存在する事を彼等から教わり知っていたのだが、だからと言ってあまりにも突然の出来事の前に何も為せる事がある筈も無く、その魔法陣の輝きの中にこの場に居た全ての人共々飲み込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 早朝にハジメへと弁当を届け終えたトールは南雲家へと帰宅早々母菫の為の食事を用意し、同時に父愁とその会社の社員の為の昼食の作成に取り掛かる。

 

 そして、正午を回る少し前にその仕事を終えたトールは、同じ頃に起床してきた菫に朝食を兼ねた昼食を振る舞いつつ、五段重ねの重箱を計四つをサイズの大きな二つのバッグに詰めて出掛ける準備を整える。

 

 「では母様、私は父様の会社まで行って来ますね。」

 

 菫のコンディションを考慮しつつも決して味を損なわない、美味なる料理に舌鼓を打つ彼女にトールはその旨を告げる。

 

 「うん、了解。私も食べ終わったら、ちょっとゆっくりしてから仕事場に向うよ。」

 

 「わかりました、食べ終えた食器はキッチンに置いてて下さいね、私が帰ってから片しますから。では母様もお気を付けて。」

 

 「うん、ありがとうトールちゃん。お父さん達の事よろしくね。」

 

 「はい、行ってきます!」

 

 「いってらっしゃ~い。」と呑気な声でトールを見送った菫はトールが淹れてくれた緑茶を啜ると「ぷは〜っ。」とひと息吐き。

 

 「ホント良い娘よね、トールちゃんは。むっふふふ……トールちゃんにカンナちゃんとイルルちゃん。いやぁ〜っまさか異世界から来たドラゴンがウチの娘になってくれるとか一年前には想像すら出来なかったのに、正にオタク冥利につきるってものよねぇ〜。」

 

 ハジメや愁同様に重度のオタクである菫はニマニマとして呑気にそんな事を思っていたのだが、それから数刻の後、彼女は衝撃的な現実を突き付けられる事になる。

 一人息子のハジメがクラスの同級生達と共に集団で神隠しに遭ってしまったという衝撃的な事実を。

 

 

 

 

 

 

 

 南雲家の玄関を出るとトールは認識阻害によって普段は隠している背中の翼を展開し尻尾も顕すと、その翼で荷物である弁当を詰めたバッグに気を遣いつつも空を飛ぶと、それでも僅かな時間で目的地である南雲家の家長である愁の経営する会社へと到着した。

 このハジメの父愁が経営する会社のオフィス(スタジオ)の休憩室に自身が作った手料理を手早く並ぶテーブルに広げ終えると、トールはこの日出社している社員達に人好きのする涼やかな声で呼び掛けた。

 

 「みなさん、おまたせしました準備出来ましたよ。」

 

 「うひゃ〜っ!やったぜ今日もトールさんの手料理だぁッ!」

 

 「俺、このデスマーチの間トールさんの料理だけが心のオアシスなんすよぉ!」

 

 「ゴチになります!社長ッ!トールさんッ!!」

 

 口々に御礼の言葉を告げる社員達にトールと愁もニコリととても良い笑顔だ。しかし流石にトール一人で数十人分の料理を短時間で作るには南雲家のキッチンでも些か手狭な為に、其れとは別に惣菜屋から追加で料理とおにぎりやサンドイッチなどを注文していた。

 

 「おうッ!みんなあるだけ食ってくれよ!なんせ……我がトールちゃんの料理は世界一ィィィ!美味い事に間違いなぃィィーーーーーー!だからなッ!」

 

 「ヨッシャァァァ!一つ残らず腹の中に収めてやる、行くぜかわい子ちゃん!」

 

 「その唐揚げ狙い撃つ!」

 

 「キャベツロールをセンターに入れて奪取、キャベツロールをセンターに入れて奪取!」

 

 ノリノリで、某ナ○ス軍人のマネを披露して社員達に食事を促すオタクな愁社長と多様なネタで返す社員達と、それをにこやかに見守るトールの表情はとても満ち足りている様だった。それは愁も同様で、共に会社を支えてくれる社員達に最愛の妻と息子と、そして娘同然に親愛の情を抱くドラゴン達の存在が彼に幸福を与えてくれる。

 

 しかしその満ち足りた幸福感は、もう間もなく奪われてしまう。最愛の少年の存在をこの世界から、愚かなる存在の悪意によって連れ去られてしまう事に依って。

 

 

 

 

 

 

 

 嵐のような賑やかな昼食を終えた休憩室にて、トールと愁はその後片付けを二人の手で行っていた。

 社員達には各々ゆっくりと暫しの休憩を取ってもらい、午後からのハードワークに備えてもらう為にという愁の細やかな心遣いによって。

 

 「父様もお疲れでしょうし、社員のみなさんと一緒に休んでもらってよかったんですよ。」

 

 「ありがとうトールちゃん、でもたまにはこうやってトールちゃんと一緒に働くのも俺としては悪くないからね。それに終焉帝(ダモクレス)さんからもトールちゃんの事をよろしく頼むと仰せつかっているしね。」

 

 愁のその言葉にトールは自分の胸の内から暖かなモノが溢れる。今は離れて暮らす実の父の思いと、我が娘同然に自分を受け入れてくれたもう一人の父の言葉とが彼女を包む。

 

 「そうですか。」

 

 ギッと己の胸元に添えた右手を握り微笑みながら口にしたその一言には、その僅かな一言には、多くの言葉を費やしても表しきれない今の彼女の感慨が深く込められている。

 

 「うん。」

 

 愁はその一言はトールが返事など求めてのものでは無いと知りながらもそう応えた。彼女の思いを多少なりとも感じられる程度には、愁も父親であり大人である。

 

 しかし時は何時までもその感慨にトールを浸られてはくれなかった。

 

 

 「はッ!?コレは……魔力!!」

 

 昼食の残滓を片付けていたトールはこの世界の、この国の、この街の何処かしらから突如として溢れ出た魔力を察知した。

 

 「うん?どうかしたのかいトールちゃん。」

 

 突然、ハッとした表情で休憩室のガラス窓の向こうを凝視し始めたトールを訝しみ愁は声を掛けるが。

 

 「この方角は……ハジメさんの学校の方から!」

 

 先程までの幸福に満ちた表情はもう彼女の顔には残っておらず、キッと厳しく引き締められた表情にきつく結ばれた口元と力の籠もった眼をしてトールは、その異変がハジメの通う学校の方角から発せられた物だと察知した。

 

 「父様ッ、もしかしたらハジメさんの学校で何かが起こっているかも知れません、学校とそれから母様にも連絡を取ってみてください。」

 

 トールは自らが察知した変異がもしやハジメの身に降り掛かっているのではと、最悪の事態を想定し愁にそう伝える。

 

 「何だって!?トールちゃん、それは一体どういう事なんだ!?」

 

 「魔力です!比較的大きな魔力の反応がハジメさんの学校の方角から発生したんです。今はもう綺麗さっぱり消えてますけど、もしかしたらハジメさんの身に何かが、なので私はこれから学校に向かいます。」

 

 「解った。済まないがトールちゃん頼んだよ、俺も直ぐに取り掛かるから。」

 

 「はいッ!」

 

 手短にトールは自身が感じ取った事のあらましを愁に説明すると、ガラス窓を開きそこから飛び立ちハジメの学校へと向う。どうかハジメの身に何事も起こっておらぬ様にと願いながら。

 

 

 

 時を同じくして、トールが感じ取った異変を感じ取った者達が居た。

 

 昼休みの小学校の校庭で、友人達と共に給食を終えて遊具で遊ぶカンナが。

 

 「………あっちは、ハジメの学校の方……」

 

 「カンナさん、どうかしたの?」

 

 立ち止まり魔力の反応を捉えハジメの学校の方を向く。遊ぶ手を止めてカンナが立ち止まった事を訝しみ才川が何事かと問うが。

 

 「まだ……わからない。」

 

 「まだ?」

 

 現状、何が起こっているのか知るよしの無いカンナにはそう答えるしか無かった。

 

 

 昼食を終えた会社のオフィスの自分の席にて、朝のコンビニで買っておいたスィーツを備品の冷蔵庫から取り出して、にんまりと蕩けきった顔で見つめるエルマが。

 

 「はっ!?何だこの魔力は……」

 

 パシッとデスクを左手で叩いて立ち上がると、その魔力の発生した方角をサッと慌てたように見やる。

 

 「おや、急に慌てて立ち上がってどうかしたのエルマさん?」

 

 スィーツを前に蕩けていたエルマが突然厳しい表情を見せて立ち上がり黙りこくった彼女を先輩であり彼女がどの様な存在かを知る滝谷が、これはもしやただ事では無かろうと察して問い掛ける。

 

 「あっ……いや何でも無いんだ滝谷先輩……」

 

 「そうかな、とても何でも無いって顔じゃ無いと思うんだけどな。」

 

 滝谷に対してどう答えるべきか戸惑うエルマに、滝谷は彼女の態度からエルマが何事かを察知したのだろうと当たりを付けてそう言う。

 

 「すまない滝谷先輩……まだ今は私にも何が起こっているのか解らないんだ。」

 

 何が始まろうとしているのか、エルマはその正体が掴めず焦燥に駆られるのだった。

 

 下町の小さな駄菓子屋にて、平日の昼下がり故に未だ子供達の下校時刻には遠く、客も居ないその店内で今日は店に訪れるであろう子供達や店主の孫である高校生男子会田タケトと、どんな交流が出来るのかと思いを馳せていたイルルは。

 

 「早く来い来い♪フンフン、フフフ〜ン♪」

 

 楽しげに調子外れの唄を口遊み(くちずさみ)ながらハタキとダスター刷毛で、商品棚のホコリを掃除していたイルルもまた。

 

 「んッ!?これは魔力か、でも何の魔力だ。」

 

 魔力の発現を察知し、その方向に顔を向ける。常の子供達に見せる楽しげな笑顔が消失した、険しい表情で暫しその方角を睨めつける。

 

 「調和勢じゃ……無さそうだ、混沌勢でも……」

 

 もしやこれから良からぬ事態が起こり始めるのではと、湧き出る不快感に怒りを感じながら。

 

 

 住宅街の一角に、それなりに高級だと思われる一軒家の一室。其処に彼女は、自身をこの日本に召喚した魔法使いの家系『真ヶ土家』の一人息子の小学生、翔太。

 

 「あう〜、ハァ暇だよ翔太くん。何処か出掛けようかな。」

 

 その翔太の、家主不在のその部屋で彼の不在に暇を持て余し、少年のベッドの上でゴロゴロと右へ左へと転がりながら、そんな事を呟くのはかつては神の座についていたと云う驚きの肩書を持ち、その人間態はトールをも越える長身と豊かな実りとを持ち合わせた太古より存在せしドラゴン。

 

 ケツァルコアトルことルコア。

 

 「およ!?コレは魔力だね。何処かで誰かが魔法を発動したみたいだねぇ。ふむ……」

 

 自身が大切に想う翔太のベッドの上で暇を持て余していたルコアだったが、彼女もまたその異変に直ぐ様気が付くとトール達と同様にその方角を見やりつつも暫し黙考。

 やがて彼女が感じた魔法は、その残滓をも程無くしてほぼ消失してしまい、ルコアは少し落胆混じりにその魔法に対する寸評を口にした。

 

 「ふむふむ、コレは魔法陣だね。しかも私達が居た世界とは別の世界の魔法の様だね。召喚の魔法陣か、しかし何ともコレはすこぶる不完全でしかも至るところ無駄の多い魔法陣だねぇ。」

 

 この様子ではさしたる脅威にも足り得ないと判断を下したルコアは翔太のベッドの上で、腕を枕に寝転ぶとつまらないとばかりに溜息を吐いて呟く。

 

 「まあトール君も動き始めた様だしね、今はまだ私が動く必要も無いかな。一応私も傍観勢だしね。」

 

 そう呟くとルコアは優雅に昼寝と洒落込むのだった。

 

 

 都内のとあるアパートメントの一室にて、その部屋中に堆く(うずたかく)積み上げられたゲームソフトのボックスや書籍に囲まれた室内でパソコンのモニターに向かいネットゲームに興じる長髪の男。

 

 「ぬぅっオノレ猪口才なッ!」

 

 自身が狙っていたアイテムを持つ敵キャラを残念ながら逃してしまい忌々しげに悪態をつく彼もまた異界より来訪せしドラゴンである。

 因みにこのアパートメントの一室はエルマが勤める会社の先輩に当たる男、滝谷真が借り受けている部屋なのだが、とある事情からこの男は滝谷の部屋に居候を決め込んでいるのであった。その事情はいずれ語ることもあるかも知れないが、此処では割愛しよう。

 

 「今度こそは逃さんッ……っ、面倒な!」

 

 ゲームプレイの最中に、再度狙いのアイテムを低確率ながらドロップする敵キャラを発見し、今度こそはと興奮の声を上げるがしかし。

 

 「こんな規模の魔法を白昼に使うとは、何処の愚か者の所業だ。」

 

 あまりの愚行に、彼ファフニールは呆れ果てて吐き捨てる。今後何事か事態が動くかも知れないが、その時はこの地に住まう同族達が自分に声を掛けてくるであろう。そんな些事よりも今はアイテムを入手する事こそが自身にとっての最優先事項であると、彼はパソコンモニターに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うっ……何だ……!?』突然現れた魔法陣の放つ閃光に飲み込まれてしまったかと思えば、ハジメは夢現の様で朧で奇妙な感覚を味わっていた。肉体と空間との境目も曖昧に感じられる其処で、それは己の肉体と精神とをまるで外部から入り込んで来た何物かに作り替えられでもしている様な不快な感覚とでも言えばいいのだろうか。

 

 『う……気持ち悪い……、何が起こっ……んッ!?』

 

 自分の肉体と精神とを弱体化させようとしているかの様な、そんな不快な感覚がどれ程の時間ハジメを苛んでいたのか。一瞬なのか或いは長時間に及んでいるのかハジメにはもう解らなくなっていた。

 

 『……これは……』

 

 しかし何時しかハジメはソレとは違う感覚が、別所から新たに湧きでて来た様に感じた。その己の身の内から湧きでてくる様なそれは、暖かく優しい波動を放ちハジメの肉体と精神とを満たし、その外部からの干渉を静かに排除し自分を包み護ってくれている様な感覚。

 それが自分の(存在が曖昧になってしまってはいるが)胸元辺りから発せられている様にハジメには感じられた。何処に自分の眼があり其れを見ているのか、何処に自分の手があり其れに触れているのかはっきりとは意識していない。

 そうであるにも拘わらず、ハジメはそれが何なのかを意識する事が出来た、それは。

 

 『これは、エルマさんの……お守りか……それと……』

 

 外部からの侵食から自分を護るように静かに淡い小さな輝きを放ってハジメの心身を保護してくれているソレは、何時だったかこの世界にトールと会う為に南雲家に訪れて来た彼女の古い馴染にしてトールと同じ世界からの来訪者であり、その後紆余曲折を経てこの日本で暮らす様になった、人とは異なる高次なる存在である彼女の名はエルマ。彼女がこの世界で暮らせる様になった事へのお礼にと、ハジメに手渡してくれた小さなお守り。

 

 そして、また新たに己の身のうちから静かに湧き出るモノをハジメは感じた。侵食の影響から弱り始めた心身を静かに緩やかにエルマのお守りと共にハジメの心身に強靭な護りを与えてくれている感覚をハジメは知覚する。

 それが何によって生まれ出る(いずる)のかはよく解らないのだが、ハジメは其れを与えてくれた者が誰なのかを朧に感じられた。

 

 『……トール………』

 

 そして……………

 

 

 

 ハジメは己の肉体と精神とを取り戻す事が出来た様であったのだがしかし、教室内に発生した奇妙な魔法陣が放つ閃光に包まれると云う異変の中に置かれている最中であったのだと知覚する。

 更にその閃光が次第に薄れはじめている事をも、徐々に開かれ始めた視覚からソレを知覚するのだった。

 




ハジメの席を訪れた坂上が放った言葉、意外!それは謝罪ッ!
作中でも書きましたがイメージ的に龍太郎は己の非を認めたら素直に謝罪が出来るキャラだと思い、今回のエピソードを加えてみました。

それに加えトール同様異変を察知した各ドラゴン達の言動もですね。
今後彼等彼女等がどう行動するかは、現時点ではあまり考えてはいません。
トール一体でもエヒトにはオーバーキルだと思うのですが、そのトールと互角や格上の存在が参戦してしまっては………しかしその存在にビビリ散らしパニクるエヒトもオモロイかもですね。
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