南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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誤字報告ありがとうございます。
新たに 栃木県FGO様、☆10評価を頂きありがとうございます。嬉しすぎて涙ちょちょ切れる思いであります。


第三十話

 

 爪熊との対決に勝利したハジメが本格的に迷宮からの脱出に取り掛かり二日が過ぎ、上階へ登る手段が何も無いのだと結論が出るとハジメは前日に発見した下層へと下る階段を使い迷宮を正式に攻略すると言う正統的な手段に打って出る事とした。

 

 ハジメによる快進撃が此処に始まるのであった。

 

 「何も見えねぇな。」

 

 一層目と違い二層目は一切の明かりがない暗黒の空間だった。一層目には階層の彼方此方に存在していた緑光石が放っ光によって多少薄暗くはあったが普通に視力を有している者であれば普通に視界を確保出来ていたのだが、二層目には其れが皆無であり真の暗闇がハジメを待っていたのだった。

 

 そして所変われば品変わるとは言ったもの、この階層に存在する魔物は見事にこの階層の闇に適応したモノであったのだ。その事をハジメは数分の後に知る事となる。

 

 仕方無しとハジメは一階層で採取していた緑光石で作った簡易的なカンテラ照明を背嚢から取り出して、それを光源とし階層の探索を開始した。暗闇の中で光を発する、それ自体が自らをして危機に落とし入らせかねないと承知しながらもそうするしか無かったのだった。

 

 「失敗したなぁ、暗視装置(ノクトビジョン)でも作ってれば良かったんだろうが………」

 

 光源が存在しない暗黒の空間で産まれ育った魔物がいれば当然それは暗闇に慣れ親しみ、環境に適応しているであろうから明かりを照らす事が自らの身を危険に晒している事をハジメは承知しているからこそ、そう言ってぼやいてみせるのも仕方が無いだろう。無論ハジメも愚かでは無い、此処が夏の夜にする肝試しの会場では無いのだから無防備に道をただ進むのでは無く、物陰などで身を隠しながら進んではいるのだが、間もなくハジメは魔物からの襲撃を受けてしまうのであった。

 それは暗闇の階層を探索し始めて間もない、テレビアニメで例えるならば、アバンタイトルからオープニングを終えて番組提供をクレジットしている辺りの時間が経過した程の事。

 戦いの場数を踏んだハジメの直感が危機を知らせたのだった。その生存本能とさえ言える危機感に従い、ハジメから見ての左方向に咄嗟にサッと緑光石のカンテラを向けた。

 カンテラの光射す其処に見えた物、それは体長が二メートル程もある巨大なトカゲの姿をした灰色の魔物であった。壁にへばり付き光りに照らされたその両眼が妖しい金色をしており、ソレがハジメを凝視している。

 

 『ヤバい!』

 

 咄嗟にそう判断してソレから身を隠すべく動いたハジメの危機察知能力と行動速度は大したものであったのだが、それでも結果として完全回避を為す事は敵わなかった。ハジメが回避行動を起こすと同時にトカゲの金色の眼が怪しく光を放つ。

 

 「チッ、不味ったッ!」

 

 やられた!とハジメは内心に焦燥を感じた。回避しながらも攻撃が来ると予見したハジメは咄嗟に義手の左腕で我が身を庇ったのだが、見る間にその義手の手首の辺りから石化が始まってしまったのだった。見る間にソレは四方に広がり義手を侵食して行き手に持っていたカンテラをも石化させるに至りハジメはやむを得ないと判断して右手を手刀を形作るとそのまま石化が侵食する前の左肘関節部を叩き落とした。

 

 「やってくれるぜ、折角作ったのによ!」

 

 乗りに乗って造り上げた義手を自らの手で壊してしまった事に、やり場の無い憤りを感じながらもそれにより一応石化の拡大は取り敢えずは防げた事に、ハジメ安堵しながらも一応保険として神水を一口煽っておいた。

 

 「やられっぱなしってのは俺の趣味じゃ無いからなッ!見てろよトカゲヤロォ!」

 

 見えぬ敵に悪態をつきながらハジメは腰に装備したポーチ備えて置いた閃光手榴弾を先にトカゲが居た場所辺りを目掛けて放り投げた。同時にハジメも縮地を利用してその場を移動すると反射的にトカゲがハジメの気配を追ってか再度石化攻撃を繰り出すが、今度はハジメの縮地による高速回避のスピードが勝り完全に回避する事に成功する。

 

 縮地での移動の最中にもハジメは腰のホルスターからドンナーを引き抜いて撃鉄を起こす、しかしそれを構えるのでは無くハジメは眼の前に翳すのだった。

 それは閃光手榴弾の光を遮る為の咄嗟の『対閃光防御』体勢である。安全ピンを外して三秒後に発光する閃光手榴弾がそれから間髪をいれずに炸裂して、暗黒の空間に人工的な昼の光を創り出す。その強烈で眩い光は太陽のもとに生きる生物にとっても眼球に強いダメージを与える威力があるのだ、なればこの様な暗黒の世界に棲息し光を知らない生物がソレを体験したならば被るダメージは如何程のものか。

 閃光に視力を奪われ身動きの取れないトカゲをハジメは手榴弾の閃光が収まるのと同時に発見し、ドンナーを構えて照準セットから引き金を引く迄をを瞬時にやってのけた。

 

 「ボディがお留守だぜッ!」

 

 狙い過たず超音速で空を突き刺す弾丸はトカゲの腹部へと着弾し、一発でその腹部(実際には背部から着弾)を粉砕してみせた。トカゲが壁面へとへばり付いていた事もありドンナーの弾丸はトカゲだけではなくその壁面の岩盤をも大きく抉り取って崩しさり、加えて超音速の弾丸が発した熱の影響でしばらくその場には高い熱が発生していたが、暫く経つとその熱も終息し常温へと戻った。

 

 「ヘヘッ流石はドンナー、頼りになるぜ。しかしトカゲ一匹殺すのに義手が半壊かよ、コストパフォーマンス的にどうなんだよコレ……」

 

 クルクルとドンナーを回しながら腰のホルスターへと仕舞い、トカゲの死骸を回収すべく歩みながら危機回避の為に自ら破壊した義手に怨めしく目をやりながらハジメは嘯く。

 

 「義手の修理もしたいところではあるが、他にどんな魔物がいるかも分からんし、何度も修理する事態になるかも知れんし、もう暫くは探索しながら他の獲物も居たら狩っておくか。」

 

 それから数時間を集中して探索へ費やして幾種類かの魔物と遭遇、それを狩って各々一体ずつを回収した。小腹も空いたし休憩するにも丁度良いと、ハジメは手頃な窪地を見つけるとその場に錬成を掛けて拠点となる安全空間を作り出した。六畳間程の侵略者の存在を心配する必要の無いスペースの空間の中心部に作った架台に神結晶を設置して、滴り落ちる水を側溝兼スライダーの様に集積させながら回収する仕組みも抜かり無く作ってあり、セットしたカップに直接溜められる仕組みも設え済みと、飲水の準備も万全。

 それでは早速と背嚢から取り出した小型魔導コンロに小さな手作りフライパンをセットして一層目の強敵爪熊の脂身を調理用オイルの代わりに使い加熱調理の準備は完了、素早くコンロに火をつけて。フライパンに熱が通るまでの間に、お手製のナイフで獲物である石化トカゲ(バジリスク)と散弾の様に羽を放出するフクロウと六本脚の猫の様な魔物の肉とを切り分けてると、順番に火の通ったフライパンにその肉を投入して好みの加減まで火を通すと完成だ。

 ハジメは取り敢えず精神的な余裕が出来た事もあり礼儀正しくとまでは言えないが、頂きますと一言唱えてそれらをぱくついていく。

 

 「不味いってのが最初から解ってたけど、解りすぎててボケもかませねぇぜ。」

 

 しばらく無言で食事を進めていたハジメだったが少し小腹が満たされ始めてから、そんな不平が口を吐く。繰り返す事になるが、生きる為力を付ける為にも魔物を食す行為の必要性はハジメも承知しているが、この魔物の不味さと味気なさは食文化の大国(最近は政府の策謀により食料価格さえ爆増した為にその座も危ぶまれる)日本国民たるハジメの舌を満足させられる物ではない。

 

閑話休題。

 

 食を進めていくと、再びハジメの身に痛みが走り始めるのを感じるが、神水を飲んでその痛みを抑えながら『コイツは爪熊と同レベルかそれ以上の魔物だったんだな。こりゃ結構な能力アップが期待出来そうだぜ』と内心北叟笑みつつ三体の魔物肉を完食した。

 

 

 「へへへッ、それじゃあ恒例のタカさ〜んチェックッ!………って違うわ。ステータスオープン!」

 

 内懐からトリアージタグの様に括り付けているステータスプレートを掲げてボケをかましてから、改めてステータスを表示させる。

 

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル23

 

天職∶創造者(クリエイター)技術者(エンジニア)

 

 筋力:770

 

 体力:750

 

 耐性:870

 

 敏捷:890

 

 魔力:2300

 

 魔耐:2500

 

 技能:術式作成・術式付与・術式削除・術式改良付与・慈竜之愛・賢竜之加護・毒耐性【強】・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・気配感知・石化耐性・言語理解

 

 其処に記されていた数値と技能との増加にハジメは満足と不満とを同時に味わう。数値の伸びにはハジメも満足がいったのだが、問題は技能の方であった。

 

 「マジかよぉ。石化……耐性って、耐性だけで石化の能力自体は身に付かないのかよ。納得いかねぇな、石化の邪眼とか最強厨二病スキルの定番なのによ。こんなのポテトの無いバーガーセットくらい片手落ちだろ!」

 

 セットメニューの定番は人の好みによってマチマチだろうが、ハジメにとってはポテトは外せない物であるらしい。その辺りはハジメも一般的な高校生の生態を有しているらしかった。

 

 他の新たな技能の確認も進める。夜目と言うのは読んで字のごとく暗闇の中でも見通せる能力である。神結晶が発する仄かな明かりの中ででもハジメは拠点の中の様子が昼間の様に確りと木理確認が出来ている事に満足する。コレにより暗闇での探索も楽になる。

 気配感知はこの場での確認は出来ないがコレも読んで字が如くで、範囲にいる者の気配を察知出来るというものだろう。

 

 「問題はその範囲だが、ソイツは実践して確認あるのみだな。それじゃあ確認は終わりとして、後は義手の修理と消耗品の補充作業に取り掛かるか。それとついでに折角だし改良も加えておくとするか。」

 

 こうして数日間をハジメは二階層に於いて探索と補充作業とに費やして、それを終えると三階層へと進出する。二層から三層へと下る階段を降りて行き、辿り着くと直ぐにハジメは周りの状況を確認がてら周囲にある鉱物などの鑑定を始める。そうやって鑑定を行いながら踏み出した足元の弛さを訝しく思い、ハジメは下を向いて鑑定掛けてみた。

 

 「マジか……トンネルを抜けると其処は雪国とは真逆でしたか。」

 

 鑑定の結果解ったことそれはこの少し弛い地面を構成する鉱石の名称とその特質だった。

フラム鉱石。艶のある黒い鉱石であり、熱を加えると融解しタール状になる。融解温度は摂氏50度ほどで、タール状のときに摂氏百度で発火する。その熱は摂氏三千度に達する。燃焼時間はタール量による。

 

 「て事は、この階層では、ドンナーの超電磁加速も纏雷も使えないって事か。」

 

 纏雷による超電磁加速によって引き起こされる発熱量は百度などと云う生易しい温度では無いのだ。であれば、それを使用する事は即ち自ら望んで発火したタールによって火炙りにされてしまうと言う事である。

 

 「なら、やり方を変えなきゃならねぇな。」

 

 ハジメは自分の腰に装備して腰帯の左側に差してあるウォーターブレードを左手の義手で抜き取ると、前回爪熊との戦いに於いて使用した様にブレード射出部を漏斗状に変形させて、再び周囲に水を放出させ始めた。しかもそれは前回をはるかに上回る程に大量に眼の前に広がる通路、数百メートル以上の範囲を、水浸しにさせてしまったのだった。

 

 「よし、も一つオマケで行ってみるか!」

 

 腰の腰帯にウォーターブレードをしまうと、ハジメは左手の義手の手首部分を右手で掴んで左方向へと回転させてそれを取り外した。手首から十センチの部分で取り外されたそれを一旦担いでいた背嚢を降ろしてそれをしまう。代わって背嚢の中から緑色をした別の義手を取り出して、外した義手の代わりにセットする。

 

 「ヘヘッ、良い感じだな。」

 

 二層目の拠点で完成後に一度は動作確認を行っているのだが、実戦で使うに当たってハジメは拳を開閉させて指の動きの確認を行い問題無しと判じる。確認も終わりハジメは交換した義手を地面へと向けて構えを取ると、その機能を稼働させた。

 

 「チェーンジッ、なんちゃってハンド・グリーン!冷凍ハンドだぜ。」

 

 ハジメが言うや否や緑色の義手のプログラムと機能とが結び付き、吸気口から取り入れた空気を極低温で冷却して排出し始める。某青いモビルスーツの様に五指の先端からフィンガーマシンガンよろしく、噴出する極低温の強風はたちまちの内に通路に溜まった水を氷のプレートへと変えて行く。

 

 「良いぞ、上手く行ってるな。ハジメ君お手製スケートリンクの出来上がりだぜ。コレならワンチャン、ドンナーも使えるかもだぜ。」

 

 駄目で元々上手く行けばドンナーの使用も可能かも知れないが、駄目なら別の手段を使えば良いとハジメはそう思いながら氷道を作る。

 氷を張り終えるとハジメはその場で錬成を行の靴底に装着する滑り止め用のかんじきを作り装着する。装着し終えるとハジメは直ぐにアイスリンクと化した通路を歩き先へと進む。途中で水が不足し始めると、それをウォーターブレードで追加放水して拡げて冷凍ハンドで凍らせる事を繰り返す。探索を始めて十数分、現在ハジメの気配感知に引っ掛かる反応は無かった。

 

 「可怪しいな。二階層で試した結果は半径十メートルの範囲の反応を感知出来たってのに、この階層ではまるで反応がしやしねぇ。」

 

 そう口にしながら更に探索する事数分。三叉路に差し掛かり、氷の回廊も途切れてしまっている。此処から先はこの場を基点に順番に三方を攻略して行かなければならない。左側の壁に傷を付けて最初の探索は左側の通路からとしてハジメはそちらへと向かい新たに氷の道を作るべくウォーターブレードを取り出そうとしたその時。突如ハジメの眼前のタールの地面が膨れ上がる様に隆起して、その場から何かが飛び出して来た。巨大な顎をいっぱいに広げでハジメに食らいつかんと突進して来るそれを。

 

 「うぉッ!?」

 

 驚きの叫びを上げながらハジメは腰から上を背面方向へと反らして躱して難を逃れる。ハジメをその巨大口腔に納める事の叶わなかったソレは大きく空へと舞い上がるとハジメの後背数メートルの地点の着地しようとするが、それも適わずに厚く硬い氷の上へと投げ出されてしまうのだった。

 憐れなその姿は、まな板の上の鯉そのままである。手足を持たないその姿は地球の生物で言えばサメに近い特徴を有していた。タールの中から現れた事を勘案して推察するに、そのサメはタールの中を海の様に游泳しながら獲物を捕らえていたのだろう。しかしハジメが氷によってタールの海を塞いでしまったが為に、タールの海から飛び跳ねた良いが、着水するべきタールの海へと帰る事が叶わなかったのであった。

 

 「…………………、」

 

 ビチビチと氷上で跳ねるサメを見るハジメの目から虹彩が消える。ホルスターからドンナーを抜いてハジメはしゃがみ込む。

 

 「はぁ………まぁ何だ。もうてめーにはなにもいうことはねぇ、とてもアワれすぎて何も言えねぇって事でな。取り敢えず死んどけ。」

 

 氷の岩盤を抉らない様に身を屈めて角度を調整して超電磁加速させた弾丸をハジメは憐れなサメの頭部へとぶち込むのだった。

 

 「こんなコメントに困る戦いの結果ってのは想定していなかったぜ。」

 

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:24

 

 筋力:870

 

 体力:850

 

 耐性:970

 

 敏捷:990

 

 魔力:2400

 

 魔耐:2600

 

 サメを食べてハジメはレベルが一上がり、数値は其々百ずつ上昇して、新たに得た技能は気配遮断であった。

 

 

 

 ハジメは探索し戦い続ける、悪意の塊の様な底意地の悪い迷宮をひたすらに、脱出する事だけを目標に。それにどれ程の月日を費やしたのかハジメ本人はもう、知る由もないところであったのだが。

 

 今現在ハジメは五十階層へと到達していた。

 

 多くの戦いを経てハジメのレベルも向上し技能と派生技能も増え、戦いの幅も大きく広がった。どれだけの魔物を斃し、それを食べては能力を取り入れ己の力とする。人としての限界はとうに越えている事がその数値からも如実に窺えよう。

 

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:49

 

 天職:創造者・技術者

 

 筋力:1500

 

 体力:1750

 

 耐性:1380

 

 敏捷:1210

 

 魔力:3150

 

 魔耐:3300

 

 技能∶術式作成・術式付与・術式削除・術式改良付与・慈竜之愛・賢竜之加護・毒耐性【強】・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

  

「足りねぇよな、まだまだコレでも。」

 

 五十階層にて、拠点と定めた場所でプレートのデータを眺めやりながらハジメは呟く。ハジメの最大目標は変わらずこの世界から地球へと帰還する事にある、そのための方策を探しだすか或いは自分を探してくれているに違いないトールと合流する迄生き残り続ける事。しかし何らかの意図を持ってハジメ達をこの世界へと喚んだエヒトとか云う迷惑な奴がハジメの脱出行を指を加えて見ているだけとも思えない。

 

 「まぁトール達ほどでは無いだろうが、神と崇められる存在が相手となりゃあ俺は、後どれだけ強くならなきゃならないのか、想像もつかねぇな。」

 

 ハジメはフッと柔らかく笑いこれ迄の戦いの日々を思い起こす。作り出した武具やアイテムや獲得した技能などを駆使して戦い抜いた日々の事を。そしてこの五十階層にて明日には行動に出てみようと思っている、これ迄に無かった特殊な場所の探索を前に英気を養う為に一眠りしようと、そのまま横になるのだった。

 

 

 

 数時間の睡眠を摂って神水ポーションによる回復とは違う、自然な眠りによる快復にハジメは清々しい寝起きのひと時を満喫する。

 ウォーターブレードを最小モードで圧力をかけずに起動して水だけを抽出してカップに注いで、寝覚めの一杯の冷たい水で頭もスカッと冴え渡る。

 

 「かぁッ旨ぇ!スゲーッ爽やかな気分だぜ。新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ~ッ。」

 

 さて、此処で少し今回のハジメが取った行動について説明しよう。それはこの五十階層がそれまでの階層と比較して明らかに異質過ぎる場所が存在していたからである。それまでの岩盤をくり抜いて造り上げられた階層や三層のタールを敷き詰めた様な通路を持つ階層や、草叢の様な人の手に入っていない様な階層などが主流だったのにも拘らず、この階層にはどう見ても明らかに人の手によって作られた石造りの建造物が存在していたからなのであった。

 当然これ迄に無かった、人工物に興味を惹かれたハジメは其処へと行ってみた。道の突き当りにある開けた場所で、遠目に見て高さ三メートル程の装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の両脇には二体の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

 その建造物へと近づくに連れて、何とも不穏な得も言えない感覚を味わい、ハジメは其処から一旦撤退する事にしたのだった。

 コイツはヤバい。一旦引き返して準備を万全にして挑むべきだとハジメは本能と思考とで判断し、それに従い撤退。拠点へと戻り其処で数日の間技能の向上に時間を割く事にしたのだった。近接、肉弾戦を想定しての徒手空拳の技や蹴り技に磨きを掛けて、手に入れた技能を有効に活用すべく努めたのだった。

 数日間をそれに費やして、格闘戦の技能を我が物としてハジメは遂にその場所を攻略するに能うだけの力が付いただろうと判断して、それを切り上げたのが、眠りに就く前の事であったのだ。

 

「よし、じゃあ出発するか。」

 

 寝起きの身体を柔軟運動で軽く解して、装備を確認し終えてハジメは出発する。一度延期した場所を探索する為に。

 

 

 

 「やっぱり何か雰囲気あるな。」

 

 目的地である建造物を目前に捉えてハジメか独り言ちる。数日前に発見した時と同様の異様な佇まいで来訪者を迎えるべく待ち構えているのか、または招かれざる客は排除しようと立ちはぱっているのだろうか。

 

 「まぁ、行きゃあ自ずと答えは出るか。」

 

 建造物の扉の左右の物言わぬサイクロプス像を見やり、ハジメは期待と嫌な予感を両方同時に感じた。あの扉を開けば確実になんらかの厄災と遭遇する事間違い無かろう。しかし同時に、この終わりの見えない迷宮攻略に何らかの変化が訪れる気がするのだった。

 




サメ君の最後は原作と違い「あんまりだァァアァァ」な結果となりました。
次回はようやく第二のヒロイン(原作のメインヒロイン)さんが登場する予定です。
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