今回は原作メインヒロインとの語らいからの………
囚われの少女を、その枷から救い出す為に魔力の殆どを使い果たしたハジメはその場にへたり込みながら、ポーション水を一気に煽る。そのまま魔力が切れた状態であれば心身両面の疲労からいざと言う場面に遭遇した際に対応出来ず、生命を失う事態を招きかねないからである。
「ふぅ。結構きつかったが、何とかなって良かったぜ。」
ポーション水の効能が全身に行き渡り人心地着いたハジメの左手の義手に、少女は自らの両手を添えて助けてくれた相手を熱く真摯な眼差しで見つめていた。その眼差しが何とも面映ゆく感じたハジメは照れ隠しに鼻頭をポリポリと軽く掻いて誤魔化し、プイッと外方を向いた。
「………名前、なに?」
そんな少年の態度を少しだけ可笑しいと思いながらも、少女は表情を崩さずにポツリとこぼすように彼の名を問い掛ける。言われてハジメもお互いに名を名乗っていない事に気が付いて苦笑する。
「ハジメ、南雲ハジメだ。で、お前は?」
ハジメの義手から手を離し自らの胸元にそれを当てて少女は「ハジメ、ハジメ……」と彼の名を反芻する様に何度も口にする。その行為は恰も大切な物をその身に刻み込む為の儀式の様にも思える。それを終えて、少女はハジメへと向き直り真剣な眼差しで告げるのだった。
「名前、ハジメが付けて。」
「はぁ!?何だそりゃ……もしかして長い間此処に閉じ込められてたから自分の名前も忘れちまってんのか?」
少女からの意外過ぎる申し出に、ハジメは鸚鵡返しの様に速攻で問い返す。識者ならば其処で『質問に質問で返すとは何事だ』と苦言を呈されているところであろうが、永に時をこの空間に囚われていた少女は識者であるはずも無く、ハジメの問い返しに対して静かに顔を横に振るだけであった。
「前の名前もう要らない、ハジメの付けた名前が良い。」
「ってもなぁ。スタンド名じゃあるまいし、何処ぞの呪い師みたいにタロットカードで名付ける訳にも行かんし……」
そんな無駄口を叩きながらもハジメは目の前の少女の身の上に慮りながら考える。犯人はまだ定かでは無いが、その裏切りによりこの奈落に叩き落された事により己の生存をこそ第一義として、以前に持っていた甘さを捨て去り大切なものだけを守り抜くとの決意を胸に数十日間のサバイバル生活をおくるハジメ。国家の為に民の為にその身を尽くしていたにも関わらず、敢え無く裏切られ長き時を虜囚の身に落とされた眼前の少女。
「まぁ、気に入らなかったら変えてくれても構わないが、そうだな…………」
彼女はこれ迄の忌々しい生き方を捨て去り、新たな人生を歩む為の儀式として偶々通りすがっただけの自分に、その第一歩を歩みだす切っ掛けを求めているのかも知れない。ならばその想いに自分は真摯に応えてやるべきだろう。
「だったら〝ユエ〟なんてどうだ?生憎俺はネーミングセンスが無いから気に入らんなら別のを考えるが?」
彼女の身体的特徴からサッと付けた名前なので、ひねりなど無く付けただけなのでハジメはそう提案してみせたのだが。
「ユエ?ユエ……ユエ……」
「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷の世界の、ある外国の言葉で〝月〟を表すんだよ。最初にこの部屋に入った時、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……て、どうだ?」
思いの外に確りとした理由と、聞き様によっては口説いている様にも聞こえる理由とを並べてハジメはその名の由来を説明する。そんな彼の言葉にパチクリと瞬きを二度、その表情こそあまり変化は見て取れないがどうやら彼女はそれをお気に召した様で瞳に輝きが表れる。
「ん。私はユエ。今日からユエ!ありがとう、ハジメ!」
固く不器用な微笑みを浮かべて少女改め、ユエは新たな名前を授けてくれたハジメに、心からの感謝を言葉少なながらも告げるのだった。
「お気に召してくれて何よりだ。俺もこれでシュトロハイムと同じ様に
ハジメは背嚢から以前に自分が狼の毛皮から作った外套を取り出してユエに渡し、そう言われてユエも差し出された服を反射的に受け取りながら自分を見下ろす。確かに、自分今、産まれたままの姿だった事に気が付く。大胆にも大事な所とか色々と丸見えである。ユエは一瞬で真っ赤になるとハジメの外套をギュッと抱き寄せ上目遣いでポツリと呟いた。
「ハジメのエッチ」
「風評被害も甚だしいぜ。」
少しあざとい仕草で放たれるユエからの一言にハジメは頭を掻いて溜め息を吐くと、その傍らで立ち上がって外套を纏いはじめたユエに背を向けて着装するまで待つのだった。
「ん。終わった。」
ハジメが律儀に背を向けてくれた事を察してユエは外套を纏い終えた事を伝え、ハジメも立ち上がって彼女を見る。しかし、ハジメのサイズで設えられた外套はユエには大き過ぎて袖口をまくり上げる事で調整していた。
「終わったか、そんじゃあ……っ!?」
その瞬間ハジメは何か得体の知れない脅威がこの場に現れた事を察知した。つい今しがたまでハジメの気配察知にも反応を示さなかった事から推察するに、それは今、この瞬間に突如として気配を現したのだと知れるのだが、その理由がハジメには理解が出来なかった。だがしかし、それによりハジメの行動が阻害され反応が遅れる事とは繋がらず。
「チィッ!」
舌打ちをしながらも、頭上より迫る気配に反応して間髪をいれずに傍らのユエを右腕に抱き、縮地を駆使してその場から回避行動を取る。
瞬間、それまで二人がいた場所に天井より落下してくる魔物の姿をチラリと眼を向けて確認し、相応の距離が離れた位置に止まるとハジメは後ろにユエを庇うと、落ちて来た魔物を正面に相対する。
ズドンと轟音を響かせ着地したソレの姿はその体長にして五メートル程の、四本の長い腕に巨大な鋏を持ち、八本の足を不気味に急かし無くわしゃわしゃと動かしており、二本の尻尾を備え先端には鋭い針がついていた。その姿を例えるならば蠍と言ったところであろうか。
「コイツぁまた、随分と馬鹿デカいサソリが居たもんだな。」
減らず口を叩きながらもハジメの額から頬へと一雫の汗が滴る。この部屋に入った直後から全開にしていた〝気配感知〟ではなんの反応も捉えられなかったにも関わらず、今は〝気配感知〟でこの蠍の存在をしっかり捉えている。それもたった今、突如としてこの蠍は気配を現したのだ。コレはどう言う事だとハジメは推察する。
それは、ユエの封印にあったのではないか、ユエの封印が解かれた事により蠍の封印も解かれ、彼女と彼女の脱出を手助けする者、つまりは自分とを排除する為に蠍はこの場所に配置されていたのだと推察する。
「………ハジメ。」
自背後からユエが左手の義手を掴んで自分の名を呼ぶ。振り返り彼女を見ると、その紅い瞳は自分だけを静かに見つめている。その瞳からハジメは彼女から向けられる、自分への信頼と眼前に迫る危機へと立ち向かう決意をかためた“毅い”意志とを感じさせられ、ハジメはその口角をつり上げる。
彼女と同様にユエもまた自分へと信頼を寄せてくれている、それだけで十分だ。これ迄と同様に眼前の蠍も殺して食って、その能力を己の中に取り込んでやる。
「ハンッ!上等だよ!?
言いながらハジメは後背のユエを肩に担ぎ一瞬でポーチから神水ポーションを取り出して、抱いたユエの口に突っ込んだ。「うみゅっ!?」とユエは呻いて、その加害者であるハジメに抗議しようと思ったが、試験管型の容器からお構い無しに神水がユエの体内に流れ込む。ユエはいきなり異物を口に突っ込まれて涙目になるが、衰え切った身体に活力が戻ってくる感覚に驚いた様に目を見開いた。
ハジメは先にユエが告げた本人は魔法が得意だと言う告白を信用していない訳では無いが、永い刻を封印されていた彼女はしかし身体能力がまだ快復しきれていないだろと判断し、戦いに於いては足手まといになりかねないし、助け出したばかりなのに死なれては目覚めが悪いと思いそうした訳なのだが、当のユエはその扱いに若干の不満を抱いている様で少しばかり表情がむくれていた。
「しゃあねぇ!」
その場から一歩後方へと飛び退って着地するとハジメはユエを一旦その手から解放して、その場で軽く膝を折る。
「ユエ、俺の背中に回って確り捕まっていろ。」
ハジメの言葉にユエは躊躇いも見せずに彼の言葉に従い直ぐ様行動に移す。神水ポーションの効能により少し力が戻って来た脚の力でピョンと飛び跳ねてユエはハジメの背中へと飛び乗って、言葉通りに確りとハジメの首元へと腕を回してしがみ着いた。
その行動に迷いが無かったのは偏に彼女自身も己の現状を的確に判断が出来ている故にだろう。
ギチギチと異音を立てながら不気味に躙り寄るサソリモドキをその眼に捉え、且つハジメは背中にユエを感じつつ、眼光鋭く不敵な笑みを浮かべながら背中のユエを安心させる為にも、再度堂々と宣言した。
「掛かってこいよサソリヤロー。テメーも俺の糧にしてやるぜ!」
ハジメVSサソリモドキ。その初手はサソリの尻尾の針から噴射されたどぎつい紫色の液体だった。思い掛けない速度で飛来したそれを、ハジメは空かさず左側方へと飛び退いて躱す。
退避に成功しチラリと見てみると、着弾した紫の液体はジュワーという音を立てて瞬く間に床を溶かしていった。其処から判断するならば、どうやらソレは強酸か何かの溶解液の様だ。瞬間的にそう判断しながらも、ハジメは行動に一部の隙もなくホルスターからドンナーを抜き取って構えて発砲する。
此処に来るまでの間に都度に改良を行っていた事もあり、ドンナーの弾丸射出速度は最大にして秒速三、九Km/hに達しており、マッハ十を優に越えていた。
「!?]
ハジメの背中越しにユエの驚愕が伝わる。それもそうであろう。この世界には存在しない原理で作動する見たこともない武器で、其れが閃光の様な攻撃を放ったのだ。しかも魔法を使った気配もなく。否若干ではあるが右手に電撃を帯びた様だが、それさえも魔法陣や詠唱を使用していないのだ。つまりハジメが自分と同じく、魔力を直接操作する術を持っているという事実に、ユエは気が付いたのである。
自分と同類がこの奈落の底に居て、その同類が自分を救い出してくれた。ユエはその喜びに心を支配されハジメに釘付けとなり驚異的な力を有しているであろうサソリの存在さえもが、その眼中から消え失せていた。
「………チィッ!」
ドンナーの弾丸を射出したハジメは、その場に留まる事無く空力を用いて跳躍を繰り返しポジション取りに努めている。何故ならば先に射出したドンナーの弾丸は狙い過たずサソリに着弾したしも関わらず、何時もの如く魔物の肉体を抉り飛ばす事無く、それどころか甲高い音を響かせて弾丸の威力に耐えてみせたのだ。
忌々しげに舌打ちを打って、ハジメは空力移動を行いつつもう一度ドンナーをサソリにお見舞いするが、またしてもサソリはそれに耐える。
『何て硬い装甲をしていやがるんだ!』と脅威的な耐久性を見せるサソリに対して愚痴をこぼす。音速を超える速度の攻撃に耐えるサソリに対して、何か別の方法を持って当たらねばとハジメは思考をフル回転させて対策を考えるのだが、サソリはまるでハジメのその逡巡を認識しているかの様に対応して攻撃を仕掛けてきた。
サソリは先に溶解液を吐いた尻尾と対のもう一本の尻尾の針がハジメに照準を合わせると。その尻尾の先端が一瞬肥大化した。かと思うとその針先から凄まじい速度で針が撃ち出される。それを避けようとするハジメだが、まるで悪意に満ち満ちているかの様に、その針が途中で破裂し散弾のように広範囲に渡って急襲する。
「ッ!」
ハジメは苦しげに唸りながら、ドンナーで撃ち落とし、豪脚で払い、風爪で叩き切りと、これ迄に身に付けた能力をフルに駆使してどうにか凌ぎ、お返しとばかりにドンナーを発砲する。直後、ハジメは空中にドンナーを投げ、その間にポーチから取り出した手榴弾をサソリに投げつける。
サソリはドンナーの威力を再び耐えると、更に散弾針と溶解液とを放つべく挙動する。しかし、その前にコロコロと転がってきた直径八センチ程のハジメが造った手榴弾が閃光を発して爆ぜる。手榴弾は爆発と同時に中から燃える黒いタールを撒き散らしサソリモドキへとベッタリと付着する。
それはいわゆる焼夷手榴弾を模して造り上げたモノである。第三層、タールの階層の床一面を構成していたフラム鉱石を利用したもので、それは摂氏三千度の熱を発し付着する炎を撒き散らす厄介な性質を持っている。
『ギシャァァアァッ!!』
甲高く響くソレは、サソリが放った絶叫なのか金属の様に硬い外殻の継ぎ目同士が接触する事で響く擦過音なのかは定かでは無いが、ハジメには其れがサソリに対してそれなりに有効な攻撃であった事が伺い知れた。
絶叫であれ擦過音であれ、ソレはサソリがフラム鉱石のタールが己の身体に貼り付き高熱を発している事を嫌がっており、またソレをなした加害者であるハジメに対して怒りの感情を向けている証拠であと言えよう。だが。
「コレでもまだ駄目なのかよ。なんて硬い甲殻を持ってやがるんだッ!」
フラム鉱石が飛び散って甲殻の彼方此方にへばり付き燃え盛っていたが、やがてはそれも燃え尽きて露わになったサソリの甲殻の表面は何事も無かった様に綺麗なままであった(実際には焼夷手榴弾の威力は多少ではあるが、サソリにダメージを与えているのだが)その現実を目の当たりにしてハジメのボヤキ節が口から漏れる。
しかし、その結果と言うべきだろうか、ハジメは硬い甲殻を誇るサソリに対して、効果的だと思われる方策を一つ思い付いていた。
「あの硬い甲殻をどうにかするにはやっぱ、スパロボのイベントでもお馴染みの闘将ダイモスのアレをやるのが効果的なんだろうが、それをやるには接近戦を仕掛けなきゃならないんだよなッ!」
背中から自分の首に腕を回してしがみ着いているユエの存在を慮って、ハジメは迂闊な接近戦を仕掛けるのは自分ばかりか彼女までも危機に晒しかねないと躊躇いを見せる。
「……………」
そのハジメの逡巡をユエも感じ取っていた様で、彼に対して何か言いたそうな素振りを見せているのだが、サソリに対して忙しなく攻防を繰り返すハジメに対して物を言うタイミングを掴めないでいた。
「仕方ねぇ仕切り直しだ!」
天歩、縮地、空力と高速移動技能を駆使しながらハジメはサソリが放つ溶解液や散弾針を回避しつつ室内に立つ柱の裏へと緊急回避して、その場にユエを降ろす。その間にもサソリの接近を許さない様にドンナーでの牽制射撃は継続的に行う。
「ハジメ……どうして、私を庇うの……私を置いて行けばハジメは……助かる……」
サソリから身を隠しながらも戦う事を止めないハジメを見上げてユエはハジメに怖ず怖ずと尋ねる。
二人が身を隠している柱の近辺は、サソリの放つ散弾針の被害を被って彼方此方が崩れ針が突き刺ささっていたり、所々が抉り取られている。
「はぁッ!?お前なぁ、そんな事をするつもりなら最初っからお前を助けたりするかっての!」
ドンナーの弾丸を撃ち尽くし、排莢から再リロードを行いながらハジメはユエから投げ掛けられた質問に、声を高めて反論する。
「でも………」
さも、何を当たり前の事を聞いてくるんだと言っているハジメにユエは躊躇いがちに呟いた。その呟きをその耳に捉えたハジメは再装填がなされたドンナーをサソリに向けて弾丸を放ち、空かさずその身を柱の影へと引っ込めると、油断無くサソリの様子を観察しながら言葉を付け加える。
「それに、あの枷に閉じ込められてたお前を見た時俺は……あの娘と初めて出会った時の事を、思い出しちまったんだよ!だからな、俺がお前を見捨てちまったとしたら、俺はきっともう……あの娘に会わせる顔が無くなっちまうんだよ!」
それは一年と少し前、南雲家が所有する山荘に家族旅行で出掛けた時の事。其処でハジメは
「……ッ……あの娘?」
あの娘。ハジメには故郷に待っている
「ん!?あぁ、今もきっと何処かで俺の事を探してくれている。って、取り敢えずアイツを何とかしたら話してやるよ……っと!」
サソリに対して牽制射撃を行いながら、ハジメはユエからの問いに答える。その間に背嚢から交換用の左手の義手、冷凍ハンドを取り出して取り替え装着し、それが済むとドンナーをホルスターへと収納して腰のポーチには手榴弾を装填する。
「まぁ、こんな所か。」
準備は万端、ハジメはサソリの様子を窺う。ハジメからの攻撃が止んだ事によりサソリはワシャワシャと八本の脚を動かして、排除すべき乱入者を滅すべく此方側へと歩を進めている。動くならば今だ。
「ユエ、俺はこれから一丁ヤツに仕掛けてみるから、お前は此処に隠れていろよ。良いなッ!?」
チラリと柱の根元にペタリと座っているユエにハジメはそう声を掛け、そして柱の影から飛び出してサソリへと向かい駆け出した。
「ハジメぇッ!?」
サソリへと向かい飛び出して行ったハジメは止めようとユエはその細腕を伸ばすが、その手はハジメの身体に触れる事叶わず虚しく空を切る結果に終わってしまったのだった。虚しく伸ばされた手を引き戻すとユエは壁を伝ってよろよろと立ち上がり始める、立って一人でサソリに立ち向かって行くハジメを引き止めようと。
『キャッシャゃァァァッ!!』
物陰から飛び出して来た忌々しい小物が生意気にも自身へと向かい駆けて来る姿を捉え、サソリが奇妙な声を上げながら二本の尻尾を高く掲げて小物へと狙いを定める。溶解液と散弾の針をとばそうと言うのだが、しかし目の前の小物は小癪にも自分へと向けて何かを投擲しようとしている事にサソリは気が付いた。おそらくそれは先に自分の身を激しく焼いた、あの奇妙な石ころの様な物だろうとサソリは推察し三歩その場から後退する。あの忌々しく燃え盛るタールに怒り心頭するも、同時にアレはヤバいとサソリは経験からその様に判断したのだろうが、その判断は早計に過ぎた。
「へっ、甘いぜ。コイツは閃光手榴弾だぜ!」
既に安全ピンは抜き取られており、脳内でハジメは『一、二』とカウントしながら二のタイミングで手榴弾をサソリへ向けて投擲した。
「閃光手榴弾だぜ、ソイツはよ!総員閃光防御電影クロスゲージ明度二十ッ!」
言った瞬間、ハジメの放った閃光手榴弾がサソリの眼前で爆ぜた。眩い光はソレを予想だにしていなかったサソリは強かに、眼球を光のシャワーに焼かれ悶絶している。
もしもサソリに思考能力があったとしたら『こんなはずじゃあ無かったはずだ』とでも声を荒げていただろうか。視界を失ったサソリが無駄に多い脚を絡ませ合っている。
「待たせたな!此奴がさっきテメェの身体を焼いた焼夷手榴弾、さらにソイツを複数繋げた即席の爆導索だぜッ!」
超極細であるにも関わらず、強度も意外に兼ね備えているハジメ謹製の針金に八十センチ程の間隔で取り付けられた五個の焼夷手榴弾。ソレをハジメはサソリに向かって叩き付ける。五個の焼夷手榴弾の安全ピンにも針金が巻きつけられており、ソレもサソリへと向けて叩き付けるよりも一瞬早く針金を引くことで本体から外している。
サソリの頭部から背面にかけて巻き付いた五個の焼夷手榴弾はコンマ三秒程、刹那の時間差を置いて爆発的しサソリの背面甲殻全体へとタールを飛び散らせて燃え上がる。
『プギャァァァアァァァァ!!』
再度己を苛む灼熱地獄にサソリが悶え苦しむ。焼夷手榴弾の五連弾の威力の恐ろしさをその姿が如実に表している。ソレを見るハジメは内心に『よっしゃぁーッ!』と叫びながらサソリの後背へと回り込んで行く。左腕の義手の冷凍ハンドを何時でも起動出来る様にスタンバりながら。
サソリの甲殻にこびり付いたフラム鉱石のタールも粗方が燃え尽き、ハジメはやるならば今だと判断し冷凍ハンドを起動してジャンプする。ほぼタールも燃え尽き終えた背面へと着地し、爪熊の毛皮で作ったシューズカバーを持ってしても完全に断熱出来ない高温に顔を顰めながら、ハジメは次の工程へと移る。
「しャあッ!灼熱地獄の次は極寒地獄だぜ!」
ゴーゴーと音を響かせて五本の指から超極低温の冷風を放たれる。ソレをハジメはサソリの全身に行き渡る様に吹き付けるのだが、しかし。
体長五メートルを越える巨体の短時間の内に全身に冷風を行き渡らせるには、冷凍ハンドの出力は些か力が不足していた。
『シャァァァァギャァァァァァ!!』
己の背中で、何やらセカセカと動いている小物に苛つきサソリはソレを振り落とそうと、出鱈目な挙動と鋏を駆使して小物に仕掛ける。サソリのしつこく気持ちの悪い挙動に、ハジメはこの場に何時までも此の場に留まるのは無理だと、早々に作戦の失敗を悟り、サソリの攻撃を回避して天歩と空力を駆使し其処を脱し大きく距離を置いて着地する。
「
シュタッと着地するとハジメは、事が上手く行かなかった事を悔やんでぼやく。着眼点は間違ってはいなかった筈なのに、結果が伴わなかったのだからハジメとしても悔しくない訳が無かろう。だが、何時までもそればかりに囚われていても仕方が無いとハジメは気持ちを切り替えて、近接距離から繰り出されるサソリの鋏攻撃を巧みに回避しつつ腰のホルスターからドンナーを取り出し、先端にサイレンサー的なオプションを取り付けて何時でも反撃に出れる様に準備を整えるのだが、その時。
「ハジメ……ハジメぇッ!」
柱の陰に隠れて、出てくるなと言いつけておいた筈のユエが其処から飛び出し、悲壮な表情でハジメの名を呼んでいた。足元もまだ覚束無いままに姿を晒したユエはサソリにとっても格好のエサだ。
「ユエッ!?バッキャロー出てくるなって言っただろうがッ!!」
目の前で自分からユエへと攻撃対象を切り替えたサソリが大きな二本の尻尾を大きく擡げ、今にも散弾針を彼女に対して飛ばさんとする体勢を取り出し始めている。
「チィッ!」
舌打ち一つ、ハジメは両脚に力を込めて縮地を使いユエの元へと駆け出す。しかしハジメの行動よりも数瞬早くサソリは散弾針をユエへと向けて射出していた。果たしてハジメはサソリの散弾針がユエへと到達するよりも速く彼女の元へ駆け付けられるのだろうか。
先週は自宅の前で相棒(Ninja650)をコカしてしまい、修理費にリアタイヤの交換含め11万円掛かってしまい、しょげ返っておりました(泣)