南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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誤字報告ありがとうございます。
サソリ戦決着です。


第三十三話

 

 それは時間としては、瞬きを数度行う程度のほんの数瞬の出来事であった。ハジメの名を呼び柱の陰から飛び出して来たユエに向かいサソリが散弾針を射出着弾させるか、それを阻止すべくハジメが縮地を用いてユエの元へと駆け付けるのが先か。

 先手を打ったのはサソリの散弾針の射出で、ハジメはほんの一瞬遅れて縮地を発動させてユエの元へと駆け出す。狙い過たずユエに向けて疾駆する散弾針がその中間点にて破裂し分散する。一方のハジメも縮地での移動の間に左手の義手で腰帯からウォーターブレードを引き抜き装備する。その時には両者のユエとの距離はほぼ一並びとなっており、ハジメの縮地が散弾針の射出速度を上回っている事が分かる。しかし、だからとてハジメはその様な事で安堵したりはしない。ユエへと向かう分散された散弾針を一顧だにせずに、ユエの元へと向かい駆ける。

 駆けながら、ハジメは左手の義手に持っているウォーターブレードを発動し、水の刃を形成する。

 

 『間に合えッ!!』

 

 刹那の瞬間に心の中で叫びハジメはユエの元へと到着すると、右腕で彼女の身体を散弾針から庇う様に抱きかかえてその場にしゃがみ込み、飛来して来る散弾針の方へと義手を突き出す。左手にはウォーターブレードが持たれており、その手を手首を中心として中に仕込んでおいたモーターが時計回りで高速で回転を始める。

 

 「超高速回転によるウォーターシールドだ!」

 

 唸りを上げて義手の中に仕込んであるモーターが回転し円運動を行う事で、7000Mpaの水圧で形成された刃が飛来する散弾針を跳ね返す。

 

 「ハジメッ!」

 

 「動くな、じっとしていろユエっ!」

 

 自らを庇い抱きかかえてくれているハジメを思いユエは彼の名を呼ぶが、今はそれどころでは無い。幾百にも分散した散弾針が大挙して殺到し、今は上手い事にウォーターシールドがそれを跳ね返されているが、それも何時まで保つかは未知数だ。

 

 モーターの駆動音とシールドに弾かれる針の音が木霊する事数秒で針の群れは一旦途切れる。しかし次の瞬間にはまたしても針の群れの第二陣が、ハジメ達へと向けて迫る。しかも今度はその後に溶解液をも飛ばしてハジメ達に対してサソリは波状攻撃を仕掛けていたのだった。

 

 「やべぇ!?」

 

 再度数百発の散弾針の第二陣をどうにか防いだハジメだったが、しかしその後に飛来した溶解液が回転するウォーターシールドの中心部、即ち回転の中心部であるブレードを持つハジメの手へと着弾し、ブレードを溶かし始めた。

 

 「捕まってろユエ!」

 

 左手とウォーターブレードを使い物に出来なくされてしまっては、この場に留まる事は即死を意味する。その様な事態を座して待つ趣味などハジメには無い。腕の中のユエを抱いてハジメはサソリの追撃を躱す為に再び別の柱の陰へと身を隠した。

 

 「チィッ、ヤラれたぜ。」

 

 溶解液に溶かされた冷凍ハンドの義手を捨て、背嚢から別の義手(通常タイプ)を取り出して装着し直し装着具合を確かめつつサソリにドンナーで射撃を行い牽制射撃。ドンナーの先端に取り付けたフォーティフォーソニック・オン・ファイヤーによりおよそ五千度にも届く超高熱と紫電を纏った超音速の弾丸は、サソリに対して有効な打撃を与えている様だ。しかしコレには欠点がある。

 なまじ高温を発するが故に連発が効かず、冷却時間を置かねばならないのだ、それは時間にして最低十秒は必要である。

 

 「ハジメ……ごめんなさい……」

 

 内心で冷凍ハンドがあれば、フォーティフォーソニック・オン・ファイヤーの冷却時間を短縮出来るのにと舌打ちしながらも、つぶさにサソリの状況を確認しているハジメに、ユエはその顔をハジメへと向けて真摯に謝罪の言葉を述べる。そんな彼女を一瞥してハジメは彼女に問い返す。

 

 「何で出て来たんだ、俺は隠れてろって言ったよなッ。」

 

 護るべき対象と認定した少女が、自分の言う事を聞かず飛び出して来た事で思い掛けず遭遇した危難に対し思う所もあろうハジメは、そう言わずにはいられなかった。

 

 「………ハジメ、私も一緒に、戦う。」

 

 ハジメな苦言を呈されたユエは申し訳無さも多少は混じっているが、それ以上に強い決意を抱いた眼差しでハジメを見つめて言葉少なに宣言する。

 

 「お前、何言ってんだよ。さっきだって足元ふらついてたじゃねぇかよ、そんな状態でどうやったら戦えるってんだよ?」

 

 しかし足元も定まらない彼女の挙動を見ているハジメには到底彼女が戦力になるとは思えず、疑問を呈する。ユエもハジメからその様に疑問を持たれる事は想定していた様で、彼に対して直ぐ様返答を返すのだった。

 

 「それは、ハジメが……にちょっと力を貸してくれれば何とかなる!」

 

 「はぁ!?何だよ俺の力を貸すって?」

 

 在庫も残り僅かな焼夷手榴弾を適宜放り投げながらサソリを牽制しつつ、冷却時間も十秒以上取れハジメはもう一撃ドンナー・フォーティフォー・ソニック・オン・ファイヤーを撃ち込みながらユエの答えに質問を返す。

 「私は、吸血鬼………だから、ハジメの血をちょっとだけ、吸わせてもらえれば……力もいっぱい快復する。そしたらちゃんと魔法使える様になる、問題無い。」

 

 それは十分に牽制として効果を発揮しており、サソリも此方へ向けて歩を進める事が敵わず、苛立ち紛れに散弾針や溶解液を射出して来るに留まっている。その間にハジメからの問いに答えるユエの口から語られるのは、吸血鬼としての自らの特徴でもある吸血行為とその行為によって齎される自分自身の能力の強化。それさえ叶えば問題無いと彼女は淡々とした声音でハジメに説明する。

 

 「………吸血鬼か、文字通りに人の生き血を飲むって訳か。」

 

 ああ、成る程。如何にも吸血鬼の設定あるあるだなとハジメは難得する。一つ其処に不確定要素、所謂不安があるとすれば、フィクションである血を吸われた事によって、吸血鬼の眷属とされてしまう事になったりしないかとの不安がありはする。特に石仮面の吸血鬼の様に屍生人(ゾンビ)にでもされた日には……………まぁそれは無いだろうが。

 

 「私、吸血鬼だから、食事は殆ど要らない。栄養は血を吸う事で賄える……でもずっと、此処に閉じ込められてたから……今は空腹。」

 

 「だから、血を吸えば空腹も満たされて、魔法もちゃんと使える様になるって事か?」

 

 ユエの告白にハジメも既に半ば以上納得がゆく。彼女の決意の程も十分に伝わっている、しかし本当に戦えるのかは現時点では未知数。

 

 「………ん。ハジメと一緒に戦いたい……」

 

 駄目押しとばかりにユエは毅い眼差しをハジメに向ける。表情や声音こそ常と変わらず淡々としている様に思えるが、もう十分だ、彼女の決意の程を受け止められずして何が男かとハジメも腹を括る。

 

 「…………はぁ、解ったよ。出来るだけ手早く済ませてくれよな。」

 

 「………ハジメ、ありがとう。」

 

 ハジメの了解も得て、ユエはハジメの膝の上に座り彼に抱き着き肩に手を置く。ゆっくりとその口を彼の首筋に近付ける。

 

 「ん。いただきます。」

 

 カプちゅっと口付けをしてユエはハジメの首筋からゆるりと、その血をいただくのだった。チクリとした痛みともつかぬ、くすぐったい感覚をハジメは感じる。どうやらこの感覚が血を吸われているって事なのだろうな、蚊に血を吸われた時の様に不快な痒みを感じずに良かったぜと、血を吸われている間にハジメはそんな事を考えていた。そうこうしている間にユエの吸血行為は完了した様で、ハジメの首筋から彼女は口を離す。

 

 「………ふぁ、はぁぁ、はぁ、快感♡」

 

 数百年ぶりの吸血行為が余程に感じ入ってか、ユエは頬が朱に染まり上気した表情を見せて瞳は蕩けた様に潤み、呼吸も荒く乱れている。それ程迄に強烈な快楽に等しい波動をハジメの血液から感じられたのだろうか。

 

 「はぁ……はぁ………ふぅ。」

 

 途絶え途絶えな呼吸を整え、ユエは最後に深い一呼吸を終えると常に状態に戻る。其処には先程までの恥態を晒すかの様な荒さも治まっている。

 

 「おい、大丈夫なのかよユエ?」

 

 ユエの状態が見た目には正常に戻っている様に思えるが、先程の彼女の恥態を見ていたハジメとしてはそれでも些かながら彼女が心配でもあり、問うのだが。

 

 「ん。平気、ずっと吸えてなかったから、すごく強烈だった。ハジメの血凄すぎ、こんなの初・め・て。」

 

 悪戯な笑顔で、そう答えるのであった。

 

 

 

 

 「行けるか、ユエ?」

 

 「ん。問題ない。ハジメがさっき、やろうとしてた事も出来る。」

 

 血を吸す事によって体力を取り戻したユエにハジメが尋ねると、彼女は何事も無いとばかりに淡々とさて答える。その彼女の様子に何だか可笑しさを感じてハジメは苦笑する。

 

 「フッ!それじゃ一発、ラストアタックと洒落込むか。」

 

 

 「ん!」

 

 ドンナーを片手に柱の陰からサソリを窺い見ながらハジメが言うと、その傍らでユエも小さく首を縦に振って頷く。二人の表情は何の気負いも無く平常心を失っていない事が見て取れる。

 

 「俺が囮になってヤツを引き付ける、ユエはその間に一発ドデカイのを頼むぜ。」

 

 「ん。任されて!」

 

 事に当たる前にハジメが最後の手順を確認を兼ねてハジメがユエに告げると、彼女はさり気なく自然にそう答える。

 

 「………お前は何処のカイ・シデンさんだよ、っか何で富野節とか知ってるんだ?」

 

 「?」

 

 ユエからの返答が意外なセリフだった為にハジメが問うのだが、しかし問われた当人であるユエはハジメが何に対して疑問を抱いているのか解らず、クエスチョンマークを浮かべる。

 

 「はぁ……まぁいい。気を取り直して……そんじゃあ、行くぜ!」

 

 安全ピンを外した最後の焼夷手榴弾をサソリに向かい投擲し、二秒待ってからハジメは此方に対して攻めあぐねているサソリへと向かい、ドンナーを両手を使い下手で構えて駆け出す。連続射撃を行う為に一度FFS・O・Fフォーティフォーソニック・オン・ファイヤー装置を取り外してある。

 

 『キシャァァァァァ!!』

 

 いい加減に焼夷手榴弾がどの様な物かを多少なりとも理解したサソリはソレを直接浴びる事は避けていたが、それでも廊下にぶち撒けられたタールが発する高温に辟易としてか、怒り故か雄叫びを上げている。ソレを目視で確認したハジメは空力と天歩を用いてサソリの左側方へと回り込み、サソリに対してドンナーによる牽制射撃を行う。

 

 『シャァァァァ!』

 

 焼夷手榴弾が発する炎の壁を越えて自らの側方から攻撃してくる、大した効果も無い打撃を与えて来る小物にうんざりしてか、サソリがその加害者を追って四本の鋏を大きく構えて自らもソレを追って反時計回りに回り始める。

 見事に引っ掛かった。それこそがハジメとユエが待っていた状況であった。ハジメが囮となってサソリの耳目を引き付け、その間にユエが柱の陰から身を出して魔法をぶち込む。その段取りが完了したのだった。

 

 「残念だったなサソリヤロー!俺が色々お前に対してチクチクやったせいで、俺に対するムカつき指数が上がったんだろうが、忘れたのか?此処にいるのは俺だけじゃねぇんだぜッ!」

 

 言いながら、更に空力を使いサソリの背後へ回り込もうとするハジメとそれを追うサソリ。そして丁度サソリを中心にハジメとユエとが向かい合う形となる。それはユエに対してサソリが背を見せ完全にその視界から彼女の姿を自ら消し去った様な物。

 

 「今だユエ!ブチかませぇッ!」

 

 駄目押しとばかりにハジメはサソリに対してドンナーによる一撃をくれてやりながら、ユエに指示を送る。その声を聞き届けたユエは間髪いれず右手を高く掲げて魔力を集中し一言呟く。

 

 「蒼天。」

 

 蒼天。それは彼女が使える火属性最高威力の魔法てある。ユエは一人勇敢にサソリに対峙するハジメを助ける為に、懸命なる思いを込めて、その法名を口にする。しかし他者が聞けばその声音はただ淡々として呟かれた様に聞こえるだろう。

 

 『ギャッ……シャァァァアン………』

 

 ユエの呟きによりサソリの足下に形成された魔法陣から地獄の業火と斯くやと思われる業炎が顕現して、瞬時にサソリの巨体を包みこんで灼き尽くす。

 その温度は焼夷手榴弾やFFS・O・Fが放つ温度を凌駕している様で、サソリが苦悶のうめき声を上げる。蒼白き獄炎に焼かれサソリの全身が赤く染まる。其処まで加熱されればもう十分。

 

 「良し!OKだユエッ。次も頼むぜ!」

 

 近距離からサソリの状態を備に観察していたハジメがユエに指示を出す。それを受けてユエは蒼天による業炎の攻撃を止めると、次の魔法の準備に取り掛かる。

 

 「凍獄。」

 

 準備と言っても彼女にとっては然程時間を必要とするものでは無く、先の蒼天と同様に魔力を集中して対象に向けて放つだけである。右手を前に向けて突き出すと。それを基点する様に彼女の全身から溢れる様に極低温の氷が吹き荒れる程に放たれ、然程時間を置かずにサソリの全身は巨体な氷の棺に収められてしまう。

 

 「ハハ……すげぇモンだな………」

 

 超高熱で熱せられていたサソリの巨体と極低温の氷とがせめぎ合い、辺りに途轍も無い勢いで大量の水蒸気を発生させている。それはハジメの視界を遮るほどに膨大な両を一時にして大量生産する。

 と、同時にサソリの外殻に致命的な損壊を与えていたのだった。ガラスのコップなどで知らぬ内に経験している読者諸氏もあろう。急激な温度変化によりコップが割れたり、或いは底が抜けたりといった経験が。

 

 『グギャァァァァーン』

 

 ビシビシと音を立ててひび割れてゆく己の外殻の状況を知ってか、サソリが苦鳴を上げるが、その声は弱々しく今にも潰え去りそうな程に憐れさを漂わせる。サソリの魔物が甲殻類であり、言うなればモノコック構造をしている為に、外殻にダメージを追う事はその巨体を支え稼働させる為の力を失うと言う事である。

 

 「ユエ、良くやってくれた。もういいぜ!」

 

 「ん!」

 

 濛々と立ち込める水蒸気の影響で姿が見えないユエにハジメは声を掛けて、凍獄を解く様に依頼するとユエは常の様に一つ頷いて、それを解く。

 凍獄を解除した事により、それ以上の水蒸気が発生する事は無くなり、部屋の中は次第に晴れ渡ってゆく。斃れ朽ちたサソリを間に挟みハジメとユエは互いの無事な姿を見て、ホッと胸を撫で下ろす。

 しかし、此れで終わりでは無い。サソリへの止めはまだ刺していないのだ、この時点で気を抜く事は許されない。もう殆ど動く事も敵わぬと言うのにサソリは未だ生へしがみつく様に力無く緩慢に、その身を支える事も出来ぬ八脚を動かそうと藻掻いている。

 

 『ギ……ギ、ギ、ギ………ギ……』

 

 動くことの敵わぬサソリの体躯から発せられるその音は死にゆく自らの運命を悲嘆しての哀しき叫声なのか、ハジメとユエにはそんな事はどうでも良い事である。サソリの眼前に立つハジメの元に小柄で華奢な身体つきであるが、確りとした足取りでユエが到着する。

 

 「しっかし、解んねぇのはユエの叔父ってヤツの考えだな。」

 

 首を切り飛ばされても魔力があれば死ぬ事無く復活出来るからとユエをこの場に封じ込めたまでは理解したくは無いが、理解するとして。だからと言って此処まで用意周到に対策を施しておく物だろうかとハジメはユエの叔父の所業に疑問を禁じ得ない。

 経験してみて理解出来たが、この迷宮の奈落の底を攻略出来る者など果たして存在するのだろうか。おそらくは天之河クラスの初期ステータスを有する者が永い時をかけて鍛錬を積んだからとておいそれとこの奈落の底まで到達出来るとは到底思えない。

 

 「ん?」

 

 「いやな。ユエが殺せないからって、こんな奈落の底に閉じ込めて、更に駄目押しに扉の前にはサイクロプスを二体と、内側にはこのサソリヤローを配置するなんてよ。一体何を恐れて此処までの仕掛けを施していたんだよ、と思ってな。」

 

 ユエが疑問符を浮かべて自分を見ていたものだからハジメは、その思考の一部を掻い摘んでユエに説明したのだが。

 

 「ん。別に、もうどうでも良い。」

 

 もう過ぎ去ってしまった過去の事。当時の名も捨て去り新たな名も付けてもらい、心機一転人生をやり直す決断をしたユエには、心からその様な些末な事などどうでも良かった。

 

 「………そうだな。」

 

 ハジメもそんなユエの思いを汲んで、その話題は打ち切るのだった。ソレよりも早急に成さねばならない事があるのだから。ハジメはユエの細い肩に左手の義手をそっと置いて、彼女の顔を見る。

  

 「ユエ、ちょっと離れてろ。」

 

 「ん!」

 

 ハジメがサソリに対し、これからとどめを刺すのだろうと察したユエは頷いてハジメの指示通りに後方へと下がって行く。それを確認したハジメは背嚢より取り出した武器を左手の義手に装着する。

 それは、刃渡り四十センチに及ぶ鋭く小さな鉤爪を持つチェーンソーを模した武器であった。本体もチェーンや鉤爪もタウル鉱石を元にした合金で構成されたチェーンソーだ。サソリが今の状態で無ければドンナーの弾丸さえ弾き返す程の高度を持つソレに対して通用しなかっただろうが、甲殻の至る所が破断して中身が見えている現状ならば十分に通用するだろう。

 

 「さてと、お前はものすげぇ厄介で面倒くさいかて強かったぜ。だが、マジで面倒くさ過ぎてメッチャ苛々が募ったぜ。だからお前に対しては無意識の内に敬礼なんざしないし、無言の男の(うた)も無けりゃ、奇妙な友情も感じないぜ。まぁただ、お前の強固な甲殻は使えそうだし、その内側の肉は俺が強くなる為の糧にしてやるからよ。これから手早く俺が逝かせてやるよ。」

 

 そう言って、ハジメは物凄い悪い笑顔でサソリの目の前で嗤い、チェーンソーを起動させる。甲高い唸りを上げてモーターとチェーンが高速回転、それをハジメは無慈悲にサソリの頭部の亀裂へと充てがい突き刺して行く。

 

 「此奴は溶かされちまった、ウォーターブレードの分!」

 

 突き刺したチェーンソーが高速回転する事で内部の肉や脳漿や血液を周囲にぶち撒ける。

 

 「此奴は溶かされちまった、冷凍ハンドの分!」

 

 一旦、サソリの頭部からチェーンソーを引き抜いて再度刺し込んで、更に深く刺し込む。更にぶち撒けられるサソリの頭部の中身。ビチビチと痙攣を起こすサソリの様子を観察しながら、十数秒。

 ハジメはサソリからチェーンソーを引き抜いて、サッと一振してチェーンソーに付着したサソリの内容物を払い落とすと、チェーンソーを義手から取り外して腰帯に装着していたFFS・O・Fをドンナーに装着する。狙いをサソリの頭部に付けて、ハジメは撃鉄を起こす。もう既に息絶えていると思われるサソリにハジメは駄目押しの一撃を食そうと言うのだ。それは。

 

 「そして此奴は、こんな殺風景な場所にずっと閉じ込められていたユエの分だぁッ!!」

 

 超絶至近距離からサソリに対してハジメはドンナー・フォーティフォーソニック・オン・ファイヤーを射出する。燃える業火と紫電が合わさった超音速の弾丸は狙い過つ事無く、サソリの頭部を吹き飛ばし周囲を燃やす。

 

 「そのまま死ね!」

 

 プスプスと焼けた匂いを放つサソリの死体に向けて無慈悲な一言を放つハジメは暫しの冷却時間を置いてドンナーとFFS・O・Fユニットをホルスターに戻すと、フッと一息。後背のユエに向き直りって笑顔のサムズアップを決めると。

 

 「ナイスだったぜ。ユエ、お前の魔法の使い方イエスだね!」

 

 「ん!?」

 

 ハジメに付き合って、ユエも意味を知らずにサムズアップで返すのだった。

 

 

 

 

 

 サソリを斃した二人はそのままユエが囚われていた部屋に留まる事は無かった。それはユエが永年自由を奪われていたその部屋に留まる事を拒否したからである。ハジメとしては、せっかくきちんとした人工建造物であるので、暫くは其処を拠点として使いたかったのだが、ユエの精神衛生を考慮すればそれもやむ無しと諦めて、サソリやサイクロプスの部位や肉を適度に回収して別の場所に改めて、錬成を使い拠点を構築したのだった。

 

 「どうしたユエ。こんな物見てても面白く無いだろう?」

 

 「ん。私、あの部屋にずっと一人だったから、ハジメのやってる事見てるの楽しい。」

 

 壊れてしまった冷凍ハンドとウォーターブレードを修理するハジメの作業を眺めるユエに、そう問うと彼女は首を横に降って答える。

 

 「そうか。ちょっと待っててくれるか。もうちょいで終わるから。」

 

 「ん。解った、」

 

 流石にハジメもユエの事を放置しておくのも悪いと思ってか、作業が終われば食事でも摂りながら互いの話をするのも悪く無いと提案すると、彼女は少し嬉しそうに返事を返すのだった。

 

 

 ハジメが作った拠点の中はで今ジュウジュウと肉が焼ける音が響いている。サイクロプスとサソリの肉をフライパンで焼いている音だ。

 

 「ハジメ。私、知りたい。ハジメの事や家族の事とか……ハジメの言ってたあの娘の事とか。」

 

 修理作業が終わり、サソリとサイクロプスの肉を焼いて夜食の準備を行っているハジメに、ユエは怖ず怖ずと尋ねるのだった。彼がサソリと戦う時に見せた無詠唱で発動させた魔法や見た事も無い武器の数々やハジメ自身の事と、何よりも彼が口にしたあの娘と言う存在をユエは知りたかった。その結果がどうなろうとも。

 




次回はハジメ達南雲一家とトールとの出会いのエピソードを予定しております。
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