南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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誤字報告ありがとうございます。

すみません。どうにも自分で納得が行かず、三十四話を書き直しました。


第三十四話

 

 桜の樹が白桃色の花を華やかに咲き誇らせ、それも儚く散ってしまい、今はもうすっかり青く瑞々しい葉を生い茂らせて生命の力強さを体現するのと交代する様に様々な色合いの花を咲かすツツジが世界を彩る季節。もう間もなく初夏となる頃合いの五月初旬、ゴールデンウィークもいよいよ後半戦に突入し、残す所後数日。南雲ハジメは忙しい仕事のヤマ場を越えて漸く纏まった休みを取れた両親と共に連れ立って、南雲家が所有するとある山の中腹に位置する別荘へと訪れていた。

 この頃ならば山間部以外ではもうセーターやジャンバーといった防寒着は、ほぼ必要とはしない麗らかな気温であるのだが生憎と山間部であるこの場所では、防寒着がお役御免になるにはもう暫くの月日を必要とするだろう。それが夜ならば尚更に。

 

 「はぁ〜寒っ、上にジャンバーを着込んで正解だったなぁ。」

 

 別荘の玄関を出て直ぐの軒下からテラスに出て、その手摺に手を掛けて満天の星空を眺めながらハジメは肌寒い山中の夜空に吐いた息が、白い湯気となり宙に揺蕩い儚く消えてゆく様を眺めながら染み染みと言った。

 

 「静かだな。」

 

 少し肌寒いが心地の良い夜の空気と都会と違い周辺に建物が密集していない事もあり、喧騒も無い夜の静寂(しじま)に身を置いてハジメはまるで無限に広がる大宇宙と一体になった様な開放的な気分を味わっていたのだが。

 

 『なはははっ!やっぱ明日を気にせず飲めるのサイコーね。貴方。』

 

 『ハハハハハッ!だよねぇだよねぇ!気分はもう最高に「ハイ!」ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハーッ、まだまだ行くぞ母さんッ!酔うまで飲むぞぉ!寧ろ酔っても飲むぞぉッ!』

 

 別荘の内側から夕食後の酒を酌み交わし、もう既に出来上がっている両親のテンションの高い飲兵衛トークが漏れ伝わってくる。

 

 「はぁ……折角の雰囲気が台無しだよ。しょうがないなぁ。でも昨日までずっと仕事のラストスパートって頑張ってたんだもんな、少しくらい羽目を外すのも仕方ないか、ははっ。」

  

 後背の別荘の硝子窓を振り返って眺め、室内の灯り照らされ見える二人の姿に、しょうがないなと苦笑し溜め息を吐きつつもハジメは両親を労る。父は新作ゲームの開発に、母は連載漫画の締め切りと単行本の新刊発売を前に修正作業が重なりハードなスケジュールを乗り越えたばかりなのである。そんな二人をしっかりと労る基本的に孝行息子であるハジメであった。

 

 「まぁ、そんなに五月蝿く騒いでる訳じゃ無いしヤケ酒じゃ無くて、楽しい気分で飲む酒なら、偶には良いよね。」

 

 普段生活している町中と違い住宅が疎らな別荘地ならば兎も角、世間一般的には十分に五月蝿いと言える程度には羽目を外している窓明かりに浮かぶ両親のシルエットから目を離して、ハジメはもう一度夜空を見上げる。人工の明かりによって都会ではかき消されてしまい観る事の出来ない小さな星の瞬きまでもが此処では良く観える。銀河系を形成する腕の一本、天の川の煌めきまでもが鮮明に。

 

 「でもこの銀河系の全体にゼントラーディや監察軍が数百万の艦隊をうじゃうじゃと展開させて居るかも知れないと思うと、ワクワクよりも恐怖心が沸き起こるよなぁ。」

 

 しかし、流石は両親より英才教育を施されたオタク界の、天下のサラブレッド16歳馬南雲ハジメである。煌めく星空を見あげながら馳せる思いがコレなのだから、色気も何もあったものでは無いのだが、宇宙戦艦ヤマト(神代)の昔から日本のオタク男子は星空を見上げ遠い宇宙の彼方へと巨大戦艦で旅立つ日を夢見、燃える浪漫を空想する事を当たり前としているのだから、コレは此れで良いのだ。

 

 「まぁ、ブービートラップな艦が地球に送り込まれなきゃどうって事は無いよね。」

 

 しかしバルコニーの手摺に頬杖を着いて、別荘地らしく背の高い樹木が規則的に植樹された夜景を楽しむ事は案外悪い物では無いが、窓の灯に導かれる様に偶に飛んでくる蛾を始めとした虫たちには少しばかり辟易とさせられてしまう。しかし下草の中から響く虫たちが奏でるか細くも生命の営みを感じさせるメロディーは悪くはないなと、ロマンチストを気取ってみたりするのも乙な物だと思ったりするハジメであった。

 処々からちらほらと聴こえる、虫達の奏でるささやかな合唱を聴きながらのんびりと星空を眺めやるハジメの眼にそれが飛び込んで来たのはどれくらいの時間が経った頃だっただろうか。

 

 「あっ、流れ星!」

 

 夜空を彩る満天の星の群れの中から幾筋かの光が尾を引いて流れる、それに気が付いてハジメが歓喜の声を上げる。しかしそれもほんの僅かな数秒ほどで終わりを告げる。その流れ行く星の群れのなかの一つが、流れに逆らう様に群れから外れ流れる方向が90度程角度を変えたのであった。

 

 「あれ?なんか、変じゃない?ってか、こっちにながれてきてるぅッ!?」

 

 「うわッ!」

 

 ハジメが声を上げた様に群れから外れた流星の一つが、この南雲家が所有するこの別荘がある方向へと軌道を変えてこの付近の山中、しかもどうやら然程距離の離れていないと思われる場所へと落着したのだった。

 

 「………………あの方角だと多分!」

 

 暫し呆然と流星が落着したと思われる方向を眺めやっていたハジメは、ややすると正気を取り戻し遠目に状況を確認し異常な事態に気が付く。流星がおそらくはこの別荘地の上空数百メートルを通過してこの付近に落ちたと思われるのに、それに伴う轟音も響かなければ、熱風も吹いていなければ落着したと思われる地点から火の手も上がっていない。これは明らかに異常だ。

 ハジメは思案する。自分はどうするべきか、このあり得ない異常な事態を放っておくのか、もしくは両親に報告するべきか、はたまた好奇心のままに自ら玄蕃へと向かうべきなのか。

 

 「多分此処からあまり離れていない。どうする?行ってみるべきかな………」

 

 『うん。行ってみよう』と、この事態に気が付く事無く、楽しそうに酒を交わし続ける両親の姿が映る別荘の硝子窓を一度見やりハジメは決断する。好奇心に突き動かされてと云う理由もあるが只それだけでは無く、言語化も論理的な説明も出来ないがあの流星を追わなければならないという思いに駆られて、ハジメは暗い夜の山中にスマートフォンの小さなLEDライトの光を頼りに謎を求めて別荘を離れて行く。疎らにだが規則的に整地され点在する他家の別荘には光も灯っておらず、この日この場に訪れているのは南雲一家だけだと判る、それはこの場合に於いてはとても幸いだったと言えるだろう。

 

 

 

 公共交通機関など無く訪れるには自家用車が必須となる為に、ある程度は整備されているこの別荘地から少し離れた森の中をハジメはスマートフォンのLEDライトが照らしだす。照射範囲が狭く頼り無く小さな灯りを頼みに、しかし確かな目的を持って歩みを進める。そうやって別荘から出発して十数分程が経過した頃か、現れた其処は森が開け草地になった結構な広さのある空間だった。数年前に南雲家がこの地に別荘を買い幾度かこの地で過ごした事があり、その時ハジメは別荘地の周辺を探索してこの開けた(東京ドーム何個分かは分からない)草地をみつけたのだった。

 この時ハジメは自分が何故この場所を目指したのか自分自身でも理由が分からなかった。其処に理由を付けるとするならば、きっと其処に何かがあるなだと言う事がなんとなく分かったからとしか言いようが無い。ただその予感に従って行動しただけなのだと。

 

 「……………」

 

 ゴクリと緊張からツバをのみ込み、ハジメは無言でLEDの灯りで草地を照らして捜索する。ゆっくりとスマートフォンを左右や上下に振りながら、LEDの灯を頼りに隅々まで探し漏れが無いようにと思いつつも、野生動物などと出会してしまうのではないかと少しばかり怖気ながら。そうして捜索を始めてから僅か数分を経た頃か、突然だった。草地から山間の谷間へと灯りを向けようとしたその時、突如ハジメはこれ迄に経験をした事の無い感覚に囚われた。

 

 「!?」

 

 ブルッと背筋に悪寒が奔り、震えながら両掌を交差して二の腕を押さえ立ち止まる。自分の身に何が起こっているのか、または此れから何かが起こるのか解らないが怖ろしい事が起こるのではないかと不安が過ぎる。どうするか?探索は止めて別荘へと引き返すか、もしかすると熊や猪や野犬などの危険な獣がこの付近に居るのかも知れない。しかし、そう言った生物ならばこの辺りに生物が致した糞尿の臭いや獣臭が立ち込めていても可怪しくない筈だろうが、であればその様な臭いもしないし威嚇の唸り声も聴こえない。ならばもしくは悪意のある人間がこの付近に潜んでいるのかも知れない。最近は政府の無策により、不法移民や日本のルールに適応出来ない不貞な害人などが各地で問題を起こしている。そんなモノが紆余曲折の末にこの地に潜伏しているのではと。

 

 『違う、これは……そんな物とは別物だ!』

 

 そう言った種の獣や人間でも無い得体の知れぬ何かが此処には居るのではないかと予感して、ハジメは尚更に途轍も無い恐怖心が掻き立てられる。更にもまして止まらぬ身体の震える中でハジメは周囲の気配を窺う。まるで寒さに耐える様に震える身体を両掌で抑え込もうと、少しだけ身を縮めて二の腕を擦る。落ち着くんだと自分に言い聞かせてどう行動するべきかを、早急に結論を出そうと考えを進めるのだか、その時掻き抱いていた掌の中のスマートフォンのLEDの光が何かの一部分を照らし出した。

 

 「えっ?」

 

 ハジメは迂闊にも怖気と思考とにリソースを割いていた為に、それの存在に気が付かずにいたのだろうか、それともその存在が気配を消し去っていたのだろうか、それは解らない。だが、それは確かに其処に居た。ハジメとの距離は十メートルにも満たない至近距離に。巨体を横たえて炯々とした光をたたえた、瞳孔だと思われるそれが縦に長い異質な眼を見開いてハジメを眺めていた。

 

 「あ……あぁ…………」

 

 夜空の星と少し欠けた月の輝きとスマートフォンのLEDの小さな照明だけが生み出す微かな光に照らされたモノがどの様な物か、ハジメの眼にも視覚情報として捉えることが出来たのだがそれは何の慰めにもならず、恐ろしさのあまりハジメは力無くその場にへたり込む。

 

 

 

 

 

 

 「と、まぁこれがあの娘、トールと俺との出会いの瞬間だ。」

 

 何時もの如く錬成によってハジメが作り出した空間にて、ユエに請われて語った一つの出会いの物語の序章。

 

 「おお………」

 

 語りながらカリカリと地を削る音を奏でて、ハジメが菜箸代わりの金属の棒でドラゴン態のトールの姿絵を描いていると、それを見ていたユエが感心と感嘆の声を上げる。それはハジメの描く姿絵の出来具合もさる事ながら、ドラゴンと云う未知の生命体との遭遇と云う一大イベントにも彼女がいたく興味を唆られたからなのだろう。

 

 「凄い……なんか、カッコカワイイ……これがドラゴン?」

 

 描き終わったドラゴンの絵姿を見たユエがその様な感想を漏らす。角と翼を持つ厳つい巨大生物でありながら、何処かしらファンシーさも感じさせる。それは漫画家である母親の影響もあり、高い完成度を持ちながらも若干デフォルメが加えられている為にそう云った感想を賜ったのだろうか。

 

 「そうだ。まぁ確かに男子的にはドラゴンに対する憧れとか畏敬の念とか抱いていても可怪しく無いしな。特に俺達みたいなオタクって呼ばれる人種にとってはな。」

 

 マジマジと興味深そうにハジメの描いたトールの絵姿を見ていて、ユエはそんなハジメのコメントなど聞いてはいなかったな。それどころか。

 

 「ハジメ、続き。それからどうなった?」

 

 一通りハジメの絵を堪能したユエは其処から目を離すと(表情の変化はあまり見て取れないが、若干高くなった声音から興味津々ある事が分かる)直ぐにハジメに話の続きを催促するのだった。

 

 

 

 

 

 

 わなわなと恐怖に震えながらへたり込み後退ろうとするが、根源的な恐怖がハジメの精神のキャパシティを凌駕し過ぎたのだろうか、行動としてそれが表れる事も叶わず、ただ目の前の巨獣と合わせた眼を離す事もでぎずにただ無言で震えながら見続けるだけであった。

 

 「………ひッ………」

 

 『……………』

 

 巨獣もまた、横たえた身体はそのままに首を少しだけ擡げてハジメを見やっている。炯々と輝く縦長の瞳孔の瞳が動く事なくハジメだけを絞り込む様に見据えている。プルプルと小刻みに震える、言う事を聞かぬ身体の事も忘れ去り、ハジメは『あぁ僕は此処で死ぬのかな』と頭の隅から諦観する。二十メートルはあるだろう巨大な、竜の様な生物を目の前にして逃げ切る事など不可能なのだと心と身体とが理解しているのだろう。

 

 どれ程の間一人と一体はそうして見つめ合っていただろうか、過ぎ去ってしまえば僅かな時間だったが、それはハジメに取っては何時訪れるとも知れない終末までの残酷な時間。

 

 「えっ………なんで?」

 

 突然に眼前の竜は己の眼前の小さな人間から興味が失せたとでも言うのか、プイと目を逸らして擡げていた首も下ろし眠りに就くかの様に瞳を閉じてしまった。それはまるで、ハジメに対してとっととこの場から去れとでも言っているかの様に。

 

 「………何で、キミは僕を殺しもしないし食べようともしないの?」

 

 『…………』

 

 好奇心に駆られてか、ハジメは目を閉じて身を横たえている巨竜の側から離れず、それどころか好奇心から話し掛けると云う行動に出る始末である。眼前に存在する常識ではあり得ない生物との思いがけぬ邂逅に好奇心が高まるのも仕方が無いだろう。

 

 「あの………って、何を話し掛けてるんだよ僕は一体………言葉なんて理解(わかる)筈無いのにね。でももし異種間でも言葉や思いを交わせるならそれは素敵な事だと思ったんだ。人間が形成する社会や世界は大抵がエゴで塗みれていて他者を蹴落とす事ばかりに躍起になって、って僕は何を言ってるんだ。」

 

 物言わぬ正体不明の巨大生物からの返答などある訳が無いと、若干の諦めを口にする。ハジメがこの得体の知れぬ生物を前に逃げ出さず語り掛けると言う行動に出たのは、何も好奇心だけでは無くただ眼前のエサにしかならない小さな人間を食べようとも消し去ろうともしない巨竜がどの様な生物なのかを知りたいと思ったからだ。

 

 『ゴチャゴチャと、さっきから五月蝿いぞ。下等生物の子供が……』

 

 しかし意外にも、そんなハジメの耳朶に彼を窘める言葉が響いて来たのだ。“あり得ない、そんな事はあり得ないとハジメの中の常識”は言う。しかしそれに勝る好奇心はそれを遠い昔の遥か彼方の銀河系へと放り投げる。そして微かな歓喜と戸惑いを抱きつつも、巨竜に問い掛ける。

 

 「キミ、だよね!今の声はキミの声だよね!」

 

 『…………』

 

 しかし今度は何の返答も反応も返してはくれなかった。それがハジメには、とても寂しい事に思えてしまい、沈んだ顔となってしまう。やはり先の言葉は聞き違えで、本当は目の前の巨竜は何も語ってなどおらず、今ハジメを食べも消し去りもしないのは単に今は空腹でもなければ、殺戮心も持ってはおらず睡眠欲求を満たす事を優先しているのだろうか。

 

 「僕は夢でも見てるのかな。だってキミはどう見たって架空の生物、竜とかドラゴンとかにしか見えないのに、そんな生物が目の前に居て、しかも僕と同じ様に日本語で話すなんて、僕の頭が恐ろしさでどうかしてしまったのか、そうでなきゃ夢でも見てるとしかおもえないよ………いや僕が願っていた事ではあるんだけど。」

 

 『……私は五月蝿いと言ったのだ、それが理解出来ないのか。やはり下等な生物だな度し難い。』

 

 それでも尚ハジメは連連と己の思いを巨竜に伝える。何故かそうしなければならないとも思えてしまい、連連と言葉を紡ぐ。すると再び眼前の巨竜から言語が伝わって来る。それは間違いなく目の前の巨竜が発したものだとハジメは確信する。

 

 「ご、ごめんなさい。不快な気持ちにさせたのなら謝るよ。でも、やっぱりキミは言葉が話せたんだね。夢でも幻でも無く、キミは此処にいて僕と会話を交わせるだけの凄い知性を持っているんだ。」

 

 その確信を持ってハジメは眼前の巨竜に真摯に自らの思いを伝えたいと、その思いに従って。

 

 『……全く度し難い。口にしなければ伝わらないのか!私はお前に此処から去れと……っ、言っているのだ。今の私はただ静かに時を過ごしたいだけなのだ。』

 

 そして返ってきたのは、巨竜が間違いなく知性と理性とを併せ持った存在だと云う事を如実に語る言葉だった。ならば巨竜とはコミュニケーションが成立する。今のハジメには当初に感じた恐怖心は消え去っいた、否、違うだろう。ハジメは最初に巨竜と邂逅し、見つめ合っていた瞳の中に、完全な確信ではなかったが既に巨竜の中の知性と理性を感じ取っていたのだ。

 

 「ごめんなさい。でも、僕。まさかこの世にキミみたいな大きなドラゴンが実在していてしかも言葉でコミュニケーションを図れるなんて思ってもいなかったから。」

 

 そうと解かればハジメの中から先程までの恐怖心は薄れると言うものである。誠意を持って接すれば目の前の巨竜も解ってくれようとの希望が生まれてしまうのも、また、未知の生物に対する好奇心が身の裡から加速度的に溢れ出て来ることも抑えることが出来ようか。

 

 『………仕方あるまい。こんな大気中にマナも存在しない世界ではな………ッ。』

 

 そして初めて巨竜はハジメの言葉にきちんとした返答を返すのであった。その事実にハジメの顔がほころぶのを通り越して好奇心にワクワクとした表情に変わり巨竜に向かって身を乗り出す。

 

 「マナっ!マナって言うとアレだよね、魔法とか魔力の大元になるエネルギー的な物だよね。そう言うのって本当に存在していたんだ!」

 

 自分の興味のある分野になると饒舌にもなり好奇心も爆発する。あるべきオタクの姿が、其処にはあった。

 

 『何を聞いているのだ。マナは確かに存在しているが、この世界には殆ど無いと言ったはずだ。しかしその様な事を知っているとは。お前は何者だ?』

 

 「えっ、僕は一般的な高校生だよ。決して逸般人には至って無いよ。まぁでも両親から薫陶を受けてるせいで偏ったオタクではあると思うけど。」

 

 その姿に巨竜は若干の呆れを見せつつも律儀に答えている辺り、案外付き合いが良いのだろう。それと同時に巨竜の中に眼前の小さな人間の子供に対する興味も沸き、そう尋ねると訳の分からない解答が返り、巨竜の頭に疑問符が湧いてくる。

 

 『ん?オタク、とはどう言う意味だ?』

 

 巨竜はハジメにそう尋ねる。学習能力により知り得たこの国の言語情報として、お宅とは家屋のことを指した言葉であり或いは相手を指しての二人称である筈である。であるにも拘らず目の前の人間の子供は自らを指してオタクであると名乗ったのであるのだから、巨竜も混乱しよう。

 巨竜からのその問い掛けにハジメは歓喜する。小さな事柄ではあるが、眼前の巨竜が自分に興味を持ってくれた事が嬉しかったのだ。それに気を良くしてハジメはその喜びも露わに自分語りを、そしてオタクとは何たる物かを嬉々として巨竜に語るのだった。

 

 

 

 

 「そんな感じで、流から俺はペラペラと調子に乗ってトールに自分語りを始めたんだが、トールは俺の話を興味深そうに時に疑問をぶつけたりして聞いてくれてな、まぁちょっと皮肉や価値観の違いやらぶつけられたりはしたが、俺としては楽しいひと時だったよ。」

 

 思い出しながら語られるハジメとトールとの出会いのエピソード。それは大変に興味深く一言も聴き逃すまいと身構える様にユエは真剣さを崩さずに拝聴する。その姿勢はまさに拝聴である。

 

 「ん。私もハジメの事、もっと知りたい。」

 

 しかし同時に、まだ見ぬ巨竜トールに対する対抗心も少なからず抱いているのか、彼女も負けじとハジメの事を知りたいと強請る(せがむ)

 

 「ハハッ、そうかよ。まぁ、この迷宮をクリアするにはまだ時間があるだろうしな。ゆっくり話してやるよ。」

 

 それに気付いてか気付かずか、ハジメはそんなユエの振る舞いに苦笑しつつも彼女の願いを叶える方向で回答する。

 

 「ん。楽しみ。」

 

 相変わらずの言葉少なな彼女の返答にハジメも慣れたものか「応!」と応える。言う様に時間はたっぷりとあるのだから、彼女の願いは何時でも叶う。ハジメは真顔に戻してトールとの出会いの話の語りを再開する。

 

 

 

 

 

 

 オタクとはを何ぞや?ハジメは巨竜に説明する。

 

 『成程、趣味に没頭する者をそう言うのか。良く言えば探求者、悪く言えば趣味一辺倒で周りが見えなくなる変態か。』

 

 「あはは……否定は出来ないな。現在はそれ程でも無いけど、父さん達が言うには平成初期の頃まではやオタクと呼ばれる人達の言動や、とある事件が切っ掛けで世間的には迫害とまでは行かなかったけど、良い目では見られて無かったそうだし。」

 

 ハジメからの説明を受け、それを一刀両断に斬り捨てる巨竜のオタク評価にハジメは額から一筋の汗を滴らせて苦笑する。

 

 『それも、自業自得と言う事であろう。』

 

 「うぐっ!」

 

 暫しの時を語り合う人と人ならざる者。ハジメは眼前の巨竜のインテリジェンスに感銘を受け、もっと語り合い同じ時間を共有したいと思うのだが、しかし、どうやらその願いも叶わぬ様で。

 

 『さて、もう夜も遅い。待っている者が居るのならば、お前もそろそろ帰るべき場所へ戻った方が良かろう。』

 

 星空の軌跡を写した天体写真を見なければ気付かないだろうが、夜空の星も月も僅かにだが位置を変えており、それが時間の経過を物語る。巨竜の言は正しく、ハジメには帰る場所も待っている両親も存在する(現在は二人で良い感じに酔っ払っており、ハジメの存在はそっちのけ)のだから。

 

 「えっ……うん。確かにそうかもだけど、何だかそれも名残惜しい気がするんだ。僕は……もっとキミの事を知りたいし、僕の事をキミに知ってもらいたいし………」

 

 巨竜と眼を合わせハジメは心からの願いを伝えるのだが、暫しの沈黙の時間が二種間の間に流れる。

 

 『そうか………』

 

 やがて巨竜はハジメから視線を外し、擡げていた首と下ろして眠りの姿勢を取る。巨竜の表情を読めないハジメの身の裡に不安が過ぎる。

 

 『残念だが、それは叶わぬ願いと言うものだ。』

 

 「そうなんだ………そうだよねキミだって帰らなきゃいけないんだよね。この世界にはマナが無いから。」

 

 出会い端で巨竜が語ったマナの存在の有無。そう言ったものが、異世界の生命体には必要なのだろうと推察してハジメは残念な気持ちも露わに沈んだ声音自らを納得させる。

 

 『そう言う意味では無いのだがな……ただ単に私に残された時間が………もう間もなく尽きると云うだけの事だ。』

 

 しかし、巨竜からもたらされた言葉はハジメの推察などを遥かに超えて彼を愕然とさせるには十分以上に巨大な爆弾であった。

 




単なる自己満足ですが、個人的には多少はマシになったのではと思います。この様な物でもお楽しみです頂けたのならば幸いですが。
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