眼前の巨竜が口にした言葉はハジメにとっては余りにも衝撃が大き過ぎた。本来ならばあり得ない出会いを果たした異世界から来訪したと思われる巨竜は、自らの命がもう間もなく尽きる言うのだ。
「そう………なんだ。生きている者は誰だって寿命があるし、僕にはドラゴンの年齢とか性別とか解らないけど、キミの寿命も………」
『失礼な!私はそれ程齢はとってはいないぞ!お前達人間に例えるならば、私はまだピチピチの十代の中々の美少女だぞ!』
ハジメの言葉から読み取った失礼な思考に巨竜が抗議の声を上げる。しかも齢の若い女性だと云う新たな情報まで開陳してくれなのだ。それにもハジメは驚いたのだが、一旦それを置いてハジメは何故に齢若い彼女の寿命が尽きねばならないのかと推察を始める。
「そ……そうなんだ、ごめん。でも何でそんなに若くて美少女?なのに時間が無いなんて………もしかして、何かの呪いを受けたとか?」
『呪いか………確かにそうとも言えるな。』
謝罪をしつつハジメは自らが推察し導き出した事を述べると彼女はその言を肯定する。ハジメは彼女のその声に、何処か自虐的な物言いをしている様に感じて、それがとても淋しい事の様に思えた。
しかし、ハジメは思い掛けず入手してしまった巨竜のプライベートな情報に付いては一応スルーしておく事にした。
「どう言う事か、聞いても良いかな。」
だからこそハジメは叶う事ならば、彼女の命を繋ぐための協力したいと望む。それが傲慢な思いだと言う事は自分でも自覚もしているが、加えて自分の迂闊さも呪う。彼女と語り合っていた時間を思い出すと、処々で彼女は言葉に詰まったり、ハジメへの返答が遅れたりする事があった。それは今にして思うに、彼女は痛みに耐えていたのかも知れないのではと想像ができる。
『早く此処から立ち去れと私は云っているのだかな……まぁ良い。此処まで話したのならば、事の経緯を話さなければお前は立ち去らないのだろう?』
そんなハジメの思いを汲んだのだろうか、巨竜はやや呆れ気味な声音と死にゆく者としては力の毅い眼力をハジメに向け、そう問い返す。ハジメはその問いに力強く頷く。
『まぁ良いか。』
僅か十数分間の語らいの中で、眼前の気弱そうに見える人間の少年の中に意外な頑固さがあるのだと鑑みた巨竜は、諦め気味に一言そう言うと事の経緯を語り始めるのだった。
『別段大した事では無いが………そうだな、私の背中を見てみるとよい。』
淡々とした声音で巨竜はそう言ってハジメに己の背中を見るようにと促す。その巨竜の言葉に従いハジメは視線を上へと、巨竜の背中の方へと向けていく。月と星が作り出す微かな明かりでは鮮明に確認する事は出来ないが、巨竜の背中から生えている翼と、はっきりとしないが何かが背中から飛び出ているようなシルエットが薄暗くはあるが、ハジメの眼に映る。
「なっ!?何アレ………ドラゴンさんの背中に何かが突き出ている。いや違う!……あれって……何かが突き刺さってるん……だよね!」
愕然と途切れ途切れにハジメは目にした巨竜の状況を口にて、そして暫し呆然とする。巨竜の背中に何かが突き刺さっているではないか、おそらくそれは剣や槍と言った武具ではなかろうかと、もう一度ジッと其処を凝らし見てハジメはそのシルエットを改めて確認し、それが剣だと認識する。
『己の恥を晒す様でシャクではあるが、ちょっとしたヘマをやらかしてこうなってしまったのだ。我が身の不徳だ。』
「なんでッ!?そんな……そんな物を突き刺されるなんて、酷い!」
明らかに戦いに拠って突き立てられたとしか考えられない、巨竜の肉体に残された剣。その刺さっている深さの程は分からないが、早々に寿命が尽きると彼女が言うのならば相当に深く刺さっているのだろう。同情心と云う以上にハジメの中に義憤の感情が生まれる。
『フッ………この様な事、
ハジメの感情を知ってか知らずか、巨竜は淡々と諦観した様な声音で世の無常を語る。其処には自嘲の成分が多量に含有されており、ハジメの中の憤りは益々募る。
「でもッ、だからって!」
『もう、どうしようも無い事だ。お前が気に病む事など何も無い。』
改めて他者に自分の状況を語り巨竜は既に覚悟は決まっていると言わんばかりに、知り合ったばかりの人間の少年に柔らかな目を向けるのだが、しかしそれを受けた少年、ハジメの方はその様に割り切る事も出来無ければ納得も出来ないでいる。何か、何かないのか自分に出来る事はと、へたり込みながらも思案する。そうやって暫くの間考えを巡らせてハジメは一つの回答を導き出した。
「………ちょっと待って!あの剣を突き立てられた事をキミは呪いの様な物だって言ったよねッ!だったら、あの剣を抜いてしまえばキミはその呪いから解放されるって事だよねッ!?」
言うが早いかハジメは立ち上がると巨竜の身体をよじ登り始めた。其処に迷いなど無く只管に巨竜の背に突き立てられた剣へと向かって。
『ぬっ!?待て、何をするつもりだ!?』
巨竜はハジメの行動の意味を内心に理解しているのだが、そう言って誰何する。それは途轍も無い危険を伴う行為であり、それは決して行ってはならぬ行為なのであった。
「決まってるさ。キミの身体に突き刺さった、あの剣を僕が引き抜くんだよ!」
『“莫迦”な真似は止めろ!それは神剣、資格無き者が触れると災禍が降りかかるぞ!』
それを知る巨竜は自らの身体を神剣目指して這い登るハジメに思い留まる様に説得する。巨竜自身に自覚があるかどうかは定かでは無いが、何時しか巨竜はこの出会ったばかりの人間の少年に対して特別な感情を抱き始めていたのだ。それはもしかするとただの吊り橋効果なのかも知れないが。
「それがどうしたって言うのさ!」
『なっ!?』
だからこそ巨竜は少年に傷ついてほしく無かったのだが、ハジメはそれがどうしたと言ってのけたのだ。
「キミが何処から来て、どうして此処にいるのかを僕は知らない。でもッ!まだほんの何十分しか経ってないけど、僕は此処でキミと云う存在を知ったんだ。高い知性と深い理性と、そして他者を思いやれる心を持ったキミの事を知ったんだ!」
『…………』
人間など下等で愚かな生き物だと見下していた。力も弱く寿命も短く心も弱い、そんな生き物なのだと思っていた。
「そんなキミを僕は死なせたくないって、もっと沢山キミと話しをしたいってッ!」
少年は叫ぶ様に力強く己の望みをぶつけて来る。崖を登るように、落ちない様に両手と両足を使って一歩一歩。そして頂点に、神剣の元へと到達する。
「だからこれは僕の勝手なエゴだ!僕が此れを引っこ抜くッ!!」
二つの足に落ちない様に力を込めて、ハジメは高らかに宣言する。そして、その手を巨竜の背に突き立てられた神剣を掴んだ。
は、良かったものの。
「まぁ何だ、そんな風にカッコつけて剣を掴んだものは良いが、神剣に触れた掌から結構強烈な静電気っぽいのが流れて来るし、神剣は重いわで結局俺は引き抜けなかったんだ。」
タハハっと、羞恥心を誤魔化すように嗤ってハジメはあの日の“ヤラカシ”をユエに語ると、ジトっとした眼を彼女に向けられた。言葉は無くとも解る、彼女の眼は『コイツマジカヨ』と語っている。
「……………」
「いや、しょうがねぇだろう。抜けなかった物は抜けなかったんだからよ。」
誤魔化し笑いを引っ込めて、ハジメは開き直って言い訳がましい事を宣う。それを受けてユエはやれやれとばかりに溜め息を吐くと、ジトッとした眼でハジメに向き直る。
「それで、結局どうなった?」
「……まぁ、俺一人じゃ埒が明かないと思って両親に電話を入れて、現場に来てもらったんだ。」
気を取り直したユエが尋ねるとハジメは後頭部をカリカリと掻きながら、照れくさげに両親にヘルプを頼んだと告白する。それに対してもユエに何か突っ込まれるかと思ったのだが、ユエから返ってきた言葉はこの場においては意外過ぎるものだった。
「ハジメ、電話って何?」
「あ?……そうか、この世界には電話は無かったんだっけな。」
彼女は聞き覚えの無い電話と云う単語に疑問を覚え、それについてハジメに問い掛ける。
「ん。私が此処に閉じ込められる前は無かった。多分、今も無い?」
「ああ、そう言やハイリヒ王国にも神殿にも通信手段は無さそうだったな。」
トールとの出会いの語りを再開する前にハジメはユエに電話に付いて軽く説明してから、続きを語り始める。
「僕、ちょっと二人を迎えに行ってくるから、だからドラゴンさん、此処から居なくなったら駄目だからね!」
スマートフォンで両親に連絡を取り、ハジメもその両親を迎える為に一度引き返す。幸いにも両親は酔ってはいたが泥酔と言う程では無く受け答えも確りとしており、ハジメの依頼を快く請け負ってくれたのだった。巨竜の元を離れて七〜八分程、其処で両親と合流して南雲一家三人揃って巨竜の元へと引き返す。
「ハジメ!本当なんだな!?本当に異世界から来たドラゴンで間違い無いんだな!!しかもある意味第三種接近遭遇まで果たしているなんて、夢みたいだなッ!」
「本当なのねハジメ!本当にドラゴンと出会ったのね。でかしたわハジメ!これで新しいネタが手に入るわぁッ!」
道中、興奮しまくりな両親に呆れつつも、ドラゴンと出会ったなどと言う、普通ならば戯言として取り合わないであろう言葉を一切疑わずにハジメの頼みを聞き入れてくれた両親に感謝しながら巨竜の元へと駆ける………事は出来なかった。流石に酔っている中年夫婦に駆け足を促す事は憚られた。暗い道中、舗装路では無い道で転んでしまおうものなら大変な事に為りかねない。結果ハジメは二倍程の時間を掛けて巨竜の元へと帰ってきたのであった。
「ドラゴンさん!遅くなって御免なさい。」
大きく手を振って巨竜に謝罪の言葉を掛けながらハジメは巨竜の元へと辿り着く。後ろにボストンバッグを肩に担いだ両親を従えて。
「キャ〜ッ!貴方ッドラゴンよ!!本当にドラゴンが居るわよぉ〜ッ!」
「ああ、本当だね母さん。本当にドラゴンが居たんだ!まさか生きてドラゴンに会えるなんて夢を見ているんじゃないだろうな、僕は!?」
しかし肝心の二人は到着早々に、まさかと思っていたドラゴンと言う存在と出会った事でテンションが爆上がり、其処にアルコールに依る酔も加わり五月蝿い事、この上なしである。
『……………』
ハジメが去って巨竜は暫くの間
「御免なさい……二人共お酒呑んでて、少し酔ってるんだよ。」
ハジメにもその巨竜からの無言の抗議は過たず伝わった様で、ハジメは巨竜に申し訳なさそうに謝罪の言葉と二人の状態を伝える。巨竜もその言葉に不承不承ながらも納得し、それについては許容する事とした。
「もう、父さんも母さんも、そう言ったのは後にして。見てよアレを!今は、あのドラゴンさんに突き刺されている、あの剣を抜くのが先でしょ!」
「ああッ、済まないハジメ。あまりの事に父さんテンションゲージがマックスを越えていたよ。たはははっ!」
「そっ、そうね。今はドラゴンさんを助けるのが最優先事項よね。あらやだわ、私としたことが。おほほほほっ!」
巨竜が抗議を諦めたとは言えどハジメの中には彼女に対する申し訳無さは解せず、ハジメは両親を窘める。両親もまたハジメに諭され反省の弁を述べるのだが、言葉とは裏腹にその眼から好奇の光が消える事は無かった。まぁ、その件に関してはハジメとしても十分に気持ちは理解出来るので、そこ迄は差し控える様にとは言わなかった。
「はぁ。じゃあ二人共、あの剣を抜くのに手を貸して。それで良いよねドラゴンさん!?」
ハジメは両親に声を掛け、それに二人共頷いて了承する。ハジメも二人に向かい頷くと巨竜へと向かって確認する。
『先程、驚く事にお前は神剣に触れながら、その身を滅される事も無かった。ならばこの忌々しい剣を抜く事も可能なのかも知れないな。』
「うん。まぁちょっと痺れた上に重くって持ち上がらなかったけどね。」
巨竜は穏やかな声音で先のハジメの行動を思い返して、僅かにだが己の身から神剣が引き抜かれる可能性を見出す。
『手数を掛けるが、頼めるだろうか?』
まだ少し不本意そうではあるが、巨竜はハジメに己の運命を託すべく依頼する。その眼には先程まで浮かんでいた諦観は影を潜め、僅かな希望に掛ける光を孕んでいた。
「勿論だよ!その為に父さんと母さんも呼んだんだからね。」
ハジメは巨竜の依頼に力強く頷いて了承する。それに追従する様にハジメの両親もサムズアップしつつ大きく頷いて了承の意を示すのだった。
ハジメとその両親はえっちらおっちらと巨竜の背を登り、三方から囲む様に神剣の前に立つ。酔っている為に少し足元が覚束なかったが二人共何とか巨竜の身体をよじ登ることが出来た。
「これが神剣か、その名が本当ならさしずめ神が創りし宝剣と言ったところなんだろうな。うむ、コレは興味が尽きないな!」
「コレは本当に良いネタを仕込めそうだわ!」
「もうッ二人!気持ちは理解出来るけど今は自重してッ!」
ワクワク顔で神剣を前にした両親が、好奇心丸だしであれやこれやと欲望を口にしているのを、またしてもハジメが窘める。ハジメとて両親同様に神剣に興味はあるが、両親と違い先に巨竜とコミュニケーションをとっていた事もあり、自重しているのだ。
「おっと、済まない。そうだったな。」
「そうね。ごめんなさいハジメ、それとドラゴンさんも。」
「全く勘弁してよ。」
素直に謝罪の言葉を述べる両親に溜め息を一つ吐いてジト目を向けると、二人はバツが悪そうに口元を人差し指で擦る。
『…………』
己の背の上で展開される異世界の人間の家族の茶番劇を、巨竜は呆れて物も言えないのか何も言わず黙って見ているだけである。
「………じゃあ改めて行くよ。」
気を取り直したハジメが二人に呼び掛けると二人は気を引き締めたのかは分からないが、ハジメの言葉に真顔で頷く。内心にこの二人本当に大丈夫なのだろうかと思ってはいるが。
「よし、ハジメ、母さん。僕が掛け声をかけるからそれに合わせて一気に引き抜こう!」
そして家長としての責任を自覚したのか、父、愁が音頭を取ると二人は頷いて神剣に手を掛ける(不思議とハジメは先に一人で挑んだ時に感じた痺れを今回は感じなかった。だったら今回は行けるとハジメの中に大きな希望が沸く)円陣を組むように三方を囲って、三人はその手にグッと力を込める。そして、愁の掛け声が草地に大きく響く。
「よし、行くぞ!北宇治ファイトぉ〜!」
その掛け声に、ハジメは思わずズッコケる。
「ちょっと貴方!此処はお約束として、ファイトーッ、
母、菫は、そのネタは違うだろうと抗議の声と自ら代替のネタを披露する。
「二人共!言っとる場合かーッ!」
そしてハジメもイライラから我慢していたネタをぶち込む。どうしょうも無い位にどうしょうも無く度し難い、南雲一家のお約束が山中の平野部にて展開される。
テンションと体勢を立て直して今度こそはと南雲一家は再度神剣に手を掛ける。今度はハジメが音頭を取る事となり、二人も了承する。
グッと身体と眼に力を込めてハジメは二人にもそれを促すと、両親も神剣を握る手に力が込められた事を感じる。よし、今度こそとハジメは目一杯の声を上げる。
「じゃあ本当に行くよ!いっせぇのおッ!」
「セイッ!」
「せいっ!」
「せっ!」
三人それぞれの発声で同時に力を込めて、思い切って神剣を引き抜く。すると神剣は何の抵抗もみせずにアッサリと巨竜の身体から引き抜かれてしまうではないか。しかし、ここからが南雲一家らしく締まらない。何故なら神剣が抵抗をみせなかった為に込めた力が勢い余って三人は三方にひっくり返って巨竜の背に尻餅を着いてしまい。肝心の神剣は何処かへと飛んで行ってしまったのだから。
「神剣が何処に行っちゃった………」
折角仕入れられそうなネタが失われた事を両手を着いて嘆く妻の背に夫が労う様に手を掛ける。その二人の姿を見ながら、ハジメは事が成った事を内心喜びつつも安堵の溜め息を吐くのだった。
そして、はたと気が付き慌てて立ち上がると、両親に持参してもらったボストンバッグの事を思い出した。身体に突き刺さった剣を抜けば当然傷口から血が流れるだろうからと、止血の為に別荘から有るだけのタオル類とシーツを持ってきて貰っていたのだ、バッグのジッパーを開いてタオルを取り出し止血を試みようとしたハジメだったが、巨竜の身体には傷跡さえ残ってはいなかった。
『神剣が抜けさえすれば、この程度の回復魔法など造作も無い。それよりも私は貴方達に助けられたのだから、感謝とその礼を誠意を持ってしなければならない。』
命をながらえた巨竜は感謝の言葉を伝える。
「まぁ色々グダ付いたが、それで、トールも一命を取り留める事が出来たし、めでたしめでたしって感じで俺も一安心って訳だ。」
トールの身体に突き刺さった神剣を家族三人で引き抜く迄の顛末を話し終え、ハジメは喋りすぎて渇いた喉を潤す為に水を一杯煽る。
「ん。死ななくて良かった。」
ハジメが身体に水が行き渡る心地良い感触に身を委ねている傍らで、ユエも淡々とした口調ながらトールの無事を喜ぶ。
「それで、その後はどうなった?」
「まぁ、その後は俺んち一家とトールとで、互いに語り合ってな。その結果両親もトールの事を気に入って家で暮らさないかって提案して、トールもそれを受け入れて俺んちの家族になったって訳だ。」
彼女にその後の顛末を請われてハジメはザックリと、トールが南雲家の家族となった事を伝えると、その半ば三白眼の様な目を見開いて驚く。
「えっ!?でも、ハジメの世界には魔獣とか居ないのに、そんな大きなドラゴンが一緒に暮らせる?」
トールとの出会いのエピソードを語りながら、地球世界の情報も掻い摘んで話した事により、ユエは地球にドラゴンや魔獣が存在していないとの知識を得ていた。なので彼女がそれに疑問を持つのは当然であり、ハジメも其処は織り込み済みで。
「ん?あぁ、それなんだがな。驚く事にトール達ドラゴンはその姿を人間態に変化させる事が出来るんだよ。」
サクッとトールの能力に付いて説明しながら、再び地面に菜箸で絵を描き始める。
「凄い、まるで竜人族みたい………」
スラスラと地面に絵を描くハジメを見ながら、トールの驚くべき能力を知り、感嘆の声を上げる。とは言えども彼女の声は然程大きくは無いのだが。
「ああ、竜人族ってのも肉体を変化させられるんだっけな。」
「ん。」
王国の図書館で得た知識から思い出してハジメが呟くとユエも肯定し頷き返す。そうしている間にもハジメは描き進めて、数分もせずにその絵は完成した。
「よし出来た。ユエ、人間態のトールの姿はこんな感じだ。」
ハジメの宣言を受けて、ユエは描かれた絵を見るべく地面に目を向ける。マジっと数秒ソレを凝視して、そして。
「ん!………ハジメ、ハジメッ!」
今日一大きな声を上げてハジメの名を呼ぶ。何百年も声を出してなくて、喋るのもまだ慣れていないと言っていたのになと思いつつ、自分を呼ぶ彼女と目を合わせると。
「綺麗、可愛い……これがトール姉さま!?」
「おおそうだぜ!それがトール姉さま………ってオイ!?何だよその姉さまってなぁッ!?」
表情はあまり変化は無いが、それでも解る程にユエの顔に歓喜の色が浮かんでいて、しかも驚くべきセリフまで飛ばしてきたのだ。
「ハジメッ、私、トール姉さまの妹になりたい。なれる!?」
フンス、と鼻息荒くユエは自らの願望をハジメに問い掛ける。
「はぁ!?いきなり凄ぇ爆弾ぶっ込んで来たな。いや、其処は俺に聞かれても何とも言えないが。」
しかし、今のハジメには、彼女の問い掛けに応えるべき言葉の持ち合わせは無かった。
取り敢えず、南雲一家とトールとの出会いは今回のとおりとなります。
何処かでトール視点の回も書こうかと思っておりますが、次回は南雲一家の家族構成を知ったユエの反応とか書ければと。