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封印の部屋で出会った美しき吸血姫ユエ。ハジメとユエは互いの経緯を語り合ったり、ハジメがユエに血を吸われたりと色々とあったが、二人は互いに協力し、この迷宮を攻略し地球へと帰還を果たす事を約し最下層へと向けての攻略を開始する。
ハジメは、ユエが封印されていた部屋の
時は遡り、ハイリヒ王国に残るハジメのクラスメイト達は。
王国と教会とが主催して執り行われた南雲ハジメの国葬から後三日間までを喪服期間とし、その期間が明けた後、教会と王国首脳部そして畑山愛子と天之河光輝と八重樫雫を勇者一行の代表としての会談が行われた。
会議の冒頭、畑山教諭はクラスメイト含む日本人代表し、南雲ハジメの弔いを国家として国葬という形で執り行ってもらった事に、儀礼的に感謝の弁を述べた。
「なに、南雲殿はこの世界の工業の発展に大きく寄与してくだされたのでな、国家としてこれに報いるは当然でありましょう。無論我が教会としてもその功績は大きく評価しておりますぞ。それに、報告にあった通り、迷宮に於いての獅子奮迅の活躍により危機的状況にあった勇者様一行全員の生命を、まさに己が自身のその生命を懸けて救ったと云う事実も鑑みれば、南雲殿の功績は何物にも代え難いと言う物ですのでな。」
如何にも好々爺然とした態度を崩すことなく教皇イシュタルがそれに応じて返礼すると、国王を始めとする王国側の参加者もその言葉に頷き、其処から本格的な会議が始まるのだった。
まず始めになされた報告は、ハジメの死を罵っていた一部の貴族達の処遇についてであった。その者達の大半は、当初ハジメの開発した品々に対して否定的で小馬鹿にまでしておきながら、それが金になると知った途端に掌を返す様な態度を取るようになったが、しかし時既に遅しで大勢は既に固まっておりその恩恵に預かれる事無く、虚しく臍を噛む思いを味わう事となったのだ。
しかしそれを良しとせず、密かに裏から手を回し不正に利益を得ようとしていた事が、隠密の調査によって証されており、これを期に纏めてそれらの貴族達を処断する事がこの会談にて発表された。
「不正に加えて、英雄南雲殿を愚弄するが如き発言、それだけでも彼等を処断するには十分でありますからな。」
それらの貴族は領地の剥奪及び貴族籍の抹消、そして死罪に処される事となった。
「南雲が一生懸命に作ったもので不正に利を得ようとしたのだから、処罰は当然だと思います。ですが、だからと言って死罪と云うのは行き過ぎじゃないですか?罰を与えるのは当然としても、罪を償う機会を与えても良いはずです!」
法務大臣よりの報告に畑山教諭と雫はそれに当然と頷くのだが、正義感は強いがその思想に歪で極端な価値観を持つ天之河は、王国法務部の決定に異論を挟む。性善説の信奉者である天之河の、その考えの甘さが此処に発露する。
「光輝、これは王国が正式に下した決定なのよ。それに対して外様である私達がとやかく言うのは筋違いよ。それにこう言った事例は、私達の世界でも歴史を紐解いてみれば何度でもあった事よ。」
それを幼馴染の雫が窘める。事が此処に及んでもその様な戯言を宣う光輝に、現実を知らしめようと根気強く語り掛ける。
「しかし、だからって生命までは!」
それでもまだ、甘っちょろい考えを捨てない天之河の言葉に雫は溜め息を吐いて頭を振り、天之河に強い視線を向ける。
「こういった事は国の根幹にまで係る事なのよ。そうせざるを得ないのよ!この様な場面で甘い決定を下すようでは、国家としての鼎の軽重が問われると言うものなの。そんな甘い事を言って、光輝にその責任が取れるの?あの日南雲君が言っていた事を貴方はまだ理解していないのね………」
「くっ………」
ハジメが健在な時分に何度かその様な論議がなされた事を引き合いに出して、雫が批判すると彼は言葉に詰まり反論も出来なくなる。天之河もその事はしっかりと覚えていたのだろう、彼女に言い返す事が出来ずにいる。
「それに罰を与えると言っても、貴族として楽な生活していた人達に、例えば懲罰として苦役に付かせるとしても体力が保たず、結果として生命を失う事になるでしょうし、仮にその苦役を勤め上げたとしても、王国や私達に対する恨み辛みを忘れる事も無く、反逆を企てる可能性だってあるわよ。でもまあ尤も、そう言った苦役に付かせるならば大抵は終身刑になるのでしょうし、反逆を行う可能性は皆無に近いでしょうけど。」
「あ、あのっ、天之河君も八重樫さんも、この話題は此処までにしましょう。議題は他にもあるのですし………」
おろおろとしながらも、畑山教諭は二人の議論を止める様にと窘める。彼女が言う様に話すべき事柄はまだ多く、いつまでも一つの議題に時間を掛ける訳にはいかないのだ。畑山教諭の諫言を受けて二人はその口論を止め、会議に参集している王国と教会関係者に謝罪の言葉と共に頭を下げて着席するのだった。
次いで話し合われたのは、生徒達の今後についてである。先ずは今回の事態を引き起こす切っ掛けとなった檜山大輔の処遇についての結果の発表がなされた。遠征から帰着して直ぐに檜山は己の軽率な行動が引き金となり引き起こした、今回の事態について正直に名乗り出、謝罪と厳罰を自らに果たす様にと願い出た事と、且つ天之河の嘆願もあり王国としても彼の罪を減じる決定を下した事が伝えられた。
「よって、檜山大輔には十日間の独房入りと鞭打ち十回の刑を下す事と致します。」
当初ハジメの死を知った、彼の開発品による恩恵を受けた貴族達からは、檜山に対して極刑を求める声も多くあり、処刑とまではいかずとも国外追放との声も出ていたのだが、先にも述べた通りに天之河の嘆願の影響も大きく(何よりも勇者の機嫌を損なう事態は避けるべきとの声が大きく)結果は先の発表の通りである。
「………檜山の罪を減じてくれた事には、感謝します。」
檜山への処罰の決定が告げられ、天之河は彼の処罰が減じられた事に対して謝辞を述べたのだが、しかしその顔には何処か納得していないとの思いがありありと表れていた。毎度の事だが、天之河の思いとしては“檜山はしっかりと謝罪をしたのだから赦してやって然りだろう”と思っているのだ。
更には『すまない檜山俺の力不足で君を守ってやる事が出来なかった』と、見当違いな罪悪感を覚えてさえいる始末だ。
次の議題として上がったのは、遠征の責任者であるメルド・ロギンス騎士団長の処遇である。これについては国王自らが彼の処遇についての提言を行った。議事堂にて一人着席せずに礼服姿で片膝を着いて平伏するメルドに、国王は一瞥すると居住まいを正し明瞭な音声で語り始める。
「今回の件について、メルドは自ら責任を取り騎士団長職の辞任と法務部への身柄預かりを申し出て来たのたが、皆も知っての通り勇者殿一行を除き彼は我が国における最高戦力でもある。その彼を団長職からの解任並びに断裁でもしようものなら、それは国家が自ら利敵行為を働くも同然。」
「でありますな。」
「如何にも。」
方々から国王の言に賛同する声が上がる。その言葉は否定しようのない事実のみが語られているのだから当然であろう。
「うむ。しかし、だからとて先の雫殿の言では無いが国家としての鼎の軽重が問われる故に無罪放免とは行かぬ、此処は半年間の減俸と五日間の謹慎処分辺りが妥当であろうと思うのだが、如何でしょうかな教皇猊下。」
列席者の賛同の声が落ち着いた頃合いを見計らって国王は、予めしたためていたメルドへの処罰の内容を提示しイシュタル教皇に、内容の不備が無いかと伺う。
「そうですな。王国の戦力が削がれてしまう事は教会としても不本意でありますれば、我ら教会としても、国王陛下の提言に異論はありませんぞ。」
国王の提言に一切の異論を挟む事無く、イシュタル教皇はそれに賛成し、メルド団長への処分は実質的に教皇の後押しによって決定された。
「うむ。では、減俸半年と五日間の謹慎処分をメルド団長を言い渡す。それで良いなメルドよ。」
「ははっ!国王陛下並びに教皇猊下よりの温情に心より感謝申し上げます!」
此処に、国王自らがメルド団長への処分を言い渡し、メルド団長は床に片手をついて恭しく礼を取り謝辞を述べる。それを見届け国王は眦を緩め厳しい態度を少し崩してメルド団長に告げる。
「よいよい。メルドよ謹慎処分が開けた後は、これ迄と変わらず国家の為に尽力くしてくれよ。」
「はっ!我が生涯を掛けて!」
立ち上がり深く一礼をしメルドは国王への返礼。そのまま謹慎処分を受けるべく、議事堂を後にするのであった。尚、副団長をメルド団長謹慎期間中の団長代行として、その任に充てる事もこの場で発表がなされた。
メルド団長が議事堂を後にし、代わって団長の代理を引き継いだ副団長が軍部を代表として会議に参加する。そして議題ときて会議の俎上に昇った話題は勇者一行の今後についてである。
初めての実戦形式の遠征を南雲ハジメの犠牲により生き残った生徒達であったが、その多くは心に深い傷を負っていた。PTSD・心的外傷後ストレス障害とも称されるその症状を抱え、自分が充てがわれた部屋に閉じ籠もり塞ぎ込んでいる者が何名も現れているのだ。
「そうでなくとも、ちょっとした物音や誰かが背後に居るだけで怯える子供達もいるのです。貴方がたはそんな子供を、それでもまだ戦場に送り込もうと言うのですか!?」
生徒達が遠征へと向かったその日より以前に、農地開拓の為王都を離れており遠征に参加していなかった畑山教諭は、帰還後に南雲ハジメの戦死の報を聞かされ、力なくその場に崩れ落ち護るべき生徒を護れなかった自分の不甲斐なさと生徒を失った悲しみに涙したのだった。しかし、その悲しみが癒えぬうちに、もう一人たりとも大切な生徒達を失う訳にはいかないと、気を引き締めこの会談の場に臨んだのであった。
直ぐにでも子供達の訓練を再開し少しでも早く戦場へ送るべきだと述べる宰相の発言に怒りを顕に反論を述べる畑山教諭であったが。
「そうは言われましてもな、貴方がたはエヒト様より選ばれし勇者様とその御一行なのですぞ。為ればこそ、その御力を以ってこの世界の為、悪逆非道にして異教徒でもある魔神族を討ち滅ぼす任に当たらねばなりますまい!」
宰相の発言に追従する様に、軍務尚書がまたしても勇者の使命だ神に選ばれたのだと、一方的に自分たちの価値観を元に責任を押し付けるが如き事を述べる。
「貴方は何を言っているのですか!?私達は本来ならばこの世界とは何の関係も無い、異世界の人間なのですよ!それを一方的に望んでもいないと言うのに、本来持ち得なかった能力までも持たされた、謂わば被害者ではありませんかッ!!」
その軍務尚書の発言に畑山教諭が反論すれば、今度はイシュタルと共にこの会談に参加する一人の司教が力強くテーブルを叩いて立ち上がると、指を突きつけて畑山教諭を弾劾し始める。
「なっ!!なんたる不敬なッ!光栄にもエヒト様直々に、多大な御力を授かると言う栄誉に預かりながら、その言は不届き千万ッ!万死に値しますぞぉッ!!」
この、司教の発言をハジメが聞いていれば、如何にもありきたりな異世界ものに登場する狂信的な宗教家が言いそうなセリフだなと、身も蓋も無い感想を述べている事だろう。
「ですから、そのエヒト神自体が私たちの世界の神でも創造神でも無いのですよ!そんなつい一ヶ月ほど前に知ったばかりの神の存在が、どの様なものか私達に知りようが無いのではありませんかッ!」
「何を!?だが、貴女方は光栄にも私たちが望み得ない御力をその時に授かったのならば、その事に感謝を捧げエヒト様の御為に粉骨砕身の努力を負って然るべきでありましょう!」
「その一方的な価値観を私達に押し付けないで下さいと申し上げているのです。」
現代的な価値観と生徒達に対する責任感を持つ畑山教諭と、神エヒトと教会、その教義以外の世界を知らずを認めようとしない司教との論議は、妥協点も見出せず平行線を辿るばかりである。それは恰も鉄道の二本のレールの様に決して交わる事は無いであろう。たまりかねて、生徒側からは八重樫雫が、協会側からはイシュタル教皇が仲裁に入り二人を諌める。其処で暫くの小休止を入れてはどうかとイシュタルが提案し、一旦休憩を取った後に議会を再開する事となった。
小休止の為に用意された控えの部屋で、三人は如何に有利な状況を勝ち取るべきかとの話し合いを行う。とは言え天之河などは終始一貫この世界の為に戦いたいとの考えを変えるつもりが無いので、ほぼ畑山教諭と八重樫とで話の方向を煮詰めていったのだが。
「それは、あまりに卑怯じゃないのか雫!王国の皆だって教会の人達だって、平和の為に俺達に手を貸して欲しいと言っているんだぞ。ならその為に俺達の力を貸すのは当たり前の事じゃないのか!」
雫が、もしもこの場にハジメが居たらどの様な策を巡らすだろうかと思案し、畑山教諭に示した方策を天之河が全否定する。あいも変わらずのヒロイシズムに酔った様な発言に雫は頭がクラクラとする思いを味わう。
「だから、みんながみんな、光輝みたいに強い信念を持っている訳でも、勇者の力を持っている訳でも無いのよ。光輝にだってそんな事くらい分かっているでしょう!?心を壊した人には精神の休息が必要なのよ。そんな人を戦場に連れて行っても足手まといになるし、最悪死なせてしまう可能性も高いのよ。なら、そうならない為の時間を稼ぐ事が今の私達が、みんなの為に出来る最善の事なのよ。」
しかし、だからと言って天之河の考えなしな言い分を認める訳にはいかないと、根気よく天之河に言い聞かせる。
「だったら!俺がもっと強くなって誰も死なせないでみせる!!」
だが、虚しくも雫の思いは天之河に伝わらず、またしても夢物語の様な戯言をほざく。そんな天之河に彼女は若干の苛つきを面に出して、彼の夢想を窘める。
「貴方はまたッ!出来もしない事を言わないで、あの日の事を思い出してみなさい!そんな風にあの時も光輝は自分の力を過信して、その結果が、ああなってしまったのよっ!」
この男は、あの悲劇から何も学ぶものが無かったのかと、幼馴染故に悲しみさえ感じるほどだ。
「南雲の事は俺も残念だと思う。でもだからこそ俺は南雲の思いを受け継ぐべきだろう。」
「何を言っているのよ!アンタのその考えは南雲君の想いとは全くの真逆の方を向いているんじゃないのッ!いい、良く聞きなさい!南雲君は常に自分と私達が如何にこの世界で無事に生き残り、日本に帰れる方法を考えて行動していたじゃないのッ!」
幼馴染二人の議論は加熱の一途を辿り、その音量も高くなる。この流は良く無いと、二人を見守っていた畑山教諭が意を決して、テーブルをバンッと小さな掌で叩く。その音に口論を続けていた二人が畑山教諭に目を向ける。
「あ、天之河君も八重樫さんも、少し落ち着きましょう!此処で私達がいがみ合っていても無意味ですよ。天之河君がこの世界の困っている人達を放っておけないと言う気持ちは先生も分かりますし、その為の力もその為に努力を惜しんでいない事も、ですけど全員が全員、天之河君と同じレベルと熱量で物事に取り組める訳では無いでしょう。」
その叩き付けた掌を掌で摩りって痛みを和らげながら、畑山教諭は努めて穏やかな口調を心掛けて二人を窘める。
「だけど先生ッ!みんなだって訓練に本気で取り組めば、もっと強くなれるはずなんです。此処で努力を惜しんでどうするんですか!?」
しかし、そんな恩師の思いやりも通じず、尚も天之河は持論を曲げず畑山教諭に反論する。確かに天之河が言う様に訓練を積めば強くなれるだろう。其処に各人の個人差はあれども。現に、畑山教諭はその獲得した技能故に戦闘訓練には参加しておらず、戦いにおける能力の上昇にはほぼ皆無だが、駆り出された農地の開拓にその技能を使用する毎に、徐々にその技能の能力値は向上している。
「ええ、努力する事は大切な事だと先生も、勿論そう思いますよ。けれどそれは何も魔物や魔神族と戦うための訓練だけでは無く、各人がそれぞれに自分が目指す目標の、あらゆる方面の物事に対してですけどね。」
それを加味して、畑山教諭は天之河の発言を全否定するのではなく、同意出来る部分には同意してみせつつ語り掛ける。
「そうでしょう!だから………」
それに我が意を得たりと天之河が畳み掛けようとするのだが、その言葉を遮る様に畑山教諭は彼の口元近くに、そっと右手の人差し指を当て微笑んで、彼の言葉を遮る。
「けれど、今、みんなには立ち直る為の時間が必要なんですよ。とても恐ろしい体験をしたみんなの心を癒やす為の。誰もがみんな天之河君の様な、強い心を持っている訳では無いんです。だから今は天之河君もそんな仲間が立ち直る迄、見守ってあげてくれませんか?」
畑山教諭は、優しく懇願する様に天之河にそう語り掛ける。流石の天之河も此処まで恩師に言われては思うところがあったのか、渋々ながらも頷くのだった。
そして、会議は再開される。
その会議に於いて、概ね地球組の要求を飲ませる事に成功したのだった。それは、謂わば脅迫したにも等しい、強硬策によって勝ち取ったものであるのだが。
作農士と言う、超激レア技能を持つ畑山教諭が会議に於いて今後一切の協力を拒否すると発言したのだ。しかもそれが気に入らないと言うのならば、自分を処刑してくれても構わないとまで。
結構
これは兵站を超えて国家の根幹にも関わる。糧食を押さえられては、戦争の継続どころでは無くなってしまうのだ。流石に利に聡い貴族だけでなく、世間知らずな教会の司祭も理解出来た様で、畑山教諭の要求を飲まざるを得なかったのだ。
その結果。生徒側は天之河グループと刑罰を終えた檜山達小悪党一派、そして遠藤を含めた永山グループのみが、訓練に参加者する事となった。
通常の王城での鍛錬に加えて、定期的に実戦訓練をオルクス大迷宮や魔物の発生の報告を受けた地域への派遣などを経験しながら、彼等は三ヶ月あまりの時を過ごすのだった。
勇者君はやはり勇者君でした。
原作では意外と直ぐにベヒモス攻略迄行けたクラスメイト達でしたが、小々考えがあって、三ヶ月経ってもベヒモスのところまでは行けていない事としております。