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オルクス大迷宮五十階層で出会った、封印されていた吸血鬼一族の元女王ユエと出会い行動を共にする事となり、ハジメの迷宮攻略も以前よりも順調に進み始めた。あの封印の間で披露した様に、彼女の魔法の威力は強大で、攻略に於いて貢献する事絶大であった。そして、十層程を攻略した二人は今。
「だぁぁーッ、いい加減しつこいってぇの!」
背中には数多くの
「……ハジメ、ガンバッ!」
「………お前なぁ、他人事みたいに気楽に構えすぎてんじゃあねぇか!?」
ぎゅっとハジメの首にしがみついて、いつもの如く淡々とした口調でユエがハジメに声援を送るのだが、緊迫感を欠いた彼女の態度にハジメのぼやき節が出るのも仕方がなかろう。しかし、現在ハジメ達が逃走しているのは背丈が百六十センチを超える草が生い茂っており、小柄なユエでは視界を遮られ逃走もままならないだろう。だから、その事についての文句は無い。
この階層へと降ってくる道中に、彼女の魔法の実力の程は十分に見せてもらっていたし、最早この迷宮の攻略に於いて彼女のその実力は不可欠のものであると断言出来る程だ。しかし、困った事が無い訳でも無い。それは彼女が過度にハジメに対してスキンシップを求めてくる事である。
数百年の年月を封印されていた彼女を、ハジメが其処から解き放った事が大きいのだろうが、ユエは心の底からの信頼と溢れるほどの好意をハジメ抱いており、それがスキンシップと言う形で表れているのだ。思春期少年であるハジメとしても、ユエの様な美少女に好意を向けられる事は満更でも無いと思う部分も若干なりともあったりする。しかしハジメの心の裡には既にトールが存在している事もあり、その彼女の好意に対してどの様に応えるべきなのかとの戸惑いがある。
「……ハ・ジ・メ・な・ら・大・丈・夫………」
ハジメの耳元にユエが口を近づけて、ゆっくりと小さな声で囁やく。彼女の吐息と声がハジメの耳朶を擽り、それが伝播して背筋がゾクリ反応しなんとも形容しがたい感覚がハジメの身の裡に広がる。
「だぁぁッ!こんな時に人の耳元でASMRしてんじゃねぇよ!!」
その感覚を振り払う為にハジメはヤケクソ気味に叫んでユエを叱り、その注意を受けたユエは反省していないのか、口角を和らげるクスリと笑いペロリと舌を出ている。
ハジメがユエに対する対応に戸惑いを感じている理由がもう一つある。それは彼女の声質が何処となくトールに似ている様に思えるからだった。声量や口調などに違いはあるが、トールが淡々とした低い声で話す時の声と彼女の声が何処となく似ていると感じられ、それにハジメは複雑な思いを抱いているのだった。
「ハジメ、感じた?……ふふっ、エッチ………」
「だから、時と場所を弁えろって!お前、その内メスガキ構文とか使い始めんじゃねぇだろうな。全く。」
とは言え、先にも述べた様にハジメは彼女に対してこの迷宮攻略を進める為の
執拗に自分を追ってくる、足音を響かせ叢を踏み躙って走る魔物の群れの様子を確認しながら、その中から突出して来る個体をドンナーで狙撃して間引きしつつ自らの現況を鑑みてハジメはぼやく。
「全く、改めて実感するぜ。やっぱりゾンビ映画のゾンビは走らないからこそ情緒ってヤツがあるって事をな。それこそ正義にして王道。ゾンビ映画の生みの親、ジョージ・A・ロメロ監督の偉大さが嫌ってほどわかるぜ。」
草木をかき分けて迫りくる様々な種類の、頭に一輪の花を咲かせた魔物の群れを振り返って一瞥し、ハジメは何時しか主流となった屍人が走るゾンビ映画のゾンビに魔物を見立てて苦言を呈する。そしてゾンビ映画の元祖的立ち位置に存在する今は亡きロメロ監督の功績を称えながら駆ける。
「……ハジメ、そのネタは知らない。」
「ああ?まぁ、そうだな。日本に帰ったら、ゾンビ映画も観せてやるよ、っていうか俺が帰る頃にはきっと『28年』後の上映も終わってんだろうなぁ〜、すっげぇ観てぇなぁクソッ!エヒトとか言うエセ神、
しかし、びっくりする程アッサリと掌を返して、ランニングゾンビの有名な作品のシリーズ最新作を観れない事を嘆く南雲ハジメ、朝令暮改もいいところである。
「おっと、そんな事よりも早い所あの魔物の群れを操ってる大元を見つけ出さないとな。いい加減この追いかけっこもウンザリだし。」
後ろをチラ見して、魔物達の頭の上に咲いている一輪の花がユラユラと魔物達の挙動によって揺れている様を確認してハジメが言葉も表情もウンザリとさせてぼやく。
「ん。でも、外科手術?って言うのでもでも取り出せない、DIOの肉の芽よりは、あの花はやりようもある。」
迷宮攻略の合い間の休息時間にハジメから教わった日本の漫画のネタを口にしてユエが余裕の態度を表し、ハジメはそれに溜め息を吐きたい思いにかられるのだが、それを教えたのは自分だったと思い返して押し留まる。
「まぁ、確かにな。やろうと思えば、狙撃してあの花だけ落とすことも出来るし、魔物毎ぶっ殺せるし、ユエの魔法であの群れ毎殲滅する事も出来るからな。けど、ウザってぇから大元見付けてぶっ殺した方が楽だ。」
ハジメとユエが魔物の群れに追われると言う現状に至る原因は、魔物達の頭頂に咲いている一輪の花にあった。この階層に到着して早々に、頭に一輪の花を咲かせた魔物が現れハジメ達を襲撃して来たのだが、そのシュール過ぎる出で立ちに違和感を覚えたハジメが試しにドンナーで花だけを撃ち落としてみると、魔物は何故かハジメ達への攻撃を止めて地面へと落ちた自らの頭頂部に咲いていた花を憎しみを込めた眼で睨み、怒りを込めて地団駄を踏むかの様にその花をゲシゲシと脚で踏み躙りズタズタに踏み潰し、それを終えると気が晴れたのかスッキリとした表情と言うか雰囲気を醸し出し、その後思い出したかの様にハジメへと向かい再度の攻撃を仕掛けてきたのだった。まあ、その攻撃もハジメとユエがアッサリと迎撃してこの世から消し去ってしまったのだが。
その後も花を咲かせた魔物をエンカウントする毎に同じ様に迎撃し、やはりどの魔物も最初の一体目と同様の行動を取る所を見て、ハジメとユエはその花が何らかの精神操作を行い魔物を操っているのだと判断し、その大元である精神操作を行なっている魔物を捜索し撃破する事を第一義として行動を開始したのだが、どうやら相手もハジメとユエがそう判断したのだと気が付いたのだろう、それから間も置かずに現在ハジメ達を負う大量の魔物の群れをけしかけて来たのだった。そして現状へと至る。
「ん。
ハジメに教わった漫画のネタをほざきながらも、群れから突出して来た一部の魔物をユエが魔法を使って間引く。
「ナイスだユエ。しかしやっぱりあの方角が怪しいな、まず間違いなくな。ククッ、どうやら
「ん。ハジメ、レッツゴー!(カプチュ〜ッ)」
ハジメに背後から抱き着いた状態で目標の方向を指差して指示を出しながら、ハジメの首筋に噛みついて吸血する。チクリと首筋にむず痒い感覚が疾走りハジメは軽い舌打ちをする。
「お前なぁ……今の程度の魔法なら、そんなに魔力の消費も無かっただろう!」
「ん。でも、この先何があるか分からない。備えあれば憂いなし!それに、ハジメの血は美味。」
「お前“わっ”!後者のほうが本音だろう全く、欲望の侭に人の血を吸いやがって!」
ハジメはユエの自由過ぎる吸血行為と言い様に若干イラッとしながら文句をつけるのだが、当の本人たるユエはそんな事などお構い無しにテヘペロっと舌を出している。自分の後ろにいるのでハジメには今のユエの態度が見えていないが、もしも見えていたら現状も無視して彼女の側頭部に両手の拳でグリグリ攻撃を食らわせていたかも知れな。
「しっかし、アレだなっと!」
前方の目標の場所を塞ぐようにディフェンスラインを延ばしてきた魔物の群れの一群にドンナーを発砲して撃破しながら、ハジメが口を開く。
「ん?」
二発、三発と連続射撃で続け様に突出して来た魔物の頭部を撃ち貫いて屠りながらハジメのぼやく。
「さながら、俺のこの現況を例えるならば、『バイオレンスジャック』に登場した少年『兜甲児』を肩車で背負って闘う盲目の黒人空手家『ジム・マジンガ』みたいな状態だな!」
巨匠『永井豪』先生の長編作品に登場したセルフパロディ的な、ネット界隈でもネタとして語られるキャラクターを引き合いに出しながら、自らの現況と重ねる。
「ん??」
「いや、そう言う漫画のキャラがいるんだよ。」
「ん。ハジメの故郷に行けば分かる事……ところでハジメ、なんで方向を変える?」
ハジメはユエと駄弁りながらもやる事に手を抜く事はせず、一度撃ち尽くしたドンナーの弾倉交換を行いながら、ハジメは百八十度の方向転換を行い目的へ方向から背を向けて逆行。それを何故かとユエはハジメに問う。
「それはな、まぁ見てろよ。」
ハジメはユエにそう答えながら、慌ててハジメ達を追うためのシフトチェンジを行う魔物達の挙動を確認してほくそ笑む。見れば案の定と言うべきか、ハジメの目論見通りに魔物の群れがハジメ達を包囲すべく陣形を変えて囲み込もうとして、全体の層が薄くなって行く。それを見ながらハジメは自らを囮として前方の群れにドンナーによる連続射撃を行う。
「ん。私も、援護する。凍獄!」
ハジメの策を何となく理解したユエが前方の群れに向かい範囲魔法を使い数十体の魔物を一気に殲滅する。魔物達が殲滅され穴が空いた陣形を埋めるべく、陣形を動かし塞ぎにかかる。結果群れの陣形は更に薄くなる。
「良し!ナイスだユエッ!やっぱりマップ兵器持ちは違うな!」
自らの意図を汲んでくれたユエの範囲魔法により敵陣を崩せた事を喜んで、ハジメはユエの行動を称える。
「ん。精神コマンド、幸運と努力は必須。」
ユエはハジメの称賛に、ムフ〜ッ!と口角を曲げてほくそ笑みながらハジメのネタに合わせる。
「良しッ、この辺で一丁行くかッ!」
再装填を済ましたドンナーを再び前方の立て直し中の魔物の群れの陣形の薄い部分に三連斉射、三体の魔物を屠った事を確認してハジメは草地の地面を蹴って大きくジャンプする。空中に滞空して瞬時に方向転換、再度の百八十度ターンを決めると空力を用いて縮地を発動。思い切って豪脚で蹴り上げて、目標地点目掛けて空中を弾丸の様に高速でカッ飛んでゆく。
「コイツはオマケだ取っときなッ!」
眼前に迫った迷宮の高い壁に大きく縦に入った亀裂に向かって飛びゆくハジメは、後方へ向かってドンナーをぶっ放して、その超反動を再加速に使用する。そしてオマケとばかりに、ドパンと轟音を轟かせて射出された超音速の弾丸が一体の魔物の頭部を吹っ飛ばす。
「ハッ!良い感じに加速出来たぜ!」
野性的な笑みを浮かべ、ハジメは狙い通りに事が運んだ事を喜びの声を上げる。直ぐ様にハジメは改めて前方へと向き直り、壁面に走る縦割れの中へと飛び込んで行った。器用に立体機動の如く縦長の亀裂内の不規則に出っ張りを避けたり、蹴ったりしながらハジメが進撃して行く。再び後方をチラリと確認し、魔物の群れがハジメ達を追って亀裂へと突入して来た事を確認してユエに指示を出す。
「ユエッ、任せたぜ!」
ハジメの指示を聞き、ユエもハジメの様に後方を確認する。狭隘な回廊状の通路故に魔物達は横隊を組めず、縦隊状になって突入して来ている。ユエは突入して来た魔物の数をザッと確認してみると、その数は大凡六十体程度か。ユエは左腕をハジメの首に絡めたまま右手を離して、開いた右手を魔物の方へと翳す。
「ん。 緋槍、連撃!」
宙に浮かび上がる幾つもの小さな魔法陣から飛び立つのは、十数本の緋色の炎の槍。その槍が四方八方へと乱れ飛ぶ様はまるで、板野サーカスの如しである。それが狭隘な回廊の頂上付近や側方の壁面へとブチ当たり岩盤を崩落させる。耳を劈く立体音響の様に、幾十もの岩盤が砕け落下して行く音が回廊に響き渡る。その崩落に回廊内部に進入してきていた魔物達が押し潰されて行き断末魔の悲鳴をあげているのだが、崩落の轟音がそれを掻き消す。
「またつまらぬ魔物を屠ってしまった。」
崩落により回廊毎押し潰された魔物の群れに対して、シニカルな冷笑を浮かべながら、満足そうな顔をしたユエが、何処ぞの十三代目石川五右衛門の様なセリフを宣う。これ迄の二人の掛け合いから、ハジメの英才教育によりユエのオタク化が着実に進んでいる事が窺える。
「へへっ、解って来たじゃねぇかユエ!」
そのユエを現在進行系でオタク色に染めている張本人たるハジメが、ニヤリと嗤って愛弟子のオタクとしての成長を喜ぶ。
「ん。私はユエ、出来る女。」
探索の合間の休息時間にハジメは消耗品の補充や武具の整備を行う片手間に、地球の娯楽(主にハジメが好む漫画アニメ全般)に付いて興味を持ったユエに、ハジメがアレコレと知識を教え込んでいたのだった。
「ハッ!違いねぇな。」
であるので、ある意味ハジメにとってユエは愛弟子であると言えるだろう。
「ニヤリ……」
そんなハジメの評価にニヤリと北叟笑むユエ。緊張感が薄いにも程があろう。まあ、今のところそれだけ二人の実力が、この迷宮を攻略するに十分だと言う事なのだろう。
「良し、回廊を抜けるぞ!」
ハジメの言葉とほぼ同時に、数十メートルのトンネル状の薄暗い岩盤の回廊を越えて出口へと到達する。縮地と空歩を用いた飛行状態から体勢を変えて着地に備え、出口を越えて六メートルほどの場所にハジメは三点着地を決めた。
「……取り敢えずはコレで後背は塞げたな。」
「ん。バッチリ!」
回廊を抜けた先は少し広めの空間になっていた。しかし天井高はそれなりに高くはあるが、空間の広さ自体はそれ程広くは無いのだが、幾つもの凹凸や遮蔽物があり身を気配を殺して潜まれていたら捜索するには厄介そうである。
「てかユエ、お前いい加減背中から降りろよ。」
「………もう少し堪能していたかった、残念。」
ユエを背中から下ろして二人は道なりに進む。暫くそうして油断無く警戒しながら探索していると、やがて広い空間へとたどり着いた。もしかしたらこの階層の終点にたどり着いたのだろうかとハジメは推察する。断定は出来ないが、もしそうなのだとしたら、お約束的に此処は所謂階層ボスが陣取っている部屋かも知れないと、ハジメのオタク知識が告げているのだ。
「俺の推察が正しければ此処はこの階層のボス部屋な気がするんだが、だとしたらそのボスキャラがあの花を魔物達の頭に植え付けたのかもな。」
「お約束としてあり得る?」
「ああ………」
「ハジメ、あの花どうやって魔物の頭の上に生やしたと思う?」
二人を執拗に追っていた、あの魔物の大群を思い起こしてユエがハジメに尋ねる。彼女からの問いにハジメは数秒間思案して、導き出した自らの知識と考察とをユエに伝える。
「そうだな。普通の植物だと種子とか胞子を撒いたりとか飛ばしたりとか、渡り鳥が実を食って糞をする事で離れた場所に増殖して行ったりとかするだろうな。俺の世界ではタンポポって花が、種子を飛ばす植物ではポピュラーなんだが、しかしこの世界の魔物となるとどうなんだろうな。」
しかしあれ程大量の魔物に花を植え付けるとなれば、その方法はどの様なものなのかとユエもハジメもその方法について思案する。実物を見てない以上は断定してしまう事は出来ない。しかしそう言った事を互いに話し合う事で謎や疑問を解き明かす事が出来る事もある。一人よりも二人と複数人の思考力があれば互いに持つ知識や視点を持ち寄り、より物事を多角的に捉えられると言うものだ。
「でも、種とか胞子を飛ばすのはありそう。」
「だな。あれだけ大量の魔物が、ああなってたとなると……その可能性が高いな。」
語り合い導き出した推察を元にハジメは一つの方策を思い付き、それを密かに準備しフロアボスの捜索を続ける。
「下へ降る階段は見当たらないな今の所。それに魔物の反応も俺の気配察知に反応は無いんだが、ユエは何か感じないか?」
やがて大広間の中央付近に到達した二人、ハジメは其処でユエに尋ねる。魔物を喰らい身に付けた気配察知の技能だが、未だにフロアボスと思われる存在を察知出来ないハジメは、自分とは違う吸血鬼としての色々な魔法や技能を持つユエが何かを感じていないかと思い尋ねたのだが、彼女はその首を横に振る。
気配察知に感応は無いが間違いなく此処にいるとハジメの直感が告げている。嫌な予感もビシビシと感じる。対応を間違えたら不味い事になるかも知れない。
「そうか……よっぽどうまい具合に気配を消してやがるん……なッ!?」
「ハジメッ!?」
自分の気配察知でもユエの吸血鬼としての能力でも感知できていない事に、ハジメは苦労することを覚悟した。その時だった。この空間の全周囲から少し薄めの緑色をした小さな球状の物体がハジメとユエに向かって大量に放出される。
「お出でなすったなッ!多分コイツが種子に違いない。ユエ、頭に気を付けろッ!」
「合点承知!」
迫りくる球状の物体をハジメとユエは互いに背中合わせの体勢をとって迎撃に当たる。同時にハジメはユエに先程製作したモノをユエに手渡した。
「ん。ありがとう、ハジメ。」
「おう!」
左手で受け取り、ハジメに感謝を伝えるとユエは魔法で緑色の玉を迎撃しながら、ソレを直ぐに自らの頭へと装着する。同時にハジメもユエと同じ様に義手の左手で、彼女に渡した物と同型のソレを装着する。
魔法と銃火器によって緑色の玉を次々と迎撃して行く二人だが、流石に全方位から迫る百を超える数を撃ち落とすには些かながら骨が折れる。
「チッ!面倒くせぇな。」
あまりの数に辟易とさせられて、ぼやきながらハジメは咄嗟に錬成を使い防護壁を構築する。これで多少なりとも応戦が楽になるだろうと判断してこ事だ。それは奏功し迎撃は楽になり、暫くすると百数十あまりの緑色の玉を処理する事が出来た。まあ、その内の三割程は、ハジメが作り出した防護壁にぶち当たり自爆した様な物なのだが。
「やった?」
「だと良いんだが、どうだろうな………」
緑色の玉を対処し終えたが、一応警戒はしながらユエが疑問を投げかけてハジメは答えるが、相手が次に相手がどう出てくるのかは判然としない。そうして十秒程の沈黙の時間が過ぎ去り、再び空間全体に緑色の玉が溢れ出した。しかも一陣よりも数を増して。ウンザリ気分でハジメとユエは再度、緑色の玉への迎撃を開始する。
ハジメ達から見れば、姿を見せずにひたすら緑色の玉を放出するだけの正体不明の魔物のやり口に苛つき、ストレスが溜まる思いなのだが、一方の魔物の側から見れば自分がこれだけの数の緑色の玉を放出しているにも拘らず、二体の獲物が何時まで経っても頭に花を咲かせず自分の指揮下に入らないことに苛立っているのであった。
それは何故なのか、実はハジメとユエが装着した物、それは所謂ヘルメットである。形としてはゼータガンダムに登場した、モビルスーツのマラサイの頭部の様な形の、頭部をすっぽりと覆い隠し且つ、後方が大きくフレア状に拡がった意匠のヘルメットだ。但し、ハジメとしては不本意ながら前方頭頂に聳えるブレードアンテナは作っていないのだが。
「ユエッ、頭はちゃんと守れているか!?」
「ん。問題無い!」
迎撃しながらヘルメットの具合をユエに確かめると、彼女は淡々と答える。ハジメ謹製マラサイヘルメットは上手く機能してユエと自分の頭部を、確りと保護している様だ。しかし、同じ事の繰り返しにハジメとユエの忍耐力のゲージもエンプティゾーンへ突入していた。ハジメとユエを支配下に置けないと理解すれば、敵魔物が姿を顕すかと思っていたのだが、その読みは外れの様だ。
「こんな事の繰り返しとか、
「ん。同感。」
ハジメは方針を変更する事を決め、ユエもそれに同意する。相手が姿を見せないのなら、それを踏まえて出方を変え事態を動かす選択をハジメは選ぶ。
「良し決めたッ。ユエ、そっちは任せる。もう遠慮する事はねぇ、思いっ切り魔法の絨毯爆撃を喰らわせてやれ!」
迎撃の手を休めずハジメがユエに指示を出すと、ユエも魔法により緑色の玉を撃ち落としながら、少しだけ首を回してハジメに目を向け尋ねる。
「ハジメはどうする?」
「俺は、此方側半分を受け持つ。」
ユエからの問いに答えながら、ハジメは背負っていた大きな背嚢をその場に下ろして中身を物色し、お目当ての大量に作ってあったアイテムを取り出して放り投げる。
「喰らえッ!目には目を球には球をの、百連ガチャだぜ。」
ハジメが取り出したのは直径四センチ程度の小さなカプセル状の黒い球体だった。それをハジメはセリフ通りに百個近い数を方々にバラ撒く様に放り投げた。そのカプセルは極々薄く作られており、地面に落下すると弾けて壊れ中に詰められた物質を辺り一面に散らばらせる。
「ユエ、此方は準備完了だ。タイミングを合わせて攻撃開始だ!」
「ラーサー!」
ハジメの死骸いっぱいに、カプセルの中の粒子が飛散した事を確認しハジメはユエに声を掛ける。その声にユエは返事を返すと左右の手をばっと広げて構えて魔力を練り上げ始める。その彼女の魔力の奔流を背中に感じて、ハジメはニヤリと口角を上げて不敵に嗤って、焼夷手榴弾の安全ピンを歯で咥えて取り外した。
「今だユエッ!」
焼夷手榴弾を前方へと放り投げながら、ハジメはユエに魔法を放つ様に指示を下すと、ユエは返事もせずに広間の空間一杯に展開させた魔法の術式を発動させる。
「緋槍、凍雨、乱れ撃ち。」
天井付近から地へと向けて緋色の槍と、鋭く尖った氷の針が篠突く雨の如く降り注ぎ辺り一面に破壊の限りを尽くし、その爪痕を残して行く。
対してハジメの投擲した焼夷手榴弾も投擲より一秒の後に発火して、周囲に業火と灼熱の地獄を生み出す。先にハジメが投擲したカプセルの中身は、燃焼石とフラム鉱石を細かい粒子状に砕き混ぜ合わせた物であり、動的に衝撃により砕けて中身の粒子を辺り一帯に振り撒いていたのだった。混ざり合った粒子に焼夷手榴弾の発火により燃え移った炎が燃焼石とフラム鉱石との相乗効果で燃え盛りあらゆる物を灼き尽くす。
それから数分が過ぎ去った頃、ハジメとユエとが創り上げた地獄の空間に小さく響く断末魔の悲鳴の様なものが聴こえて来た。それは極小さな声とも付かないものであり、強化されたハジメの聴力で無ければ聴き逃していたかも知れない。その声が聴こえて方向にハジメが目を向けると、1本の背の低い樹木の様なモノが全体を業火に包まれ、のたうち蠢いており、その苦悶の程を窺わせていた。
「ユエ、此方を見てみろよ。どうやらアレがそうみたいだぜ。」
「ん。ハジメ、アレ何?」
ハジメの声にユエは展開していた魔法を停止してハジメの方を振り返り見て、ハジメとその光景を凝視して尋ねる。その間にも哀れな魔物は業火に焼かれ、そして燃え尽きてしまうのだった。
「さあな?彼処まで燃えちまってたら、元がどんなモノだったのかも判りゃしねぇな。ただ、見た感じだと植物とか樹木系の魔物だったのかもな。」
魔物を焼き尽くした後も、燃焼石とタウル鉱石による炎は今だ収まらず、燃え盛る。その光景を二人はなんとも言えない気持で眺めていたが、ユエが感慨も何も無い平坦な声で感想を述べる。
「………相手に姿も見せずに殺されるとは、いと哀れ。」
「全くだぜ。あの終わり方、三部のサンのスタンド使いか、古くは風魔の小次郎の不知火とどっこいどっこいだな。哀れなもんだぜ………」
ハジメはユエの言葉に同意する。面倒で厄介な戦術を駆使して攻撃してきた魔物との戦いは此処に終結するのだった。二人の胸中に何とも微妙な気分を残して。
今回のオチをどうするか、原作通りにするべきか、ものすごく悩み時間が掛かってしまいました。結果として、出落ちで終わったサメ君以上の残念な終わり方にしました。
さて、次週より全国公開される「小林さんちのメイドラゴン」劇場版ですが、我が地元佐世保市の映画館では上映がありません(怒)
トール役の桑原由気さんの故郷でもあるのに!
と言う訳で拙者、長崎市内もしくは、福岡まで足を運んで観てきます。