南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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ようやく四十話に到達しました。
誤字報告ありがとうございます。

新たに、タクミ★様、☆9評価ありがとうございます。これからものんびり更新ですがお付き合いいただけたら幸いです。

劇場版「小林さんちのメイドラゴン、さみしがりやの竜」が公開されましたね。残念ながら佐世保では公開されず、且つ腰痛により見に行けていませんが来週末には行く予定です。

さて、今回はいよいよ……………。


第四十話

 

 その日、異世界トータスは人知れず侵入者を受け入れてしまった。それは、この世界の神界に座する神で在る者さえもが気付くこともなく。静かに次元のゲートを潜り抜け、その身に認識阻害の魔法を掛けて。 、あの日より四ヶ月、それだけの月日をかけ彼女は遂にこの地に到着したのだった。

 

 『…………………着いたか。』

 

 異世界トータスの、とある地方の高空に身の丈二十メートル程の巨体を浮かせ、独り言ちる。何処までも続いているかのような雄大な青に、真白な雲の絨毯が敷かれた空を静かに滞空しつつこの世界の情報を得る為に、周囲の状況を確認する。

 最愛の少年の行方を追い求め、遂に掴んだ情報を頼りにして彼女は、とある世界の混沌勢と呼ばれる一団の代表格である恐るべきドラゴンの一人娘。裡に溢れる闘争本能と、それに反する優しき心を持ち合わせたドラゴンの少女。その名をトールと言う。

 

 『あの世界のデミウルゴスとか言う神の情報が正しければ、この世界にハジメさんが居るはずなんですよね。』

 

 この世界な到着する前に立ち寄った、とある世界の創造神により伝えられた情報を元に到着したトータス世界。現在、トールが滞空している位置から少し離れた場所に、この世界の人間が築いたであろう、ちょっとした規模の都市をその眼に捉える。其処は遠目に見ても、近代都市である日本の街並みと比すると、お粗末で雑多で合理性も無く歪さを感じさせるが、人口はそれなりに多い様で町を行き交う人々の様子をトールは視界に捉えられる。

 この世界へと到着したばかりのトールは当然知らない事だが、此処は弱肉強食を旨とするヘルシャー帝国と言う独裁国家の首都であり、ハジメ達を召喚したハイリヒ王国とは同盟関係にある国である。

 トールは街の様子をつぶさに観察する。揃いの軽装の甲冑を着込み手入れの良さそうな剣を携えた兵士達が、街のあちこちに配置されており、それなりに治安の維持は行き届いている様だ。街を行き交う市民と思しき人間達の顔付きも明るく闊達さを感じさせるし、ピンからキリまであれど着ている衣装もそれなりに良い仕立てをしている。とは言え、貧民街と思われる仄暗い一角も存在している。近頃は移民などの問題で混迷し始めているが、比較的治安の良い近代日本でも以前は山谷、寿町、あいりん地区などの決して治安が良いとは言えないスラム的な場所も存在していたのだから、地球で言う近代に到達していない世界ならば推して知るべしか。そして。

 

 『はんッ!全く人間と言う生き物は…』

 

 それとは真逆に、人間と同様に二足歩行の生物でありながらも人間とは違う形状の多様な耳や、尻尾を生やした生物達の表情からはそれらのモノは感じられず、一様に暗く沈んだ表情をしていた。

 

 『弱肉強食が世の常とは言え、似た様な生物を隷属させるとは、これだから劣等種は度し難い!こう言うのを見ると、封印している殲滅欲求がもたげてきますよハジメさん………』

 

 首には首輪を、手や足には鎖を掛けられた、みすぼらしい風体をしている。所謂奴隷階級にある者達の姿を捉え、トールはこの世界を価値なき世界と認識する。この様な下賤な世界に、最愛の少年を何時までも居させたくない無い。

トールは改めて、早急にハジメを探し出して日本に連れて帰る決意を固めるが、その為には不本意ながらも情報を収集しなければと、気を取り直して街を観察する。聴力を上げて人間達が話す言語を聞き覚え、高い視力をもって街に点在する看板等から文字を習得する。そしてトールは知る。

 

 『この文字、父様に観せていただいた映像に映っていた、あの低級な魔法陣に刻まれていた文字とほぼ同様のモノで間違い無い!なら、あの情報に嘘は無かったと言う事!』

 

 この世界の神エヒトがハジメ達を拐かす為に使用した魔法陣に刻まれていた文字と同じ文字が使われている!ならば此処で間違い無い。

 会える!もうすぐハジメと会える。トールの心に喜びが溢れ出す。はやる気持ちを抑えられずにトールは眼下に見える街を目掛けて一目散に翔ける。

 

 『待ってて下さい、ハジメさん。』

 

 一刻も早くハジメを見つけ出して、共に日本へと帰る為に。

 

 

 

 

 

 

 トールが人知れずトータスへと到着したその頃、ハジメ達を召喚し勇者一行として奉る正教教会の総本山である神山を有する、ハイリヒ王国では。

 

 あの悲劇の迷宮遠征より三ヶ月、多くの生徒達が心身に損耗を受け戦う気力を無くし療養を受けている中にあって、少数ながらも戦う意思を失わなかった者達は次回こそは悲劇を齎した元凶たるベヒモスを打倒すべく、一層の鍛錬に身を入れ実力の向上を図っていた。

 勇者の天職を持つ天之河光輝を筆頭に、その幼馴染グループ、ハジメの友人である遠藤浩介が所属する永山パーティ、そしてハジメの身に起こった危難の犯人である檜山大介達小悪党グループは、あの日から比べると数倍のステータスや技能値を向上させていた。そんな折に、実質的にリーダー格として収まった天之河光輝が、仲間達に対してオルクス大迷宮への再挑戦を打診するのだった。

 

 「この三ヶ月、俺達は十分に鍛錬を積んだ。俺もみんなもあの日よりもはるかに強くなれたと自信を持って、俺は言える。だから俺は、近日中にオルクス大迷宮への再挑戦を願い出たいと思っているんだが、みんなの意見を聞きたい!」

 

 この日の訓練も終わり夕飯を前に、共に車座になって座る仲間達を見渡し天之河が問い掛ける。その真剣な眼差しには、自分達は世のため人の為に正しい事を行なっているのだ、なので自分の意見に対し仲間達が異を唱える事など無いと一欠片の疑いも無く、そう確信していた。

 

 「へっ、その言葉を待ってたぜ光輝!あの時の俺達は、あのベヒモスってヤツに勝てる見込みはちっとも無かったが、今の俺達なら楽勝とは行かねえかも知れないが絶対にヤれるはずだぜ!」

 

 天之河の提案に真っ先に賛同するのはパワーファイターの坂上龍太郎。あの日、ベヒモスの強大さに何も出来なかった自分の不甲斐なさに、忸怩たる思いを抱いた彼は、より一層自らを追い込み鍛錬を続け、あの日の身を挺してみんなの危難を救った、南雲ハジメの奮戦に応えるべく務めていた。

 

 「そうね。龍太郎の言う通り、私達はあの日よりもずっと強くなったわ。あの日止まってしまった時間を未来に進める為にも、リベンジマッチと行きましょう。」

 

 幼馴染グループの良識人であり、密かにハジメやトールからも苦労人として認定されている八重樫雫も賛同する。彼女もまた龍太郎と同じく、ハジメ一人にベヒモスを任せてしまい、あの様な結果になってしまった事を後悔していたのだった。

 

 「わ、私も賛成かな。うん、今の私達なら!」

 

 そして、ハジメに想いを寄せる白崎香織も。彼女の場合は他の者達と違い、あの日奈落の底へと墜落して行ったハジメが今でも生きているのだと信じており、あの階層を超えて彼の行方を探すつもりでいるのだ。そんな彼女の思いを打ち明けられた雫だけが知ってた。

 

 「私も賛成だけど、鈴はどうかな?」

 

 「うん。鈴も賛成だよ!」

 

 降霊術師の天職を持つ、ショートボブのメガネっ娘中村恵理とその親友と目される小柄な身体に独特の感性を持つ結界師の谷口鈴も賛成すると、ハジメを憎み彼を奈落へと叩き落とした元凶である檜山率いる小悪党グループも、遠藤が所属する永山パーティも全会一致で賛成する。

 

 「みんなありがとう。」

 

 集う仲間達一人一人を見渡しながら天之河は感謝の言葉を述べると力強く立ち上がって、グッと右手を握り込み決意の程を顕にする。如何にも頼もしげに見えるその立ち姿と言ったところか、それに合わせて他のメンバーも立ち上がる。

 

 「なに、良いって事だぜ光輝!思いっ切り、やってやるぜ。」

 

 「そうだよ光輝君!鈴も、もうあんな思いなんか絶対したく無いからね。だから、みんなでがんばろー!」

 

 右の拳を左の掌にバシッと当てて龍太郎が、続けて両の拳を握り締めてフンスと鼻息荒く鈴が答えると、微笑みが皆の顔に浮かぶ。

 

 「へへ、俺だって、ちゃんとやれるって所を見せてやるぜ。汚名返上の絶好の機会だしな!」

 

 「だなぁ!」

 

 「それな!」

 

 檜山も調子良く表明すれば小悪党グループも追従して調子の良い合いの手を入れる。内心ではそんな彼ら、檜山に対して思う所もあるメンバーもいるのだが、一応王国からの処罰も済ませている檜山に対して咎め立てをする者は居なかった。

 盛り上がる一同の中で遠藤浩介は、仲間達の様子を客観的に見ていた。彼自身もあの日のハジメの危難に際して、何も出来なかった事を悔いており、他の者達同様に訓練に励み実力を大幅に向上させていたが、ハジメとの交流が最も多かった彼はその影響もあり、物事を俯瞰或いは客観視し物事の裏面を読み取ろうとしているのだった。

 

 『確かに俺達の実力は上がっただろうけど、楽観は出来ないんじゃないか?それに檜山のヤツ、また何かやらかすかもだしな。何だか俺にはアイツがちゃんと反省しているって思えないんだよな。もしアイツが何かやらかしそうになったら、その時は俺が止めなきゃだよな。そうだろう南雲!』

 

 自信とやる気に満ち溢れるクラスメイト達から精神的に一一歩引いて、遠藤は今は亡き友に心の中で語り掛けて決意する。

 皆がそれぞれに決意の程を表明し語り合い、天之河と八重樫とでメルド団長の元へ交渉に赴く事で話は纏まり、天之河が締めの一言を述べる。

 

 「みんな、絶対にやり遂げよう!あの日、一人犠牲になった南雲の頑張りに報いる為にも!」

 

 その言葉に、大半の者達が盛り上がり一斉に拳を突き上げて応える。しかし、一部の者達はそれに乗る事が出来なかった。今だハジメの生存を信じている香織と、そんな彼女の想いを知る雫である。

 あの様な状況でハジメが生きているとは思えないだろ。それは天之河だけでは無く大勢の者がそう認識しており、その事で彼を責めるのは酷と言う物であるのだろう。更に言えば、香織がハジメに対して恋愛感情を抱いている事も知らない事である。

 しかし、その一言が香織の負の感情を刺激し、彼女の天之河に対する気持に決定的なひび割れを生じさせてしまったのだった。口は災いの元とは、よくも言ったものだ。

 

 『光輝の馬鹿は、本当に余計な事ばかりッ!』

 

 静かに佇む香織から僅かに立ち上り始めた、ドス黒いオーラを感じて慄く雫は、空気の読めない天之河に苛立ちを感じ身中で毒づく。

 

 この後、天之河と雫は団長の執務室へと赴きオルクス大迷宮遠征の希望を伝え、メルド団長は直ぐに軍務尚書へその旨を上奏。翌日、王国並び教会首脳部により了承され、明後日出立の許可が降りるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 あの出落ちにもならなかった、ヘッド・フラワーモンスター(南雲ハジメネーミング)を屠ってからも、ハジメとユエによる快進撃は続いた。その階層状況に合わせて、時にハジメが主体となり、時にユエが主体となり、或いは共同して事に当たったりと臨機応変に対応して、数えれば九十を超える階層をクリアして来た。

 今現在、ハジメとユエが攻略しているのは九十九階層目、おそらくは次は終着点であろうと思われる百階層だ。この階層は全体的に迷路の様な細い回廊状をしており天井も低く、ユエの得意とする大規模殲滅魔法の使用は憚られる為に、彼女は専ら観戦者となりハジメの射撃による殲滅戦を傍観していたのだった。

 

 独特な射撃音を響かせて回転式弾倉から連射されるドンナーの弾丸が、一発毎に的確に過たず魔物の頭部を撃ち貫き、その威力によって吹き飛ばす。弾倉が空になると直ぐ様排莢して次の弾丸を込めてまた連射、撃ち終えたらまた排莢し弾込めを繰り返す事既に三十回を越えて、ようやく魔物の群れも一段落付いた様で、ふぅ~とハジメは一呼吸。

 

 「よぉし!コレで此処いらの魔物は全部片付けたよな。」  

 

 腰のホルスターにドンナーを差し込み、流石に少しばかりウンザリした様にハジメがぼやくと。

 

 「ん。ハジメが全部片づけたから、また私の出番が無かった………」

 

 傍観者となっていて活躍の機会が無かったユエは不満気である。

 

 「まぁ、場所が場所だししょうが無いだろう。やろうと思えばやれただろうが、此処は俺がやった方が早かったからな。」

 

 「ん。分かっていても、私もやりたかった感は拭えない。」

 

 「ハハッ、まぁ不貞腐れるなよ。次はいよいよ百層目、ユエが活躍する場面も絶対にある筈だ。気持ちを切り替えて行こうぜ。」

 

 そんな相棒にハジメは笑い掛けて、気持ちを切り替える様に促すと、若干渋々ながらもユエはハジメの言葉に頷いた。

 

 「だが、流石に今直ぐってのはちょっとな。この階層で俺の方の装備品も結構消費しちまったし、今日は切り上げて休息しよう。」

 

 ハジメはユエにそう提案して、彼女もそれを了承し今日の探索は此処までとする事に、ハジメは倒した魔物の死骸から幾種類かの魔物の肉の部位を頂いて、近場に錬成で何時もの様に拠点を作成しユエと共に入室して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘルシャー帝国の街を一通り捜索したトールだったが、結局その街でハジメの消息の手掛かりさえ掴め無かったトールは、見切りを付けて別の場所を探して飛び立つ。強風により空高くまで砂塵が渦巻く砂漠地帯を越えてオアシスの街を探し、その街でも見つからなければ今度は海辺の獣人が住まう街を。

 

 『此処までは、手掛かり無しですか。だけど、この世界はどうにも酷く歪んでいる様ですね。それもおそらくは、ハジメさん達を拐かした神の座に在るロクデナシの仕業なんでしょうけど。』

 

 結局其処でもハジメの手掛かりは掴めなかったのだが、その捜索の中でトールは、この世界の歪さに苛立ちを感じていた。その理由は追々語る事とするが、今は一旦置く。そしてトールはまた別の場所を目指して翔び、幾つかの街を巡った末にとある地方の賑わいを見せる街に到着する。

 

 『此処は、随分と賑わっている様ですね。』

 

 通りを行き交う人通りを、つぶさに観察しながらトールが呟く。武装を施した様々な格好の人間達の姿が多く見受けられるが、その装飾に統一感がかんじられないのは彼ら彼女らが軍人では無いからだろうと思われる。

 

 『大半が冒険者と言ったところでしょうか。まぁ多少は、お揃いの武装で身を固めている者も居ますね、あれは多分軍人………ッ!?』

 

 行き交う人々の群れの中、その街のとある一角にて揃いの甲冑を身に着けた幾人かの軍人の姿と、それに続き従い歩く若い複数人の男女の姿をトールはその眼に捉える。

 

 『間違い無い!あれはッ!!』

 

 トールは直ぐ様その場で人形へと身を変えて一目散にその一団のいる場所へと降りてゆく。

 

 

 

 

 

 

 オルクス大迷宮を抱える宿場町ホルアド。朝も早くから冒険者や、行商人や数多くの食べ物を扱う屋台と、それに群がる客とで賑わいを見せているその街にハジメのクラスメイトである天之河達と引率役のメルド団長と三名の騎士団員とが到着したのは前日の夕刻の事。前回同様に宿屋に一泊して英気を養い、この日は朝の賑わいも多少落ち着いた頃合いに一行は大迷宮に向けて宿屋から出立したのだった。

 迷宮への受付を済ます前に少し離れた広場にて、一人一人の顔を見ながらメルド団長が生徒達へ向けて訓示を始める。

 

 「あの日からみんな今日まで良くぞ心挫けること無く鍛錬に励んでくれたな。この世界の人間の一人として俺はお前達に感謝している。ありがとう。」

 

 幾人もの生徒達をが心を砕かれたあの日から、それでも挫けず立ち上がり戦う為に鍛錬を続けた子供達に感謝の言葉を告げる。

 

 「メルドさん、それは俺達だって同じです。今日まで指導してくれてありがとうございました!そして団員の皆さんも。」

 

 もう既にステータス上ではメルド団長をも越える数値を叩き出している光輝が、彼の言葉を受けて返礼を返す。色々と客観的に見れば足り無い部分が多い天之河だが、この様な場合に相手に対して感謝を告げるだけの常識は持ち合わせていた。

 

 「ありがとうございました。」

 

 天之河に続き生徒達もメルド団長と騎士団員に感謝の言葉を告げると、一人の騎士団員の瞳に光るものが浮かんでいた。その団員も指導にあたった生徒達の成長を、心から喜んでいるのだろう。

 しかし客観的に見れば、コレは異常な事である。彼らは異世界から連れて来られた、戦闘経験も無い年端もいかない少年少女達に対して、非情にも殺しの技を仕込んだのだから、その罪の深さたるや如何程であろうか。

 

 「色々と、俺自身の思う所などもあるんだが、立場上言えないことが多くてな。ただ、俺は感謝と共にお前達に謝罪をせねばならん。申し訳無い、そしてこれからも宜しく頼む、」

 

 南雲ハジメの危難や此処に居ない心を砕かれた生徒達の状況や王国や教会の思惑や国際情勢等、そう言った諸々の事柄にメルド自身心を痛めている部分もあり、それを口に出来ないながらメルド団長は彼らに謝罪を告げたのだ。しかし

 

 「そんな、メルドさん!何を謝っているんですか!?俺達はそんな事望んじゃいないですよ。頭を上げて下さいッ!」

 

 其処は天之河光輝。その様な人の思いを斟酌することが出来ず、何時もの如く見当外れの正義感を発露させる。

 

 「光輝、止めなさい。団長には団長の思いがあるのよ。団長も今言ったでしょう、立場上言えない事もあるんだって、その事を推し量りなさい!」

 

 そして、それを止めるのは、そう言った心の機微に敏感な八重樫雫である。彼女は心の中でため息を吐きつつ、真剣に天之河の愚行を引き止める。

 そんな茶番を演じる一時を終わらせて、改めて気を取り直して一行はメルド団長達を先頭にオルクス大迷宮への入場手続きを行う為に歩き始める。その最後尾に着いた遠藤浩介は、そんな天之河達に呆れつつも歩んで行く。だがしかし。

 

 「遠藤さん!」

 

 後ろから遠藤を呼び止める大きな声が聞こえ、彼はその声に反応して後ろを振り返り見る。

 

 「えっ!?」

 

 振り返った遠藤の眼は有り得ない人物の姿を捉えた。長く美しい金髪をツインテールに纏め、頭部にはホワイトブリムを装着し、豊満な肢体をメイド衣装で包み込んだ魅惑的な長身の少女。

 この世界に居るはずのないその姿に遠藤は一瞬固まり言葉を失う。日本に居るはずのその人の姿を、こんな場所で見てしまうなど、自分の頭はどうかしてしまったたのだろうかと戸惑う。

 

 「なっ……うそ、だろ!?」

 

 「やっと見つけましたよ遠藤さん!ハジメさんは何処ですか!?何処に居るんですかッ!!」

 

 彼女は彼に駆け寄って、ガバっと彼女は遠藤の二つの腕をつかんで必死な形相で問い掛けてくる。パニクりながらも遠藤は正気を取りつくろって、まさかと思いながらも彼女の名を呼ぶのだった。

 

 「とっ、トールさんッ、何でッ!!?」

 

 その声は意外にも大きく、その声に歩みを進めていた一同も振り返って見返すのだった。そして、彼女を、トールを知る生徒達は、遠藤と同様に皆一様に驚愕の表情を見せるのだった。

 




トールさん異世界トータスに降り立つ!
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