毎度の如く、中々ストーリーの文章化が出来なかったり、新たなオリジナル作品のストリートや設定を考え始めたり、PLAMAX1/72スケール、ドラグナー1(バリグナー)のカッコよさにウットリしていたりしておりました。
毎回の誤字報告及び、高評価をありがとうございます。大変励みになっております。
同時に低評価に凹んだりもしますが(チキンメンタル)
「当初の目的とは違った結果になったが、今回の遠征はこれまでとしよう。」
底の見えぬ深き闇の彼方へと羽ばたき降下していったトールを見送り、メルド団長の号令一下、はじめのクラスメイト達は帰路へと就く事となった。石橋の中央に浮かんだベヒモス召還の魔法陣も、上階へと向かう階段付近に現れたスケルトンを召還する魔法陣も消失し、彼らの帰還の邪魔をする物はもうこの階層には存在しない。
「では全員隊列を整えろ。この階層にはもう敵は居ないが、上層は往路と同様に魔物が現れるだろうからな油断するなよ!」
闇に消えたトールを見送っていた生徒達はメルド団長の号令に従い、皆グループ毎に隊列を組み始める。闇に消えたトールの強さやその秘密であるドラゴンであると云う彼女の正体など、意外な事実を知り興奮や驚愕と云った、それぞれに内心の思いを胸に秘めながらも帰還し始める。
『トールさん………ハジメ君の事、どうかお願いします』
石橋から広間へと戻ると、香織はもう一度石橋を振り返って心の内でトールにハジメの救援を願い託す。彼女と共に自分も彼の元へと向かえない己の力量不足を悔やみながら。
「どうしたの香織、早く行きましょう。」
未練有りげに石橋を見つめる香織の肩に、優しく手を掛けて雫が呼び掛けると、彼女の思いを汲んで香織は雫に感謝しつつ振り返って、それに答える。
「雫ちゃん……そうだね、帰ろう!」
今の自分にはハジメを救いに行ける力は無いと、トールによって十分以上に知らしめられ、その想いをトールに託した香織だが、彼女は諦めない。これからも鍛錬を続け絶対にハジメを助けられるだけの力を身に付けるのだと、改めて心静かに然し断固たる決意を固めるのだった。
ベヒモスを処理し、ハジメが墜落して行ったと言う石橋から降下して行ったトールは、その道中にてハジメが不運の中で僅かに掴んだ幸運と言える、迷宮内を流れる潤沢な水流を発見したのだ。この流れを掴めたのならばハジメの生存も十分にあり得るのではないかと推察し、ならばとそれを辿り、遂にオルクス大迷宮の真なる迷宮の第一層、つまりはハジメが目を覚ました空間へと到着した。
「案外、広い空間ですね。此処も上とは違うけれど、ダンジョンだと言う事でしょうかね。それとも、ここからがこのダンジョンの本命と言う所でしょうか?感じられる魔物の気配も、上層のモノと比べて少しだけ力を感じられますし………」
トールの鋭すぎる感覚はこの地下迷宮に棲息している魔物達の微かに放たれる気配の幾つかを、既に捉えていた。
「まあ、私にとっては何と言う事もありませんから放っといてもいいですけど。」
迷宮奥深くに流れる川に沿って、トールは歩みを進めながら独り言ちつつ川の流れに沿ってトールは歩みを進める。つぶさに周囲を見渡して、何処かにハジメの行方を見つける為の手掛かりが残されていないかと探る。
そうやって数分程、下流へと向かい歩いたトールは川岸にて、このファンタジックな世界に不釣り合いなとある異物を目に止めた。
その目に止まった遺物へと向かい歩き、トールは川岸からそのモノを拾い上げて確認した、それは。
「これは、間違い無い!ハジメさんのスマートフォン!!」
二月余りの時を水に浸されていた為に、完全にその機能は停止しており、外部も至る所に小さな損傷の跡が見て取れるが、それは間違いなくハジメが所有していたスマートフォンだった。
あの日、奈落へと墜落する際にハジメが背負っていた背嚢から紛失したハジメの持ち物の一つ、そのスマートフォンが今奇しくも彼を探すトールが手にしたのだった。
「ハジメさん!居るんですねッ。このダンジョンの何処かに!」
トールはその機能を終えたスマートフォンを、何物にも代え難い大切な宝玉の様に、その胸に抱いて未だ再会を果たせぬ想い人の生存を確信する。
「待ってて下さいね。直ぐに迎えに行きますから!ハジメさん!!」
スマートフォンの向こうに想い人の姿を幻視して、トールは今一度その人の姿に呼び掛け、空間収納を展開してそれを納めると、直ぐ様気持ちを切り替えて迷宮探索を開始するのだった。
それはまさに快進撃と言えるだろう。トールは鋭敏な感覚と自らの高い能力とを駆使して、瞬く間にオルクス大迷宮真の迷宮の階層を次々と攻略して行った。各階層に棲息する魔物達は、トールの身から発せられる力を感じ取りってか、彼女の前に立ちはだかろうともせず逃げ惑うだけで自ら戦いを挑もうとする個体はほぼ居なかった。
まあ、中には鈍感なのか向こう見ずなのかは定かでは無いが、彼我の力の差を推し量れず無謀にも彼女の前に立ちはだかる愚かなモノも居はしたのだが。
「しかし、一体このダンジョンはどれだけの階層があるんですか!?いい加減面倒臭いですねッ!!」
探索開始から数時間、トールは既に十を越える階層を降っていたのだが、未だハジメを見つけ出すことは出来ていなかった。先に遠藤達から聞いた情報によると、ハジメがこの奈落に墜落したのは二ヶ月も前だと言う。ならばもう既にかなり下の階層まで下っていても可怪しくは無いのではなかろうか、これはトールの希望的観測だがハジメは何らかの方法で力を得て、この魔物が蔓延る忌まわしいダンジョンを攻略して行っているのではないだろうかと。
遠藤や白崎が言っていた、この世界に召喚された事により身に付けた能力を活用して。ならば、もっと自分も速度を速めなければならない。
「だったら此処は、ショートカットをしましょうか!」
そう、決意したが早いか。トールはその力を直接迷宮に叩きつけるのだった。
もう何度も経験しているのだが『どうにもむず痒いものだな』などと、就寝前のひと時を拠点にしている洞穴にて、後ろから腕を回して抱き着き、啄む様に小さな口を付けて自分の血を吸っているユエの存在をありがたく感じつつ、ハジメは内心に思う。
此処まで、この忌まわしい迷宮の攻略を順調に進められたのは、途中からではあるがユエの存在が在ればこそだったとハジメそう回顧する。そして帰る故郷を失った、この吸血姫の少女(?)の事を、今ではトール達と同様に自身の身内として認識していた。
だから、ユエを日本に連れて行きたい。両親やトール達に紹介したいし、新しい家族として迎え入れて欲しいと思っている。それはハジメがユエを異性として意識しているからなのか、とハジメは自問する。しかしそれはどうも少し違う様だ。寧ろ、ハジメの想いはトールに向いている。
このクソったれな異世界に召喚され、両親やトール達と強制的に分断され、さらに地獄の様なこの迷宮にたった一人落とされて、思い浮かべるのは家族の姿。そして、何よりも自分に向けてくれるトールの笑顔や何気ない仕草、そして自分に向けてくれる親愛の情。
トールもまた、自分に対して特別な感情を抱いてくれているのだと、ハジメは自惚れでは無くそう自覚している。
対して、ユエの方はどうなのだろうか。数百年間封印の間に囚われていた所を、たまたま通りかかったハジメが助けた事によりユエは間違い無く、ハジメに好意を寄せているだろう事は明らかだ。しかし、どうにもハジメには彼女のその想いが、所謂吊り橋効果の影響が大きいのではなかろうかと思っていたりするのだ。
『なんてったってユエは、数百年もの間あの空間に囚われていたんだからな。それに比べりゃ、DIOが棺桶の中で海の底に居た期間がカワイイものに思えるよな』
ただ一人深く昏い迷宮の底、永遠にも思える永き歳月。自らを縛り付ける枷を壊し、新たな名前まで名付けてくれたのだ。その喜びたるやどれ程のものだっただろうか。であればその相手に好意を抱く事に何らの不思議は無いだろう、むしろ必然と言えるだろう。ただしイケメンに限る!との注釈が場合によっては付くだろうが。
『けど、だとすりゃ、トールだって同じ様な状況だったよな。振り返ってみれば』
そうしてユエの事を考えていたハジメだったが、そこでふとトールとの出会いの日の出来事に思いを馳せ、その事に行き当たる。
神と戦い、その背に深々と大きな剣を突き立てられ、まさに瀕死と言える状態で日本へと逃れて来たトール。ハジメは彼女と語らいから、トールの言動から死にゆく自らの運命を悟り心静かな諦観の念をみて取った。その後一命を取り止め、行く宛の無かったトールは南雲家で暮らす事になったのだが。
『まあ俺自身、女の子の心の機微とか今一ピンと来ないトコもあるが、ユエとトール達と打ち解けてくれりゃ何も言う事は無いんだがなぁ』
『ごちそうさま』と、心ゆくまでハジメの血を吸って満足し、その身をハジメの背から離したユエをチラリを後ろ目に見て、ハジメは苦笑しつつ、その様に来たるべき未来に思いを馳せるのだった。
「はいよ、それじゃ明日に備えて休むとするか。」
「ん。」
二人は明日、遂にこの巫山戯た迷宮の百層目にアタックを掛ける。これまでの経験上どうせ明日も一筋縄では行かないだろうと、確信できる。今の二人に用意出来るだけの準備は済ませた。後は、万全なコンディションで明日を迎えるだけであるのだが。
「ハジメ。添い寝する!?」
ユエが淫靡な微笑を浮かべ、ペロリと悪戯に舌舐めずりをしてハジメを誂ってくる。そんな彼女にジト目を向けて、やれやれとばかりに溜め息を吐いてハジメはユエを嗜める。
「おっ……お前はなぁ、全く。遊んでないで、ちゃんと休んで明日に備えろよ。」
しかし、そうは言うがハジメは内心ユエの仕草にドキリと心臓の鼓動が少しはじける。ユエには、むちりとしたトール程の肉感の持ち合わせは無い。だがユエは、半分誂って遊んでいるのだろうが、今見せた様な仕草や言動にそこはかとない色気を感じさせるのだ。
ユエが言うには、彼女の体の成長は十二歳で止まったのだと言う事だ。それは日本で言うならば、小学六年生から中学一年生位の年齢に当たる。個人差はあるだろうが、それは肉体が大人へと成長し始める年頃。
そんな年齢で成長が止まってしまっているユエだが、数百年を生きる吸血姫である。人間を遥かに超えて永く生きいるのだから、それ相応の人生経験を積んでいても可怪しくは無い。であればユエの、幼い外見とは裏腹な妖艶さを感じさせる仕草や言動も経験により裏打ちされた、一人の女性としての強かさなのだろうか。
『イヤイヤ、俺は一体何をッ!?落ち着け俺ッ!』
ユエの醸し出す妖艶な雰囲気に惑わされそうになっていた自分を、ハジメは慌てて戒めるのだが。
『確かにユエは魅力的だが、トチ狂うなよ俺にはトールが!忘れるなッYesロリータNoタッチだッ!』
厳密にはユエがロリータであるかの疑問は尽きない、いわゆるロリバ………(当局からの抗議が入った為にこの話題は控える事となりました)閑話休題、彼女の色香に血迷った思考の混乱は、今ひとつ治まりきらない様であった。たがそれも致し方無し、だってハジメは思春期真っ盛りの健全?な高校生男子なのだから。
所変わって、一方その頃ハジメの行方を捜索がてら迷宮の探索を続けているトールはと言うと。その圧倒的なまでの力で、迷宮の地面を拳撃によって破壊して穴を開けて下階へ下ると言う力技を持って。鬼気迫る表情でオラオラのラッシュ、幾つもの残像を残す超高速のパンチで地面を抉り砕き穴を穿ち、トールは進み行く。
かつて、奈落に落とされたハジメがこの迷宮から脱する為のルートを探す際に、錬成の能力を使い脱出路の形成を試みたが、その策は迷宮に施された魔法の術式により弾かれ叶わなかったのだが、そんな術式もトールの力の前には何程の抵抗も無くアッサリと白旗を掲げているかの様な始末である。憐れなるはこの迷宮の創造者、恐るべしは異世界のドラゴンの想定外のスペックか。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッオラァッ、ですよ!!」
階層を隔てる岩盤を破壊して下る毎に、ハジメとの物理的距離が近づいて行く。その思いが今のトールの行動の原動力だ。轟音を立てて岩盤を砕きあて、下層の天井までもぶち抜くと、階下に落ちてゆく岩盤を尻目に長いスカートと頭部の両サイドに結わえたツインテールをフワリと翻し、揺蕩わせて次の階層の地面に降り立つ。これでまた一つトールとハジメとを隔てる障害が取り払われたのだ。
自然体の姿勢で直立し、五感の感度を研ぎ澄ませ周囲の状況を探る。それはハジメの存在かあるいは彼が残した残滓がありはしないか探し出そうとしてのことである。
「あれは……ここに来て、あんな物が。」
トールは現在地から数十メートル先の暗がりの奥に、これ迄踏破して来たこのダンジョンの創造主が造ったモノとは微妙に違う、どうにも奇妙に思える人工的な建造物をその目に捉えた。
「もしかしたら彼処に何かあるかも知れませんね。行ってみますか………」
そう呟きトールはその建造物へと向かうのだった。数十メートルの距離を殆ど一瞬で走破して到着した其処は、人間のサイズと比してかなり大きく、何処かしら神殿を思わせる様相をしていた。更にその門前には、惨たらしく晒された巨大な人型と思しき魔物の、ほぼ骨だけが残された状態の死骸が放置されている。その扉は両開きであるのだろうが、今は固く閉ざされていた。
また門前に晒されているその骸は、もしかしたらこの不可思議な神殿のガーディアンだったのかも知れない。それが何者かとの戦闘により敗北してしまい、死骸を晒す事となり、そしてその骸はおそらくこの階層に居着いている魔物によって食い荒らされてしまった結果なのではないだろうか。トールはこの状況を鑑みてその様に推察するのだった。
トールはまだ知らぬ事だが、この惨状を作り出したのは彼女が愛してやまなぬ探し人である、南雲ハジメがなした事である。そのハジメが、この奈落の迷宮に適応し生存の為に変異してしまった事を知らないトールは、まさかその様な事態になっていようとは、想像すらもしていなかったのだが。
「取り敢えずこの骸は放っといてもいいでしょう。問題はこの扉の向こうですね。」
眼前に聳える門扉を見上げてトールはそう呟く(魔物の骸になど用は無い。捜索すべきはその扉の中にあるのではと、トールの感が告げている)彼女の本来の姿であれば然程でも無い程度の扉であるが、こうして見上げるとそれなりの大きさである。
「さてどうしましょう……見たところ取っ手の様な物もありませんし。おそらく、なんらかの仕掛けでこの門が開く仕組みなんでしょう。」
トールのその推察は正しく、その門を開く為のアイテムはハジメが門番たる二体の魔物を虐殺して、分捕り所持している。なので、魔法的な処理が施されており通常の方法ではこの門の扉を開く事は適わないのだが、しかし今門の前に立つ者は通常と言う言葉が当て嵌まる存在に非ず。
「だったら、そんなものは無視です!」
素敵に笑いながら、トールはウォーミングアップとばかりに両手の指をメキメキと動かして、肘を後方へと持って行き構える。
「行きますよぉッ!」
そして高速でパンチを放つ様に両手を前に突き出して、両手の五指を特殊な大理石の様な門扉に強引に突き刺した。“ズブリ”と魔力抵抗を受けるがそれを物ともせずにトールの指はスンナリと指の根元まで突き刺さる。
そこから更にトールは両腕に少しだけ力を込めで両の扉を、左右に押し開くのだった。
「まあ私に掛かればこんなものですよ。」
トールは両腕を伸ばした程度に扉を開くと差し込んでいた指を引き抜き、軽く三度程パンパンと両手を叩いて埃を払う。開かれた扉の内側は照明器具が機能しておらず、普通の人間では薄暗く奥まで見通せないだろうが、千里眼や夜目が利くトールには大した障害にはならず、目を凝らして室内を睨むとハジメの手掛かりを探す為にトールは内部へと歩を進めるのだった。
門扉を潜り抜けて神殿の様な造りの室内へとトールはその一歩を踏み入れる。ざっと見ただけでも、その内部がそれなりの広さがある事が見て取れる。規則的に聳える幾本もの装飾が施された柱が並んでいるが、よく見ると全ての柱と言う訳では無いが、大小様々な傷跡が彼方此方に刻まれている。それが此処の場所で戦闘が行われた跡だと言う事は、幾多の戦いを経験しているトールには直ぐに理解出来た。しかし、そんな事よりもトールはこの室内に於いて遂に求めて止まない者の存在の手掛かりを掴んだのだ。それは。
「間違いありません!これはハジメさんの匂いです!以前と少し違っている感じもしますけど、絶対にハジメさんの匂いです!」
室内に微かに残っていたハジメの匂いをトールは嗅ぎ当てたのだ。ハジメがこの場所に訪れたのは、時間にして大凡一月半も前の事であり残されていた匂いなど常の人間には嗅ぎ取れ無いだろうが、幸いにもハジメがこの神殿を後にするに辺り門扉を閉じて行った事が奏功し、トールの鋭敏な感覚がハジメの残り香を嗅ぎ当てる事が出来たのだった。
「ハジメさん!やっぱり生きていたんですねハジメさん!」
想い人の生存が確かなものとなり、トールは瞳を潤ませて両手を胸元に当ててハジメの名を呼ぶのだが、それで済めば中々に感動的な場面であったのだろうが、しかし。
「すうはぁ、すうはぁ、ハァハァ……ハジメさんの匂い……うへへへへぇ〜♡」
まるでこの室内に漂うハジメの残り香の全てを吸い尽くそうと言う勢いで、トールは鼻腔を大きく開けて、大きく吸い込んでいるのである。その光景は、見る者に依ってはドン引きな光景だろう。トールは暫しの間ハジメの匂いを満喫した後、我に返るとただでは捨て置けぬ事に気が付いた。
「ハジメさんの匂いに混じって別の者の匂いも感じますね。はッ!?しかも、コレは女の匂い!」
クワッと目を見開いてトールは嗅ぎ取ったハジメ以外の者、しかも女と思われる匂いに危機感を抱く。種族は違えど女の勘とは誠に恐ろしいものである。
「コレは不味いです!私が預かり知らないところでハジメさんの貞操がピンチを迎えています!早く行かなければ、ハジメさんだって思春期男子なんですから、思い余って魔が差す事だって考えられます!そんな事は赦しません!ハジメさんの初めては、私の初めてと一緒に済ますと、ずっと前から決まっているんですからね!」
トールの知らぬ謎の女の存在にハジメを奪われては堪らぬと、トールは急ぎハジメを探し出すべく神殿を後にしようと踵を返すが、其処でトールはこの神殿内の一隅にに、とある魔術的な仕掛けが施された場所がある事を探知する。ハジメを探す為にも一刻も早く此処を後にしなければと思いながらも、トールはこの先に何があるかも自分は知らないのだから、何かしらの情報が得られるのではとの考えから、その仕掛けの元へ訝しみながらも近付いていくのだった。
ハジメの目覚めは心地良いものだった。これからいよいよ百層目の攻略に、おそらくはこの迷宮の最終階層であると思われる其処に向かうと言うのに、今のハジメには気負いの様なものは無かった。決して楽観している訳では無いし、油断をするつもりも無い。
ただ緊張や恐怖と言った、肉体や精神に負の影響を及ぼす様な感情を抱かずにいられていた。
「……………」
自分の直ぐ側にまだ寝息を立てている吸血姫を見やって、微苦笑を浮かべる。自分は一人では無い。共に戦う、背中を預けて戦える相棒がいるのだと、そんな安心感がハジメの精神を正常に保てているのだろう。
「すう……はあ……よし。」
ユエから目を離し、天井を眺めて一呼吸。左手の義手の動きを確認して頷く。何も問題無い、コンディションオールグリーン。何があろうと大丈夫俺達ならばやれる。
「……うん……うぅ……ん。」
そうこうしている内に眠りの園から追い立てられた相棒が、覚醒しようとしている。小さく唸って吐息を吐いて、ピクリと身動ぎしつつユエは静かに目覚めて行く。
「よう。おはようさん。」
ムクリとゆっくりとその身を起こして寝ぼけ眼を軽く擦ると、ユエはふわぁ〜と欠伸を一つ漏らして瞬きを数度行う。
「ん。おはようハジメ。」
「なんだ、まだ目が覚めないのか。はははっ、呑気なものだなユエ。」
「ん。問題無い………ふぁ……」
そう返事をしながらも、ユエはもう一度伸びをしながら欠伸を漏らす。相棒のその緊張感の無さにハジメは、彼女も自身と同様に気負いが無い事に笑みをこぼす。
寝起きの彼女に身支度を促し、自身も水で顔を洗って身も心もさっぱりすると、ハジメはユエに告げる。
「軽く朝飯食ったら、行くとするか!」
ハジメの言葉にコクリとユエが頷くと、ハジメは昨夜の残りの魔物の肉を焼き、朝食の準備を始めるのだった。いよいよ、長かったオルクス大迷宮最終階層の攻略が始まろうとしている。戦う準備は昨夜のうちに完了している。何が起こるかは神ならぬ身には分からないが、此処を越えれば何かが変わる。そんな予感がハジメにはあった。
ハジメとトールの再会の時もあとわずか。
魔性の美少女ユエの誘惑に耐えるハジメ君とハジメの匂いを感知してヤバい事になるトールさんでした。