南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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謹賀新年。
あけましておめでとうございます。
今年最初の投稿で御座います。


第四十五話

 

 全ての準備を整え終えたハジメとユエは、最終階層だと思われる次階層へと長い階段を下り終え、その周囲を見渡す。

 

 「へぇ、こりゃまた随分と贅沢な造りをしてるんだな。」

 

 その階層は、かなり高度な計算による構造力学依って設置されたと思われる、巨大な列柱によって支えられた広大な空間だった。 

 その柱の一本一本がゆうに直径五メートルはあり、その一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような意匠の精緻な彫刻が彫られている。しかもその空間は、天井までの高さがざっと見で三十メートルを超える階高を有しており、更に地面の床までもが、これまでの階層とは違い綺麗に整地され均等にカットされた美しい敷石で装飾されている。

 

 「ん。本当に高度な技術が使われてる。お見事、これを造った者は天才。」

 

 「ああ、こんな地下の奥深くをどうやって工事したんだ……だが、俺も創造者(クリエイター)技術者(エンジニア)の端くれとしては負けてられねぇな。」

 

 素人目にも解る見事な意匠と其処に込められた技術の粋には、おそらく大多数が称賛する事だろう。それが、数百年の昔の事とはいえ一国の女王の座にあったユエであれば、美術品や芸術品などに対してもそれなりに造詣もあるだろうし、ハジメにしても両親から受け継ぎ、そして未来(子孫)に託すであろうオタク魂を持っているが故に、学んだ知識や造詣、そして自身も述べた様に創造者(クリエイター)技術者(エンジニア)としての天職を持つのだから尚の事、このフロアに凝らされた技術の高さが理解できるのだ。

 

 「と、何時までもそんな事に感心している場合じゃ無いよな、先に進もうユエ。」

 

 「ん。」

 

 暫しの間、美しい意匠に見惚れていた二人だったが、我に返ったハジメは静かに(かぶり)を振り、己の無すべきことを為すべくユエと二人歩を進めていく。すると、ハジメ達が踏み込んだ場所を起点として急に柱が音も無く淡い光をはなちはじめた。突然の事に二人は警戒心を高め周囲に気を配る。

 柱の光はハジメ達がいる場所を起点として奥の方へと向かい順次輝いて行き、然程明るい光では無いが、この空間の全容を視認出来る程度の光量はある。尤も、魔物の肉を食べ技能により、夜目の効くハジメには明かりが無くとも問題は無かったのだが。

 

 「気をつけろよユエ、此処が最終階層だとするなら、この底意地の悪い迷宮を造ったヤツが、この場に何の仕掛けもして無いなんて事は有り得ないだろうからな。」

 

 いつ何時、何処から敵が現れるかも解らない状況でハジメはユエに改めて注意を促す。

 

 「ん。ハジメ、この奥もしかすると、反逆者の隠れ家かも………」

 

 ハジメの注意喚起に頷くと、ユエは此処がかつて神に反旗を翻した反逆者達の根拠地だったのではないかとの己の推察を口にする。彼女のその推察にハジメは言葉にはせず頷いて、その考えに同意する。

 この世界のすべての国を見て廻った訳では無いが、ハイリヒ王国の城や神山の教会よりも、此処の建築技術の方が遥かにレベルが高い物に思われたからであり、其処から導き出される可能性は太古の失われた技術が使われているからではないかと、ハジメはそう答えを導き出した。

 

 「そうだな。ユエの推察が正解だとするなら、ラスボスが用意されている筈だな。間違いなく………」

 

 そう言葉を交わしながら、当然ハジメが獲得したスキル(である気配察知などの感知系技能)をフルに活用しながら通路を歩み行く二人。やがて、その歩みが二百メートルを超えた頃、ハジメやユエが予想していた事がいよいよ形として現れる事となる。

 

 「ハジメ!」

 

 「ああ、着いたみたいだな。此処が迷宮の最奥で間違いなさそうだ………しかし……」

 

 そこにあったのは巨大な扉。その全長十メートルはあるだろう、巨大な両開きの扉が有り、此処にもまた美しく精緻な彫刻が彫られており、特に七角形の頂点に描かれた何らかの(ハジメにもユエにもそれが何を表しているのかは定かでは無いが)文様が印象的だ。

いかにもラスボスの部屋然といった感じの佇まいである。だが。

 

 「ッ、これは……」

 

 「くっ……」

 

 そのラスボスの居城の門を眼前にして、現状感知系技能には反応は無いのだが、ハジメの本能が緊急警報の如く、甲高い警鐘を鳴らしていた。この先はマズイぞと。それは、ユエも同様に感じているのか、うっすらと額に汗をかき、小さく苦鳴めいた声を漏らす。

 

 「チッ!ユエッ!」

 

 この場に留まるのは不味い、ハジメは自分の中の警鐘に従い、咄嗟に隣りに居るユエを右腕で掬うように抱き取ると、縮地を使いその場から素早く後退する。そうして瞬時に五十メートル程後退し、ハジメはユエをその場におろすと間髪をいれずに門の方へと振り返り、どの様な状況になろうと即応出来る様に臨戦態勢を取り、ユエもそれに傚う。

 すると、ハジメとユエが注視する中で、門から十メートル程手前にして、二人から二十メートル程前方の地面に紅い輝きが発生し、その輝きは瞬く間に円形に展開し巨大な魔法陣として顕れる。

 

 「チィッ、またかよ!気を付けろユエ、コイツは召喚の魔法陣だ。」

 

 ハジメは眼前であっと言う間に展開された魔法陣が何なのかを即座に理解した。それはハジメがこの奈落の底へと落ちる原因となったベヒモスを、あの石橋の上に召喚してみせた魔法陣と同一系統の物だと、一部理解出来た魔法陣の紋様から判断したのだ。

 『だが、コイツはあの時の物よりも遥かに馬鹿でかい魔法陣だ、何が出て来る!?』ベヒモスを呼び出した魔法陣を遥かに凌ぐ大きさに展開されたソレから、一体何が顕れるのだろうか、ハジメは内心に戦慄を覚える。

 

 「ん!?ハジメッ!!」

 

 「ああ、いよいよお出ましらしいな。」

 

 そうしている内に眼前の魔法陣の上に、次第に像を結び始め何某かの魔物だと思われるモノが魔法陣から迫り上がってくる様に姿を現す。其処に顕れたのは体長は凡そ三十メートル、六つの頭と長い首に鋭い牙、そして仄暗い光を灯す赤黒い眼を持つ化け物。しかもその頭部はそれぞれに異なる色をしており、一見するとカラフルである。

 

 「こりゃまた、トールの本来の姿よりもちょっとばかりデカいな。例えるなら神話の魔獣ヒュドラってところか!しかし、頭が全部違う色とは戦隊ものもビックリだぜ、オマケにそれが六つもあるなんて、追加戦士も合流済みかよ。」

 

 「ん。でも色とりどりだから、良いって物じゃない。アレからは侘び寂び?が感じられない。」

 

 まだ姿を顕現させただけなのにも拘らず、相手の力がこれ迄に無い程に強力であると言う事が、未だ戦わずしてもヒシヒシと伝わってくる。しかしそれに呑まれてなるまいと二人は気合いを込める意味でも、軽口を叩いて見せる。ハジメは相変わらずのオタク知識からのネタを、ユエは拠点に於いて二人語り合っている時にハジメから聞いた日本の話しから得た知識を。まあ彼女の用いた言葉は、眼前の魔物を言い表すには適していないものなのだが。

 

 『グルァァァ』

 

 『待たせたな』と言わんばかりに、ヒュドラは奇妙で不可思議な音色の声で嘶きの声を上げる。それは同時に、自分がこれから相対する愚かな存在を見下しつつ、ついでとばかりにプレッシャーを掛けているのだろうか。

 

 「っ、結構なプレッシャーを掛けてくれるじゃねぇかよ………」

 

 そのプレッシャーに一瞬気圧されそうになるハジメだったが、そのハジメの腰元にユエがそっと手を添え、眼前のヒュドラから目を離さずにハジメに語り掛ける。

 

 「ハジメ、大丈夫、私達……負けない!」

 

 キッと唇を結びヒュドラを見据えるユエの顔を身長差から見下ろす形で目をやり、ハジメは彼女の気丈さに感心しつつ、改めて臨戦態勢を取りつつユエに返事を返す。

 

 「ああ、そうだな!」

 

 すると挑発行為は終わったとばかりに、赤い紋様が刻まれた頭が大きくその顎をがバリと開き、獄炎の火炎放射を放って来た。その勢いは、まさに炎の壁と評するに相応しいだろう。

 

 「ちぃッ!!」

 

 咄嗟にハジメとユエはそれに対応し、同時にその場を左右に飛び退くと直ぐ様反撃を開始する。超速でホルスターから引き抜いたハジメのドンナーが、撃鉄に撃たれて火を吹いて、超電磁加速された弾丸が音速を遥かに超え音を置き去りに、紫電を迸らせてかっ飛び赤頭を狙い撃つ。弾丸は狙い違わず轟音を立てて赤頭を吹き飛ばした。

 

 『ビンゴッ!』

 

 開幕先制攻撃に成功したハジメが内心ガッツポーズを決め、コイツは幸先が良いぞとほくそ笑みそうになるのだが、しかしそれを嘲笑うかの様な事がおこる。独特の甲高い嘶きを上げた白い文様の入った頭が発した白い輝きがドンナーの弾丸に吹き飛ばされた赤頭を包み込むんだ。すると、まるで逆再生でもしているかのように赤頭があれよと言う間に巻き戻しの様に修復され元に戻った。厄介な事に、白頭はクレージーダイヤモンド宜しく、再生修復を使えるらしい。

 

 回復してゆく赤頭を他所に、ハジメとは少しタイミングが遅れて、ユエの氷弾が緑の文様がある頭を吹き飛ばしたが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。

 コレは厄介だと、ハジメは舌打ちをしつつも早急に念話で、この後の戦いの方針をユエに伝える。

 

 『ユエ!あの白頭を狙うぞッ!このままじゃあキリが無い!』

 

 『んっ!承知!』

 

 その間に、二人を狙い青い文様の頭が散弾のように氷の礫を高速で吐き出し、それを回避しながら二人は白頭を狙う。ハジメが右手に構えたドンナーがドパンと独特の音を発して弾丸を飛ばし、ユエが「緋槍」と唱えて魔法を放つ。

 紫電を曳く閃光と、燃え盛る灼熱の槍が白頭に迫る。しかし、白頭に直撃するか思われた瞬間、黄色の文様の頭が直ぐにその射線に入り、その頭を瞬時に肥大化させた。それは淡く黄色に輝いて、ハジメのレールガンもユエの緋槍も、シールド防御よろしく受け止められてしまった。

 衝撃と爆炎の晴れた後には、無傷の黄頭が平然と其処に健在しており、それがハジメ達を睥睨している。その姿は、二人には忌々しいにも程があるだろう。

 

 「ちっッ盾役かよ!攻撃に盾に回復にと実にバランスのいいことだな!全くよ!」

 

 ならばとハジメは頭上に向かって左の義手で焼夷手榴弾を投げ、同時にドンナーの最大出力で白頭に対し連射し。ユエもそれに合わせて緋槍を連発する。

 此処で緋槍では無く、蒼天ならば黄頭を抜いて白頭に届くかも知れない。しかし最上級魔法を使うとユエは一発で行動不能になる。それも吸血させれば直ぐに回復するが、その隙を他の頭が指を加えて見逃すとも思えなかった。展開を考えれば、せめて半数は減らさないと最上級魔法は使えない。

 

 矢継ぎ早に放たれるハジメとユエの攻撃を黄頭は尽く受け止める。だが、流石に今度は無傷とはいかず、二人の連撃の前に黄頭は至る所に傷を受けていた。

 それを透かさず白頭が動いて黄頭を回復させる。全くもって優秀すぎる回復役だ。しかしその直後、白頭の頭上で焼夷手榴弾が炸裂した。

 

 「掛かったなッ!」

 

 戦術がバッチリ嵌った事にハジメが意地悪く北叟笑む。摂氏三千度の燃え盛るタールが撒き散らされる。我々が知る地球の一般的な鉄は、摂氏約千五百三十八度(融点)で溶け始めるのだ。それを超える三千度の熱が白頭にも降り注いでいるのだ。白頭はあまりの高熱に責め苦に、堪らず苦痛の悲鳴を上げながら悶えている。

 

 このチャンス逃すかと、ハジメが再度念話で合図をユエに送り、同時攻撃を仕掛けようと呼びかけようとするのだが、しかしその前に絶叫が響いた。それはユエから発せられたものであった。

 

 「いやぁああああ!!!」

 

 こだまするユエの絶叫、それを聞き付けたハジメは咄嗟とっさにユエに駆け寄ろうとするのだが、それをさせじと赤頭と緑頭が炎弾と風刃を雨霰の如く無数に放って来る。

 

 「ちいッ!?」

 

 両手を側頭部に着けて頭を左右に振り絶叫を上げるユエに、歯噛みしながら一体彼女に何があったんだと、ハジメはこれまでの状況を思い出す。そして、ふと思い至る。

 

 『そう言や、あの黒い頭は何も仕掛けて来て無かったな。いや違う、既に何かしているんだとしたら!?』

 

 ハジメは縮地と空力を駆使し必死にヒュドラの攻撃をかわしながら黒頭に向かって狙い一閃、ドンナーを発砲した。射撃音と共にユエをジッと見ていた黒頭が、残滓を残して吹き飛ぶ。

 

 「ふぁ………」

 

 それと同時にユエが吐息を漏らして、くたりと倒れ込んでしまった。その顔は遠目にも青褪めている事が覗える。そのユエを喰らおうとでも言うのか、青頭が大口を開けながら長い首を伸ばし身動き取れぬユエに迫っていく。これは不味い。

 

 「させるかぁああッ!!」

 

 大きく叫び、ハジメはダメージ覚悟で飛び交う炎弾と風刃の嵐に、縮地で突っ込んで行く。常人を遥かに超える動体視力と反射神経で、致命傷になりそうな攻撃だけをドンナーの銃身で受け躱して風爪で切り裂く。

 まさに刹那の時間。ハジメはギリギリのタイミングでユエと青頭の間に入ることに成功した。しかし迎撃の暇はなく、ハジメは咄嗟に金剛を発動する。

 技の性質上、どうしても金剛は移動しながらは使えない。その為どっしりとユエの前に立ち塞がる形となってしまう。金剛を発動し魔力がハジメの体表を覆うのと、青頭が噛み付くのは同時だった。

 

 「ぐぅうッ!」

 

 低い唸り声を上げながら、青頭がハジメを丸呑みにせんと、その顎門を閉じようとするが、ハジメは前かがみになりながら背中と足で踏ん張って、その口を閉じさせてはなるまいと踏ん張る。そうやって耐えながらも、ドンナーの銃口を青頭の上顎に押し当て引鉄を引いた。

 射撃音と共にまるで噴火でもした様に青頭の頭部が真上に弾け飛ぶ。音速を超える弾丸を実質ゼロ距離から喰らってしまえば、そうなって当然だろう。

 

 「オラァァッ!!」

 

 「オマケだぜ!」

 

 次いで、力を失った青頭をハジメは豪脚で蹴り飛ばす。更に駄目押しにと閃光手榴弾と音響手榴弾を左右に持ち、互いの安全ピン同士を引っ掛けてから、横方向に引き抜いて同時に外すとヒュドラに向かって両手で投げつけた。

 ハジメ謹製の眩い閃光により眼を潰してしまう威力の手榴弾と、耳を劈く音響により耳朶を破壊する威力の二つの手榴弾が炸裂しヒュドラを怯ませる。癪ではあるが、流石はラスボスクラスの魔物。そんな威力の手榴弾を持ってしても僅かな時間怯ませるだけの効果しか無かった。だがそれで構わない。その隙にハジメは、床に崩折れたユエを抱き上げ柱の陰に隠れた。

 

 「おい、ユエッ!しっかりしろ!」

 

 「……」

 

 ユエの両肩に手を置いて、ハジメは彼女に呼び掛けるも反応せず、ユエは青褪めた表情でガタガタと震える。

 「黒頭のヤツ一体何しやがった!?」

 

 悪態を付きながら、ペシペシとユエの頬を着付けの為に軽く叩く。加えて念話でも強く呼びかけ、神水も飲ませてみる。それが功を奏したのか、しばらくすると虚ろだったユエの瞳は、次第に光が戻り始めた。

 

 「おいユエ!」

 

 それを確認したハジメは、気付けの為にもう一度ユエの身体を軽く揺さぶる。それに応える様にユエの顔に青白さが失せ、少し生気が宿り始める。

 

 「……ハジメ?」

 

 目の焦点が合い、ユエは眼前のハジメの存在を認識したのか、彼の名を疑問を抱きつつも呼んでみる。

 

 「ああ、俺だ。判るか、大丈夫か?一体何された?」

 

 「ハジメ!?」

 

 パチパチと数度瞬き、ユエはハジメの存在を確認するように、おずおずとその小さな手を伸ばしハジメの顔に触れてみる。彼の体温を感じ漸く、ハジメがそこにいると実感したのかユエは、ふうと安堵の吐息を漏らし目の端から涙の雫が滴った。

 

 「……よかった……私、見捨てられた、また暗闇に一人で……」

 

 「何を言ってんだよ、ユエ!?」

 

 途切れ途切れに紡がれるユエの言葉と様子にハジメは困惑する。先程の正気を失ったユエの様子から、何らかの攻撃を受けた事はおおよその想像はつく。

 だが敢えて、ハジメは何があったのかをユエに尋ねる。彼女の肩にそっと手を添えて労りつつ柱の陰から忌々しげに、黒頭に一瞥をくれてからユエの話に耳を傾ける。彼女によれば、戦闘中突然に得も言えぬ強烈な不安感に襲われ、気がつけばハジメに捨てられて再びあの忌まわしい部屋に封印される光景が頭いっぱいに広がっていたという。

 

 「そう、思ったら……私、怖くて、何も考えられなくなって………」

 

 そして、彼女の口から語られた話は、ハジメの予想通りの答えだった。人の心の弱い部分に付け込んで、相手の心をぶっ壊す。それが有効な手段である事は、ハジメも理解出来るのだが、それに味方がやられたとなっては忌々しさが勝ると言う物だ。

 

 「ちッ!やっぱりか、バッドステータス系の魔法か、それで精神攻撃食らってメンタルブレイクされちまったのかよ。複数系統の攻撃魔法に回復魔法、それに加えて精神攻撃まで取り揃えてるってか、ホントによりどりみどりの何でもありかよ。クソったれが!」

 

 戦いの最中ではあるが敵の厄介さにハジメは悪態をつく、そんなハジメにユエは不安そうな瞳を向ける。無理も無い、それだけ黒頭が見せた光景はユエの精神の深くまでも食い込んだのだろう。ハジメに見捨てられる。自分を数百年の封印から命懸けで解き放ってくれた相手であり、自分が吸血姫と知っても変わらず接してくれるし労ってくれる。

 更に加えて、食事代わりの日々の吸血までさせてくれるのだ。であればユエがハジメに心を許す、いや彼に依存してしまうのも仕方が無かろう。

 

 「ハジメ………」

 

 「ああ?」

 

 上目で見上げる様に、ユエはハジメを不安げに見つめている。それも無理も無いだろうと、ハジメは彼女の胸のうちを慮る。あんな薄ら寒い部屋に数百年自由を奪われ閉じ込められていたのだ、しかもそれが信じていた身内から受けた仕打ちときている。もしかするとその長い年月の間に、死にたいと思った事もあったのではないだろうか。それでも彼女の種族特性故に死ぬことも叶わず、孤独に耐え続けたのだ。

 

 「安心しろユエ、俺は何があってもお前を見捨てたりなんかしてやらねぇからよ。」

 

 ポン、とハジメが自分の頭に手を置いてそんな事を宣ったのを、ユエはポカンとして聞いた。それは彼の発した言葉が少し意外に感じたからだ。彼は今何と言った?『見捨てたりなんかしない』では無く『見捨てたりなんかしてやらねぇ』と言ったのだ。

 それは言うなれば戦いの最中、仮にユエ自身が彼に対して自分を見捨てても構わないと言ったとしても、彼はそれを良しとせず、ユエの意思を無視してでも最後まで見捨てたりなどしないのだと言うのだ。

 『してやらねぇ』とはそんなハジメの、彼女に対する決意の表明であり、友愛の証でもあるのだが、それの何とも捻くれた表現である事か。

 しかしそれ故に確かに感じられる絶大なる信頼感。こんな非常時なのに、ユエは自分の心にポカポカと温かな日差したかの様な気持ちになる。

 

 「俺はもう、お前の事を家族だって認識してるんだからな。きっと、俺の両親だってお前の事を気に入る筈だ!」

 

 ハジメは思う。何なら彼女を自分の娘認定だってやるだろう。トール達の時だってそうだった。たとえそれが人外の存在だろうと、持ち前のオタクスピリットでハッピーウェルカムだ、我が親ながら全く持って懐が深い、あの両親はそんな人間なのだ。

 

 「まあ、トールに関してはちょっと未知数だけどな。」

 

 だが、ただ一つだけ不安要素があるとするなら、トール、彼女の気持ちだろうか。トールもユエも自分に好意以上の想いを寄せていてくれている。それをハジメ自身が自覚している。だから、何とかその辺りは『二人が穏便に友好的な関係を築いて欲しい』と、ハジメは願ってやまない。

 

 『まあ、その辺りの調整は………頑張れ、少し未来の俺!』

 

 目下のところ、戦闘中であることもあり、ハジメは二人の少女の問題を先送りにし、未来の自分に託すのだった。決して逃げた訳では無い。きっと………

 

 「ハジメ……ん!」

 

 永い間の監禁生活の影響でまだまだ表情は豊かとは言えないし固さがあるが、ハジメの言葉にユエはニッコリと微笑む。自分はもう大丈夫、自分をあの永遠の檻から救い出してくれた少年が共に在ってくれるのならば、もう惑わされない。

 

 「ハハッ!よし、行けるなユエ。二人でアイツをぶっ殺して先へ進むぞ!」

 

 表情の変わったユエから、彼女の精神が立ち直った事を見て取ったハジメは不敵に笑いながら、そう問い掛けそして促すと、コクリと頷きユエは端的に応える。

 

 「やろうぜユエ。奴さんの方も態勢を整え終わったみたいだしなッ!」

 

 「ん!」

 

 背嚢から幾つかのパーツを取り出しハジメはその場で、それらを組み上げながらユエに発破をかれば、ユエもそれに簡潔にだが強く応える。

 

 「よし、一丁上がりだ!」

 

 新たな武器を組み上げてハジメはそれを肩に担ぎ、キメ顔でユエにサムズアップをしてみせる。ドンナーでの攻撃では決定打にはならない。そう判断したハジメは新たに開発した初期段階の粒子ビーム砲通称『バスターキャノン』を使用する事に決めた。

 簡潔に解説するならば、砲身内に書き込んだ熱線発動の術式(プログラム)とハジメの纏雷の技能を増幅するプログラムとを同期させ、そこにハジメがこの迷宮にて発見した、複数の鉱石を極微小に加工して粒子状にしたモノとを混ぜ合わせて超高速で射出すると言う、恐ろしい兵器であるのだが、しかし初期段階の実験兵器としての意味合いもあり、残念ながらその弾速は亜光速にまでは至っていないのだが。

 しかも、欠点として一発撃つ毎に砲身を冷却しなければならず、この『バスターキャノン』はドンナーと違い連続射撃には適さないが、モノが物だけに威力はドンナーを遥かに越える。

 ヒュドラを警戒しながら二人は隠れていた柱の陰から飛び出して相手の攻撃を分散させる為に散開する。

 

 『……て事で、援護を頼むぞユエ!』

 

 『ん!了解。』

 

 念話に手短に戦法を話し合い、戦術方針を決定し戦いを再開する。最後の難敵を撃破すべく、二人のテンションは最高潮へと向けて上昇してゆくのだった。

 




対ヒュドラ戦、次回に続きます。
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