南雲さんちのメイドラゴン   作:佐世保の中年ライダー

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今回は地球側のサイドの様子です。
ありふれサイドとメイドラゴンサイドのキャラの独自の関連付けをしておりますが、ご容赦願います。


第五話

 

 其処にもう最愛の少年が居ないのだと知ったトールは、その最愛の少年ハジメが居たはずの学校を離れ再び南雲愁の会社へと向かうのだが、その途上で南雲菫の仕事場のマンションへと寄り、そこから彼女を連れて共に愁の会社へと帰着した。

 愁の会社の社長室へと通されたトールと菫は、各方面へと状況確認と情報収集の為の連絡を行う愁が一段落付くのを待った。その作業を終えた愁と此処に到着するまでに状況を掻い摘んで説明していた菫にトールは改めて自らの目と術法により確認したハジメの学校の様子を二人に伝えると、愁と菫は予想だにしていなかった事態に愕然とし、トールより知らされたあまりにも残酷な現実に菫は力無くその場にペタリと崩れ落ち息子の名を呼びながら崩れ落ちすすり泣く。

 

 「母様、ハジメさんは絶対に私が連れ戻します。ですけど直ぐにとは言えない所が申し訳無いですけど。でもたとえ無限にも近い世界が存在しようとも、必ず見つけ出してみせます。条件的に除外出来る世界もありますし。」

 

 そんな菫の背を優しく擦りながらトールは力強く請け負う、ハジメを必ず連れ戻すと。菫は涙を流した事で若干赤みが差した不安気な目をトールに向けると、彼女は任せて下さいとばかりに頷きかける。

 それからトールは、菫をいたわる様にこの社長室に設えてある来客用ソファーへと座らせ尚も悲しみの涙を流す菫と、己の身の無力さに忸怩たる思いに暮れる愁に対し彼女の見解を伝え聞かせる。

 ハジメ達を連れ去った存在は、何らかの利用価値があるからこそ召喚の魔法を態々使ってまで連れ去ったのだから、先ず直ぐにハジメ達の命を害する事は無いだろうと。

 

 「それらを踏まえて考えますと、この星の人間が生きられる大気の組成と似通った条件の世界で、且つこの世界とは違い魔法の存在する文明の世界と言ったところでしょう。非効率ではありますけど、私がその条件に合致した世界を虱潰しにしてでも探してみます。」   

 

 ハジメを連れ去った存在に対する殺意を心の奥底にグッと沈めてトールは父母と慕う二人に、心配をさせまいと努めて穏やかに見える笑顔をみせて請け合った。 

 

 しかし無限にも等しい、数多ある世界にはこの地球を含む宇宙の、地球以外の星の様に大気の存在しない世界や大気組成の違う世界、機械文明の発達した世界や地球でいうならば原始時代の様な世界など、様々な世界が存在している事をトールは知識としては知ってはいるが、実際にその様な世界に出向いた事は無かったのだが、愁と菫にこれ以上の不安を与え無い為にもその様なマイナス要因は話さなかった。ただでさえ我が子を連れ去られたうえに今後の対応に苦慮するであろう二人に、あまり心的負担を掛けたくないとの思いから。

 

 「トールちゃん………」

 

 しかしトールのその気遣いが功を奏したのだろうか、菫の表情からは先程迄の悲しみの表情が完全に消え去ったとは言えないが幾分かは薄らぎ、今はトールに対する期待感と大切な我が子をきっと彼女が連れ帰って来てくれるとの信頼感とが現れていた。この娘なら必ずそうしてくれるだろうと。

 

 「少し時間は掛かるかもですけど約束します母様、父様も。」

 

 トールは愁と菫の二人にその様に伝える。現状、トールが二人に説明した様に、ハジメが連れ去られた世界を発見するまでにどれ程の時間が掛かるのかの見通しも経たない状態である。ハジメ達を連れ去ったモノが発動させた魔方陣だが、その発動の瞬間は膨大な量の魔力の発生を感知したが、その魔力もさしたる時間も経ずにアッサリと消え去ってしまった為だからなのだが。

 

 「トールちゃんありがとう。そしてごめんなさいね、異世界だなんて私達ではどうしようもないものね。だからハジメの事をお願いね。」

 

 「はい!任せて下さい母様。これこそ適材適所って事ですよ!」

 

 「ああ本当にありがとうトールちゃん。しかしトールちゃん、異世界の探索だけど、それをトールちゃん一人でやるつもりなのかい?」

 

 ハジメを連れ戻すと力強く請け負ってくれたトールに二人は感謝の言葉を贈ると共に、しかし愁はこれより単独で行動すると云うトールにそれでは効率が悪いのではないのかとの思いから、彼女にそう問うた。

 

 「はい、先ずは私一人で行ってきます。当面カンナとイルルには此方に待機して居てもらうつもりです。今回ハジメさん達を連れ去った愚か者が、今後この世界に何もしないと云う保証も無いですし。もしまた何事かこの世界に干渉してきたなら、取り敢えずあの娘達に対処してもらうつもりです。あとついでにエルマにも、まあと言うよりもエルマならその辺りはきちんと自分で見極めと判断をして行動を起こすんでしょうけどね。」

 

 後は、どう動くのか或いは動かないのかは解らないが、この世界にはファフニールも居座っているし、基本は傍観勢故においそれとは動かないだろうが(しかしこの世界にはルコアが心を寄せる小さな少年翔太が居る、もしもハジメを連れ去った存在が再度この世界に干渉し翔太の身に何事か起ろうものなら)最強に近い実力を持っているうえに元は神の座に在ったルコアも居る事から、如何な命知らずで無知な愚か者がこの世界に干渉しようとも滅多な事態にはなら無いだろうと、トールは彼等彼女等に対し多大な信頼を置いている。

 

 「なるほど、本当に凄いなトールちゃんは、其処まで考えてくれていたのか。確かにね、ハジメ達を拉致したモノがまたこの世界に干渉してくる可能性も皆無ではないな。」

 

 「そう……ね、確かに。一度遭った事がもう一度起きないなんて保証どこにも無いしね。」

 

 トールの推察を聞いた二人は、確かにそれは有り得る可能性が高いだろうと納得する、そして互いに見つめ合い頷くと真摯な態度で頭を下げトールにハジメの捜索を願った。

 

 「はい。ですけど、父様と母様もこれから此方もきっと大変な事になると思いますけど。」

 

 トールも二人の願いを受けて返事を返し、此方に残る二人に降り掛かる苦労を労う。何せ数十名の人間が一度に消失するなどと云う有り得べからず事態、それがどの様にして起こったモノなのかをトールから聞き知っているのは愁と菫の二人だけなのだ。しかし魔法など世間一般に存在が認知されていないこの世界で、それを伝えたところで他者に信じて貰える筈もなく、ソレに付いては口を閉ざすしか無い。

 故に、理由も解らず大切な我が子を奪われた他の父兄の今後の精神(こころ)の程を思うと、二人が味わうであろう此れからの心労は如何ほどのモノか。

 

 

 

 

 愁の元にハジメの学校から連絡が入り、愁と菫の二人は学校側からの事情説明を聴く為にその足で学校へと向かう事となった。尤も行ったところで何の情報も得られないだろうが、ハジメのクラスの生徒達の保護者全員に保護者招集を求められた以上ソレを無視する訳にも行くまい。

 ソレを期にトールは二人の元を辞し本格的にハジメ探索に乗り出す事としたが、その前にカンナとイルルに事情を説明しておかなければと先ずはカンナの通う小学校へと向かうのだったが、しかしこの時既にハジメの学校での集団失踪事件の報がマスコミや政府からも流され、この周辺の小中高と各学校にも緊急的に集団下校の要請がなされており、カンナもまた才川をはじめとした複数人のクラスメート達や真ヶ土翔太ら同一方向に自宅がある児童達と共に帰路についていた。

 

 『……と言う訳です。だからカンナとイルルには私が不在の間、父様と母様と、ついでにこの世界の事を頼みますよ。』

 

 認識阻害を掛け空中から帰宅途中のカンナを見つけたトールは、念話にてカンナに呼び掛け事のあらましを説明し事後を託すと。

 

 『わかった……トール様、ハジメ帰って来る?』

 

 声を出すこと無くカンナはトールが居るであろうと思われる空中に顔を向けて返事を返す。傍目には一見無表情で何故かじっと青い空を見つめているだけに見えるが、念話を交わすトールにはカンナの心の揺れが伝わってくる。

 

 『ええ、当然です。私に任せておきなさい!』

 

 トールはこの小さな同胞の心を思い遣り、己の中のハジメを連れ去った輩に対する憎悪を抑え、努めて優しく受け負ってみせる。

 

 『うん。トール様、はやく帰って来て。ハジメが居ないと父と母も悲しむ。』

 

 ドラゴンとしてはまだ幼く、且つ家族の情を欲し、その思いを南雲家の面々に見出しているカンナも兄妹の様に接するハジメの消失に、遣る瀬無い気持ちを懐いてはいるが、より以上に父母の如く慕う愁と菫の気持ちを思いをやる優しい心遣いをみせる。

 

 『解ってますよ、では後の事頼みましたよ。もしもカンナとイルルだけでは厳しい様なら、その時はエルマやルコアさんを頼りなさい。まあファフニールさんはどう動くのか動かないのかも解りませんから、ちょっと不安ですが悪い様にはしないかもですね。』

 

 そのカンナの幼いながらも優しい意を酌んでトールは最後にちょっとしたアドバイスを与えてその場を去った。もう一人の同胞、イルルのもとへ赴く為に。

 

 「カンナさん、また空を見てるけど大丈夫?」

 

 「……うん。大丈夫、才川たちがさらわれないように私が守る。」

 

 空を見上げるカンナの様子から、一緒に下校する才川が下心アリアリだが、それでもカンナを慮ってその顔を覗き込む様に近づけて声を掛けると、カンナはさも何でも無い事の様にそう返事を返すと。

 

 「へっ!?守るって……カンナさんが私を守ってくれるの?」

 

 「うん。」

 

 才川はカンナの言葉を確認する、カンナの口から紡がれた自分を守ると言ってくれた、才川にとってはあまりにも幸せ過ぎるその言葉の言質を取る為に。そして返ってきたカンナからの一言に。

 

 『ぼへぇぇぇ!!カンナさんが私を守ってくれるってぇ〜っ、ああっもう、なんて幸せなのかしら。』

 

 茹でダコのように顔を真っ赤に染めて両頬に手を添えて、クネクネと身を捩り悶える小学生女児。傍目から見れば、それはあまりにも不気味に映っている事だろう。

 一人の世界に没入してしまった才川をよそに、次は翔太がカンナへと近付くと周りに聞こえない様に小さな声で呼び掛ける。

 

 「ねえ、もしかして今トールさんが居たの?ひょっとしてハジメさん達に何かあったのかな。」

 

 認識阻害をトールが自身に掛けていた為に翔太はその存在を当然認識出来ていなかったのだが、空の一点に視線を固定していたカンナの様子と、この日の突然の学校からの下校指示と漏れ聞こえてくる、ハジメの高校で起こったと言う変異。

 それらを加味し子供ながらに推察して、翔太はその疑問をカンナに問うてみたのだった。

 

 「うん。トール様、ハジメを探しにこれから異世界に行く。」

 

 カンナは翔太に問われると、簡潔に答えてみせた。この世界でも極僅かに存在する魔法使いの家系であり異世界の存在を知る翔太には、別段その事を内密にする事も無かろうとカンナはそれ程深く考えず答えたのだった。

 

 「えっ!それじゃあやっぱりハジメさんも事件に巻き込まれてたんだ。それも異世界って……もしかしてハジメさん達の学校であった事件って異世界からの魔術的な干渉で起こった事件って事………ルコアなら何か知ってるのかな。」

 

 カンナからの答えに翔太はその事件が魔法絡みだと賢くも類推するのだが、しかしまだ未熟で経験不足な子供である故に明確な答えに辿り着ける訳もなく、帰宅後は居候のルコアにそれとなくこの事件のあらましを聞いてみようと思うのだった。

 彼女の存在に日々悶々とした思いを味わっている少年ではあるが、魔法関連の事象に関してならばルコアは信頼に足り得ると、翔太は彼なりにルコアを評価していた。それでもあの痴女の様な格好で誘惑して来る事はいい加減に止めてもらいたいと思っているのだが。未だ幼く思春期を迎えておらずとも、少年の感性とは中々に複雑なものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから僅かな時間でトールは直ぐにイルルが勤める駄菓子屋『おぼろ商店』へと到着し、未だ来客の無い状況ではあるが勤務中のイルルへカンナに伝えた事と同じ話しを聞かせた。

 

 「判った!コッチのことは任せておけ。そして早くハジメを連れて戻って来いよ。」

 

 トールの話に、イルルもまたカンナと同様に快く受け負って見せる。

 

 「ええ勿論、言われなくとも!」

 

 認識阻害を解き降り立ったおぼろ商店の店先で、トールは真剣な眼差しでキッパリと伝える。人間の形態を取った際には身体的特徴がまるで違う二体のドラゴン娘だが、互い近い実力を持つ故に認め合っているニ体に多くを語る必要は無く、伝える事だけ伝えるとトールはこの場を去ってゆく。認識阻害を掛け直して飛翔し本来のドラゴンの姿を顕して転移陣を開きトールはこの世界から姿を消した。

 此処からトールの長い(長寿であるドラゴンにとってはほんの些細な時間だろうが、しかし寿命の長さに大きく隔たりのある人とドラゴン。その短き生の時間しか共にあれ無い最愛の少年と過ごせる時間を奪われたトールには彼と過ごせ無い時間が膨大な時間として感じられる)異世界行脚が始まる。

 

 「早く帰ってこいよトール、ハジメを連れて………」

 

 同胞の飛び去った空を見上げてイルルは語り掛ける。その声は去りゆくトールには聴こえなくとも、その思いは伝わっているだろうと。

 

 「お〜い、イルルぅッ!」

 

 空を見上げトールを見送るイルルに、彼女の名を呼びながら一人の少年が小走りに近付いてくる。

 

 「おおタケか、お帰り。今日は早いんだな?」

 

 それはこのおぼろ商店の店主であるおばあさんの孫に当たる高校生の少年『会田タケト』であった。

 ニパッと明るい笑顔でタケトを迎えて、イルルは普段よりも帰宅時間が早いタケトにそう問うと、少しだけ乱れた呼吸を整えてからタケトはその理由をイルルに語る。

 

 「ああ、それなんだけどさ。何かハジメの学校で生徒達が消えたって事件があったらしいんだ、それで俺達の学校も今日は上がりになったんだよ!」

 

 それはつい今し方トールから聞いていた情報であった。後に集団神隠し事件と称される事となる、その事件の発生原因を知る者は極一部の人間と人外の者達のみであるのだが。

 

 「そうか、それなら知ってるぞ。ハジメも拐われたんだって、今はトールがハジメを探しに行ってるんだぞ。」

 

 その一部の者に含まれるイルルがタケトのまだ知り得ない情報をアッサリと伝えてしまった。

 

 「何だってっ!?ハジメが。それでトールさんがって、何かトールさんには心当たりでもあるのか!?」

 

 そのタケトが知り得ない事情を知るイルルに、思わず語気を強めてタケトは問い返す。進学した高校こそ違えどもハジメとタケトは幼稚園からの付き合いのある幼馴染み同士の親友であり、その友が事件に巻き込まれたと聞かされた日には黙っていられ様筈もなく、ガバっとイルルの両腕を掴んで彼女の極一部以外小さな身体を揺さぶって問うのだった。

 

 「それは判らないけど大丈夫だぞタケ、ハジメなら絶対にトールが連れて帰って来るから心配はいらないぞ。」

 

 しかしイルルからしてみれば、能力的にも信頼の置けるトールがハジメの捜索にあたっているのだから心配は不要と思っているのだが、タケトから見れば噂では知ってはいるが相当に腕っぷしが強いと評判のメイド少女のトールだが、ドラゴンと云うその実態を知らないが故に、ただのメイドにどれ程の事が出来るのかと不安に駆られない方がどうかと思うのは致し方なしと言うもの。

 

 「イヤイヤ、心配無いなんて事は無いだろう。そんな事が起きてるんならハジメの親父さんとお袋さんだってこれから大変だろうし!」

 

 それに加えて、幼い頃から見知っているハジメの両親の事も、人の事とは言えど心配してしまう程には付き合いもある。

 

 「ははっ、タケは優しいな。大丈夫だぞ、もしタケに何かあったら私が助けてやるからな。だからって訳じゃ無いけどハジメの事はトールに任せとけば大丈夫だぞ、父ちゃんと母ちゃんの事もな!」

 

 両手を腰に据えたヒーローの様なポーズで気安く宣言するイルルに、タケトは何とも返す言葉に詰まってしまい、暫しマジマジと互いに見つめ合う格好となってしまう。

 そんな状況にタケトは、幼馴染が大変な事態に陥っているかも知れないと云う状況にもかかわらず、自身の顔が熱を帯び赤く染まっている事を自覚してしまい、その視線を何も無い風を装って逸らすのだった。

 

 「そうだよな、俺が何だかんだと言ったところでハジメが帰って来る訳でも無いんだしな。信じて待つしかないんだよな……」

 

 「おう!そうだぞ、信じてろよなタケ!」

 

 決して完全に納得したと云う訳では無かろうが、タケトも此処でイルルと口論しても意味はないと思い至ると同時に、何と無くだがこの目の前の極一部以外小さな少女の言葉を信じても良さそうだと、そう思うのだった。友人の無事な帰還を心中祈りながら。

 




年齢的にも近いことからハジメもタケトを幼馴染設定にしてみました。
ハジメの帰還後魔物肉の影響でガタイがデカくなっイケメン化してしまったハジメを見て、タケトはどう思うのでしょうか?

次回はハイリヒ王国のエピソードからステータスプレートまで行けるかな?と言ったところでしょうか。
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